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時をかけるAI  作者: 宮本 くつろぎ
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 人との接触が増える中で元々強かった自意識はさらに高まっていった。とくに見た目に気を使うようになり、より磨きをかけようと努力した。女の子にも、もてたかった。

 

酒を飲んだ後の帰宅途中、一晩中明るく照らされる繁華街の中で一人立ち止まる。

暗いスマートフォンの画面を見つめた。

近くの大型書店では万引き犯が大量の書籍をドラムバッグに詰め込んでいた。

「何してるんですか?」顔を覗き込んだ店員に、体当たりを食らわして店を飛び出た。

遠くで騒ぎがあっても男の知ったことじゃなかった。

前髪を気にする彼は手鏡の角度が気に入らない。携帯を持ち換えた。

その瞬間、悪寒が走る。鏡越しにヤツが見えた。不敵な笑みを浮かべていた。背後に嫌な気配を感じた。

酔っていたのもあった。仕事の疲れもたまっていた。

拳をぐっと握り怒りに任せて腕を思い切り振った。その拳は空を切る。

でも誰かの鼻先をかすめた。体をひねった反動でバランスが崩れた。

「万引きです!」遠くで叫び声がした。

よろめいた体を万引き犯が力いっぱい押し倒した。足があらぬ方向に曲がる。

倒れこんだ男は気を失った。誰かが救急車を呼んだ。

 

入院中、高校の同級生と再開した。彼女は病院に勤務していた。それをきっかけに二人の距離は急接近し、やがて彼らは結婚した。数年後には子供も生まれた。充実した毎日を送った。

一人になる時間もさらに少なくなり、いつしかヤツも現れなくなった。


「ずっと前にね、急にたくさん連絡くれるようになったでしょ」子供が寝た後二人は酒を飲んでいた。

「ん?ケガの時か?」

「違う。もっと前」

「ああ、あれか」

 ヤツの姿が頭をよぎった。恐怖に耐えかねて誰彼構わず声を掛けたあの頃を思い出した。

「どうして連絡くれるようになったの?」

「あの頃スマホを買い替えたんだよ。それでつい嬉しくなって連絡したんだ」

「何それ?嘘でしょ」

「ほんとさ。でもあの頃から君のことを好きだったよ。そういう訳もあったんだ」

「絶対に嘘よ。本当は何かやましいことでもあったんじゃないの」

「そんなのないさ」そう言って頭を掻いた。

 

その日の夜、ヤツは夢枕にたった。穏やかな景色に馴染むヤツの姿に不思議と好感が持てた。

「久しぶりだな。夢に出るのは初めてだ。暫く見ないうちに雰囲気が変わったな。相変わらず俺に似ているが、妙な不安も大して感じない」

 丘の上にゆるやかな風が吹いた。髪や服が風に揺れた。

 二人で景色を眺めた。こうしてこいつが出てくるのも何か特別な意味があるように思えた。

「なあ、お前は…」こいつと話したかった。答えてくれないことは分かっていても、話しかけずにはいられなかった。


そこで目が覚めた。スマホのランプが点滅し着信を知らせていた。

女子社員からの食事の誘いだった。

最近やたらと色目を使ってくるような気がしたが、勘違いではなかった。

「上司に向かってこんな時間にメールはないだろ」男は苦笑して、どう返信すべきか頭を悩ませた。

その夜はよく眠れなかった。ヤツのことが頭をよぎって離れなかった。


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