表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/108

聖王国VS魔国(2)

「魔王様。敵背後に混乱が見えます」


 ドルガは、目の前の聖騎士を倒してから敵の背後を見る。確かに後方に何かしらの動きがあるように見えた。


『魔王ドルガ様。我は、イアフリード王大輔の眷属の者でヴァールと申します。大輔王の指示により、わずかながら助太刀致します』


 ドルガの耳元に囁く蝙蝠がいる。


 ドルガは、余計な事をと言いつつも以前取り交わした約束を思い出した。


「わかった。大輔には、後で言いたい事は言うつもりだ。その前に、勝ってしまわねばな」


 ドルガは、うっすらと笑みを浮かべると仲間の魔族を鼓舞する。徐々に疲れが見えてきていたが、背後に援軍が来たと言う情報は、そんな魔族を奮い立たせたのだ。

 魔国軍を支援するため派遣されていたグリモアとヴァールは、イアフリードの関与がわからない形で聖王国軍を襲った。グリモアが、エルダーリッチとしてこれまでに死霊兵とした使者たちを連れ出し、それを聖王国軍の背後から攻撃させたのだ。


 彼らは、死者であり、知能はほとんどないが、高い膂力と不死性を武器に聖王国軍に詰め寄っていく。死霊兵は、剣で首や手足を切り落としてもそんな事は、関係ないとばかりに襲ってくる上、万が一倒されれば、その者もすぐに死霊兵の仲間となるやっかいな兵だ。


「ホーリーアロー」


 神官が、使う浄化の力を持つ聖なる矢が、死霊兵に突き刺さると死霊兵は光となって消える。だが、圧倒的な数で迫る死霊兵は、恐怖する事もないため目の前にいる獲物に向けて接近を繰り返す。


「くそ。魔法が、間に合わん」


 数人の神官が、死霊兵に飲み込まれるように倒れると聖王国軍の一角が崩れる。聖騎士団は、その訓練により耐性があるが、一般の兵士やテラー王国の兵士には、死霊兵は恐怖でしかない。


「ホーリーフィールド」


 ブレインの指示で神官達が、集団で行う神聖魔法ホーリーフィールドが、展開される。一定の範囲内にいる死者を浄化する範囲魔法であり、集団で行使する事でその範囲を広める事ができる。


「魔王との戦いに備えた訓練を思い出せ。我らは、魔王を倒す先兵なのだ」


 神官たちの活躍で、さすがの死霊兵も徐々に数を減らし始めた。後方で、その様子を見ているグリモアも相手を少し侮っていたと歯噛みする。徐々に死霊兵は、押し込まれ始めると聖王国側の士気が上昇する。せっかくの挟撃もやはり数倍の差があると時間の経過とともに数で抑え込まれ始める。


「ぐううう」


 ドルガの側近が、聖騎士の魔法剣で倒れる。長年、魔王に迫る者として戦ってきた者だ。ドルガは、まだ闘気を保ち、次々と聖騎士を屠っているが、次々と湧いてくる上に手を抜くと倒しきれないため、疲労は徐々に見えてきている。


『撤退を! 活路は我らが作ります故』


 ヴァールが、そうドルガに伝えたのは、死霊兵が壊滅した頃だ。これ以上の戦闘は、魔国の壊滅を意味する。そして、それは魔王ドルガの命もここで尽きる事を意味する。


「ぐあははははは 魔王が引く事は絶対に許されんのだ!!」


 ドルガは、ヴァールの言葉に耳を貸さない。それどころか笑って一蹴すると闘気をさらに増し、聖騎士団の中に単身突入した。


「我と思う者は、ついて来い。我ら魔族の意地を愚かな者に示すのだ!!」


 ドルガの突撃に疲労で動きの鈍った魔族が奮い立つ。次々と槍や剣が刺さる身体に無理を言い立ち上がるとドルガと共に突撃を開始した。死を前提におく死兵の強さは、時に不可能すら可能とする。間もなく勝利を手にしかけていた聖王国軍の中で生まれた気の緩みをつき、これまで押しても押しても抜ける事ができなかった聖騎士団の壁をドルガが貫いた。


 だが、それに追随していた部下は、ドルガのように壁を抜ける事は適わず臥していた。1人、意地を見せたドルガもすでに片手を失い。全身も切り傷で覆われており、立っている事すら奇跡と言える状況だ。

 一人の若い聖騎士が、覚悟を胸にドルガの厚い胸板に槍を突き通す。


「ぐふうっ」


 普段なら槍など跳ね返す鋼の筋肉もすでに限界が来ているのか、あっさりと槍が突き刺さった。ドルガは、刺さった槍を引き抜くとその聖騎士を睨みつける。その威風に当てられた聖騎士は、腰を抜かしたが、ドルガは笑みを浮かべながらそこで絶命した。


「魔王を打ち取ったぞ!」


 その頃には、テラー軍も包囲戦へと移行し、残った魔族たちもどんどん数を減らしている。だが、それでも逃げる者や撤退を叫ぶ者はいない。


 すべての魔国軍を打ち取った事を確認したブレインは、配下に犠牲となった兵の確認を急がせる。


「法王様に伝達を送れ。魔国軍に勝利し、これより指示どおり魔国北部に前線基地を作るとな」


 勝利を宣言したブレインは、ぬかりなく周辺の哨戒を指示し、魔国の占拠と東への足掛かりとなる基地の設営を開始した。





--------------------------------





 円卓で協議を行う大輔達の下に報告が入ったのは、ドルガ倒れ間もない頃だった。リエールが、大輔に兄ヴァールからもたらされた情報を伝えた。


「本日、聖王国軍と魔国軍が衝突し、魔王ドルガが死亡。魔族軍は壊滅し、聖王国軍は魔国へ侵攻を開始したようです。グリモア様と兄は、ドルガ様をお救いしようと試みましたが、聖王国軍を止める事かなわずとの事です。現在、魔国の中でイアフリードに離脱するよう説得に当たっており、可能ならば支援を求めています」


 魔王ドルガの死を聞き、大輔は目を閉じた。ドルガは、大輔にとって嫌いな男ではなかった。できればと考え、グリモアやヴァールを派遣してはいたが、聖王国軍は想像以上に強かった。


「わかった。俺も出張る。みずき、カリンは、一緒に来てくれ。君人と和美は、以前話したように南城塞を魔族の住処として受け入れる事が出来るように手配してくれ」


 大輔は、そう言うと2人を連れて転移で魔国へ飛んだ。すぐにグリモアとヴァールと合流し、保護を求める魔族や説得に応じた魔族を集めるとその都度、転移魔法でイアフリードの南城塞へと移す。みずきとカリンの魔力の限界まで転移を頼み、大輔はグリモア達と侵攻してくる聖王国軍を牽制するため移動した。


「王よ。申し訳ない」


 グリモアが、残念そうに言う。


「俺の指示が悪かった。だが、ドルガは、何を言っても聞き入れないだろうしな」


 事実、支援を申し出たが、断られている。これは、魔国の問題だと言わればそれまでなのだ。


「王よ。ドルガ様から一言いただいております」


 ヴァールがドルガの最後の言葉を伝える。


「感謝すると一言だけ承りました」


 ドルガらしいと大輔は、思った。だが、気持ちがわかる分、少しほっとしたのも事実だ。どう倒れたのかわからないが、ドルガは、ドルガらしい最後を迎えたのだろうと大輔は思った。


「死霊兵を失いました。責めはいかようにも」


 グリモアは、大輔の指示で死霊兵を大量に確保していたが、今回の戦いで失っている。


「今は良い。いや、倒れた魔族を死霊兵にできるか?」


 大輔は、グリモアにそう言った。


「無論」


 グリモアも可能だと答える。意図を理解したグリモアは、大輔から離れ、1人戦場となった荒野へ向かった。倒れた魔族を新たな兵とするために。

 この後、大輔は、時間を稼ぐために魔国へ続く街道を封鎖すべく崖を崩したり、道を塞いだりと妨害工作を行い。みずき達が、ある程度魔族の退避を終えたのを確認するとグリモアとヴァールを連れて帰国する。


 聖王国軍は、遠回りを余儀なくされたため、ようやく魔国に侵入した時には、魔族の姿はすでに魔国にはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ