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若い男が電車の扉に寄り掛かって音楽を聴いていた。
ポケットまでだらんとつながるイヤホンはどこかキザな印象だった。
彼が大学までの通学でそうやって過ごすことはいつもと変わらなかった。
男はうつむいて目をつぶっていた。自分だけの世界に身を置いた。
眠っているわけではなかった。
まぶたの裏に映る景色は音楽の場面によって移り変わる。
その中で遠くに知らない何かを見つけた。
いつの間にかぬっと出てきたそれは人の形をしていた。男はハッとして顔を上げた。
車内の椅子はぎっしりと人で埋まっていて、立っているものもいくらかいる。
変わりばえのない車内。男の頬に一筋の汗が流れる。
何か悪い夢でも見たような気分だった。
アナウンスが車内に流れ、電車は速度を落とした。つり革を手に取る。
扉が左右に開いて、人が足早に目の前を通り過ぎた。
スマホ依存症の彼はその晩、横になってスマートフォンを眺めていた。
何気なく画面から目を離した先に人間の足が見えた。
「うわ!」男は飛び起きた。
「なんですか!誰ですか!」
目の前に立つ男は何も答えない。
「何してるんですか!」
怖くてたまらなかった。ベッドの上で後ずさりする。
背中に壁がぶつかった。鼓動がはやまる。体が震えた。
今日どこかで味わった感覚だった。昼間の体験が重なる。
きっと昼間のあいつと目の前のこいつは同一人物だと思った。
消えてくれと念じた。そうするしか出来なかった。
目をグッと閉じてうずくまった。
まぶたの裏に男の顔が映った。
大きな悲鳴を上げだ。全身汗だくの上、涙も流していた。
目の前にはすでに人影はなかった。




