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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「太陽の無い空」後編

凍りついた空気。けどもうそれが答えかのような一瞬だ。あえて笑って明るく否定するのか、全くリアクションを取らずに真面目に否定するのか、そんな事を迷ったからこそ訪れた変な沈黙を前に、軍人は黙ってそこに居る人達を眺める。

「そんな訳、ないじゃないすか。まさか、タレコミとか」

「中を確認させて貰う」

そう言うと軍人はすでに1歩入って来ていて、ユウソルが返事をする間もなくそれから軍人はテーブルも椅子も何も無い1階を見渡し、2階に上がっていく。2階に上がるとそこにも何人か居たが、警戒と静かなる戸惑いの眼差しを向けられても軍人は鋭い目つきでそこを見渡し、そこには双方の警戒が混ざった緊張が流れていく。

「ここは、何の為の──ぐっ」

「・・・おい」

思わず声を漏らしたその男性を含め、その場の人達の眼差しは一様に“その状況”に捕らわれた。1人のギガスが背後から軍人の胸元を貫いていたのだ。そして鋭く変形させられた手は引き抜かれ、軍人は何も無いそこで音を立てて倒れ込んだ。

「ば、バカ野郎!」

ギガスが変身を解いた直後、声を漏らした中年男性、クラモルはそう怒鳴る。ギガスのくせに、まるで“ただ怯えて人を刺殺したような”表情の女性、リネレットは震えた手でクラモルを見る。

「怪しまれないようにやり過ごせばいいだけだろうが」

「で、でも・・・」

ユウソルとバルオも2階に上がって来ると、リネレットは軍人と広がる血だまりから後ずさり、次第に目を赤くする。

「どうしよう」

「山にでも捨ててくるしかないか」

ユウソルがギガスとなり、軍人の死体と消えた後、その場の人達が残った血だまりを見下ろして小さな安堵を感じる。しかしその時だった、1階から衝撃音が鳴ったのは。何かが何かにぶつかる音。それは何となく、扉が吹き飛んだような感覚を頭に過らせるものだ。

「お前らレジスタンスだな!」

1階からそんな声が響き、直後には軍人ギガスが2階に上がってきていた。まるで最初からマークしていたかのような迅速さだと、誰もが息を飲む。

「何でだ、早すぎる」

呟くバルオ。

「お前らが出てくるようになってから街の穴は常に監視している」

「最初から、ここが拠点だと分かってたのかよ」

「いや、あくまでそれを確かめる為に人が向かったんだが、お前らが墓穴を掘ったんだ」

バルオは目線だけ動かしてふとリネレットを見る。すると怯えている表情なのにリネレットはすぐさまギガスになり、追い詰められた人らしく軍人ギガスに斬りかかった。しかし今度は不意打ちは叶わず、リネレットの鋭利な手は弾かれた。更には瞬く間に首を掴まれ、腹に一撃を食らって投げ飛ばされ、ガシャンと倒れ込む。すでにクラモルが飛び掛かっていて、軍人ギガスがクラモルに構っている間にもユウソルが背後から攻撃し、軍人ギガスは数で圧されて倒れ込む。それでも力自体は同じだから軍人ギガスは負けじと暴れ出し、同時に撒き散らされた火の玉がプレハブ小屋の壁に穴を開けていく。もうそれだけで隠れ拠点としてのプレハブ小屋は使えない。その瞬間、バルオは壁の穴からふと目を留めた。地上からプレハブ小屋を見る1人のギガスアーマーを。

「逃げるぞ!ギガスアーマーだ」

バルオがそう声を上げ、再び地上を見た時にはもうギガスアーマーの姿は無い。そして振り返ると、バルオが見たのはギガスアーマーに左胸を撃ち抜かれるリネレットだった。声も出ない一瞬だった。同時に他のレジスタンス達は消えていて、それからギガスアーマーはバルオを見た。向けられる銃口。気が付けばそこは街の穴の外の本拠地だった。しかし仲間が撃たれるその瞬間は未だに目に焼きついていた。だから無意識に人間に戻ると、バルオは壁を叩いた。──助けられなかった。

「戻ってきてない奴は?」

「・・・・・2人、だな」

「くそぉ。リイドウさん、プレハブが突き止められた」

「そうか・・・。監視されてても不思議じゃない。だが、前線に立ってないと、助けられるもんも助けられない」

「あぁ、けど、ギガスアーマーをどうするか」

バルオは仲間達の会話には耳を傾けていたが、ふとバルコニーに出た。風も吹かない乾いた空気を感じながら何となくランリの事を考える。そんなバルオの隣にやって来たのはユウソル。

「何か良い案無いのかよ」

「オレ?・・・だったら、いっそマフィアに頼んだらどうだよ」

「え、どこのだよ」

「どこでも良いけどさ、オレ、子供の時、サクリアに住んでた事があって。今だってザ・デッドアイだか何だかがウパーディセーサ作って、サクリアに向かったギガスは簡単に制圧されるだろ」

「まぁただのギガスならな。それにギガスを捕まえてるのは特攻部隊だ・・・いや待てよ?ウパーディセーサか。あの力ってギガスアーマーにどれくらい立ち向かえるんだ」

「さあな。けどマフィアが街の穴に住めば、いい隠れ家になる」

「おいおい、マフィアを来させるのかよ」

「そう言ってんだろ」

「オレ達がウパーディセーサの力を手に入れればいいだろ。マフィアだぞ?女子供がビクビクするだろ」

「はは、そういうの気にするのかよ」

「そりゃ当然だろ。事は早い方が良い、今から行くぞ」

「サクリアにか?」

「ザ・デッドアイだろ?そんでウパーディセーサの薬打つ。とっとと戻ってくれば何分もかからず戦力増強だ」

中継基地建設地にて。誰も居ない、壊されたところは少し片付けられたものの、最早時間が止まったような風景になってるそこに、テルビオとシークフィンは居た。何故居るか、それは監視と調査の為。と言っても居るのはテルビオ達だけじゃなく、シャーク、ミキーナ、そしてニュウニュウも居る。どんな間取りを予定してるのかとか、この瞬間にもロードスターの人が来たらどうしようって明るく笑うミキーナを、テルビオは遠目に見ていた。

「ここに来たらたまたまプライトリアの人に会えるなんてー、ラッキーだねー。プライトリアの人ならー、シューガーにも入れるしー」

「うん、でも何か、大丈夫かな。密偵って、もっと暗くて、スーンってしてるのが鉄板だし」

建設途中の風景を見ながらシャークからテルビオの事を聞いた後、ミキーナはテルビオに近付いてきて、テルビオは異世界の人間だからと何となく緊張する。

「じゃあテルビオはロードスターの侵略を止めたいんだね」

「あぁ。でも表向きには特攻部隊に協力して貰う事は出来ないから、今はオレとシークフィンだけ。この前も、基地を壊した本人がシューガー軍に殺されちゃったし、レジスタンスだけじゃ全然力不足みたいだし」

「レジスタンスが居ても抵抗出来ないの?」

「シューガー軍がさ、新しいギガスの力を開発してさ、ギガスアーマーっていうんだけど、普通のギガスじゃ歯が立たないんだ」

「ふんふん。でもテルビオも運が良いよ。こうやって私達に会えたって事はもうプライトリアが味方になったようなもんだし、ね?」

ミキーナがそう言ってニュウニュウに笑顔を向けると、ニュウニュウは落ち着いた笑みを返した。どっちかというとニュウニュウという精霊の方が落ち着いていて密偵みたいだと、でもだからこそこの2人ならバランスが取れて頼りになりそうだと、テルビオは内心で安堵した。

「大丈夫かな、結局、ロードスターとプライトリアの戦争になったりしないかな」

「でもー、このままじゃ侵略されちゃうよー?」

「侵略の為の戦いじゃなくて、守る為の戦いだし、それにロードスターに対してこっちは禁界とプライトリアとエルフヘイムが協力してるし、楽勝楽勝」

「うん、そうだね。あのところで、それは?武器?」

テルビオが指を差したのはミキーナが腰に着けている、知らない人が見ても明らかに剣っぽいもの。すると目線を落としたミキーナは見せるようにそれを抜いた。それはやっぱり短剣だったと、テルビオは内心で浮き足立つ。

「見ての通りね。でも見た目は剣でも杖としても兼用してるの、基本こういうのは霊器だから。刃が着いた霊器って感じ」

「霊器って・・・・・どこで売ってるの?」

「え、そりゃ霊器屋さん」

「それで魔法が使えるの?」

「霊器は魔力を増幅させるものだから、霊器は無くても精霊が居れば魔法は使えるよ」

「あの、オレも霊器が欲しいんだけど、どうすればいいかな」

「んー、お金は?」

「無い」

「よね。うん。あっ、フフフ、じゃあ私が雇ってあげるよ」

「え?」

「私とニュウニュウとシャークは今ロードスターを探ってるの。で、テルビオも傭兵としてチームに入ってくれれば私が給料をあげる。どう?」

「何か、簡単に決断してるけど、いいのかな」

「いいんじゃない?」

密偵って言ってるけど、まさかフリーランス的な感じなのか。そうテルビオが思わずニヤけてしまうと、ミキーナは頷き返し、もう交渉成立みたいな空気を感じさせた。──何でもいっか、武器が手に入れば、ギガスアーマーと戦えるようになるかも知れない。

「早速行こ、プライトリア。シャークも来なよ。シューガーの人達来ないみたいだし」

「そうか、仕方ないな」

「えっと、シャーク、シューガーの軍人待ってたの?」

「以前、シューガーの軍人に情報の取引を持ちかけられた。その時は断ったが、ミキーナは情報収集には都合がいいと。だから待ってるんだが、来ない」

「んー、まぁ今は基地建設は凍結されてるし」

「凍結?何故だ」

「そもそも基地建設は世間的に知られてなかったんだよ。戦争行為だし。でも基地建設の情報がマスコミに流されて、問題になって、それで首脳会議で今後の方針が決まるまで一時的に凍結になったんだよ」

「そうなのか。だがオレは一応特攻部隊だから直接シューガーには行けない。ここに居ても来ないとなると、どうするか」

「考えながら行かない?美味しいもの食べれば良いアイデア浮かぶかもよ?」

「そうか」

ニュウニュウの転移でパッと現れた一行。そこは都会で、何といっても街の真ん中には大きな城がある。そんなインパクトに、テルビオは口を半開きにしたまま固まった。

「これが異世界の都会。・・・うわ、バイクで空飛ぶんだ。ていうか、精霊が、こんなに沢山」

「先ずは霊器を見よう」

転移してきた場所はすでに霊器を扱う店の前だった。だからミキーナはさっさと歩き出す。あえて例えるなら、見た目は商店街の中にあるような、何年もやってそうな写真屋か何か。入ってみるとモデルとして作られた商品がガラス張りの棚に並んでいて、その内装にはむしろ異世界感は和らぐ。

「おおミキーナ、いらっしゃい。もう故障したのか?」

「ううん。この人、新しい仕事仲間でね、霊器が欲しいって。でも異世界から来たから霊器そのものを知らないの」

「ほう。まぁ精霊と一緒なら大丈夫そうだな。だとしたら金どうすんだ」

「私が出すよ。形としては私の傭兵なの」

「つっても経費として上に出すんだろ?」

「えへへ、うん」

「それならこっちも贅沢言わせて貰おうか。で兄ちゃん、どんな霊器が欲しい」

「どんな・・・」

ふとテルビオが目に留めたのは指無しガントレット。

「テルビオは変身するし、そういう装着型の方が面白いかもね」

「変身って何だ」

「テルビオは元々魔法が使えるんだって。その異世界の人間がみんなそうって訳じゃないけど、装着するやつなら霊器と体が合体してもっとパワーアップ出来るの、ね、おじさん」

「精霊に憑依して貰った奴の為の新しいタイプか。オラぁまだ作った事ないからなぁ」

「え、でもこれは?」

作った事がない。そんな返答にまた質問を返すように、テルビオがガントレットに指を差す。

「それはあくまで霊器増幅だけだ。“霊具化”には対応してない」

テルビオはふとガントレットを見る。──対応って、携帯電話の新機種的な?

「兄ちゃん、霊具化対応が欲しいならちょいと時間がかかるぞ」

「どれくらいですか」

「大きさに依る。最短でも3日だな」

「そうですか。でも、その“れーぐか”でお願いします」

「おう。じゃあ形を選びな。そういう右手だけだとか、足だとか」

「後は全身の鎧とか」

「鎧・・・って、それはさすがに持ち運べないし」

そう言ったテルビオに、ミキーナと店主は微笑ましそうに笑った。

「兄ちゃん、ホントこの世界の事知らないんだな。大きい霊器なら例えばネックレスとかに収納出来んだよ」

「収納・・・魔法で?」

「そらそうだろ。つっても鎧となると最短でも3週間くらいはかかるがな」

「その、鎧とこのガントレットだと、霊器としてのレベルが違うとか?」

「そりゃあ霊鉄を使う面積がある程質は高い」

テルビオの頭に過ったのは、特撮ヒーローが変身するシーン。

「・・・じゃあ──」

人気の無い場所にパッと現れたバルオとユウソル。そこはシューガーどころかロードスター連合王国ではなく、サクリアだ。すぐさま人間に戻り、怪しまれない程度にキョロキョロし、そして目的地の敷地に足を踏み入れた。そこは見た目ただの工場だが、入ってきた者達を迎えてきたのは明らかに雰囲気が鋭利な男。しかしだからこそバルオは心を高ぶらせる。──ここが、ザ・デッドアイ。

「ウパーディセーサが欲しいんだ」

ユウソルがそう言うと、そういう客に慣れきった妙にニヤついたギールはニヤつきを落ち着かせ、黙って頷いて歩き出す。

「だけど、1つ頼みがある」

「え?」

「改造、してくれないか。それくらい出来るんだろ?オレ達、強い力が欲しいんだよ。生半可な力じゃ意味がない」

「何でだ?」

冷静に尋ねるギール。

「ニュースで見たことあるよな?ギガスアーマー。オレ達はギガスだ。でもギガスの力だけじゃ勝てない」

「ギガス・・・。つーか、すでにウパーディセーサは改良してある。ブラックにもギガスにも対抗してかなきゃならないんでね。それでも特注にしろって?」

「その改良したやつは、ギガスに勝てるのか?」

「まぁ、まだ実際にやり合った事はない」

するとギールは妙にニヤついた表情を浮かべる。

「試しにやるか?ここで。見たいなら見せてやるよ、ウパーディセーサ・ロードナイトの力」

そう言ってギールは変身した。その姿は全身が白である事、4本の尾状器官がある事は変わらない。しかしビジュアルはまるで騎士の鎧のように鉄っぽく、第一印象だけでもう強そうだ。しかしバルオは心を高ぶらせた。強そうでビジュアルも良い。そんな力がこれから手に入るんだと。そしてバルオ達は変身した。

「マジでギガスか。ちょうどいい、体鈍ってたところだ。ほら、来いよ」

1回顔を見合わせてから、バルオとユウソルは走り出した。しかし最初に仕掛けたのはギールだった。それはまるで向かってきた奴にピストルで牽制するかのよう。それでも2人は素早く、ギールの尾状器官から放たれた衝撃波は彼方へと消えていく。それから、バルオとユウソルは空を仰いだ。大の字に倒れ込んだまま、ふとユウソルは笑い出し、バルオは起き上がる。

「まだやるか?」

1度も倒れる事は無かったギールはそう言って妙にニヤついた。スタミナはほぼ無限、傷も少々。でもユウソルはもういいと応え、嬉しさを噛み締めるようにまた笑った。バルオはその高揚を理解していた。それはこれから、その力が手に入るという事だから。そして2人は自動車工場を後にした。

「何か、夜明けって感じだな」

呟くユウソル。空を見上げているその表情は期待と希望に溢れていて、でもそれもまたバルオには理解出来ていた。

読んで頂きありがとうございました。

サクリアのマフィア達も地味に変わってます。でもギールが居るって事は・・・。バルオ達はいつ気がつくんでしょうか。

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