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イアフリードの誕生

 モラール王国の敗北、そして崩壊を告げる密使が到着するとマトレ村の代官であったモラッドは、両手で頭を抱えた。王都においてそれなりの地位に上り詰め、与えられた異世界人の監督を兼ねた辺境の村の代官となったが、これで、これまでの苦労もこれですべて水の泡となるのだ。

 

 残された道は、ジルバルダに降伏しその傘下に入るか。すべてを捨てて逃げるくらいしかない。だが、モラッドは、起き上がると一つの賭けに出る方法を選ぶ。

 幸い異世界から召喚した者を4人抱えているのだから、それをジルバルダに差し出すなりする事で、少しでも良い条件でジルバルダに下る。そうすれば、命も助かるし、あわよくばジルバルダでもそれなりの扱いを期待できるのではないか。


 モラッドと言う男は、そう言う計算ができる男だ。だが、そんな計算高いモラッドのもとに異世界からやってきた男が1人で現れた。モラッドは、困惑しつつも面会を許可し、兵士を連れてその男に相対した。


「やあ。モラッドさん。大変な事になったね」


 マトレ村の代官であり、4人の監視役の責任者であるモラッドを尋ねた大輔は、これまでと態度を一変させた。1年間、大輔は、モラッドに従順な態度を見せていたが、すでにモラール王国がない事を知っているため、もう従う必要はない。大人しかった大輔が、急に大きな態度をとったので、モラッドは眉をしかめる。


「その大変な時に何のようだ?」


 モラッドが、態度を変えた大輔に疑念を抱きつつ聞く。


「いえ。モラール王国がなくなったようなので、そろそろ俺達も自由に暮らそうかと思いまして挨拶に決ました」


「ふざけるな。まだ、モラール王国が、なくなったわけではない。それに例え国が倒れてもお前たちが自由になるような事はない」


 モラッドにとって大輔達異世界人は、重要なカードの1つだ。だから手放すつもりは毛頭ない。モラッドは、強く大輔を威嚇したが、大輔は、モラッドを無視するように話を続ける。


「えーと。これから俺達4人で新しい国を興すので、手始めにこの村をもらいますね」


「何を馬鹿な事を……」


 モラッドも兵士も剣を持つ手に力を込める。だが、突如放たれた大輔の強烈な威圧を受け、余裕がなくなった。初めて見せる異世界人の態度とその振る舞いに、モラッドや兵士は戸惑う。そして、どう言うわけかその威圧には、耐えがたいものがあり、モラッドの背中を嫌な汗が伝う。


「申し訳ないですが、抵抗するならここであなたには消えてもらいます。俺達には、もうそれくらいの覚悟があるのです。血を見ずに済むならそれで良いのですが、歯向かうなら多くの血を見る事になるでしょうね。あなた達は、俺達にそのくらいのことをしましたよね」


 これは、決して脅してはない。大輔達4人は、このイアリスに無理やり召喚され帰る場所をなくしたのだ。だから、この世界に無理やり呼び出したモラール王国に対して義理も人情もない。

 みずきや和美などは、何度も兵士などに犯されそうになったり、危険な目にもあっている。大輔や君人の機転で、そう言った危機は乗り越えてきたが、彼等にかける慈悲は持ち合わせていないのだ。


 結局、モラッドの部下が、大輔の威圧に耐え切れずに剣を向けて突っ込んできたので、大輔はその剣を素手でつかみ、その手に力を込めると剣が粉砕する。


「ば、馬鹿な剣士の俺の剣を……」


 何が馬鹿なのかは、わからないが、兵士がそんなことを言って膝をつく。


「残念です」


 そう言うと大輔は、一歩前に出る。慌てて他の兵士が、大輔を剣や槍で襲うが、すべて軽くあしらわれてしまう。大輔は、1人の兵士の剣を奪うとその剣で、兵士の首を軽く切り落とす。たくさんの血が流れモラッドも腰を抜かした。


「わ、わかった。村でもなんでもくれてやるから。い、命だけは助けてくれ」


「そうですね。と言いたいですが、あなたには、散々嫌な目にあわされたのでだめです。それに、女性陣からは特に不評なんですよあなたは……」


「お前らだけで国を興すと言うのか、そんなことが……いや俺がいればうまく……」


 モラッドが、お前たちだけで国を興すのは、無理だと言う態度を見せた時には、大輔の剣はモラッドの首に刺さっていた。


「俺達が、血を見るのは、覚悟の上ですよ」


 絶命したモラッドを放置して大輔は、この村の役所を出る。すでにモラール王国が、戦争で負けたと言う噂がこの村にも広がっているようで、荷物を持って逃げようとしている者の姿も見えた。


 役所の外には、君人達3人がおり、モラッドを始末した大輔を出迎えた。


「初めて人を殺したよ」


「そうだな。大丈夫か?」


「ああ。思ったよりも大丈夫だった。それよりもいよいよ始まりだ。ここからは、もっとたくさんの命を奪う事になるだろうな。みずきや和美は、本当に大丈夫か?」


「覚悟の上。大輔にばかりに罪を背負わせるつもりはないわ」

「ええ。黙っていたら殺される世界だもの。身を守るための戦いよ」


 みずきも和美も覚悟を決めているようだ。


「よし。それなら行動に移ろう」


 4人は、パニック状態にある村人達をよそに村はずれへと向かう。そこは、この1年近く監視されながら生活を送った4人の住まいがある場所だ。


「ここでは、色々な事があったな」


「ああ。だけどあまり良い想い出もないな」


「最初の頃は、監視も厳しかったものね」


「そうそう。私、ここで危なく力使っちゃいそうになったんだ」


 4人は、住んでいた建物の前に立つとそれぞれの感想を言う。


「だが、この建物とはもうお別れだ。君人と和美の準備はどうだい?」


「問題ないよ」


「完璧だよ」


「よし。それじゃあ早速だけど俺達の本拠地を作ろうか」


 そう大輔が言うと和美が、異空間からたくさんの素材を山のように出した。木材や石材、鉄を初めとする多くの種類の鉱石や素材をこれでもかと野原に積んでいく。これから作ろうとする物の大きさはそれほど巨大なのだ。


「じゃあ。始めるよ」


 和美は、そう言うとその山のような量の素材を使い錬金を始める。木材や石材がその姿を変え、規則正しく積まれていく、そして要所には鉄などを使った扉が設けられていった。


「まんま西洋の城ってイメージだな」


 その工程を見ている大輔が、頭を掻きながらそう感想を言った。事実、徐々に積み上げられていく素材は、その形を西洋風の城のような物に変えていった。そして、その周囲の土地を魔法で造成している君人は、すでに大きな堀を完成させていた。君人は、土系統の魔法を使い土地の大幅な造成を行っている。周囲の木は、和美の素材に変わり、掘られた土も城の土台などに使われている。

 そんな土木工事担当の2人が、協力する事で材料さえあれば、大規模な工事がアッと言う間に完了した。


「ごめん。ちょっと素材が足りなかったから残りは、また素材を集めてくるよ」


 和美が、予想よりも素材を使ってしまったようで、城の一部が完成していない。大輔としては、使う予定のない部屋や明らかに景観のためにあるような装飾は、必要ないと思っているが、和美のイメージどおりに作って良いと言った手前、そのことに不満は言えない。


「ふへー。和美ちゃんすごいね~。ヨーロッパの古城見たい」


 みずきが、完成に至っていない城を見て言う。と言っても生活に必要な設備だけは、すでに完成しているので、暮らす上では問題ない。


「僕の方もとりあえずは、こんなところだね。大きな堀を作ったから、この堀に水が溜まるまでには、まだ時間がかかるだろう」


 大規模な堀を完成した城の周囲に作り、側の川から水を引き入れている。だが、あまりにも大きな堀となったため川の水が堀を満たすにはまだ時間がかかるのだ。


「これで、水が張られれば、湖上に浮かぶ城って事になるな。和美は、跳ね橋をかけるんだよな?」


「和美くんのイメージだとそうなるね」


「そう。そこの橋が重要なのよ」


 かつて、和美のイメージした城の完成図を他の3人が見たとき、あまりにも細かい設定に飽きれてしまったが、立体的に空間を捉える和美の力量に文句を言えなかった。


「さあ。さっそく完成したばかりの自宅に入ろう!」


 和美を先頭に4人は、城の中へ向かう。


一日一話よろしくです

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