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イアフリードと周辺の状況(2)

「あ、そっか。独り者や夫婦で来る人が、アパートタイプの住居にいるのってそう言う理由なんだ」


 みずきが、知らなかったと驚いた。


「うん。実は、あのタイプのアパートには、管理人がいるんだけど。その管理人が監視と言うか世話をしているんだ。本人には、親切なサービスとしか思われないだろうけど、外出頻度や活動時間帯なんかが、おかしい人物は、マークされる事になる。定期的に報告があり、おかしな行動をとる者は、僕に報告されることになっている。あとは、僕の使い魔が数日様子を見れば、だいたいの事がわかるんだ」


 大輔と君人が、2人だけで話し決めている事がある。それは、このイアフリードで罪を犯した者の処分とジルバルダから潜入してきた密偵などの処分だ。

 みずきと和美は、2人に何も聞かないが、2人が何かをしている事には気づいている。だが、それをあえて聞こうとはしないし、止めるつもりもない。


 イアフリードで犯罪を犯した者は、少ないがいないわけではない。それにジルバルダの者もすでに何人か発見されており、2人はその者達を処分していた。


「ジルバルダは、まだあきらめたわけではないだろう。無人の獣人国の西側なんかには、最近ジルバルダの兵士の姿があるし、すでにあのあたりは、ジルバルダにとっては占領したつもりなのだろうな」


 獣人国の者は、イアフリードの北側。獣人国の南側に集まっているため西側や北側は、誰もいないのだ。


「次にジルバルダがどうでるかだね。この1年でうちが、色々と備えをしたように向こうも動いているはずだ。もしかすると軍を送ってくる可能性もある」


 最も心配なのは、ジルバルダが大軍をイアフリードに向ける事だ。色々と対処する方法はあるだろうが、無傷に終える事も難しいと大輔達は考えている。


「まあ。実際に向こうがどう対応してくるかだが、それまでにこちらもできる事をしておこう。君人と和美は、南側の城塞を建設と防衛を当面の目的にしてくれ。カリンは、近辺のダンジョンに向かい戦力の増強だな。みずきは、今年から開設する養成所の指導を頼む」


 みずきが、校長として配置されたのは、戦闘系ジョブの育成を行う新たな機関である「養成所」だ。ジョブをより理解し、スキルの効率的な運用を研究指導する。同時に同じジョブを持つ者が、連携して任務に当たれるようにする予定だ。将来的には、戦闘系ジョブをある程度ジョブごとにまとめる計画でいる。

 養成所を出た者は、防衛時の戦闘にあたる他、普段は城壁の警備や城門の管理、街の中の巡回警備などを行う。戦闘がなくても賃金が、出るので悪い仕事ではない。また、戦闘系のジョブを持つ者は、ダンジョン攻略ギルドに所属する事が可能であり、パーティーを組んでダンジョンに向かい素材の回収などを行う事もできる。


「それで、大輔はどうするの?」


 最後にみずきが、確認する。


「俺は、一度西に向かってみるつもりだ。ジルバルダの向こうに聖王国があると言うし、イアリスの屋根と言われる山脈があると聞いているから一度行ってみたい。ジルバルダの向こうまで行きたいから少し時間がかかるかもしれない。その間の留守を任せたいけどどうだ?」


 大輔達が使う転移魔法が、実は、距離にも1日に仕える回数にも限度があると言う事が判明している。魔族の国とイアフリードの間が、概ね限界のようでそれ以上を転移する事はできない。また、1日に使用できる回数は距離にもよるが、長い距離だと1回しか使えないのだ。


「えー。大輔1人で行くつもり?」


 みずきが不満そうに言う。自分には、養成所の仕事を与えておいて1人で旅立つと言う大輔に不満があるのだ。


「そのつもりだよ。まあ一応リエールは、連れていくけどね。ここに君人と和美、それにみずきがいれば、心配はいらないだろう。カリンだってずっとダンジョンにいるわけじゃないしな。イアフリードを守るには十分だろう?」


 君人は、すでに大輔から相談を受けていたので、不満はない。みずきが、少し拗ねているが、養成所の事は、みずきが言いだした事なので投げ出すわけにいかない。


「しばらくと言っても一か月も開けるつもりはないからすぐだよ」


 何とかみずきを納得させ、大輔はほっとする。


「お土産は、楽しみにしているからね」


 和美にそう言われ大輔は、わかったよと了解する。この後も今後の方針や周辺の状況について意見交換した5人は、会議を終えるとそれぞれ活動に移る。大輔は、すでに旅に出る用意を終えているので、何か言われる前にその足で旅に出た。


「リエール。しばらくは、影に潜んでいてくれ」


「はい。承知しました」


 伝令役としてリエールを伴い大輔は、西の空へと飛び立った。




「寂しそうね」


 遠くに消えていく大輔を見送ったみずきを見て、和美が声をかける。


「置いて行かれちゃった」


「一緒に行きたいのは、わかるけど。少しの我慢よ」


「うん。わかっている。わかっているんだけどね……」


 みずきは、遠くの空を見てそう言った。最近、大輔の様子が少しおかしかった事にみずきは気づいている。君人に何かを相談している事も知っているし、和美からも話しを聞いていた。


「大丈夫よ。大輔くんは、ずっと大輔くんのままだから」


 和美は、みずきが何を心配しているのかを知っており、そう言葉をかけた。大輔のジョブである「ラスボス」が、これから大輔をどこに導こうとしているのかをみずきは、心配しているのだ。


「和美……。獣人国で殺された獣人達が、どうなったか聞いている?」


 みずきが、和美に聞く。


「一応ね」


 大輔が、グリモアに指示し、骸となった獣人族の戦士達を死霊兵としている事は、君人経由で聞いているので、和美も知っている。


「あれは、大輔が考えたのかな。それともジョブが、そうさせたのかな?」


「うーん。みずきの考えすぎだと思うよ。あの状況なら放置しておくわけにもいかないし、かといって森ごと焼くわけにもいかないでしょ。確かに死霊兵としたことは、良い事かどうかはわからないけど、大輔も苦渋の決断だったんじゃないかな。たくさんの仲間が殺された獣人族の人の事を考えたら、本人たちにとってジルバルダは、憎むべき相手だと思うよ。だから、ジルバルダに報復できる機会を与えた事は、間違いとも言えないし、酷い事とも言えないよ」


 死者に対する行動として、この時の対応が正しいかどうかは、みずきにはわからない。だが、大輔が、どう考えてそんなことをしたのかわからないのだ。みずきは、大輔から聖剣を預かり、大輔がおかしな行動をとるようならそれを止めなくてはならない。


「うん。大輔は、変わっていないよ。いつも、なんだかんだ言っても私達の事を大切に思っているし、私達のために色々と考えてくれている。きっと今は、イアフリードの人達も守ろうと自分にできる事をしようとしている」


 みずきは、空を見上げてから和美に振り返る。


「でも、そうするために大輔が、頑張れば頑張るほど、ジョブの力に飲み込まれていくんじゃないかって心配なんだ……。でも、きっと大輔を止める事はできない。だって、大輔は、いつも一生懸命なんだもん」


「そうね。大輔は、私達には止められない。止めてもきっと止めないでしょうしね。だから、私達が、しっかりしなきゃだめじゃない。大輔が、頑張らなくても大丈夫なくらい私達が、頑張ってそんなことはしなくても大丈夫って見せつけてあげましょう」


 和美は、笑いながらみずきをハグし、背中をぎゅっと抱きしめた。


「うん……」

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