魔王カリン(2)
大輔は、転移を使い。奴隷を一旦イアフリードの指定された場所に送り届ける。すでにリエールから連絡を受けた君人達が、受け入れ態勢を整えており、すぐに住む場所などが用意された。
迎えに出ていた君人やみずき達は、報告にあった魔王カリンを見て想い想いの感想を言った。
「うわあ。この子かわいいじゃない」
これは、和美の感想。
「イメージと少し違いましたね」
これは、君人の感想。
「ふーん」
最後は、みずきの感想だ。
「カリン。この3人が、俺の仲間の中でも本当の家族みたいな者だ。他の者と比べるのは、おかしいが小さいころからの付き合いなんだ」
「はい。お兄さんの家族なら私にとっても家族ですよね?」
「「「お兄さん!!」」」
大輔が、あらぬ方向を見て恍けてみせたが、君人は「へーお兄さんか」と言う。和美は和美で、「大輔ってそう言う趣味があるんだ。知らなかったわ」と言う。
そして、みずきは、「後で話しがあるから逃げないでよ」と言ってそっぽを向いた。大輔は、頭を掻きながらカリンに説明する。
「ほら。このとおりなんだ。誰も遠慮しないし、まるで家族みたいだろ」
「はい。皆さんとっても楽しそうです。皆さんもお兄さん、お姉さんと呼んでいいですか?」
カリンの提案に大輔がしてやったりと言う顔をする。
「僕は、君人。よろしくねカリンちゃん」
「はい。君人お兄さん」
「私は、和美。よろしくねカリンちゃん」
「はい。和美おねえさん」
君人と和美が、自己紹介しそれぞれ名前を確認した。大輔が、みずきに「ほら、みずきも」と言うとみずきも覚悟を決めたのか大きくため息を吐いて準備する。
「初めまして。みずきよ。カリンちゃんには、後で色々とお話が必要みたいだから一緒にお風呂にでも入りましょうか」
「えっと。はいわかりました。みずきお姉さんもよろしくお願いします」
キラキラとした目で、カリンに言われみずきもタジタジになる。そんな様子を君人と和美が笑ってみているが、しばらくぶりに大輔は腹の底から笑った。
「まずは、ただいまじゃないのか?」
「ああ。すっかり忘れてた。ただいまだな」
大輔が、そう言うと皆が、お帰りなさいと返事した。カリンは、きょろきょろとそんなやり取りをする大輔達を見て、そこに自分が加われるとわかると目を輝かせた。
この後は、大輔以外の3人が、カリンを連れまわすので、大輔はしばらくぶりに城の内外にいる眷属達に顔を出し経過報告を聞いたり、課題がないかを聞いて回る。
「そうですか。まさか魔王が、人族のジョブとして誕生するとは」
グリモアも予想外の事のようで、驚いていた。
「おそらくもうすぐジルバルダの手の者が動きだす頃だ。グリモア達も頼むぞ」
「王よ。お任せを」
いつの間にか主と呼んでいた眷属達の呼び方が、王へと変化した。何か認められたのか条件があったのか大輔はわからないが、特に気にするつもりはない。
人目につかないように転移を繰り替えし、マリード城の水堀の側で、みずきがドラゴンのキューリとブランと戯れている所を見つけた。
みずきは、すぐに大輔に気づき手招きする。
「あーなんだ。説明しろって事だよな」
「あら。わかっているのね」
「聞いてのとおりだよ。魔王に会いに行ったら魔族の国の魔王が、精霊の言っていた魔王じゃないと気づいた。そして、魔王ってのが人族が手にいれるジョブじゃないかって思ったから、探してみたらビンゴだった。それだけだよ」
「それは、いいの。彼女を家族にするって言ったんでしょ」
「ああ。カリンは、1人だったからな。俺には、みずきや君人、和美がいたから耐える事ができたが、あいつは1人だった。ずっと孤独と戦っていたって聞いたら無償に保護欲を掻き立てられてな。それにやっぱり放っては置けなかった。知らなきゃよかったかもしれないが、知った以上はそう言えない」
「うん。そうだね。私が、大輔の立場でも同じ事をしたと思うから。でも、確認が1つあるわ。私達のために色々と大輔が考えてくれているってわかってる。そして、大輔は、私達もカリンちゃんも守ろうとしている」
みずきは、大輔の守る者が、増えれば増えるだけその身を盾にするのではないかと心配していた。大輔の性格を良く知るみずきとしては、どんどん仲間が増える事はうれしいが、大輔の負担が増えると思っているのだ。
「心配してくれるんだな」
「あ、当たり前よ。君人や和美だって心配しているわ」
「だったら。俺は、もっと頑張らないとな」
「だから何でそうなるのよ」
「うん? だって、皆でいると楽しいだろ。1人でいると俺は、きっとおかしくなってしまうと思うんだ。だけど、みずき達が、側にいてくれれば、俺には帰る家もあるし、冗談を言い合う事もできる」
みずきは、大輔の気持ちを聞いてそれ以上強く言えなくなった。大輔が、恐れているのは、自分が変わる事だ。ジョブのせいで、いつか自分がおかしな事をしてしまうのではないかと、ずっと1人で悩んでいるのをみずきは、知っている。
「わ、私は、最後まで絶対に大輔の側にいるんだから」
例え大輔が、どう変わってもみずきは、大輔の側を離れるつもりはない。
「ああ。勿論だ。みずきは、俺にとって大切な家族だからな」
「そこはね。恋人って言うところよ。この朴念仁!」
顔を赤くしてみずきが歩いていった。言うだけ言って、一人恥ずかしくなってその場を離れたのだが、大輔は立ち去るみずきを目で追った。
「ああ。わかっているよ。みずき」
誰にも聞こえない声で、大輔は小さくつぶやいた。
「さあ。カリンちゃんの歓迎会を始めるわよ」
みずきの音頭でリビングには、たくさんのグラスが並べられた。カリンを中心にして輪が作られ、その隣に大輔が立つ。
「じゃあ。イアフリードの王様からありがたーいお言葉をいただきますか」
和美が、茶化しながら大輔に挨拶を求める。
「えー。俺、こういうの苦手なのに」
「だめよ~。王様なんだから~」
和美に負けて大輔は、少し考える。
「あーなんだ。イアフリードができてまだそれほどの時間が立っていないが、こんなにも仲間が増えた。そして、今日新たにカリンが加わった。俺達は、種族も立場も色々あると思うけど、俺は、皆が家族だと思っているし、仲間だと思っている」
大輔は、一旦区切り、皆の顔を見渡す。皆、楽しそうにしており笑顔も見えた。
「だから俺達は、何ものにも縛られず、このイアリスで自由に行動するぞ! 今日は、新たな家族となったカリンに乾杯だ!」
「「「乾杯」」」
乾杯と言う意味を皆に説明し、全員でグラスを傾ける。あとは、使い魔たちや女性陣が用意したご馳走と飲み物を好き勝手に食べそして飲んでいく。
挨拶する者がいれば、騒ぐ者もいる。滅多に話さない者同士も情報交換し、互いにリスペクトしながら宴は進んでいった。
「えーここで、1つ報告です。先ほど、なんとなく提案した所、空席だった四天王の1席にカリンが、決まりました~」
「「おおお!」」
一気に歓声が上がり、カリンは、椅子の上に立たされた。そうしないと身長が、少し足りず皆に見えないのだ。いきなりの指名に緊張を隠せないカリンだったが、皆の顔を見て勇気を得たのか背筋を伸ばすと、しっかりとした口調で挨拶した。
「えっと。わ、私は、まだ来たばかりでわからない事ばかりですが、お兄さんお姉さんのようになりたいので、色々と努力しますので、よ、よろしくお願いします」
言いきってぺこりとお辞儀すると皆の拍手に包まれた。こうして、カリンは、新たな四天王の1人として大輔の家族となった。




