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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「壁を越えて」中編

「フ、フラミンゴ・・・」

「普通のフラミンゴじゃないよ。みんなに愛されるフラミンゴだよ」

「何で?」

「えっほら、この毛並み、普通のフラミンゴ達がみんな見てくる」

まるでアニメのキャラクターかのように、あり得ない間接の動きで、そのフラミンゴは右翼を広げてひらひらさせる。

「フラミンゴのみんなに愛されるって事?」

「うん」

「そっか。確かにその頭も目立つよね」

お尻をはたきながら立ち上がるハロナ。ようやく気持ちも落ち着いてきて、それから呼び掛けたら本当に出てきた精霊とやらをジロジロと眺める。

「そんなに珍しい?」

「だって私、異世界から来て、初めて見たから」

「そうなんだ。私、エリミール」

「わぁ、それっぽい名前。私、ハロナ。あの、精霊さんにお願いがあるの」

「うん、なーに?」

「学校の犬と、ウチの犬、生き返らせて欲しいの。事故に巻き込まれて、何も罪もないのに死んじゃって可哀想で」

「名前は?」

「えっと学校の犬達の名前はミルクとチーズ。ウチのはサン」

すると何やらどこという事なく、エリミールの眼差しは空へと向けられる。しかしその不思議な挙動は何かの前触れかと、ハロナは勝手に期待する。

「あ、まだ間に合うかも」

「え、ホント?」

「動物ってね、生まれ変わるのが早いんだよ。だからあえて生き返らせる必要もないんだけど、でもそんなに思い入れがあるならいいかな」

「あの、そのまだ仕事の途中だから、終わるまで待って貰えないかな」

「うん、いーよ」

思わず笑みを溢すハロナ。フラミンゴなのに、まるでエリミールも笑顔を見せたようにハロナは感じた。それは心で認識する笑顔。それから夕方になって仕事も終わり、ギフト券も貰ってケイシン達と共に、学校があった場所。ハロナが頷くと見つめ合っていたエリミールも頷き、そして何もない平地から、2匹のバーミン・コリーが現れた。どよめく周辺の人々。変わったフラミンゴにすでに人々の目は集まっていて、ハロナが2匹を呼び、駆け寄ってくるという奇跡の瞬間を前に人々は更にざわめき出した。

「ワンッワンッ」

「良かった2匹共」

「でも、誰が世話するの?」

ハロナに問いかけるレイト。

「そりゃあここに居るみんなじゃない?」

「じゃないって、ハロナが世話するんじゃないの?」

「だって私引っ越しちゃったし。それに2匹もここを離れたくないでしょ?」

すると2匹はその場を見渡した後、ケイシンとハロナを見てからエリミールを見た。

「学校は?だって」

優しく2匹を撫でるハロナ。

「無くなっちゃったんだよ。人間もみんな家が無くなっちゃって、でも生きてれば何とかなるでしょ?」

「どうやって生き返ったんだよ」

驚きに染まった顔でそう言葉を投げてきたのはケイシン達と同じ学校の男性。

「精霊に頼んだの」

人々の目がエリミールに向けられ、その眼差したちが少しずつ渇望を宿らせていく。自分も自分も、そうやって誰もが欲を募らせ、だんだんと空気が変わっていく。

「魔法なの?」

誰かが尋ねる。

「うん。エリミール、ウチの犬もお願い」

「うん」

やって来たのは高層マンションがあった場所。ケイシン達、ミルクたちも何となくついて来て、そしてハロナの目の前にスタンダード・プードル系とドーベルマン系の雑種犬、サンが現れるとそれはもうテレビで取り上げられるくらいのニュースになった。他にも何匹かの犬や猫が生き返り、少しは街の穴も賑やかになったが、ハロナは案の定マスコミのカメラに捉えられ、マイクを向けられる。

「何故精霊とコンタクトが取れたんでしょうか」

「えっと──」

異世界に行った事は勿論言えないので、まるでインタビューに緊張しているだけみたいに戸惑うハロナはふとエリミールと目を合わせる。しかしエリミールもただハロナを見つめている。

「精霊さんから、会いに来てくれたから、私は、何も」

そう応えられたリポーターはすると恐る恐る、そのマイクを変わったフラミンゴに向けた。

「彼女とは、どういった経緯で」

「精霊と、人間やエルフとの出会いは波長で決まるんだよ」

「波長で・・・それは、引き合わされるって事なんでしょうか」

「うん。ハロナはたまたま異世界に来たかも知れないけど、誰しも出会いには運命があるんだよ」

「異世界、行ってたんですか」

再びハロナに向けられるマイク。するとハロナはやっぱりただ緊張しているだけみたいに慌て出す。

「何かね、軍が異世界に基地作ってるんだって。それでギフト券を報酬にして手伝わせてるの」

口が半開きのハロナ。──え、何、精霊って天然なの?そう固まってるハロナを見ているケイシンもヤバイ事を言ってしまったと内心で「うわぁ」と呟く。

「それは、民間人のギガスに報酬を与えて、秘密裏に軍事施設を作らせてるという噂の事ですね」

「知ってるの?」

「我々記者も必死で仕事してますから」

「そうなんだ。じゃあ隠す必要ないね」

いや、精霊が勝手に言った事だ。ハロナはそう遠くを見た。

「他には何かご存知ないんですか、異世界の基地建設について」

「ううん」

相手がフラミンゴだからか、円らな瞳だからか、そう応えると記者達は満足げに帰っていった。その記者達は街の穴の人の暮らしを撮影していた人達で、1時間後にはもうテレビで放送された。それをベンダンの高級住宅のリビングで見ているエリミール。

「あ、私だ」

「本当はね、異世界で基地作ってる事、言っちゃダメって軍から言われてるのよ」

「私は言われてないよ」

「うん、そうだよね。だから──」

観葉植物の隣で、まるで置物のように立っているエリミール。冷蔵庫から飲み物を取りながらハロナはリビングのソファーに座る。

「きっと、これで良かったんだよ」

翌朝、ベンダンの家に2人のスーツの男性がやって来た。そこは高級住宅でハロナが住んでいる家。インターホンが鳴ると応対したのはハロナの母親だった。

「シューガー軍の者です。ハロナさんはご在宅ですか」

「えぇ、何のご用でしょうか」

軍人はみんなそうなのかというぐらい威圧感のある静かな眼差し。ハロナの母親はモニター越しでさえ緊張する。

「昨日のインタビューについて、話をさせて頂きたい」

「この後出かけるので、手短にお願い出来ますか?」

「お時間は取らせません」

「どうぞ」

ダイニングテーブルに案内し、紅茶を出すハロナの母親。2人の目の前にはハロナが居て、広いリビングダイニングにはエリミールの姿はない。来て早々、1人の男性が1枚の紙をテーブルに出した。

「精霊とはどうやってコンタクトを取ったんだ」

「私はただ、呼びかけただけで、そしたら応えてくれただけで」

「呼びかけたって?どうやって」

「何も特別な事はしてません。ただ呼んだだけですけど」

小さく頷いた軍人の男性。スーツだけどやっぱり滲み出てるものがあるのか、静かに頷いただけなのに何となく空気が重たい。

「今現在に置いて、ギガスの遺伝子を取り除く方法が確立されている。この紙は同意書だ。君は未成年だが、情報漏洩を引き起こしたのは間違いない。普通なら反逆罪になってもおかしくないが、ギガスの遺伝子排除薬の治験者になる事で許してやる。だからここにサインしなさい」

ふとハロナは記憶を過らせる。どんな仕事かって聞かれたから、ついエリミールに話してしまった。それでエリミールがカメラの前で喋っちゃったのなら、やっぱり、私のせい。

「治験って、実験台じゃないですか」

ハロナの隣に座っていた母親が詰め寄るように問いかける。

「問題ありません。ギガスの遺伝子排除は成功しています。ただ完成された薬を初めて使うのがお嬢さんというだけです。お母さん、お嬢さんにずっとモンスターでいて欲しいですか?お母さんだって、人間に戻りたくないですか?」

「それは・・・」

「本質的にはギガスの犯罪者をギガスでなくす為の薬ですが、人間に戻りたいという方々にも対応する予定であります」

威圧感の強い方、敬語を使う方、そのバランスの取れた2人を前にハロナの母親は黙り込み、2人に見つめられるとハロナは名前を書き始めた。

「この後、転校先の学校に見学へ行くんです、その後でもいいですか?」

「構いません」

確かにそもそもなりたくてギガスになった訳じゃないし、これから別にギガスの力を使って何かをしたい訳じゃない。でも何か、罰として人間に戻るなんて、変な感じ。仮にギガスでなくなる薬が普通に配られたなら、私は普通に人間に戻るだろう。エントランスの中央に大きな女神像が置かれていたり、地面もコンクリートで舗装され、花壇も整備されたまるで公園のような校庭を歩きながら、ふとそんな事を思った。

「ハロナ、行くわよ」

「うん」

家に帰ってきたのは夜だった。行きは転移出来ても、帰りはもう出来なくなっていたから。転移のし方は基地建設の際に軍から教えて貰うから、ただギガスになっただけの人は魔法のやり方なんて知らない。我流でやる人はいるけど。だからママも魔法使えないし、というかママはギガスに変身した事すらないし、何だか人間に戻ったっていう実感はない。だって、普通に人間だし。明日はただの手続きだし、終わったらミルク達に会いに行こうかな。そう自分の部屋のベッドの上で考え事している時だった、ハロナが思わず起き上がったのは。

「エリミール?」

〈うん〉

視界に入ったのは、キラキラだった。だから飛び起きた。けどそれはエリミールだと何となく分かる。でも──。

「どうして、そんな、まさか消えちゃうとか」

〈違うよ。普通の精霊はね、人間の目には見えないんだよ〉

「そんな、そんなの、やだよ。普通の精霊って?」

〈クラスがあるの。私、まだハイクラスじゃないから。でもこれからもこうやってお話出来るし、私の力を借りれば魔法だって使えるし。変わらないよ〉

「え、魔法使えるの?」

〈うん。だから、大丈夫だよ〉

ギガスという異物は取り払われた。でも時間が戻って何も無かった事になったとかそういうんじゃない。──きっと、これで良いんだよね。

翌日、転校の手続きの書類も渡し終え、それから街の穴。確かに私自身が転移出来なくても問題なかった。霊匣っていうものになったペンダントにほくそ笑み、そしてキラキラになっちゃったけど転移させてくれたエリミールに笑みを浮かべ、ハロナは街の穴に並ぶ屋台の前を歩いていく。軍が民間人に基地を作らせている事への反対運動が行われている。ギフト券という日当は貰ってるし、そこは問題じゃないけど、やっぱりママの言った通り、それは戦争に荷担させているという事だから。

「ミルク、チーズ」

学校があった場所から少し遠いけど、ハロナの姿を見つけて2匹が駆け寄って来た。驚いたように思わず名前を呼んでしまう間にも、2匹は嬉しそうにはしゃいでいく。

〈散歩してたんだって〉

「2匹だけで?」

「ワン」

すると2匹は歩き出し、背中を向けて顔だけ振り返る。それはまるで一緒に行こうと誘ってるみたいに。ついていってみると、そこはモニュメントのある、通称トロフィー公園。花壇が置かれ、高さ15メートルの木が植樹され、その大木の周りには芝生も植えられた。芝生に座り込む2匹。

〈ここがお気に入りだって〉

「そっか」

遺伝子操作技術の発展によって犬の知能は底上げされ、人間の会話は普通に理解出来る。そして今やエリミールが通訳してくれるから、2匹とこんなに会話したのは初めてだと、ハロナの心はただ和んでいた。

「おい何してんだ逃げ組」

振り返ったハロナ達。そこに居たのは3人のいかにも柄の悪い男達。それはケイシンとケンカしたスカイ達なのだが、今は同じクラスじゃない為面識はないハロナはただ小さな怒りを込み上げただけ。

「何なのよ」

「軍を裏切って、人間に戻ったんだろ?」

「別に裏切った訳じゃ」

「ここはギガスの村なんだよ。ギガスを捨てた腰抜けは入って来るな」

「何よあんた。ていうか何で私がギガスじゃないって」

「基地を作る時の決まりを破ったら人間に戻されるって聞いた。バカなんじゃないか?ギガス捨てるなんて」

「私の勝手よ。それに、ギガスじゃなくたって魔法使えるし」

「ワンッ」

「あ?」

〈いじめるなんて最低だって〉

「うるせえよ」

「ワンッ」

〈お前にいじめられた人達はみんな僕達に愚痴ってくるって〉

「だからうるせえ」

「ワンッ」

「うるせえ!吠えんなバーカ」

〈吠えてるのはお前だって〉

「チッ黙れフラミンゴ」

「あんた。ブレストン高校なの?」

「だから何だよ」

「別に。聞いた事ある。どうしようもないクズがいるって」

「お前、分かってるのか?お前は人間でこっちはギガスだぞ」

「だから何なのよ」

「は?」

「ギガスだから何なのよ。クズ」

変身するスカイ。また騒ぎが起きるかも知れないとケレルとイアンはそわそわするが、無言で歩み寄ってもハロナは強気にスカイを睨み返す。

「あ、思い出した、ワシニワ。あんた父親は警視総監だって言ったんだって?ふざけないでよね」

「あ?」

「警視総監は私のパパなんだけど」

「・・・・・は?アッハッハッハ!バカかお前、そんな嘘通じるかよ」

「証明しようか?」

「は?」

ハロナがポケットから取り出したのは自分のファブレットで、その待ち受け画面には壁にかけられた大きな警察のシンボルマークを背後に、警視総監らしく豪華な制服を着た男性と、その隣に立っているハロナ、という写真。

「ほら」

訪れた沈黙。ギガスなので表情は分からないが、それは戸惑って、負けを認めた沈黙だろうとハロナが勝ち気な微笑みを浮かべたその時、バチンッとハロナの頬は叩かれた。倒れ込むハロナ。吹き飛んだファブレット。

「ワンッワンッ」

「権力でギガスに勝てるって本気で思ってんのか?」

「スカイ」

落ち着かせようというケレルの呼びかけなど宙に浮き、それからスカイはハロナの胸ぐらを掴み、起き上がらせると、その爪の鋭さでワンピースが少し裂ける。

「おい何してんだ!」

「スカイ!」

大人が来て、ケレルの呼びかけもようやく耳に入り、スカイ達はすぐに逃げていく。

「大丈夫か!」

大人の男性が屈み、抱き上げるが、顔半面が血に濡れているハロナの意識は無く、その首はだらんと垂れる。

「大丈夫だよ」

エリミールを見上げる男性。すでに治癒玉が作られていて、男性ごとハロナの周りをクルッとしていく。3周した頃にハロナは意識を取り戻し、傷は完治した。

「すごいな、その魔法は」

「あれ、あいつらは」

「逃げたよ」

「あの、ありがとうございました。ってあれ、先生」

「あぁ、まったくワシニワ」

心配そうに鳴きながらミルクたちがハロナの顔を舐めると、ハロナも2匹を撫で、そこでようやく破れたワンピースに顔をしかめる。

「このフラミンゴ、テレビに出てたやつだろ?フラミンゴが魔法でお前の傷を治してくれたんだ」

「そっか、ありがとうエリミール」

〈うん。でも無理しちゃだめだよ〉

「うん。ごめんね」

すると2匹はエリミールを見上げる。

〈精霊自身の意思で生き物を生き返らせるのは原則としては出来ないんだよ。生き返らせて欲しいって頼まれないと。ミルクがね、もしハロナが死んだら僕達が精霊に頼んであげるって〉

「ありがとう」

「気を付けなさい。お前はもうギガスじゃないんだろ?」

「はい。でも、パパに言いつけてやるんだから」

「いやだからそういう事はやめなさいって。通報は俺がするよ。そうすればお前に報復が向かないだろ」

去っていった先生のクロキス。それからハロナは木に寄りかかって座り込み、無意識にチーズの背中を撫で、ギガスか人間か分からない通行人達を眺めていく。

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