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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「屍の鎧」前編

シャークは岩山の頂上からの景色を眺めていた。ずっと浮いているので別に疲れてなどいない。ていうか別に山を登りに来た訳じゃなく、ただ折り返し地点で景色を眺めていただけ。それからユラユラとシャークは山を降りていく。向かった先は禁界の外。何故なら自分の目で確かめたかったから。時折吹く風は気持ちいいが、シャークは風に気を向かせるほどのんびりしておらず、ロードスターの軍人の事を考えていた。同時にザ・デッドアイの事も。岩山を降り終えたシャーク。見渡す限り建造物や人工物はなく、何となくキョロキョロしていると、ガサガサと音がしたので近付いていく。

「何してる」

「わあおっ」

隠れているくせに驚いて大声を上げたのは、人間だった。上から話しかけたのが悪かったのか、しかもその女性は勢いよく顔を上げた拍子に倒れ込んだ。

「何、あなた」

「禁界で暮らしている者だ。ここで何してるんだ?」

「監視してるんだよ」

人間と共にいた精霊が落ち着き払った態度でそう応えると、そんな精霊の態度に人間の女性は独り慌てている自分を恥じるように落ち着いて立ち上がる。

「ほらミキーナ、デュープリケーターだよ。お名前は?」

「オレはシャークだ」

「あたしはね、ニュウニュウだよ。こっちは相棒のミキーナ。あたし達はプライトリアから来て、ロードスター連合王国の動きを監視してるの」

「プライトリアの者か。つまりルアやスティンフィーから聞いて、プライトリアも動いてるという事か」

「そういう事。私は密偵だから」

「そうか」

「あの、基地を破壊したのって、禁界が主導したの?」

「え?何の話だ」

「知らない?昨日、1人のギガスが暴れて、そっちの基地とシャンバートの基地が破壊されたって。てっきりギガスが禁界に寝返ってやったのかなって。基地を作ってる事を知らせてきたのだってギガスなんでしょ?」

「あぁ。だがそれは知らなかった。オレはただ、実際に基地を見に来ただけだ」

「ふーん」

ふとシャークは辺りをキョロキョロする。密偵という事は分かったが、見渡す限り、目視では基地は見えない。

「何故ここなんだ。何も見えないだろ」

「これあるから」

ミキーナが首から下げているのは円筒が2つくっついているもの。勿論それは双眼鏡なのだが、シャークはそれを初めて見たので、ただそれを凝視した。

「何だそれは」

「霊器だよ。双眼鏡型の。精霊も近付けないし、これで霊気検索してるの」

「そうか」

それからシャークはやって来た。破壊されたのだろうが片付けられてキレイになっている基地建設現場に。しかし誰も居らず、建設が一時凍結された事など知る由もないシャークはただキョロキョロする。



第39話「屍の鎧」



「まさか、昨日の、基地を壊した人」

「・・・俺は、必ずシューガーを潰す」

何となく感じるのは、怒りとか、狂気とか、そういう怖い感じの無い、冷静さだった。だからケイシンは怯える事はなく、ただその横顔を見ていた。

「やっぱり、お兄さんが、正しいん、だよね?」

「この世には、絶対正義がある。いや無きゃダメだ。人間は自由だから戦争する。自由を掲げるのは、人間として低俗だ。殺し合う事はいけない事だと、全ての人間が思わなければ、絶対ダメなんだよ」

「建設、一旦中止って言われたけど、また始まったら、またやるの?」

「当然。何度だってやる」

そしてその人は去っていった。ケイシンはその背中を見つめ、感じていた。やっぱり戦争をしないようにする事は正しい。だから顔も怖くないんだ。でも、オレは果たしてあんな風に戦えるのだろうか。

「お兄ちゃん、やっぱり、基地作るの、いけない事なのかな」

「まぁ、やっぱり戦争する為の基地だし」

それからシャークの下にやって来たのはミキーナとニュウニュウ。軽装の武装をしたミキーナと、体は人間だがキツネの耳と尻尾のついた女性の精霊ニュウニュウがやって来るとシャークは残念がるように小さな溜め息を吐き下ろした。

「何故誰も居ないんだ」

「んー、シャンバートに行けば何か分かるかな」

「シューガーに行った方がもっと分かるんじゃない?」

ニュウニュウの言葉にミキーナは頷くが、シャークは内心でまた少し落胆する。デュープリケーターなんて存在が行けば、ノイルやグラシアに迷惑がかかると。シューガーの軍人に話を聞きたかったが、仕方ない。

「ところで、シャークも密偵なの?」

ミキーナが尋ねる。

「密偵というのは、隠れて情報を集める事だろ?オレは別に隠れるつもりはない。ただ知りたいから情報を集めてる」

「そうなんだ。もし良かったら、協力しない?情報交換とか」

ミキーナの提案に、シャークがふと目を留めたのはニュウニュウの微笑み。

「構わない。あんたらも禁界の味方なんだろ?」

「うん」

「それなら協力するのは効率がいい。前に、山の内側の基地で、ロードスターの軍人から協力を頼まれた。何故禁界というものが存在するか、何故ロードスターの軍人は人間の状態でも禁界に入れるのか、教えて欲しかったらオレからも禁界の情報を提供しろと」

「協力、したの?」

「いや、断った。だが、ロードスターの軍人が何故禁界に入れるか、その情報は惜しかった」

「ンッフッフッフ」

シャークは冷静に黙る。急にニヤついて不敵な笑みを見せたミキーナに。隣ではニュウニュウが少し困ったような笑みになる。

「良いこと考えた。シャーク、いっそのことロードスターに潜り込んじゃったら?」

「それは、スパイという事か?」

「大丈夫かなぁ」

「大丈夫だって。それに禁界がどうやって出来たかは、人間なんかより精霊に聞いた方がいいし、ロードスターの人達から何で禁界に入れるのか情報が引き出せればこっちが有利になるし」

「情報を引き出す、か・・・」

「それじゃ、密偵をする上でのコツを教えてあげよう」

シャンバートのトニカ。大規模工場の爆破の件で、シャンバートのマスコミは例の鉄筋類の保管庫に群がっていた。散らばった鉄筋は片付けられたが、大穴の空いた壁はそのままだ。シューガーの軍人達とシャドウの人間達がマスコミの動きを警戒する中、そこにパッとダークエルフ達も現れ、マスコミにバレないようにマスコミの動きを監視する。警察には事故で処理させたし、マスコミにだってただの事故だと説明している。けどマスコミはしつこく、爆発の事を報道した次の日は“爆発の跡”を報道していく。ホールはとりあえず移動したが、基地建設にとってこんなに都合のいい場所はない。だから出来ればマスコミが寄って来なくなった後で、また粛々と作業を再開したい。そんな状況を遠くから眺めているのはテルビオとシークフィン。

「一体、誰があんな事」

「誰だろうねー」

「でも、考えてみたら、ああいうの遅かれ早かれいつかは起こったんじゃないかな。むしろ翼人が嫌いな人の方が少ないし。なぁ、捜せないかな、多分味方になれるかも知れないし」

「そうだねー。じゃあ捜してみるよー」

ダークエルフに送って貰い、1人の軍人がシューガーのサルマン基地に戻った。その足で向かったのは研究室。

「あ、ちょうどいいところに。完成しましたよ。ギガスアーマー。最終調整も完了しています」

「そうか、ではすぐに実戦訓練に移ろう」

そんな時だった。また1つ、ウパーディセーサの力を我が物とし、独自の進化を遂げたのは。その国はクージ。サクリア、ロードスター連合王国の両国と面していて、外交関係は悪くない。しかしクージには1つ問題があった。それはその大陸で1番と言えるほど、テロ活動が盛んだという事。クージの国土はロードスター連合王国よりも大きい。3つの国が合わさった国よりも大きいクージには広大な砂漠がある。そしてそこは、世界的にも有名な治安の悪い貧困地帯。砂漠地帯はロードスター連合王国やサクリアからは遠く、クージの主要都市が間にある為、砂漠地帯の紛争やテロがロードスター連合王国やサクリアに直接被害を及ぼす事は滅多に無い。ニュースとして世界に駆け巡ったのは、砂漠地帯に流入してしまったウパーディセーサ・ブラックに対抗して、クージ政府は「レーヴァテイン」を作ったという事。ベースはウパーディセーサ・ブラックだが、1番の特徴は尾状器官が無く、エネルギーの噴射口が直接背中にあり、片腕だけがまるでメロンのように網目状に線が浮き上がってる、という事。名前の由来は分かりやすいように“世界を救う武器”という意味合いを込めたから。当然の如くウパーディセーサ・ブラックより強く、砂漠地帯の更なる治安悪化を防ぐと世界から期待された。

テントにはテレビは無いので、ケイシンはそんなニュースなど知る由もなく、今日もまた炊き出しの列に並び、サンドイッチと野菜カレーを夕食にする。

「母さん、オレ、バイトするよ。ギフト券貰えなくなっちゃったし」

「・・・大丈夫。もうすぐ国から支援金が貰えるから。お金が入ったら、田舎の安い家賃のところに引っ越すから」

「お金ってどれくらい貰えるの?」

レイトがそう聞くと、クレインは期待を募らせるように柔らかい笑みを見せる。疲れてるのは分かってるけど、母の笑顔にケイシンの心は無意識に落ち着く。

「家も無くなったから持ち物とか身分証も無くなっちゃったでしょ?でも今朝、ようやく身元が整理出来たみたいで、役所から書類が届いたの。1ヶ月後に、1300万くらい貰えるんだって」

「それってどれくらい?」

「まぁ、田舎の安い家ならすぐ買えるくらいかな」

「どれくらい田舎?」

「どれくらいだろうね。行ってみないと分からないよ」

「でも仮設住宅ってタダなんじゃないの?」

「そうだけど、仮設住宅までずっとテントだよ?いいの?」

何となく食事の手を止めるケイシン達。発電機が置かれて電気は通ったけど、キッチンとかトイレとか、お風呂も無い。すごいと思ったのは最初だけ。そろそろちょっと飽きてきたと言えば飽きてきた。そんな時にケイシン達の下にやって来たのはミルクとチーズ。クレインが顔を向けると2匹は揃ってお座りする。

「もしかして、2匹と離れたくないとか?」

「何ていうか、公園もあるし、ご飯はすぐ食べれるし」

「そんな事言ったって、仮設住宅はずっと住める訳じゃないんだよ?」

「え?」

「お金を貰って、新しい家に住めるようになるまで住んでいいよって事で、お金を貰ったら新しい家に引っ越さないとだめなんだよ」

「そう、なんだ。やっぱり、田舎に行かないとだめかな」

「少しでも家賃が安い方がいいでしょ?」

「クウン」

ミルクが鳴くとクレインはミルクの頭を撫でてからケイシンを見る。何となく言いたい事は分かる。出来ればここに居たいって言いたいのだろう。ケイシンは、レイトが産まれて、離婚してから、大人しくなってしまった。言いたい事を言っても、叶えてあげられる余裕が無くなったと、ちゃんと理解してしまった。確かに、1300万あればこの近くの家賃でも何とかなるだろうし、ローンを組めば家だって買えるかも知れない。いくら街の穴でも、やっぱり子供はすぐに順応しちゃうんだな。

「家賃が高いならオレ、バイトするし」

「じゃあ、お金貰ったら、この近くの家、探そうか」

「いいの?」

レイトがそう言って笑顔を咲かせるとケイシンも驚きと期待を伺わせるように顔を上げ、そんな分かりやすさにクレインは仕方がないと小さく頷く。夕食も食べ終えた頃、街の穴にシューガーの軍人達がやって来た。もうすぐに日も落ちようという時で、その3人の軍人達の表情は軍人らしく冷たく見える。そうケイシンが何となく誰かを捜してるような軍人達を見ていると、それからその軍人達はケイシンの下にやって来た。同時に1枚の男性の写真を見せながら。

「君がトロフィー公園で、この者と話していたとの情報を得た」

写真の男性は、正に基地を壊した人だった。ケイシンの「あっ」という小さな表情の変化に、写真を見せている軍人はまた眼差しを鋭くさせる。

「会ったんだな?」

「ちょっと話しただけだけど」

「何を話した。どういう繋がりがある」

「あっちから話しかけてきただけだけど。何って、オレが、もし基地建設が再開したらまた襲うの?って聞いたら、当然だって。あと・・・」

「何だ」

「必ずシューガーを潰すって」

明らかに軍人達の表情は怒りを宿らせていく。自分のせいじゃないが、まるで自分が怒られそうだとケイシンは緊張する。

「仲間に誘われたりしたか?」

「え、全然」

「他に何を話した」

「それだけ」

当然、軍人はあの人を捜してるはずか。軍人達が背中を向けて行き始めてすぐにクレインがケイシンの腕を掴み、まるで危ない人から離すように引き寄せる。

「何かしたの?」

「いや、基地をさ、壊した人と、さっきトロフィー公園で話しただけなんだけど」

翌日になると、街の穴には朝から軍人の姿があった。きっとあの人を捜してるんだろうと、ケイシンはちらちらと歩き回る軍人を見ながら炊き出しの豚汁を食べていく。炊き出しの場所からトロフィー公園までは約300メートルくらい。食事を取っているテーブルからはトロフィーは見えるが、花壇の場所に誰かが居ても遠くて分からない。だからケイシン達は、その事に気が付くのに少し遅れた。爆発と悲鳴。ケイシンは遠くに見える、あの高く立ち上る爆炎をただ目に留めた。

「居たぞ!」

聞こえてきた軍人の声。ケイシンは何となくあの人の横顔を思い出した。レイトとクレインも、他の人達も気にしてはいるが食事の手は止めない。

「ケイシン」

クレインの呼び掛けで我に返ったケイシンが豚汁を啜った時、爆音、衝撃音、それらがこっちの方に近付いてきた。飛んできて転がった1人のギガスの姿を添えて。それが軍人かあの人かは分からないが、直後にそのギガスに向かって赤く光る小さな何かが飛んでいき、そのギガスを着弾と爆発でまた吹き飛ばした。

「2人共早く」

豚汁を食べ終えたところでクレインはケイシン達の手を引いて避難する。その最中振り返るケイシン。その眼差しは倒れ込んだまま動かないギガスを捉えていた。

「2人共、テントから出ちゃだめだからね」

「テントが巻き添えになったら?」

「そ、そしたら、病院に来て」

「・・・うん」

こんな時でもクレインには仕事があり、休む訳にはいかない。そうクレインが去っていった後、2人はテントを出た。すぐにレイトがテントを出たのでケイシンが追いかけたのだ。

「レイト」

「僕達ギガスなんだから、死なないよ」

遠くでは小さく、高々と立ち上る爆炎が見える。どうやら戦いは続いてるらしい。

「お兄ちゃん、あの基地壊した人かな」

「そうだろ、きっと指名手配されてるだろうし」

「あ、ミルク」

ケイシンが振り返った頃にはミルクの姿は無い。すでに追いかける為にレイトは走り出していて、ケイシンは慌ててレイトを追いかけた。

「ミルクっ」

テントの列の中でレイトが呼び掛けるが、振り返ったミルクはクウンと鳴き、ものすごくそわそわしていた。

「一緒にテントで隠れてようよ」

しかしミルクは首を横に振り、ケイシンはふと1匹だけのミルクを見る。

「チーズは?」

「クウン、ワン」

「もしかして、はぐれた?」

「ワン」

「そんな、すぐに探さなきゃ」

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