23.アレクシアの戦い
アレクシアは、ホルンの試合を見せられて、気後れせずにはいられなかった。
どうにか頑張って結果を残さなければ。
ホルンに格好悪いところを見せられない。
アレクシアは汗ばむ手を、強く握った。
それから、続く試合を見続け、アレクシアはホルンのように他の受験者の魔法や戦術を真似できないかと観察した。
二種類の魔法を状況によって使い分ける者や、魔法を囮に使う者などもいたが、それを真似するには、火の魔法以外も使えなければならない。
アレクシアは、自分の魔法の不出来を恨んだが、なんとか手持ちの魔法で切り抜ける方法を考えるのだ、と頭を働かせた。
そして、順番は来た。
緊張を払うように、深呼吸をして、闘技場へと上がる。
(大丈夫、私は勝てる。私は強い。私はアレクシア。烈火の魔法使い)
自己暗示をかけるため、そう何度も自分を肯定する言葉を続ける。
実績のないアレクシアにとって、自信は無理矢理作り出すものだった。
対戦相手は、バート・ホドルという名の金髪で長身の男だ。
異様に細長い手足をしており、奇妙な白い仮面を被っている。
まるで糸繰り人形だ。
手には武器も杖も、何も持っていない。
服装は普段着で、隠し持てるようなマントでもない。
しかし、その異様な雰囲気が、何か隠し持っていると警戒させるには充分だった。
(でも、これだけ距離があれば、何がきても対処できるはず……!)
できるだけ離れたところで、アレクシアは彼を見張った。
そうしていると、試合開始の合図が鳴った。
アレクシアはさっと指輪を向けたが、バートは意に介さず、ゆっくりと深い礼をした。
集中して相手の出方を見る。
痺れをきらしてこちらから仕掛けるのは危険だ、とアレクシアは判断した。
彼が礼から姿勢を戻す様子を、何も見逃さないようにじっと見張っていると、突然、どこからかパン、と何かが破裂するような音がして、アレクシアの視界は瞬く間に暗闇に包まれた。
外から見ている者たちには、何が起きたか見えていた。
男が礼をしている間に、アレクシアの背後から黒い霧が沸き上がり、膨れて、破裂音と共に彼女を飲み込んだのだ。
医務室のベッドで、水晶に映し出された様子を見ていたホルンは、何が起きたのか、と食い入るように画面を見つめた。
それを見て、医師のセルヒオ・オルミガは声をかけた。
「あの魔法が気になるか?」
「……はい。いったい、何が起こっているんですか?」
「あれは、悪夢って魔法さ。そこの坊主の風魔法と同じような骨董品の魔法だよ。最近のやつは誰も使ってないだろうさ」
「使うのが難しいんですか?」
「いや、使うのは簡単だ。だが、効果を出すのが難しい。相手を何かに集中させないと魔法にかからないんだ。そのためにあんな奇天烈な格好してるんだろうさ」
ホルンは、棒立ちで黒い霧を見つめるバートを見た。
まるで、生気のない人形のようだ。
黒い霧は、アレクシアを飲み込んだまま、何も起こらない。
「さっきからアレクシアを飲み込んだまま動いてませんけど、何をしているんでしょうか」
「ああ、言っていなかったか。あれは催眠魔法だ。それも、強力なやつだ。あのお嬢さんはもう戻って来れないだろうよ」
「そんな……」
セルヒオは淡々と述べた。
彼にとってみればひとりの受験生にすぎないだろうが、ホルンにとっては違う。
絶対に負けないでほしい。
ここからではそう願うことしかできない。
「あの女は、君と一緒にいた、凡人か……」
隣りのベッドから、弱々しい声が聞こえた。
首を固定するギプスをつけ、痛々しい格好で寝ているサイの姿があった。
「……あなたもいたんですね」
「おかげさまでね。あれだけ厳重に、怪我をしないための魔法がかけられていたのに、首が動かないよ。本当に、なんて馬鹿力をしてるんだ。……まあそんなことより、彼女では勝てな
いだろうね」
サイの言い草に、ホルンはムッとした。
なぜそんなことを言われなければならないのだ。
「何を根拠にそんなことを言うんですか?」
「彼女から何も感じなかったからさ」
「感じるって、何を」
「才能だよ。それに、自信も欠如してる」
アレクシアには才能がないと言い切ったサイに憤りを覚えたが、なんとかこらえる。
「君がちゃんと言ってあげないから、こんなみじめなことになっているんだ。自覚したまえよ。優秀な人間と接することで、彼女は自分まで優秀だと勘違いしている。君が彼女を不幸に
しているんだ」
「……もう、喋らないでください。これ以上あなたを嫌いになりたくありません」
「……だから、才能のある人間が、凡人と生活を共にすべきじゃないんだ。誰も彼も不幸になる」
サイはそれだけ言うと黙った。
ホルンも、何も言わずにただ試合を見つめた。
アレクシアはまだ、黒い霧の中から出てこない。




