勇者東に向かう(2)
聖騎士とバルドフェルドの睨みあいが続いた。
「いいだろ。指示に従えば、入国しても良いって言ってるんだから。さっさとあの建物に行こうぜ」
冬真が、仲裁に入った事で聖騎士も仕方なく視線を逸らした。まだ、納得いかないと言った様子だが、冬真がさっさと歩いて指示された建物に向かったので、聖騎士たちは仕方なくついていく。
案内された建物は、豪奢な建物で冬真にとっては、どこか懐かしい雰囲気を感じた。
「へえー。聖王国の部屋にも負けてないんじゃないか?」
冬真が、そんなことを言うので聖騎士は、また機嫌が悪くなった。そこに先ほど睨みあった人物が入って来た事で余計に雰囲気が悪化する。
「まずは、入国手続きについて……」
「少し聞いても良いでしょうか?」
バルドフェルドが、入国手続きについて説明を始めるとそれを制するように聖騎士が、質問をぶつける。
「ええ。どうぞ」
説明を中断したバルドフェルドが、許可を出す。
「まず。この国についてだが、我らは、この国の事を何ら聞いた事がない。それに先ほど聞いたが、なぜに聖教の教会を設けないのだ?」
矢継ぎ早に聞いた聖騎士に対してバルドフェルドは、飲み物を勧めながら返答を始める。
「このイアフリード王国は、旧モラールから独立し誕生した新しい国家なのです。ですから、あなた方がご存じないのは仕方ない事かと。また、聖教の教会についてですが、この国は種族差別を禁じています。つまり、この国は、人族だけの国家ではないのです。今は、人族がほとんどですが、獣人族の方も魔族の方であっても住む事が許される。当然、1つの宗教を国が特別扱いする事はありません。信仰の自由は保障しますが、特権や利権に繋がる行為は認めておりません」
バルドフェルドの説明に聖騎士は驚く。
「種族差別のない国だと……」
「ええ。イアフリードの法に従う者ならば、種族などは差別致しません。逆に言うと何人であってもイアフリードの法に従えぬ者は、入国をお断りしています。あなた方は、どうされるのですか? 法に従うのなら歓迎しますが、嫌だと言うのならお帰り願いますが?」
このような扱いをされた事がない聖騎士は、怒り心頭だったが、入国を拒否されると面倒になる事は理解している。聖騎士は、自然と冬真を見て返答を求めた。
「俺は、構わないぞ。別にルールを守れば、いいだけだろ」
冬真のあっさりとした返答で、聖騎士が折れる。
「では、あなた方は、イアフリードの住民になるわけではないのでしょうからこの仮身分証をお渡しします。この身分証があれば、イアフリードの国民と同様に過ごす事が可能ですので、肌身離さず所持ください。また、宿泊されるなら宿は、西街にありますので、そちらで手配ください」
そう言ってバルドフェルドは、人数分の身分証を渡した。しぶしぶその身分証を受け取った冬真達は、馬車を預ける事にして、イアフリードの街へと向かった。
「悔しいですが、良く整備された街ですね。石畳にしても建物にしても皆新しいせいかとても綺麗です」
聖騎士たちは、不満を言いながらも冷静に街を分析する。
「確かマリードの街と言っていたが……」
冬真達は、西門から歩いて西街へ向かっていたが、途中で眼前に巨大な城が見えた。中央にまっすぐのびる通りの正面に見えるように作られたその城は、冬真達が、感嘆の声を漏らすほどほど見事なものだった。
そんな冬真達をマリードの街の人が、クスクス笑いながら見ている。聞けば、初めてマリードの街に来た者は、みんな同じ顔をすると言うのだ。聖騎士も冬真も顔を真っ赤にしたが、マリードの住民は、みんな同じだからと言って去っていった。
悔しい気持ちもあったが、聖騎士たちも今は素直にその見事な城から目が離せなくなっている。
「ま、まずは、宿を取りましょう。馬車の旅が長いので、少し休息が欲しいですよね?」
気を取り直した聖騎士の1人が、そう提案すると皆賛成する。聖騎士の1人が、街の人に宿の場所を聞くと丁寧に教えてくれた。
「西街はね。いろんな店や宿屋が集まっているんだよ」
案内してくれた者が、説明してくれる。確かに何軒も色々な店が続いており、中には飲食店らしき店などもあった。
「俺。すげー腹減ったから。宿を取ったらすぐに食べに行こうぜ」
冬真の提案に誰も不満を言う者はいない。案内された宿に着くと身分証の提示を求められたので、渡された身分証を出し部屋を取る。宿屋の女将さんに他国から来た人ならと両替について説明され、イアフリードの紙幣と言う物を説明され、それと銀貨を交換してもらった。
「なんか。俺のいた世界みたいだな」
冬真にとっては、懐かしい光景だが、他の聖騎士にとっては、初めての事だ。紙には、精巧な絵や数字が記載されており、見ているだけでも楽しいものだが、これがこの国の通貨だと説明された。部屋に荷物や鎧を置き身軽になった冬真達は、食事をとりに街に繰り出した。冬真が、独断で店を決めたが、聖騎士たちは黙ってついていく。
「おっ! すげーな。この店メニュー表があるぞ」
冬真が、席についてすぐにそう言った。
「これは、売っている物を書いた紙なのですか?」
聖騎士が、冬真に聞くと冬真が、メニュー表について説明する。注文を取りに来た店員が、良く知っていますねと冬真を誉める。豊富なメニューから冬真が、適当に注文すると次々とテーブルの上に食べ物が並んでいった。
「計算したのですが、この国は物価が安いですね。それに食糧事情が良いのか種類も豊富だ。魚や肉は、もちろんですが、豆や芋の種類も結構あるみたいですね」
聖騎士も驚きながら解説する。世界を旅して歩いていた冬真達も、ここまで豪華な食事はしばらくぶりだ。しかも両替した通貨を銀貨や金貨として計算するとかなり安いのだ。
「うちの国は、その辺の国とは違うんですよ。肉や魚も安く手に入るからね。料理人のあっしも腕を振るえるってもんですよ」
料理を忙しそうに運ぶ店主のような男が、そう説明していった。出された食事は、どれも満足のいくもので聖騎士たちもしばらくぶりに腹いっぱい食事を食べる事ができた。支払いを終えた冬真達は、腹を抱えながら夕方の街を散策する事にする。
「あっあれを見てください」
一人の聖騎士が、指を指す。その方向には、獣人族の子供が人族の子供とおしゃべりしながら歩いていた。獣人国が隣にある事は、知っているが、この国に獣人が住んでいるとは思っていなかったのだ。
「へえ。あれが、獣人か」
冬真は、単に珍しいと思ってそう言ったが、聖騎士たちは受け止め方が違う。人族と獣人族は、仲が悪く何度も戦争を繰り返していると聞いているのだ。
「坊主。ちょっといいか?」
「うん。何か用ですか?」
冬真が、子供達を呼び止め聞くと、子供達は不思議そうな顔で見る。
「ずいぶんと仲がよさそうだが、友達なのか?」
すると2人は、互いの顔を見て大きく頷いた。
「そうだよ。僕らは、学校でも親友なんだ」
「将来は、一緒に冒険に出るって約束しているんだよね」
2人の子供は、そう言うと手を振って走っていった。
「だとさ。学校の親友って奴だなありゃ」
冬真がそう言うと聖騎士は、また不思議な顔をした。聖王国でも学校に行く事ができるのは、裕福な家庭である一部の者だ。冬真達は、子供が歩いてきた方向に進み、そこに大きな建物を見つけた。そして、その建物からは、次々と子供達が飛び出してくる。
「まさか……」




