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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「屍の鎧」後編

その人の横顔を見た時、はっきりと自覚したのは、憧れだった。建設現場での爆発を見た時、やっぱりすごいって思った。実際にあんな、国を相手に暴れる事が出来るなんてって。でも実際オレがあんな事したら第一に母さんに迷惑がかかる。でも正しいのは、やっぱりあのお兄さんだ。

「ワンッ・・・ワンワン!」

「チーズー!チーズー!」

すると直後、ミルクが駆け出した。きっと臭いを感じたのだろうと2人はそれを追いかけていく。でも同時にトロフィー公園に近付いていって、ふとケイシンは戦ってるギガス達を目に留めた。誰が誰か、それは攻撃のし方を見れば分かった。1人のギガスが水蒸気のようにモクモクとしたボールを作り、それを大爆発させている。きっとあれがあの人だ。

「チーズ!お兄ちゃん」

チーズは花壇の傍に隠れていて、ミルクと2人に会えると尻尾を振った。

「何でこんなに離れてたんだよ」

ケイシンが問いかけると2匹は顔を見合わせ、そしてチーズはおもむろにケイシン達から隠れるように花壇の後ろに隠れ、顔だけ出した。

「まさか、かくれんぼ?」

「ワン」

「そっか。とりあえずすぐテントに行こう、ここじゃ危ない」

しかしこのまま真っ直ぐ進んでしまったらギガス達に近付いてしまう為、大きく回り込もうとした矢先、なんとそっちの方からも軍人がやって来てしまい、ケイシン達は再び花壇に隠れる。ふと見れば、あの人は同じギガスなのに軍人ギガスを何人も倒していた。

「お前はユロ・バンコズだな。基地建設の時、行方を眩ました内の1人の。そして基地を破壊した張本人。お前にはもう猶予は与えない──」

その軍人男性は腰から銃っぽいものを取り出した。見たこともない形、だけど何となくカッコイイと思ってしまうものに、ケイシンはただ目を奪われた。

「装着」

呟いた軍人男性。直後に銃っぽいものを地面に向かって発砲する。発射されたのはシルバーグレーの光だが、それは地面に落ちる事なく、まるで吸い込まれるように軍人男性の胸元にぶつかった。一瞬の内に軍人男性の全身はシルバーグレーの光に包まれ、そして光が消えると、軍人男性は変身していた。生唾を飲むレイト。変身した姿は勿論ギガスなんかじゃない。変身アイテムの銃、シルバーグレーが基調になった色鮮やかで強そうな戦闘スーツ。そう、それは特撮ヒーローだ。

「何だそれ」

思わずユロは問いかけた。

「所謂軍用ギガスといったところだな。お前のような犯罪者ギガスを制圧する為のものだ」

「そうか」

ユロはモクモクとしたボールを作り出し、軍人は素早く発砲する。しかし軍人が撃ち抜いたのはユロではなく、モクモクとしたボールだった。爆発に呑み込まれるユロの姿。それでも爆風に向かって発砲する軍人。直後、ユロは軍人の背後に転移し、死角から蹴りを繰り出した。うなじ辺りを結構強く蹴ったように見えたが軍人は軽くつんのめっただけで素早く振り返り、ユロの肩と足を撃ち抜いていく。

「グッ・・・」

倒れ込むユロ。それでも素早く立ち上がり、軍人に向かって手をかざす。軍人が発砲するものの、光の銃弾は見えない壁にぶつかり、その空間にヒビが入る。

「クッ・・・」

間髪入れず発砲され続け、程無くして見えない壁が割れるような音を響かせるとそのままユロは再び何ヵ所か撃ち抜かれ、力無く膝を落とす。そして足元からは氷が立ち、ユロの下半身は凍りついた。

「無駄だ。ギガスアーマーに、たかがギガスは敵わない。ここで射殺してやる」

ケイシンの脳裏に甦る、その人の横顔。しかし目に焼き付いてるのはその人が動けず、今にも撃ち殺されてしまうという状況。

「何でだよ!」

ケイシンに顔を向ける軍人。

「その人は、戦争を止めようとしてるのに」

「いつだってな、正しいのはマジョリティーなんだ。例えこいつがテロリストじゃなく革命家だとしても、味方もいない、1人で暴れてるような奴に正義なんかない。何千人の大人が作り上げた国という集合意識こそが正義だ」

「バカかお前は」

そう言葉を返すユロ。

「あ?」

「ロードスター連合王国は3つの国が合わさったものだ。シューガーだけが翼人を恨んでるだけで、ベンダンとテッドランはそうじゃない、マジョリティーが正しいというなら、2対1でシューガーは悪だろう」

「これはロードスターの総意だ。ロードスター国王が認めてる事だ」

「大人はずる賢い。今の国王はシューガーの出身だろ。誰かが吹き込んでるだけだ」

「妄想は死んでからやれ」

軍人の指が引き金にかけられ、そして光が弾けた。しかし、その場の空気は止まったのだった。

「悪あがきか」

連射される光、震えていく空気。そこでケイシンはふと見えない壁を見ていた。──全然、ヒビが入らない。

「まだそんな力があったのか」

「いや、これはオレじゃない」

そう呟くユロ。すると軍人はようやく小さく首を傾げ、辺りを見渡す。そこでユロの背後にパッと現れたのは1人のギガスと、宙に浮く羽の生えたウサギっぽい精霊。

「今の内に逃げてよ」

連射される光。しかし空気は震えていくだけ。

「誰だ」

「まぁ、君の味方かな。もしかして動けないの?」

「あぁ」

「シークフィン、もうちょっと持ちこたえてよ」

「精霊の力か」

テルビオが生み出した炎でユロの下半身が温められ始めた直後、軍人は飛び出した。走るという表現では遅いというくらいの速度で、転移ではなく、高速移動で回り込み、軍人は素早くユロの後頭部に銃口を突き当てる。そして光は弾けた。

「あっ」

それはレイトが思わず声を上げてしまうほどの瞬殺劇。だらんとユロの頭が落ち込む。更に軍人は素早くテルビオを蹴り上げ、テルビオは激しく地面を転がる。

「ぐふっ」

「誰だか知らないが無駄だ、ギガスアーマーにギガスは敵わない。ユロ・バンコズの味方をするなら、お前もここで始末する」

連射される光。しかしそれらは全て空を切っただけ。何故ならテルビオは連続的に転移して全ての光をかわしたから。いくら軍人が高速移動しようと転移には敵わず、また光が空を切り、テルビオが転移した後、もう彼は戻ってくる事はなかった。それから下半身の氷は溶かされ、ユロはそのまま倒れた。しかしギガスのままのユロはぴくりとも動かず、そこにはゆっくりと血だまりが出来ていく。ユロに倒されていた軍人ギガスも集まってきて、そしてユロは軍人達と共に消えた。残ったのは、血だまりだけだった。

「死んじゃったんだね、あの人」

特に思い入れも無いから他人事みたいにそう呟くレイトにミルクが寄り添う。ケイシンの脳裏には焼き付いていた。頭を撃ち抜かれて、命を失った瞬間のユロの姿が。正しいのに、殺された。どうして、殺されてしまったんだろう。大人の軍人の言ってた事はよく分からなかった。カッコイイと思った、憧れた人が、ただ殺されてしまった。そうケイシンはただ血だまりを見ていた。

エルフヘイムのどこかに逃げてきて、転移しながら転んだテルビオ。人間に戻ろうとした矢先、テルビオはふと見下ろした。自分の腹に空いた穴を。

「痛いと思ってたら、撃たれてた」

「残念だったねー、あの人」

「うん。それにあの無駄にカッコイイギガスアーマーとかいうの、強い。やっぱり翼人の人達に助けて貰わないとダメかなぁ。少なくともオレ達だけじゃどうにも出来ない。あ」

「んー?」

「オレ達もさ、いっそ特攻部隊に入っちゃおうか」

「んー。特攻部隊ってー、ロードスター連合王国に入れないんじゃなかったかなー」

「何で?」

「だってー、特攻部隊はサクリア政府の所属だしー、特攻部隊の人がシューガーの基地建設を妨害したらー」

「戦争になっちゃう、か。じゃあ、どうしよう。あれでも、戦争って、もう始まってるようなもんなんじゃないかな」

「そうとも言えるねー」

「凍結してるからって油断は出来ない。凍結してる間にもギガスアーマーとかいうの作られてるし。凍結が解除される頃にはもっと危ないもの作ってるかも知れないしさ」

「そうだねー」

そしてシューガーでは大々的にニュースになった。その名はギガスアーマー。まるで本当に特撮ヒーローかのような風貌に印象は良く、クージと同じく“治安を守る新しいヒーロー像”として世界中から期待の目が向けられていく。同時にシューガー政府は国内に向けて発表した。これから一般人のギガスを全て人間に戻すと。その理由はギガスによる犯罪を完全に防ぐと共に、街の穴という悲劇を完全に払拭したいからというもの。街の穴は必ず復興し、文字通り何事もなかった事にするべきだと、政府は一方的に決定し、通告したのだった。つまりそれは、ギガスを軍が独占するという事。それから大きく報道されたニュースは、一般人ギガスの一部がそれに反対し、しかし強制的に連行されたりして、それによって一般人ギガスと軍が衝突したというもの。政府はギガスになった一般人の身元を把握しているので、普通に生活していたら家に必ず軍がやって来る。だから早々に国外へと転居するギガスもいるというのもちょっとしたニュースになった。軍が来て、連行を拒否すれば戦いになる。そんな乱闘は街の穴では頻繁に起こる。そして遂に政府の発表から3日後の朝、ケイシン達のテントに、軍がやって来た。

「オオカイトさん」

それは突然だった。テントから声がして、クレインが出迎えた。チャックを下ろし、入口を開けるとそこに居たのは3人の軍人だった。

「クレインさん、ケイシンさん、レイトさん。これよりギガス遺伝子の除去を執り行うので、軍の方へ来て貰います。送り迎えは我々が行いますので、全体的な所要時間は30分ほどになりますが、宜しいですか」

「これから病院なんですけど、看護士なんです。夜じゃダメですか」

「ギガス遺伝子の除去は早急に執行するというのが政府からの指示なので、申し訳ないですが、仕事先には一報を入れて頂けると──」

「ぐあっ」

クレインには分からなかった。ただ誰かの穏やかじゃない声が聞こえてきただけ。ケイシンとレイトもただテントの向こうに気を向かせただけ。するとすぐにクレインと話していた軍人が別の軍人の呼びかけに振り返り、クレインから離れた。だから何となく、クレインはテントから顔を出す。そこには1人の軍人が倒れていて、すでに2人の軍人はギガスに変身して戦闘していた。クレインはふと胸元から大量出血して虫の息の軍人を見下ろす。いくらギガスでも、人間の時に攻撃を受けてしまえば一溜まりもないと。それにもう、これじゃ手遅れだと。

「母さん?」

「じっとしてて」

「オレ、本当は人間に戻りたくない」

「そんな事言ったって、どうしようも出来ないでしょ?」

これから仕事なのに放置されてしまったとクレインは焦っていく。ニュースでやっていた。一般人ギガスの間で、レジスタンスが結成されたと。その人達は街の穴に陣取り、積極的に軍人を攻撃する。きっとこれもその人達の仕業。一気に、街の穴が住みづらくなってしまった。

「病院行ってくるから、テントから出ちゃだめだよ?」

「うん」

そもそも街の穴なんてものが出来たのは政府のせい。だから放置してくる軍人なんかどうでもいい。そうクレインが去っていった後、2人はテントを出た。ケイシンが軍人の死体を眺めているところにレイトもやって来たのだ。

「おえ」

「レイトあんまり見るなよ」

2人はふと顔を向ける。それはギガス同士の乱闘だ。でもいつもと違うのは、レジスタンスの人達はギガスの姿でも分かりやすいようにと、小さなマントを羽織っているという事。

「僕もギガスのままがいいけど、母さんは人間に戻りたいって言うかな」

「そうなんじゃないか?母さん1度もギガスになった事ないし、興味無いみたいだし。でも、怒ってはなかったな」

「あ、あれ」

レイトが指を差したその先には、あの変身アイテムを持った軍人が居た。装着と声を上げ、ヒーローらしさをアピールするように変身する軍人を見た途端、ケイシンは脳裏に過らせた。ヒーローが殺されたあの光景を。──あいつは、ヒーローなんかじゃない。しかし1人のレジスタンスが撃たれ、ギガスアーマーに目が向けられた途端から、レジスタンスの人達はすぐに転移して逃げ、乱闘は収まった。いくらレジスタンスでも、ギガスアーマーが来たら逃げるしかない。正しいのに逃げなきゃいけない。そんな虚しさが、ケイシンには歯痒く思えた。

──2日前。

カケベルの街アロン。とあるアパートの一室にインターホンが鳴った。それはランリの家。扉を開けたのはバルオで、扉の前に居たのはショーケインの妹、コーファだった。しかしバルオは声を出す前に、コーファの涙に目を留めた。

「お兄ちゃんが、死んじゃった」

「・・・は?何言ってんだよ。あいつギガスだぞ、そう簡単に」

首を横に振るコーファ。

「軍の人に、人間に戻す為に連れていかれて、そしたら、軍から死んだって遺体で返ってきて」

「意味が分からねえ。何だよそれ」

ショーケインは一人暮らしだった。でも何もかも消滅したから、それから実家暮らしだった。とりあえずバルオはコーファを家に招き入れ、座って泣いているコーファを前に静かに怒りを込み上げさせた。

「軍は、何で死んだか言ってたのか?」

首を横に振るコーファ。

「ギガスの遺伝子を除去してる時に何かあったのか?何でだ。ニュースじゃギガスの遺伝子除去は確立されてるって言ってたのに。まさか、嘘だったのか?」

「お父さんが、基地に直接真相を聞きに行ったけど、教えてくれなかったって」

「何なんだクソ。だったらオレが直接聞いてくる」

「どこに?」

「基地しかねえだろ」

とりあえずコーファは自分の家に帰らせ、そしてバルオはカケベルにある基地にやって来た。ギガスの姿でパッと現れ、しかも変身も解かずに歩み寄って来たバルオに、門前で立っていた軍人は素早く無線で応援を呼ぶ。

「人間に戻る為の薬を打ったらオレのダチが死んだんだ!何で死んだか理由を教えろよ」

「何を言ってる」

「テメエが知らねえなら知ってる奴に会わせろ!」

軍人を通り過ぎていき、基地の敷地内に入ったバルオに軍人が掴み掛かるが、案の定軍人は投げ飛ばされた。すぐに他の軍人が数人やって来てライフルを発砲するが当然効果は無く、そしてバルオは1人の軍人の胸ぐらを掴んだ。

「調べろよ!何でショーケインは死んだんだよ!」

しかし軍人にとって“それ”はただの暴漢でしかない。言葉を聞く必要も言葉を交わす必要も無い。けど人間には排除出来ない為、胸ぐらを掴まれている軍人は半分浮き上がりながらもバルオの腕を掴み、睨み返していく。

「止めろ!」

するとそこにパッと軍人ギガスがやって来た。声に振り返ったバルオは軍人を投げ飛ばし、今度は軍人ギガスに掴みかかった。

「ギガスの遺伝子の除去は確立されてるんじゃねえのかよ!何でショーケインは死んだんだよ!」

「落ち着け。調査中だ」

「あ?」

そう言われてしまうと言葉を返せなくなったバルオは無意識に力を緩める。だから軍人ギガスは弾くようにバルオの手を払い退けた。

「それより、お前もさっさと人間に戻れ、ちょうど基地に来たんだ」

「は?人を殺しておいて何なんだよ!死ぬかも知れないのにやるかよ!」

「礎だ」

「は?」

「ショーケインは、データの礎になったんだ。実験には犠牲があるものだ。お前が人間に戻ってそれがデータになれば、ショーケインのような奴が減る」

「・・・意味分かんねえよ!」

頭に血が上っていて、バルオは“いつものように”目の前の軍人ギガスを突き飛ばした。後ずさった軍人ギガスにはまるで目を向けず、そしてバルオは基地から出ていった。そんなバルオの背中を、軍人ギガスは鼻で笑う。

読んで頂きありがとうございました。

母親に出るなと言われた途端からケイシンとレイトはテントを出るんですね。子供なんてそんなものですね。

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