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角の少女とふたつの竜  作者: 樹(いつき)
第二章 シルトクレーテ
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13.新居

春になり、寒さに身を固めていた動物や草木も活動を始めた。

植物の芽吹きや、新しい命の誕生などで、森は一年を通して一番の騒がしさを見せる。


そんな森の傍らで暮らすパストゥール家も例外ではなく、新たな門出を祝う様相を見せていた。


「本当に大丈夫か?」


大荷物を背負って立つホルンに、ライオネルが心配そうに言う。

マリアに作ってもらった帽子から白い髪が伸び、春風になびいた。


すでに冬の間に引っ越す先の部屋は借りており、あとはホルンが行くだけになっている。


「うん。少し寂しいけど、シロさんもいるし、大丈夫だよ」

「そうか。寂しいのは俺たちだけか……」

「ホルンにはシロさんがいるもんね……」


明るく希望に満ちているように見えたのだろうか、ふたりはがっくりと肩を落とした。


「もう、ふたりとも! そんなことないって! 市場に来る時は来られるんだから、二度と会えないわけじゃないでしょ!」

「それはそうだが……」


父の悲しい目を見ていられなくなり、ホルンは振り切るようにして、言った。


「じゃあ、もう行くね。ここにいるといつまでも喋っちゃうから」

「いってらっしゃい。いつでも帰っておいでよ」


そう言うマリアに笑顔で応えて、ホルンはようやく家から出発した。


シルトクレーテまでの道のりは何度か通ったことがある。

しかしそれは幌馬車を使って、一日かけて通っていただけだ。

ホルンは自分の足の速さや疲労も考えて、三日ほどかかるだろうと計算していた。


馬を使わなかったのは、景色を見て歩きたかったからだ。

次にこの森の風景を見るのは、何年先になるか分からない。


街道まで出てしまえば、それこそ考えることはない。

一本道なうえ、巡回の衛兵もいる。

それに、今は心強い味方だっている。

無力な少女だった時とは違うのだ。


ホルンがこれから向かうシルトクレーテは、大陸でも屈指の魔法の栄えた大都市だ。

港街でもあり、物資も潤沢、栄えるための条件をいくつも持っていて、当然のことながら、この辺りでここより大きな街はない。


国と言う区分が遙か昔に無くなったこの大陸で、かつて四大強国と呼ばれたうちのひとつを担っていた、タルタルーガの首都がシルトクレーテであり、王宮もそのまま残っている。

王の血族も残っているが、王という身分はなくなったため、あくまで首長という立場でシルトクレーテを治めている。

王がいたころに比べて権限が縮小されたおかげで、人間同士の戦争は何百年も行われていなかった。


歴史の話はさておき、シルトクレーテが魔法都市であったことの名残として、今もシルトクレーテ魔法学校が存在する。

魔法学校は大陸の各地にいくつか存在しているが、その中でも最も権威を持っているのが、この学校だ。


理由はいくつかあるが、やはり大魔導士の創設した養成学校だけあって最難関であることと、才能があれば家柄を問わないという大らかさにある。

実力のない者は入学すら許さない厳しさを持っていながら、入学希望者が絶えないことが、他の学校には真似できない一番の特徴だ。

魔法以外にも、生物学、植物学などの学問にも精通していて、魔法の才能がなくても、そちらの知識を収めようと入学してくる者もいる。


ホルンはその特徴を聞いて、これだ、と思った。

人気のある難関校であればなおのこと、シルトクレーテ魔法学校の持つ多様性から、様々な文献や研究成果があることは想像に難くない。

自分のために利用させてもらえれば、これほどありがたいことはないだろう。


そんな思惑を胸に秘めて三日間歩き続け、ホルンはようやく都市へたどりついた。

森を歩きまわって鍛えていたはずの両足は石のように硬くなり、体の節々が地面へ倒れ込んでしまえとばかりに重さをかけている。


都市の中央から外れたところに借りた、小さな部屋についたものの、その日はもう荷ほどきも出来ず、ただ体を休めることに努めた。

シロが代わって荷ほどきをしようかと提案したが、窓を遮るものが何もない子の部屋で、誰かに見られては大変だ。

翌日の早朝まで死んだように眠り、眠たい目をこすりながら、いそいそと部屋の中を片づけ始めた。





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