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迫るジルバルダ

 翌日まで何の動きもなく静かに時が進む。4人は、優雅に食事を摂っており、バルドフェルドがいれてくれたコーヒーを飲んでいる。南の森で、コーヒー豆を見つけた時に入手したのだが、和美が錬金で焙煎すると美味しいコーヒーが手に入ったのだ。


「もう少し、地球の食生活に近づけたいね。納豆とか豆腐とかは、無理でも世界のどこかに米とありそうじゃない?」


「そうだな。今度、情報を探ってみよう。手に入るようなら大量に購入しておけば、良いしな」


 4人で暮らす分があれば、当面の食糧は必要ない。ダンジョンで入手した財宝もあるので、金に困る事はなさそうだが、遠方の食材などを手にいれるには、旅に出なければならない。転移が使えるので、毎日帰ろうと思えば帰れるし、途中から旅を再開できるのだから時間さえあれば、行動範囲は、広がっていく。

 落ち着いたら旅にでも出るかと4人で話をしていると使い魔の双子メイドが、戻ってきた。


 双子の姉パトリシアとその妹であるフレイアが、君人の背後に立つと視線が、双子に向かう。


「ジルバルダ軍は、どうだったのかな?」


 君人が無理をすれば、遠方にいる双子の目を借りる事も可能だが、その際双子の思考を奪うため活動に制約できる。だから君人は、使い魔を信用して偵察を任せたのだ。


「はい。まず、ハシブスカは、わずかの手勢を率いてこちらに向けて逃走中でした。およそ200人くらいの兵士が、付き従っているようですが、すでに戦えるだけの戦力があるようには、思えません。武器を捨てて走って逃げている兵もおり、疲労もかなり蓄積しているようです」


 パトリシアが、ここまで説明する。


「次にジルバルダ軍ですが、ハシブスカを追ってかどうかはわかりませんが、およそ600人ほどの兵が追撃しているようです。まだハシブスカを捉える距離には至っておりませんが、あきらかにジルバルダ側の方が、士気も高く動きも良いので、間もなくハシブスカは、捕えられるでしょう。相手方に立派な鎧を着た騎士風の男がいましたが、おそらくはその者が指揮をとっているものと思います」


 フレイアが、ジルバルダの動きを説明する。そして、相手の指揮官は、その威風から経験の多いベテラン指揮官だと判断した。


「心配するつもりはないが、相手の出方によってその後の展開が、変わってくるだろうな」


「ああ。ここで、ジルバルダに目をつけられるかどうかが決まる。別にジルバルダが、恐ろしいわけじゃないけど大軍を差し向けられたりすると何があるかわからないからな」


「いや。どちらかと言うと大軍よりも、この世界の英雄たちが怖いんだ。ブランも言っていたけど、この世界には、とんでもない力を持った勇者や賢者とかがいると言う。今、この世界にいるかは、わからないけどそんな規格外が、パーティーを組んで攻めてくるとどうなるかわからない。そして、もしその勇者が、俺達と同じ異世界人だったらさらに問題があるだろう」


 大輔が言うと君人が、顎に手をついて考える。


「そうだね。僕らの力と同等以上の者がいると仮定すれば、脅威だね。自分達で使っている分には、頼りになるけど。相手が使うと考えたら余裕はないかもしれない」


 おそらく深く考え込んでいるのか、君人は無言で思考を巡らせている。


「でも私達みたいに4人そろっている可能性は、低いんじゃないかな。それに人数がいても仲が良いとは限らないし」


 和美が進言する。確かに仲の良い同級生が、こうして召喚されるような可能性は低いだろう。そもそも他国は、召喚術を行う際に1人ずつ行っていると聞いているから同郷の者がまとめて呼ばれる事は少ないだろう。


「まあ。可能性があるけど、私達が、慢心せずに注意を払っていけば、大丈夫よきっと」


 みずきがまとめ、大輔達も頷いている。


「色々と保険をかけよう」


 思考の渦の中にいた君人が、発言する。


「保険?」


「うん。保険。何があっても対応できるように、できる事はできるだけ準備しておこう。万が一の事があっても保険があれば、大丈夫だからね」


 君人の言う保険が、どのようなものなのかは、わからないが君人が言った事ならばと、他の3人は納得する。


「わかった。皆で、アイディアを出し合って準備は、しておこう。少し忠実な配下を増やしても良いし、場合によっては、この世界で信頼に値する者を受け入れても良い」


 4人で方針を確認しているとバルドフェルドが、何かに気づいたのかベランダに立った。


「来たかい?」


 君人が言うとバルドフェルドが頷いた。4人が、バルドフェルドの見ている先を見ると砂塵をあげる一団が見えた。おそらくあれが、逃げているハシブスカの兵たちだろう。


「あ! こっちに向かって来るわね」


 向こうもこちらの城を視認したのか。進行方向をこちらに向けた。おそらく中央を走る馬車に乗っているのが、ハシブスカなのだろうが、他にも馬に乗る騎士が数名見える。


「でも、あの人達この城に入れてもらえない事は、知っているだろうけど、どうするつもりだろうね」


 みずきが、言うが、最もな事だ。この前の返答でヘイゲルからすでにこの城の事は、聞いているはずだ。にもかかわらずこちらに向かって来るのだから何か策でもあるのだろうか。


「あ、停まったね」


 ベランダから見下ろすと堀の手前に人だかりができている。すでに水は、綺麗になっており、そのあまりにも深い堀を渡る事がいかに難しいか理解した頃だ。


「また、何か叫んでいるわね」


「懲りないな~」


 声は、聞こえないけど怒鳴っている事はわかる。


「あれ。何か出て来たよ」


 和美が、前に出てきた者の姿を見て驚愕する。


「ちょっと! あれって子供じゃない?」


 和美が言うようにハシブスカは、なぜか子供を全面に押し出した。そして、なぜかその子供たちは、縄のようなもので拘束されているように見える。


「おい。まさかあいつら」


「人でなしが……」


 人でなし。大輔が、そう言うと女性陣も理解したようだ。おそらくハシブスカは、マトレ村の住人の中から子供だけを選んで拘束し、ここへ連れてきたのだ。それは、まるで子供を殺されたくなければ、城を解放しろと言わんばかりのものだ。


 すぐに拳を握り、怒りに満ちた大輔が、踵を返す。単身、あそこに向かい子供を助けるつもりなのだ。


「大輔! 僕たちは、君を止めない。だから、少しだけあいつらの前で時間を稼いでくれ。その間に子供らは、僕らで救助する」


 君人が、そう言うと背中越しに返事した大輔は、その姿を消した。和美もその意味を理解してか城門を操作し、跳ね橋をゆっくりと降ろす。当然、その橋の上には、大輔が武器も持たずに立っており、すたすたとハシブスカの元へ向かって歩いていく。


「ようやくお出ましか。手を煩わせおって」


 おそらくハシブスカだろう男が、悪態をつく。兵士達に子供の首に剣を突きつけるような指示を出しておいて、この男は自分の欲求を満たそうとしているのだ。


「さっさと城を明け渡せ。このような立派な城は、我にこそふさわしい」


 自慢げに髭を手で撫でつけながら自画自賛する男を大輔は、軽蔑した目で見る。当然、その視線に気づいたハシブスカは、部下に指示し一人の子供を殺せと言った。その剣が、振り上げられるとその手をハシブスカが止めさせる。


「跪け。下民風情が、公爵たる我に許しもなく頭をあげるとは何事か。ほれ。さっさと膝を折らぬか」


 大輔が、動かないでいると剣を持った兵士が、子供の首に軽く剣を突き刺し、そこからわずかながら血が流れた。大輔は、膝を折り、その場で頭を下げた。


「ひゃひゃひゃひゃ。愉快じゃ。ほれ、お前達さっさとこの城を接収せよ。今日より我が、この城の主じゃ」


 すると兵士達が、跳ね橋を渡りはじめ、城へと向かって走りだした。大輔は、ただ、頭を下げてじっとそれをこらえる。


「それにしても見事な城じゃな。モラールの王城と比べてもこちらの方が、良いくらいじゃ」


 和美が、作った城をこのような奴らに汚される事は、耐え難い事だ。このゴミのような男にわが物顔で、闊歩されるなど御免こうむりたい。


 そして、あろうことかこのハシブスカは、大輔に歩み寄るとその足で頭を下げる大輔を踏みつけようとした。その汚い足が、大輔の頭に乗せられようとしたとき。大輔は、その足首あたりをがっちりと握り返したのだ。


「ぐあああ。あ、足がっがががあ!」


 大輔のステータスで握れば、どのようなジョブを持っているか知らないが、耐えられる者は多くない。慌てて兵士が、子供たちを襲おうとするが、大輔がそれを制止させる。


「少しでも動けば、公爵の足をねじ切るぞ」


 片手で公爵を吊るし、握る手に力を込めるとゴキリと嫌な音が鳴る。握るだけで、足首を潰した大輔に兵士達は、一歩さがったが、まだ子供たちの首には、剣が向けられている。向こうにしても子供を放せば、一気に形勢が変わる事を理解しているのだ。

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