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カリンと魔王(2)

 順調に2人で攻略を進める。と言ってもほとんどカリン一人で魔物を倒していくので、大輔は後ろからついて行くだけだが、その絶大な安心感がカリンのゆとりを生んでいるのも事実だ。


 現れた魔物が、カリンの魔眼に魅入られたのか突然、燃えだしたり、氷漬けになったりすのにも慣れたが、カリンの戦闘スタイルはよりスマートなものになっていった。


 ただ、初見の魔物で素早い動きをするものなどには、後手にまわる事があり、どうしても殲滅に時間を要してしまう。これが、今のカリンの課題であり、クリアしなければならない壁だ。

 小さくても武器を手にするか、まったく別の方法を見つけるしかないのだが、カリンもまだ試行錯誤の段階だから大輔は、あえて助言をせずに本人任せるつもりだ。大輔は、きっとカリンが、自分で解決する方法を見つけるのだと期待している。


「あっ! これが最後の扉ですか?」


 カリンが、前方に見慣れた扉を見つけた。


「ああ。これが、ダンジョンの最深部にある扉だな。他のダンジョンも同じような扉があったから間違いないだろうな。準備がいるならここで準備して、準備ができたら中に入ろう」


 カリンは、色々と確認したうえで、大丈夫だと言った。そして、自らその重そうな扉を開け中へと入った。大輔は、その後について部屋の中に入るといつもどおり、灯りがつき扉が閉まった。カリンは、少し驚いていたが、大輔の表情を見て安心する。


 部屋の中には、一頭の白い狼がいた。


『ほう。来客とはな。前に来客があったのは、いつぶりだろうか』


 白い狼は、目を開けるとそう言った。


「それじゃあ。俺は、側で見ているからやれるだけやって見ろ」


「はい!」


 白い狼を無視し、大輔はカリンに一人で戦う事を指示する。今回の目的は、カリンが魔王のジョブを使いこなす事であり、その集大成がこの部屋の攻略なのだ。


『ほう。脆弱な人族のしかも女が、一人で我に挑むか。だが、ここまで来ると言う事はそれなりに力があると言う事だな。ならばこの白狼も真剣に勝負させてもらおう』


 思いのほか、白狼は冷静だった。これまでのように馬鹿にされたと怒り狂うものだと大輔は、思っていたがこれでは、隙をうかがう事は難しいだろう。


 むくりと起き上がった白狼が、静かに歩き出すとその白い体毛からキラキラと雪の結晶のようなものが、舞った。大輔は、白狼が、その名の通り雪や氷の属性を持っている事を予想した。


 先手を取ったのは、カリンだ。これまでの経験を活かし、相手の属性に応じた魔法で攻撃を始める。カリンは、氷系統の対極属性である炎系統で攻撃を開始すると白狼は、吹雪のようなブレスを吐いてそれを撃劇する。あたりは、解けた雪から蒸気のようなものが上がり、一気に熱を帯びていった。


 カリンは、アウトレンジで戦う手段を選択し、炎の塊のようなものをいくつも作りだすとそれを弾幕のように打ち込み、白狼の接近を許さない。白狼は、隙をついて接近戦に持ち込もうと周り込もうと横に飛んだが、それは、カリンが張った罠でもあった。


 白狼が、横に飛んだ際、まるでそこに飛ぶことが解かっていたかのようにそこに火球が、飛来する。白狼は、直撃こそ避けたが、ダメージを負った。

 白狼が、カリンを睨みつけ唸り声をあげる。


(魔眼を使っているな……)


 大輔は、今の攻防にカリンの魔眼が使われているとわかった。第三者として外から見ているとカリンが、予め意味のない場所に火球を作ったが、それに白狼は気づいていない。しかも、前方から向けられた火球を回避しようとして、無造作に最初に作られていた火球に突っ込んで行ったように見えた。


(認識阻害の魔眼か……)


 カリンの魔眼の1つである認識阻害の魔眼は、相手の認識を狂わせ、錯覚や誤解を生じさせる。おそらく白狼は、なぜ、こんな場所に火球があり、自らその火球に飛び込んで行ったのか理解できないだろう。そして、それはこの戦闘において、大きな意味を持つ。


 今の攻防で、白狼には、迷いが生じている。原因が、わからない以上、むやみに動くわけにはいかないと慎重になっている。白狼が、慎重に間合いを計り警戒し、自然に視線がカリンの目へと向かう。これは、生き物の本能と言える行動であり、その選択は間違いではないのだが、ことカリンにとっては間違いとなる。


 白狼は、今不思議な感覚に襲われている。なぜ、自分がこの少女と戦っているのだろう。どうして、ここにおり、このような事をしているのだろう。目の前の彼女は、自分にとって大切な人だったのではないか? 次々と不思議な思考があふれてきて、集中力を欠いた。白狼が、元に戻ったのは、周囲一面を巨大な火球に囲まれそれに飲み込まれた時だった。


「ぐぐうああああ!!」


 巨大な火球が、次々と自分の自慢の体毛を焦がし焼いていく。凄まじい痛みが、全身を覆いなすがままに焼かれている事がわかった。攻撃が、すべて止んだ時、かろうじて立っていた白狼だったが、すでにその目には力がない。


 うっすらと視界には、少女が見え、自分が敗北した事がわかった。少女は、側で観察していた男に何か言われたのか大きく頷くとこちらに駆けてきた。


「狼さん。私に仕えてみませんか?」


 白狼は、朦朧とする意識の中で困惑していた。この子は、いったい何を言っているのだと。


「ダンジョンに縛られ、自由のないお前達に自由とチャンスをやるとカリンが言っている。仕えるのが、嫌ならここで消えるだけだし、仕えればそれなりの自由を与えられる。それだけだ」


 補足説明した大輔の言葉の意味を白狼は考える。このダンジョンに繋がれたのは、いつの事だろう。そして、その理由もすでに記憶にない。だが、白狼には、大地を自由に走駆した記憶だけは、残っていた。


『再び……。再び、大地を駆ける事ができるのなら』


 白狼が、願った時、カリンは白狼を眷属とした。抵抗なく受け入れた白狼は、その身体を変化させ、やはり、1つの上の存在へ変わった。白狼の見事な体毛が、より神秘的な銀色へ変わった。


「全回復」


 眷属化したが、ダメージが残る白狼を大輔が、回復させる。


「フェンリル?」


 カリンは、立ち上がったフェンリルの頭を撫でながらそう聞く。


『主。以後の忠誠を誓います』


「カリン。名前を付けてやれよ。いつまでも種族名を呼ぶわけにはいかないだろ」


 大輔の提案にカリンも「そうですね」と頷く。少し考えたカリンは、数回首を捻って何か思いついた顔をした。


「あなたの名前は、フェルよ」


 カリンが、笑顔でフェルの名前を言うとフェルは、静かに頷いた。


「カリン。フェルには、自分の護衛を任せるといいぞ。カリンは、まだ接近戦で十分な力を発揮しているとは言えないからな。今日のダンジョン攻略は、うまく言ったが、次にはもっと工夫してみる事だな」


「はい。大輔お兄さんが、いてくれたから安心でしたけど、まだまだ頑張らないといけないってわかりました。今度、和美お姉さんに相談して、武器も考えてみようと思います」


 自分で考えてそこに至ったのなら、それが一番良いと大輔は思った。


「また、時間があったらダンジョンを探す事にしよう。今日は、この奥の部屋で宝探しをして帰るぞ」


「はい」


 みずきは、フェルを連れて奥の部屋へと向かう。その成長速度は、大輔の想像よりも早く、そして的確だ。これが、ジョブの影響なのかカリンの資質の影響なのかはわからないが、もう少し訓練すれば自分と似たような存在となるだろうと大輔は思った。

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