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ジルバルダ王国 シリウス

 接収した旧モラール王国の王城にある元王の執務室にいる男の元へ伝令兵がやってきた。


「ほう。ホスロー将軍が帰還したが、重症を負っていると言うのか?」


「はい。現在、神官達が、回復させております。幸い致命傷ではないようですので、復帰は可能と思われます」


「それは、よかった。彼のような者は、替えの効かない人材だからね」


 そう言うと男は、立ち上がり執務室を出る。伝令兵に案内される形で、帰還し治療中のホスロー将軍に会うためだ。男は、案内された部屋に入るとベッド上で神官達による治療を終えたホスローに声をかけた。


「お帰りホスロー将軍」


「シリウス殿下。この度は、申し開きもできません。こうして恥を忍んで帰還した以上、その責は、全て指揮官たる自分にあります。どのような処罰も受ける覚悟でおりますので、部下には寛大な処置を願います」


 まだ、十分回復していない状態のホスローが、ベッドを降り膝を折る。


「ホスロー。君に責任を取らせるつもりはない。僕は、貴重な人材をそんな事で失うような愚か者ではないよ。それよりも東で何があったのか詳細を聞こう」


 シリウスの言葉にホスローは、改めて忠誠を誓う。シリウスは、ジルバルダ王国の第2王子であり、今回のモラール王国侵攻作戦の総指揮をとっている男だ。若干24歳にしてその手腕は、国内でも高く評価されており配下の者の信頼も厚い。逆にできすぎる分、王位を求めるのではないかと第一王子から心配されるほどなのだ。


「それじゃあ順を追って聞こうか」


「はい。我らの部隊は、殿下の指示を受け王都から逃れたと言われるハシブスカを追い東へと進軍をしておりました。途中、いくつかの街や村を経由することになりましたが、逃げた者以外は、ジルバルダへの帰順を求めましたので、それを認め使いを走らせました。順調に東へと進軍し、残すのはマトレと言う村となりましたが、その村へ着く前に敵と接触しました」


「敵とは?」


「はい。およそ100名程の兵士を率いており、こちらを先に発見したのか小高い丘の上に布陣し、接敵しました」


「100か……それで、ホスローが撤退するような相手なら敵にそれなりのジョブを持つ者がいると言う事かな? それとも別の理由があるのかな?」


「相手の指揮官は、まだ殿下よりも若い男で、副官らしき女を連れておりました。他にかなり腕の立つ剣士のような男が2人ほどいましたが、私は、その一人と一騎打ちの末敗れこの始末です」


 シリウスは、情報を整理し、質問を続ける。


「君が、一騎打ちで敗れるとなれば、相手は剣士の上級ジョブを持つ者となるな」


「はい。武器は、自分と同じ両手剣を使っておりましたので、剣士だとは思います。おそらくステータスで私を上回っていると感じました。ですが、技術的な面ではこちらに分があり、隙をついて一撃を入れたのですが、胴を剣で払った時に自分の両手剣が折れ、逆に向こうの剣を受ける事となりました」


「剣が折れる……君が、手入れを怠らない事は十分理解している。となれば、その騎士の防具が特別なのかもしれないな」


「はい。私の鋼鉄製の両手剣が折れた時、それ以上の素材であるのではないかと感じました」


 ジルバルダの主装備は、鋼鉄製の武器だ。そして、その内容や性能は、他国に比べて決して劣るものではない。


「敵方に優秀な鍛冶師がいるのか。それとも……」


 シリウスの頭の中には、幾つかの仮定が生まれる。相手にそう言った武器を作る事ができる者がいる場合、ダンジョンなどで入手したアイテムである場合などだ。


「まあよい。それで、被害状況などは、どうなっている?」


「こちらの兵士は、およそ3割が犠牲となりました。相手方とぶつかった際に地の利を得られた事が、最も反省しなければならないものでしたが、その後相手の数が把握できたため、包囲戦を仕掛けようと動きましたら、落とし穴を仕掛けられており、罠にはまって兵を失いました」


「寡兵で挑む場合の定石だね。それにしても布陣の仕方といい、落とし穴の設置といい。かなり相手は、やり手の指揮官だね」


「指揮官の男は、軽装でしたので、もしかすると魔法師などかもしれません。副官の女もそうですが、鎧すら着ておりませんでした」


 ホスローは、見たことを詳細にシリウスに伝達する。内容は、時にホスローの失態ともとられかねない内容だが、それを隠さずに伝えるホスローにシリウスが、不満を感じる事はない。優秀で忠誠の厚い臣下は、簡単に得られるものではないのだ。


「敵方の被害が0とはな。それほど兵が強いのか?」


「何と申しますか、連携も異常なほど取れており、役割分担も完璧と言えるものでした。重装歩兵が、攻撃を受け止めるとすぐさま背後の軽装歩兵が、長剣を振るうのです。色々と試行錯誤して崩そうと試みましたが、最後まで敗れませんでした。全員が、規格統一された鎧を着ており、練度も見事としか言いようがありません」


 実際には、コピーしたような物だからホスローの捉え方は正しい。


「わかった。おかげで、かなり相手の情報を得る事ができた。倒れた兵士には、悪い事をしたが、その死を無駄にする事なく次に活かさせてもらおう」


「殿下は、どうなさるおつもりなのですか?」


 すると少し考えたそぶりを見せる。


「ホスローが、向かった先にあるのは、村が1つだけだ。それもモラールの資料が、正しければわずか3000人ほどの村だとなっている。そこにハシブスカが、逃げて行ったとしても再起を図るだけの力はない」


「放置されるのですか?」


「いや。ハシブスカは、殺さなければならない。だが、辺境の村まで大軍を向けるには、遠く時間もかかるだろう。だから、一度交渉役を送るつもりだ」


 シリウスの考えでは、配下の者を送り、ハシブスカに降伏を勧告する予定だ。使者と言う形で密偵を送り、相手の状況を把握する。そして、相手の出方によって相手を始末すればよいのだ。大軍を送る事も可能だが、それには、膨大な食料や軍事物資が必要だし、途中に補給できるような規模の街も東側にはない。


「相手によっては、少数の精鋭を送る事になるだろうが、私が、聞いている情報では、ハシブスカは、脅せば降るような男にしか思えないからね」


 この時、東で何が起こっているのを、さすがのシリウスも予想できていない。使者を送り、相手の出方を見て制圧する方法を選択したのだが、これは仕方のない事だろう。

 ホスローは、幾ばくかの不安を感じたが、最後に指揮官の言っていた言葉が、頭から離れなかった。


「ジルバルダが滅びたいなら別ですが、これより東に向かうと言うならジルバルダも滅ぶ事になりますよ」


 あの男が言った言葉を思い出す。だが、ホスローは、この言葉だけをシリウスに伝える事は、最後までなかった。ホスローは、この言葉が、本当にジルバルダの運命を左右するとは、思っていなかったのだ。

 自分が、絶対の忠誠を誓う「英雄」のジョブを持つシリウスの前には、敗北など想像する事ができない。そして、これからもシリウスを旗印に発展を続けるだろうジルバルダ王国を、制圧した国の残党ごときに何ができるのかと考えてしまった。


 だが、もしホスローが、この事をシリウスに伝えていれば、歴史は少し変わったのかもしれない。


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