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ジルバルダの後継者たち(2)

 シリウスは、兄の意見に返す言葉を探すが、うまい言葉が見つからない。モラールとジルバルダを結ぶ街道の整備は、シリウスの考えにもあったし、その街道の整備には、膨大な労働力が必要なのだ。これには、モラールで捕えた者や民を充てようとシリウスは、考えていたが、その民が流出し続けており、このままでは必要な労働力を確保する事が難しいとも考えていた。


 イアリスにおいて奴隷は、それほど珍しい者ではない。事実、ジルバルダにもある程度の奴隷は、いるのだが、ジルバルダ教会は、人族の奴隷に対して否定的な立場をとっているため、人族を奴隷にする事は難しいのだ。だからジルバルダにいる奴隷は、獣人族の者や森の国の者などが多い。


 シリウスは、すでにある奴隷制度を否定するわけにもいかず、兄ヘリオスの言葉を否定できなかった。そして、自分がモラールに残した課題を解決するためと言われれば、返す言葉がない。

 もし、モラール全域を予定通り制圧できていれば、ヘリオスの獣人国への侵攻は防げていたかもしれないのだ。


「シリウス。モラールの東端にイアフリードと名乗る国が誕生したと聞いたが、それに間違いはないのか?」


 弟に対して優位に立ったことを自覚したヘリオスは、さらに弟を攻めるべく動く。


「は、はい。少数の部隊が、イアフリードと名乗る部隊と交戦しています。まだ、全容は、把握できていませんが、人口規模はそれほど多くはないと思います。ですが、部下の報告が正しければ巨大な城壁を備えた巨大都市だと聞いています」


「シリウスには、ジルバルダの諜報部隊が、ついているのにそれしかわからないのか?」


 これにシリウスは、返す事ができない。おそらくヘリオスは、サミエル達が、退任したことも情報も集めきれずに帰還したことも知っているのだろう。


「は、はい。イアフリードがある東端には、モラールの王都から馬で7日もかかるため確認には、時間が必要です。それに場所が場所だけに付近には、魔族と思わしき者が跋扈していると言う報告もあります」


 旧モラールの南部は、深い森でその先には、魔族の国もある。人族にとっては、未開の地でありジルバルダもその先の情報をほとんど持っていない。


「獣人国の侵攻作戦が、成功すれば獣人国を経由し、そのイアフリードにも迫れるだろう。距離も東西に長居モラール国を通過するよりも獣人国を経由して向かった方が近い」


 ヘリオスは、利攻めでシリウスを問い詰める。確かに獣人国を通過してから南下した方が、イアフリードには早く到達できるだろう。外堀も内堀も埋められ、シリウスは、兄の進める獣人国侵攻作戦を受け入れるしかなくなった。


「ジルバルダ本国の防備とモラールとの街道の整備は、引き続きシリウスが、担う事になるだろう。父もそのようにおっしゃっている。私は、間もなく獣人国へ攻め入り、予定通り事を進めるつもりだ。お前には、英雄のジョブを持つ者として、これからもジルバルダの王家のために活躍してもらわねばならん。期待しているぞ」


 まるで、王のように振る舞うヘリオスにシリウスは、静かに頷いた。意見するつもりが、自身の侵攻作戦の問題を指摘され、それを解決するために兄が動くと言う。

 存外に立場の違いを示したヘリオスにシリウスは、今は従う他ないとこれ以上の発言は控えた。ただ、シリウスは、諦めたわけでも悲観するわけでもない。


(今は、兄を立てるしかない。だが、まだ兄が、王となったわけではない)


 シリウスは、新たな覚悟と決意を胸に兄の元を去る。




「案外、英雄と言う者を過大評価していたようだな」


 帰宅したシリウスを見送り、側に立つ男にヘリオスは、話しかける。


「ジョブが、全てと言うわけではないのでしょうね。それで、私は、次はどうすれば良いのですか?」


 ヘリオスの側に立つ男は、40歳近い男で、特に目立った特徴はない。黒髪に少し白髪が、混じり始めたその男は、ヘリオスに次の指示を聞く。


「タクミ。しばらくは、我が弟の動向を探れ、そしてこれまでどおり報告を入れろ」


「獣人国の方は、良いのですか?」


「彼の国は、国としては未熟なところがある。個々の者は、身体能力に優れているのに頭の方は、我らに及ばない。数の上でもこちらに分がある以上、敗北はないよ」


 獣人国の民の数は、大国であるジルバルダから見れば少ない。それに氏族毎に生活し、暮らすと言う特性があるので連携も十分にできないし、城を構えるわけでもない。向かってきても数に物を言わせて包囲殲滅すればよいだけだとヘリオスは、考えている。


「努々油断されませぬよう進言致します」


 タクミは、表情を変えずにそう言った。


「それは、君のジョブの影響からか? それとも君個人の考えか?」


 タクミは、召喚された異世界人であり、「忍者」と言う特殊なジョブを持つ者だ。今は、ヘリオスの配下として活動しているが、それにはきちんと目的もある。同時に召喚されたタクミの妻と子は、病弱であり十分な支えがなければ、この異世界で暮らす事は難しいのだ。だから、タクミは、ヘリオスに仕える事でその対価として家族の暮らしを保障させている。


「個人の見解です。いつもの殿下ならもう少し冷静に対処された事でしょう。今日は、聊か熱を帯びているように感じられます」


 弟への想いが、態度や言葉に出たかとヘリオスは、自省する。


「タクミの意見は、参考にさせてもらう。だが、私の敵は、獣人族ではないのだ。私が、王になるその日まではな」


 シリウスが、王位を諦め自身の配下となる事を認めた時には、この考え方は変わるだろうとヘリオスは、考えている。だが、もし、弟が自分を認めないとすれば、残念だが弟とは一緒にやっていく事はできない。


(昔は、仲の良い兄弟だったのだがな……)


 2人の仲が、おかしくなったのは、シリウスが「英雄」のジョブを手にした時からだ。それまでは、共に王家を支え、ジルバルダをより強い国にしようと誓い合った仲だったが、シリウスの周りに才能ある者が集まるにつれ、関係がおかしくなっていった。

 シリウスのジョブである英雄は、そのカリスマ性を高め人が集まってくると言う特性がある。英雄は、1人で英雄になるわけではなく、その周囲に集まる人脈によって英雄となるのだ。これは、イアリス大陸でジルバルダを建国した初代国王が、そのジョブを持っていたこともあり明らかだ。


(だが、私は、英雄ではない)


 英雄ではない自分が、王になりジルバルダを導くと言う強い想いがヘリオスにはある。だから、弟に後れを取る事は許されないし、そんな自分も認められないのだ。


「では、私は、シリウス殿下を……」


 そうタクミは、言うと姿を消した。タクミは、ヘリオスにとって貴重な駒だ。ジョブの効果もこの世界の暗殺者や盗賊を越える物が多く、考え方もヘリオス好みだ。他にも異世界人を数人、特務部隊として確保している自分は、シリウスに負けないくらいの配下がいる。


「私は、実力で弟を……英雄を越えて見せる」

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