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獣人国の迷い

 獣人国では、氏族代表者による会議が行われている。そして、その議題はイアフリードが提示した期限となり、ジルバルダがどうなったかだ。


「本当にジルバルダの動きがおかしいのか?」


「はっ。物見の者達の報告によれば、ジルバルダ軍は、撤退の準備を始めた可能性が高いようです」


 この報告には、さすがの重鎮たちも唸った。物見は、各氏族から数名出されており、どの物見も同様の報告をしたので、信じないわけにはいかない。


「本当にイアフリードが、何かしらの工作を行ったようだな」


 三大氏族である狼族のガイラが、そう言うとブリンガが、頷いた。


「では、当面の危機は去った事になるな。あれほどの規模の軍を動かすには、それだけ準備も必要になる。いくら大国ジルバルダであっても一度撤退すれば、しばらくの間は同じ行動には出れまい」


 獅子族のロドスが、そう言うとにやりと笑う。


「これは、獣人国にとってチャンスではないのか?」


 ブリンガは、ロドスが何を言っているのかと耳を疑った。


「ロドス。どう言う意味だ?」


「簡単な事だ。逃げるジルバルダを背後から追い立てる。それがあって初めて一矢報いた事になる。兵士がそのまま撤退すれば、また軍備が整えば攻めてくるのだろう。だから、今相手兵士に我ら獣人国の強さを示す時なのだ」


 ロドスは、ここで追撃を提案する。大軍に攻められると言う状況から逃げる敵兵を追撃すると言う展開に変わった事で、大きく方針を転換させたのだ。


「馬鹿な事を言うな。いくら撤退を始めたと言っても相手は、こちらよりもはるかに多いのだ。無理に追撃にでれば、いたずらに被害に合うのは獣人国の方だろう」


 ロドスの意見にブリンガが、叱責する。だが、それを否定するようにガイラも牙をむく。


「ブリンガよ。確かにイアフリードの工作により、相手が撤退したのは事実だ。だが、そのことでイアフリードの下に獣人国がつくわけにはいかんのだ。獣人国の強さを示した後にイアフリードと対等な関係を築く事こそ獣人国の未来の姿だろう」


 ブリンガにしてみれば、何を馬鹿な事をと思いたいが、他の氏族はすでに勝利を疑っていない。全滅を覚悟していた時の緊迫感から解放され、逆に反撃できると言う高揚感が会議の場の雰囲気を飲み込んでいる。


「それともブリンガ達は、このままイアフリードの傘下に降ると言うのか? このままでは、まるで我らが、イアフリードの庇護下に入るようなものではないか。お主らは、それで良いかもしれないが、我らはそうは思っていないのだ」


 ガイラは、ブリンガを挑発する。イアフリードにそのような意志がない事はわかっていても、ブリンガがいたずらにイアフリードの肩を持てば、一層おかしな話になるだろう。ただでさえ、ブリンガはイアフリードと内通しているのではないかと他の氏族に疑われているのだ。

 直接イアフリードと交渉の席に立っていない氏族の者から見れば、ブリンガだけが特別待遇されているようにも見える。だから、交渉の席につくなら少しでも有利な立場で挑みたいと言う氏族の長達の想いも透けて見える。


 せっかくイアフリードが、お膳立てしてくれた事を獣人国側が、台無しにしようとしている。だが、ブリンガ1人では、それを覆す事は難しい。


「反論はないようだな。ならば、我らは、ただちに追撃戦に移る。すでに我らは、準備を終えているが、他の氏族の者はどうする?」


 ロドスは、すでに追撃の準備を終えている。おそらくは、物見の報告を聞いてすぐに手配を下であろうことは、ブリンガにもわかった。同じことを考えていた幾つかの好戦的な氏族は、ロドスに追随し、ガイラも加わった事で即日、追撃戦に加わる氏族が決まった。


「ブリンガは、熊族はどうするつもりだ?」


「儂らは、何の準備もしておらん。追撃に出るにも時間がかかる」


 ブリンガは、ふて腐れながらもそう答える。


「そうか。ならば、我らは、先に出る。後からついて来るなり、ここで留まるなりするが良いわ」


 ブリンガ達熊族、そして、好戦的ではない氏族の長だけを残して他の者達は、撤退を始めたジルバルダ軍を追撃すべく会議の場を去った。


「ブリンガ様。よろしいので?」


 残った兎族の長が、聞く。


「良いも何も聞く耳のない者に何を言っても無駄だろう」


「ですが、我らは、本当にジルバルダに勝てるのでしょうか」


 これには、ブリンガも答えられない。獣人国の兵士の強さは、疑っていない。逃げる兵士を背後から蹂躙すると言うのなら負ける事はないかもしれないが、本当にジルバルダが背中を見せて逃げるかわからないのだ。数や装備では、ジルバルダの兵士の方が獣人国を上回っており、正面からぶつかれば負けるのは獣人国側だろう。


 ブリンガは、勝利した場合、そして敗北した場合を想定し幾つかのプランを考える。もし、獣人国が、ロドス達が言うように勝利すれば、イアフリードと対等な同盟関係を結ぶ。

 逆に追撃に失敗し獣人国が、敗北するような事になれば、それは取り返しのつかない事になるだろう。


「儂ら熊族は、あらゆる事態に備え動けるようにしておくつもりだ。例えどのような結果となってもな……」


 この返答で、兎族の長のように残った長達は、熊族と同じ行動を選択する。




 そして、翌日。多くの仲間を拘束された上、大けがをした獣人族の者達が、ばらばらに帰還してきた。その姿に獣人国の敗北を悟ったブリンガは、声をかける。


「何があった?」


「敵に待ち伏せされ、包囲された。何とか突破口を開こうと突撃を繰り返したが、遠距離から次々と攻撃されロドス様やガイラ様も……」


 逃げて来た狼族の若者が、そう言って事切れた。


「聞け! これより獣人国は、イアフリード方面に向かって撤退を開始する。着いて来る者はすぐに準備をせい!」


 ブリンガは、吠えるように指示を飛ばす。単細胞な所はあったが、ガイラもロドスも誇り高い戦士なのだ。その仲間が、犠牲になったと聞けば心穏やかにはいられない。

 だが、残った氏族や逃げてくる仲間達を安全な場所に避難させ、獣人国を守ならないといけないとブリンガ、拳を握る。


「急げ! 追撃が来る可能性もある。重たい荷物は諦めよ。重症者は、荷車を使って運べ! 女子供はすぐに出発し、戦士共は、背後を固めろ」


 足早に指示を飛ばすと準備をしていた配下達は、すぐに行動に移った。


「ミミルクはいるか?」


「はい。ここに」


「お前は、女子供と先行し、イアフリードに迎え。後でいくらでも謝罪は入れよう。だから仲間を頼むと王に伝えよ」


 ミミルクは、大きな声で返事するとすぐに動いた。ブリンガは、次々と落ちのびてくる傷だらけの戦士達をまとめ、治療を優先させる。


「斥候は、戻ったか?」


「はい。敵の追撃は、国境沿いまでのようです」


 熊族の斥候に追撃するジルバルダを確認させた所、国境を越えてまで追撃する事はないとわかり、ブリンガはホッとする。ジルバルダは、撤退と見せかけて獣人国を誘い、自分たちの陣地で罠を張ったのだろう。そして、まんまと罠にかかった獣人国は、包囲殲滅されることになった。


「愚かなのは、我らの方だな……。急げ、すでに我らに獣人国を守る力はない。これよりは、イアフリードに助力を仰ぎ南の森へ拠点を移す」


 モラール王国の半分ほどしかない獣人国の国土であっても多くの戦士を失った今、ジルバルダから国を守りきる事は不可能だ。だから獣人国の北部方面を放棄し、イアフリードに近い南側へブリンガは、仲間を移動させた。












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