カリンの一人立ち(1)
大輔と共に数回ダンジョンに挑んだカリンは、すっかりそのジョブを自分のものとした。基本的なスキルが、大輔のジョブと似ている事もあってカリンは、大輔のスキルの使い方などを見様見真似で学習し、自分のものにしたのだ。
大輔が、自分のジョブをある程度把握し扱えるまでは、かなりの時間を要したのだが、カリンは手本がそばにあるうえに周囲にジョブを隠す必要もない。だから、その学習スピードは大輔よりも速く、日ごとに成長を実感する事ができた。
そして、ダンジョンを大輔と共に攻略し、大輔のように深層にいる魔物を眷属としはじめると自信が深まり、行動もより積極的になっていった。
ほとんどの魔物は、ダンジョンからの解放を条件とする事で、眷属となる事を承諾するため、カリンは強力な眷属を作る事ができた。
「フェル!」
新たなダンジョンを獣人国の東で発見したカリンは、そのダンジョンを1人で進んでいる。今までは、大輔が側にいて、一緒に進んでいたのだが今回はカリン1人で挑んでいるのだ。
カリンに指示されたフェンリルのフェルが、その自慢の脚力を活かし、現れた大きな猿の魔物を牙で襲う。たちまち分断された猿は、大きな断末魔を残して光と消えていった。
カリンの前には、壁役のディラハンロードのフローが、隙なく構えており、カリンに近づく魔物を許さない。また、カリンの頭上には、ヘルグリフォンのドーリーが、飛翔しておりいつでも動けるように待機していた。
カリンは、現れた魔物を始末したフェルの側に向かうと倒した魔物が、落とした魔石をフェルが拾ってカリンに渡した。
「お疲れ様フェル。魔石は、和美お姉さんが喜ぶからお土産にしましょうね」
カリンは、この1年で大きく成長したが、基本的なスタンスはやはり魔法特化型の戦闘だ。ほとんどの種類の攻撃魔法を使う事が可能な上、その威力は高い。しかも、状態異状を無効化するスキルを持ち、耐性も高いため、カリンに勝利するには、接近戦に持ち込むしかないのだが、配下の眷属達がそれを許さない。
おまけにカリンは、様々な魔眼を使う事ができる。相手が自分より数段格下の者ならば、魔眼を使って操る事も可能だし、様々な状態異状を引き起こす事もできる。
1人でのダンジョン攻略もフェル達眷属がいる限り、それほど多くの危険はない。大輔もカリンに数回同行し、それがわかったから1人でのダンジョン攻略を許可したのだ。
発見したダンジョンは、入って見なければその難易度はわからない。だが、大輔の経験上、ダンジョンには明らかに差があり、現れる魔物の強さが違う。大輔もドラゴンクラスのボスがいた場合や相性の良くない魔物がいた場合には、十分注意するようカリンには言っている。
順調にダンジョンを進むカリンは、きちんと休息を取りながら確実に深層に向かって進んでいった。このダンジョンは、獣型の魔物が多いが、時折無機物系の魔物も出るようだ。カリン達は苦もなく現れる魔物を倒す事ができたので、素材や魔石を回収しながら奥へ進む。
そして、3日ほど籠る事になったが、目当ての深層にある扉にたどり着いた。
「皆。準備はいい?」
カリンが、眷属達に声をかける。当然、準備万端と返答が返る。1人と3体の眷属は、扉を潜るといつもどおり、扉が閉じ明るくなった。現れた魔物を見てカリンの表情が少し変わった。
「スライム?」
『エレメンタルスライムでは?』
フェルが、そう言ってきたのでカリンは、腕を組みながら目の前の巨大なスライムを見つめる。
「属性はわかる?」
『おそらくは、無属性かと。物理、魔法共にどの程度効果があるのは、攻撃してみないと何とも』
フローが、分析した事をカリンに伝える。
「ふーん。言葉は、理解できるのかしら?」
『……』
スライムに声をかけるが、反応がない。これまでの経験上、高い知能を持つ者が多かったので、会話ができるかと聞いてみたが、スライムは返事をしない。眷属達もその様子から敵意を感じ取ったのか、それぞれが動けるように構えをとった。
(さすがにこれは、眷属にはできないかもね)
カリンは、内心新たな眷属を確保するつもりでいたが、さすがに意思疎通ができないスライムは、眷属にできないと判断した。
「行くわよ」
カリンの声で、眷属達が動き出す。カリンは、すぐに魔眼を使い相手の動きを封じようとスキルを使うが、すぐに効果がない事を悟る。
「魔眼は、効かないのね」
目がないスライムには、魔眼の効果がない。カリンの存在を何で感じ取り把握しているのかわからないが、巨大なスライムは、グネグネと体を揺らしながらカリンに向けて進みだした。
当然、それを許さないとばかりに、ドーリーが口からブレスを放出する。火炎放射器から放たれたようなそのブレスは、確実にスライムを炎で包んだ。だが、炎は、すぐに消化されそこには、特にダメージを受けた様子のないスライムの姿があった。
フェルが、後方に回り込み高速で接近し牙をたてる。その鋭い牙や爪が、スライムを襲い深い傷を形成する。しかし、できた傷はすぐに液体のように元の形へと戻っていった。
「物理にも炎にも耐性が高いってことね。じゃあこれはどうかしら?」
カリンは、それならばと頭上に手を掲げ、大きな炎の球体を作る。そして、それが太陽のような輝きを見せるとそれをスライムに向けて投げつけた。回避すらしようとしないスライムは、その炎をその身で受けると爆散する。
「やった?」
飛び散ったスライムは、周囲の壁や床にべっとりとくっつき、様子を見ているとそれがウネウネと動きだし、再び1つの巨大なスライムとなった。
「恐ろしいくらいの再生能力ね。爆散してもこうして戻れるならある意味不死身って事かしら?」
素早く飛び出したフローが、手にする剣でスライムを攻撃する。どの攻撃もヒットするが、やはりすぐに傷口は、塞がっていってしまう。魔法を込めた剣を使う事で、大きな傷を作る事は可能だが、やはりその傷も回復してしまう。
「やっかいですね」
試しにとばかりにカリンは、氷系統の魔法を使う。うまくいけば凍らせる事で破壊可能かと期待したが、氷漬けにしても本体全てが凍る事はない。それどころかすぐに炎を噴き出すように凍った場所も溶けて元通りとなる。
雷系統や風系統の魔法を使い、切り裂いたり、感電させたりとカリンは試みるが、どれもスライムは防いで見せた。そして、隙あらばと酸性の液体をカリンに向けて放出し始める。幸いフローが、盾となりその攻撃を防ぐことは可能だったが、カリン側にスライムを倒す手段が見つからない。
どうしたものかと悩むカリンにスライムは、液体の放出を止める。そして、少しおかしな動きを取り始めた。
「何をするつもり?」
カリンは、スライムの動きを警戒し眷属達にも注意を促す。おかしな動きを牽制しようとフェルやドーリーがブレスで対応するが、スライムはそんなブレスを気にする様子もなく大きくジャンプするように弾んだ。そして、空中に飛びあがった巨大なスライムは、突如その姿をまるで雲丹のような姿へ変化させ、そのまま着地する。
『カリン様』
咄嗟にフローが、カリンを弾き飛ばき、後方へ飛ばす。すぐにその上から巨大な雲丹が、落ちてきてフローを下敷きにした。フェルとドーリーは、素早く回避する事ができたが、壁役のフローは、カリンを逃がすために動いた事で犠牲となったのだ。
「フロー!」




