幼少期1
生まれてからしばらくが経ち、自分で何もできない状況にある。
「あー」「うー」
などの母音しか発することができずに言いたいことが言えなくて滅茶苦茶ストレスが溜まった。
あの!ストレスも。この!ストレスも耐えた。
問題は排泄 。
あれは何度繰り返しても慣れるのは無理だ。我慢ができなくなると恥ずかしさを思い出し、自分では何もできない状況に嫌気がさす。
普段気味が悪いほどに泣かないフィルだが蓄積されるストレスに、唐突に泣きだして、しかし食事でも排泄でもない様子に、何度も周囲の人を困らせた。
だが、夜は皆が寝静まっていたので迷惑をかけないようにと、日が沈んだ後は極力泣くのを避けた。たまに抑えきれなくて泣くこともしばしばあった。
まだ幼いとはいえ、中身は大人。父と母、使用人達に迷惑を掛けてしまう自分に申し訳なく思う。
父は仕事を終えると顔を見に駆けつけてくれ、顔を見るたびに抱っこし可愛い可愛いと褒める。親バカ感は否めない。自分や母との時間を大切にしてくれる父。僕の隣で編み物をしたりレースを編んだりと大変そうな母。急に泣いた僕を抱っこし、一生懸命あやしてくれる両親がとても大好きである。
なんとなく、前世の両親に似てる。朗らかで優しい母。稽古には厳格な父だったが、家族の時間はそういった剣呑を持ち込まなく、家庭内はいつも笑いが絶えなかった。同業の慣れ親しんだ人と良く呑んでいた父。たまに会うその人らに優秀で自慢の子らしいな、とにやにや顔で話されるそれは今の父とどこか雰囲気が似ている。
そんなことを考えると、元気にしてるかなと前の家族を思い出し、泣いてしまった。
まあ、何もできない自分に嫌気が差し、早く自分でどうにかできる状況にしようと手足をバタバタ、と筋肉をつけ、
「あーうー」
から始まり、あいうえお以外にも喋れるようになってきた。
前世の記憶を持って人生をやり直せるということは、前の経験を生かして前よりも器用に生きれると思う。
前世は身体と技を磨くことに力を入れていた。勉強の方は可もなく不可もなく。まあ、平均よりは上の方だったが。
しかし、幼少期は脳が発達するのが早いため、勉強にも力を入れようと思う。
そう考えたら、俄然生きる希望が沸いた。より良い人生を送るために。後悔しないように。利用できるものは何でも利用しろ。それが『前世の記憶』だとしても。
「さ、フィーベルト様。お食事の時間ですよ」
フィルは世話役として自分の世話をしてくれるセレスに抱き上げられて移動した。
セレスはというと、芯が細く、淡い水色、後ろで括ったサラサラとした長髪。中性的な雰囲気と相まった顔は文句なしのイケメンである。
19歳のはずなのに、彼の優雅な態度、それに暖かい微笑をプラスされたら誰でも見惚れるもの。その中に僕も含まれてる。
前世も含めて18歳に近い。僕とセレスは同年代の筈だが、あのまま生きていたとしてもセレスの落ち着きっぷりを見るとやっぱりかっこいいし、尊敬する。この世界で尊敬する一人だ。
僕のご飯の時など、必ず膝に乗っけて、腕で支えてくれてのご飯。その後は
あーん
が待ってる。
精神的には大人なため最初は抵抗もあったが、暴れてもセレスの迷惑になるので諦めてる。
でも、そんなセレスにも一つの問題があった。それは父に似た従者バカだったりする。普段はキリッとしてかっこいい彼。ある日離乳食を食べてる時、ふと見上げたその顔がすっっごい緩んでいた。その時は、尊敬してるセレスが『ショタコン』なのかと、と驚愕をうけたが、何度も見るうちに父と一緒の類だと判断したのだった。
半年過ぎた今、ベビーベッドの上でよちよちと掴まりながら伝い歩きができるようになった。