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角の少女とふたつの竜  作者: 樹(いつき)
第二章 シルトクレーテ
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25.火の息

ホルンは息を飲んだ。

アレクシアを包んだ黒い霧が、次第に膨れ、その切れ間から赤い光が漏れ出している。


「なに、あれ……」

「魔力の光だ」


ホルンとサイがそう言った次の瞬間、膨張した黒い霧が、弾け飛んだ。

その中央では、口から炎を覗かせるアレクシアがいた。


「一皮むけたな」


サイが上から目線で偉そうなことを言う。

彼を軽く睨んで、ホルンは試合の映像へと視線を戻した。


とりあえず、彼女が無事だったことに安堵した。

でも、まだ決着はついていない。

これからどうするのだろう。


「よくも、やってくれたわね」


アレクシアはまだ口からちろちろと火をちらつかせている。

バートは何も反応を見せず、ただ佇んでいた。


「あなた、喋らないのね。ひとつ教えておいてあげるけど、すでに乗り越えたものをもう一度見せたって、もう折れないのよ。私はしぶといんだから、ね!」


言い終わると同時に、アレクシアは口から一直線に炎を吹き出した。

丸太のような炎の渦は、バートめがけて素早く進んでいく。


当たれ、と願うもむなしく、バートはぎりぎりで躱す。

二度、三度と繰り返し放たれた炎も、彼は躱し続けた。


決して素早いわけではない。

しかし、どこか違和感のある動きだ。

目の前で迫る炎を前にした人物の動きではないような。


アレクシアは吐いては近づいて、吐いては近づいて、と相手との距離が石畳六枚ほどになったころ、炎を吐くのをやめた。

にやりと笑い、アレクシアの指輪が赤く光る。


石畳の大きさは、一枚あたり、約五十センチ。

近くで見たから、よく覚えている。


『やるではないか』


シロも感心してそう言う。

次の瞬間、バートが突然の爆発で吹き飛んだ。


アレクシアの魔法不可視の火炎インビシブルフレイムが、ちょうど三メートル先にいるバートを吹き飛ばしたのだ。

不可視の名を関するだけあり、前情報なしに、あれを回避できるはずもない。


「でもまだ……!」


観戦に熱の入ったホルンは、思わず手を握り締める。


バートは場外まで届かなかった。

力なく立ち上がり、手の平を見せ、ひらひらと振る。


反撃の準備というより、挑発行為にも見える。

何を考えているのだろう。


「何もさせないって!!」


アレクシアは躊躇せず、火球ファイアボールを叩きこみ始めた。

彼女の限界である八発全てが命中し、爆炎と濃煙が立ち込めている。

これだけ当たれば、どんな屈強な人間でも気絶しているはずだ。


「そんな……! 全部当たったはずなのに!」


風が煙を流していく。

そこには、まったく効いていないふうに立っているバートがいた。


そして、その手にはいつの間にか色とりどりのボールを持っている。






アレクシアは身構えていた。

魔力の回復が間に合っておらず、指輪の光も鈍い。


あれほどの催眠魔法を使えるやつだ。

まだ何か隠しているに違いない。


ひとまずは集中して、呼吸を整えなければ、魔法が使えない。


そうしていると、バートがボールを放り投げた。

子供に渡すかのように、軽く、自然に。

手から離れたそのボールは、空中で突然消えた。


「がっ!!」


突如、脇腹に痛烈な衝撃が走った。

先程消えたボールが、腹部にめり込んでいる。

どこから飛んできたかもわからず、アレクシアの呼吸が乱れる。


何もさせないはずだったのに、投げるところを封じられなかった。


ゴホゴホとせき込みながら、アレクシアは考えた。


(おそらくは、魔法具……)


魔法とは違い、魔法具なら複数個同時に使える。

飛ばすだけなら、簡単だろう。

しかし、それでは消えた理由が説明できない。


考えていると、今度は背中の中心に、鈍器で殴られたような痛みが走る。

あと、何回耐えられるかわからない。

今は興奮状態だから動けるだけで、この麻酔作用が消えたら、と考えるだけでも恐ろしい。


放ったボールが消えて、出現して、襲い来る。

その三段階を経て、ようやくアレクシアの元に攻撃が到達する。


(もしかして、この速さで魔法を切り替えているの!?)


ここは魔法の優等生が集まる試験会場だ。

考えられない話ではない。


しかし、このボールが魔法具であるとするならば、矛盾が生じる。

基本的には、魔法具に対して魔法をかけることはできない。

もちろん例外もあるが、そんなことは、精巧な魔法具と熟練した大魔法使いが揃って始めて成し得られることだ。

彼がそれである可能性は低い。


「うっ……!」


左上腕部に攻撃を受ける。

しかし、アレクシアは思考を続けた。


で、あれば。

ボールについている機能は、消えること。

手品に使う魔法であれば、市販されていても不思議ではない。

そして、先程から周囲から飛んできているボールは、おそらく消えているものとは、別のもの。


転移が施された魔法具というものは歴史上にも存在しない。

それくらいに難しい魔法だからだ。


「勘だけど、やってみる価値はありそうね……」


痛みで動かない左腕を引き連れて、アレクシアは闘技場の端へ移動した。

口元から、火の粉が漏れ出す。

先程編み出した火の息ファイアブレスで狙うのは、この闘技場全体だ。


胸部が破裂しそうなほど息を吸い込み、自身の右へ向けて、炎の壁を作るように、縦に長い炎を吹き出した。

それを吐き続けながら、右から左へと、炎の壁を動かしていくと、何もない空間で、炎が真っ二つに裂けた。


(やっぱり!)


目の前にいる男はバートではない。

ずっと、変だったのだ。

黒い霧を出した時も、あれは魔法を使う素振りを見せなかった。

つまり、あれも、人形の魔法具なのだ。


彼からは芸人としての気質を強く感じる。

芸を生業にする人間は、道具の専門家であり、その使い方や技巧はアレクシアの常識から外れていてもおかしくない。


姿を消す魔法具を使い、巻き添えにならないところで息をひそめているのが本体だ。

恐らく、クロスボウか何かで、透明なボールを発射しているに違いない。


(よくもやってくれたわね!)


アレクシアは、もう一度空気を吸い込み、今までに出した中で最大の火力を、姿の見えない相手に向かって、ぶつけた。

業炎は、魔法による防護のかかった石畳すら、黒く焦がしていく。


やがて、透明な彼は、姿を現すこともないまま、炎の勢いに押され、場外へと吹き飛んで行った。


「っだあああああ!!」


魔法のせいで潰れた喉で、アレクシアは歓喜の雄叫びをあげた。

初めて、勝った。

人に、初めて魔法で勝ったのだ。


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