20.午後の試験
学生たちの間にどよめきが走った。
予想していた者がひとりでもいただろうか。
ここに集まっているのは、筋金入りの頭でっかちである。
戦うことなどできるものか、と半数ほどは思ったことだろう。
しかし、もう半数の、魔法使いを志す受験者たちは、むしろ喜んだ。
彼らが子供のころに思った、『格好よく相手を圧倒する自分』を見せるいい場なのだ。
たまたま目指した道が、騎士ではなく魔法使いだったというだけである。
最初こそ戸惑いが起こったものの、みんな心の中では熱く燃えたぎっていた。
さて、一方、魔法を習得しておらず、知識で入ろうとしていたホルンのような生徒たちからは大不評である。
「各々の事情もあるだろう。無理だと思う者は参加しなくてもいい。不参加だからと言って減点するようなことはない。その場合は筆記試験の結果に平均値を加点する。自分の能力を正
しく判断して、良く考えるように。不参加表明をしていない者は全員参加とみなし、組み合わせを一時間後に発表する。その後に必要とあれば第二講堂で道具の貸し出しを行う。通達は
以上だ」
受けなくてもいいことがわかると生徒たちも少しは大人しくなったが、それでも筆記が芳しくなかった者は藁にすがる思いで受けるつもりのようだ。
「ホルンはどうするの? 魔法、使えないでしょう?」
「やりますよ。受けなかった人を全員落とす試験の可能性だってありますから」
「でも、どうするの? 魔法使いを相手に決闘って、とっても大変よ?」
「そうですね。でも、やってみないと分かりません。それに、相手も魔法を使えない人だってこともありますよ」
「それもそうね」
アレクシアは納得したように頷いた。
「アレクシアさんは自信あるんですか?」
「自信はないわ。でも、やらなきゃ……」
紅の魔法石がついた指輪を見つめて、彼女は自分に言い聞かせるように言った。
受験生たちは、戦うための作戦を考えることに躍起になっていた。
しかし、充分な作戦を立てるには、ほぼ全員、経験が圧倒的に不足している。
この中のどれだけの人が、相手も動く人間だということを理解しているのか。
大半の者は、人形でも相手にするかのような、お粗末な作戦しか立てられていないようであった。
そうこうしているうちに、一時間はあっという間に過ぎた。
組み合わせの発表を全員が固唾を飲んで見守るなか、空中に光る文字が浮かび上がった。
無数の升目を持つ、巨大な組み合わせ表だが、各々が自分の名前だけは違う色に光って見えるよう細工がしてあった。
そのため、瞬時に見分けがつき、発表が進んでいくと、あれだそれだ、と口々に声があがる。
「どうですか?」
「バート・ホドル……。知らない相手ね。でも、負けないわ。ホルンは、誰が相手なのかしら?」
「サイ・レームブルックさん、ですね」
ホルンは表の一番左上を指さした。
「レームブルック……。聞いたことあるような……」
「有名な方なんでしょうか」
「うーん、心当たりがあるような気がするけど、思い出せないわ……」
突如、ふたりから少し離れたところでざわめきが起こった。
一段高くなっている場所で、誰かが騒いでいるようだ。
「君たち! ホルン・パストゥールという者を知らないか!?」
派手な格好の貴族の子が騒いでいる。
夜空のような紺色の髪に煌びやかな装飾のついた衣装。
手には灰色の巨大な魔法石がついた杖を持っている。
「ホルン、関わっちゃダメよ」
アレクシアがささやき、ホルンも賛成だと思い、彼から目を逸らした。
しかし、それが裏目に出た。
彼はわざと目立つ場所に経ち、自分に対する周囲の反応を見ていたのだろう。
他の者と違う仕草をする者がいれば、それはすなわち、ホルン・パストゥールであるということだ。
「君か! 僕はサイ・レームブルック! よろしく頼むよ!」
ずんずんと向かってくる彼から、ホルンは顔をそらしていたが、これだけ注目を集めてからでは、逃げることもできない。
何を考えているのか、ふたりには全く理解できなかった。
「超天才の僕と戦う不幸な人が誰なのか知っておきたくてね。でも、安心してくれ。僕は怪我をさせるようなことはしないよ」
「は、はぁ……」
呆気にとられるホルンと無理矢理握手をして、高笑いをしながらどこかへ去ってしまった。
『あの男……』
(……はい。たぶん、演技ですね)
ホルンは直感的に彼がわざと道化を演じていることが分かった。
こちらを油断させるためか、間違った先入観を植えつけるためか。
決闘と知って、すぐにこういうやり方を思いつく相手は、ただ者ではない。
「レームブルック、思い出した……」
アレクシアが小さく呟く。
「あの人、希少な魔法を使えることで有名な魔法使いよ」
「希少な魔法?」
「ええ。風の魔法よ。炎や水と、風の大きな違いってわかるかしら?」
「炎や水と? うーん、温度や量が無いってことでしょうか」
「正解。実態が存在しないものだってことなの。それを魔法で操れることがどれだけすごいことか……。ここの教員でも、使える人って少ないんじゃないかしら」
「風魔法って、そんなにすごいんですか……」
彼が自分を天才だと言ったのも、根拠があってのことだったのか、とホルンは思った。
頭がきれるだけではないようだ。
「私、そんなすごい人と当たっちゃったんですね」
魔法を使えない人と当たることを期待していたが、そう簡単にはいかない。
特に風というところが厄介だ。
目に見えないものを、どうやって防げばいいのだ。
ホルンが悩んでいると、アレクシアが肩を叩いた。
「お互い、がんばりましょう」
アレクシアは、緊張で強張った顔をホルンに見せ、そう言った。




