マリード城
一話3000文字程度です。
「城の名前は、マリード城でいいな」
「そこは、お任せだよ」
大輔が、門を潜ると名前を確認する。和美は、ネーミングにまでこだわりはないようだ。人がいなくても操作できる門と跳ね橋の設備を確認し、一旦跳ね橋をあげる。余計な物の侵入を防ぐためだが、おそらくマトレ村の住人あたりが、すでにこの城に気づいているはずだ。
4人は、村を手に入れると言ったが、そこに住む者の事まで考えていない。将来的には、配下になる条件で住まわせても良いと大輔は、考えているがわざわざ村人のために何かするつもりはないのだ。
マリード城の1階部分には、大食堂や厨房設備、一般兵士などが待機できる部屋が多数つくられているが、大輔達が使うものは、ほとんどない。
2階には、大会議室や応接用の部屋、たくさんの執務室、そしてゲストルームがあり、どちらかと言うと仕事や来客の際に使用する階だ。こちらも当面使う予定はない。
3階から5階は、大輔達のプライベート空間になっており、概ね4人が暮らしやすいように作られている。電気はないが、魔力で操作可能な便利道具を和美が作っているので、シャワーやトイレと言った物も使用する事ができる。
4階の各人の部屋を確認した4人は、その造りに満足し5階にある見晴らしの良いダイニングに集まるとその感想を言いあった。和美に言わせると細かい注文は、これから受け付けると言う事なので、それぞれが考えておく事となる。
普通の錬金術士では、とてもこのような規模の作業を行う事はできないが、四天王となり錬金術師となった和美は、膨大な魔力とその特殊なスキルを使う事で城を形成する事も可能になっている。
大輔達は、完成した城から周囲を見渡しながら今後について確認を始める。
「和美、君人、まずは、作業お疲れさま。予想よりもすごい城ができたな」
「うんうん。やっぱり聞いていたのと見たのとでは、違うね~。私、一度お城に住んでみたかったの」
みずきが、少々興奮気味で話す。和美もそう言われるとまんざらでもないのか喜んでいる。
「あとは、城の防衛設備の準備だね」
「ああ。和美には、負担を強いるが、例のゴーレムを作る準備をしよう」
例のとは、和美が作るゴーレムの事だが、和美が考えているのは、完全人型の甲冑型ゴーレムだ。4人は、それを量産して兵士として使うつもりでいる。4人で戦えば、負ける事はあまりないと思っているが、4人だけだと知られれば、馬鹿な者達が悪さを繰り返す可能性もある。だからある程度の兵士がいると見せつける事で余計なトラブルを回避したいのだ。
「素材が、足りないよ。城の素材も、もっと欲しいからすぐに集めに行きたい」
予定よりも多くの素材が必要となり、和美は不完全燃焼なのだ。物作りを始めると夢中になるのは、仕方のない事だと大輔達も素材集めに協力する事を約束した。
「じゃあ。魔石は、俺とみずきが、ダンジョンンへ行って集めてくるよ」
大輔とみずきは、近くにあるダンジョンへ向かうつもりだ。ダンジョンでは、珍しい素材の他、倒した魔物から魔石を得ることができる。魔石は、ゴーレム等の核として使うつもりなのでたくさん必要なのだ。
「君人と和美は、鉱山だな。あそこは、一度行ったから転移でいけるだろう?」
「そうだね。それじゃあ僕達は、鉱山を丸ごと回収してこよう」
巨大な鉱山の半分くらいを回収してこの城を作ったので、次に回収すれば鉱山はほとんどなくなるだろう。そこまで大きな鉱山ではないので、2人に根こそぎ持っていかれれば、もう鉱山は使えなくなるのだ。
「そろそろ、この城の存在を知る者もいると思うが、村人が来たらどうする?」
君人が、大輔に確認する。君人の予想では、保護を求める者や要求をする者などもいる。その相手をどうするかと大輔に聞いたのだ。
「まだ、受けいれる気はないな。あ、でも、留守の時の留守番くらいいるか?」
「それなら。跳ね橋をあげて門を閉ざしておけば、大丈夫だろう。堀に水が張られればもう外敵の侵入も難しいだろうしね」
「了解。当面は、様子を見る事にする。無駄に保護すれば、余計な事をする奴もいそうだから城に入れる人物は、ある程度選びたいな」
やはり気を許せる者でなければ、一緒に住むつもりにはなれないと大輔は、考えている。この世界の人すべてを疑うつもりはないが、これまで会ったイアリスの人の事を思い出すとあまり良いイメージがない。
「最悪、2階から3階に上がれないようにするってのもありよ」
転移魔法があるので、階段自体を作らないと言う方法もある。それに和美がいれば、城の改造は簡単にできるから変更も可能だ。
「よし。そのあたりは、今後の課題にしよう。今日は、まず素材の回収を行いマリード城を完成させてしまおう」
大輔の号令でそれぞれが、ペアを組んで素材の回収へ向かう。何度かモラッドに隠れて行ったダンジョンに転移し向かった大輔達は、適当に現れる魔物を狩りながら奥へと向かう。
「ねえ大輔。このダンジョンの奥には、何があるの?」
「さあね。行ってみないとわからないよ。だけど、おそらく最後にボスがいるだろうね」
「ふーん。そのうち行ってみようか?」
4人でダンジョンに来たときには、途中で時間となり帰宅する事になった。現れる魔物が強いと言うよりも広くて歩くのに時間がかかるのだ。
だが、数回の挑戦でかなり深いところまで進む事ができており、転移で行った事がある場所までは行ける事がわかってからは移動時間にも無駄が少なくなっている。
「いや。案外もうすぐ最深部かもしれないぞ」
現れる魔物の強さが、徐々に高まってきているところを考えると、そのうち最深部に到達するかもしれないと大輔は考えている。
「あれ。あそこに少し豪華な扉があるよ」
みずきが、豪華な扉を発見したのは、そんな話をして1時間ほど進んだ時だ。
「ここって何階層だっけ?」
「うーん。結構深く潜っていると思うけどもうわからないね」
「まあいいか」
大輔は、あっさりとその扉を開く。すると真っ暗な部屋の中の周囲に灯りがつき、中に一匹の大きな獣の姿を見つけた。その大きさは、大輔達が知る牛よりも大きくどこか気品すら感じられるものだった。
『ほう。人族か。よくぞここまで来たのもだな。それにしても2人とは、途中で仲間は失ったか?』
いきなり2人の頭に直接声が響いた。その声に驚いた2人だったが、すぐに冷静になると返答する。
「いや。最初から2人で来ただけだ。ここが、ダンジョンの最深部なのか?」
言葉が通じるなら確認しておきたいと大輔は思った。
『そうだ。ここが、このダンジョンの最後の部屋だ。ここまでたどり着いたのは、お主らが初めてこの事だがな』
よほど自信があるのか大きな獣は、動こうともしない。
「ねえ。あなたは、狼さんなの?」
みずきは、獣の姿を見て狼と判断したようだ。だが、首は2つあるし、尾も蛇のように見える。
『がははは。我を狼と言うか。我は、オルトロス。それ以上でもそれ以下でもない』
「オルトロスか。それに話ができるくらい知能もあるってのは、初めてだな」
大輔の言葉と態度に少しオルトロスがムッとした。
『我を馬鹿にする事は、許さんぞ』
唸り声と共に大輔とみずきをオルトロスは、威嚇する。
「じゃあ。さっそく挑戦してみよう」