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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「壁を越えて」前編

「テルビオ・ムラクレンだな?」

ギガス達が人間に戻り、3人が軍人だという事が分かるとテルビオは生唾を飲み込んだ。ギガスという見た目より、やっぱり軍服の方が妙に威圧感があると。

「今まで仕事を放棄していたな?何をしていた。上界を監視していたが見付からなかった」

「監視、してたん、ですか」

「当たり前だろ。つまりお前は上界の外に居た事になる」

「えーっと、お花畑」

「は?」

「エルフの国で、観光を」

重々しく、そして呆れたような溜め息。しかしそれでも予測出来ない事ではない。現にあと1人、行方不明者がいる。すると軍人達からは叱りつけてくるような威圧感が薄れ、テルビオは内心胸を撫で下ろす。

「もういい、戻れ」

「あの、止めても、いいですか。勿論報酬とかいらないんで」

「・・・まさか、翼人側に寝返ると?それにつまりそれは自分の世界に帰れなくていいという事だ」

「この世界で、生きていく覚悟は、出来てます」

「本当にそれでいいのか?」

心配するような言葉ではあるが、再燃した威圧感とどことなく殺気の込められたような眼差しに、再びテルビオは生唾を飲み込んだ。

「そんな事許可する訳ないだろう。つまりお前は、我々にとって危険因子だ。強制送還し、ギガスの遺伝子を取り除く」

「え・・・・・。そんな事、出来るの」

「すでに方法は確立されている」

再び3人はギガスになり、腰が引けながらもテルビオもギガスに変身する。

「力が同じでも3対1だ。抵抗出来ると思うなよ?」

1歩近付く軍人、1歩後ずさるテルビオ。しかし直後、テルビオの足は固まった。急に重たくなった足を思わず見下ろすと、足元からは氷柱が生えていた。そうかと思った瞬間から頬には拳が叩きつけられていた。視界がぐらつくが、すでに下半身が凍りついているからテルビオは倒れる事すら出来ず、それから1人がテルビオの首を掴む。

「大人しくしろ。ここで死ぬか、帰るか、3秒待ってやる。1・・・2・・・」

「死にたく、ない」

「だったら大人しく従え」

すでに両腕は後ろに回され、凍らせられて、まるで手錠でもかけられたように拘束されている。首を後ろに回す事すら出来ず、テルビオはシークフィンに助けを求める眼差しを向けられない。でももし呼んでしまったら、きっとシークフィンも狙われてしまうかも。そう思って、テルビオは声を出せずにいた。ようやく足元の氷は溶かされ、でも腕は凍ったまま、テルビオは歩き出した。ふと振り返るがそこにはシークフィンの姿は無かった。

「あれ」

「黙って来い」

──まさか、自分だけ逃げたのか。精霊も転移出来るんだよな。でも、特定の誰かの味方とかしないものなのかな、精霊って。でも、その方がいいか。



第38話「壁を越えて」



それから人間に戻ると手錠をかけられ、テルビオはシャンバートの基地に戻って来た。基地では未だにギガス達が消えたり戻ったりしている。その中で民間人は一旦家に帰る為、普通に仕事をして帰るようにぞろぞろと歩いていた。自分だけ手錠をかけられている姿に、妙に目線が痛い。ホールで自分達の世界に戻ってくると、テルビオはそのまま基地内のとある部屋に閉じ込められた。そこは独房。いかにも牢屋みたいな場所ではなく、質素ではあるが清潔感はある、違反を行った軍人を入れる懲罰房だ。きっとこの後、研究室みたいなところへ連れられて、白い防護服の人達に囲まれるんだろう。そうテルビオは静かに絶望していた。

「やあ」

「・・・・・えぇええぇ!?な、な」

「随分と小さい部屋だねー」

「だめだよシークフィン。ここに居たら捕まっちゃうよ」

「へー、捕まっちゃうのかー。あれでもここに居るならもう捕まってるんじゃないかなー」

「そういう冗談言ってる場合じゃなくてさ。見つかったらヤバイよ」

「大丈夫だよー」

一瞬の静寂。気が付けばそこは草原だった。

「・・・どうして、助けてくれるんだよ」

「だってー、友達じゃん」

「ありがとう。でも、もう家には戻れないな」

「こっそり戻るくらい出来るんじゃないかなー」

「まあ、それはそうかも知れないけど。きっと指名手配されちゃうし、逃げた事が知られたなら最初にやる事は家に行く事だろうし。そしたら、家族も逃げた事知って、心配する」

「じゃあ、あの小さい部屋に戻るー?」

「いや、ギガスじゃなくなったら、ステカを守る為に戦えなくなる。きっと、これで良かったんだよ」

シューガー、サルマン山脈の軍事基地。ケイシンとレイトは基地内を歩く。行きは案内されて仕事場への道のりを進むだけで自由じゃなかったが、帰りは自由時間だから基地を見学し放題。しかし“何とか研究室“と書かれた部屋を覗いたところで怒られてしまい、笑いながら2人はそして転移で家に帰った。しかしそこは例の街の穴に立てられた、最新のグランピング用テント。まだ仮設住宅でさえ間に合っていないのが現状で、シューガー政府は街の穴に家があった世帯を優先して周辺の空き家を提供したり、最新のテントを支給したりと対策を取っている。自分で家を探す人も多く、仮設住宅の抽選倍率はそこまで高くはないが、ケイシン達の世帯はハズレてしまったので、仕方なくテントで寝泊まりしている。ケイシン達は母親との3人暮らしで、母親の仕事場である病院は辛うじて生き残ったものの、ケイシン達が通っている学校は見事に丸っきり消滅。転校しなければならないが、仮設住宅に入るまでは学費もままならないので、とりあえず母親のクレインは2人を基地へ向かわせたのだった。

「ただいま」

「うん」

「ギフト券、1人1日1万クローラ分だって」

「うん、明日もお願いね」

「どうかした?」

レイトが尋ねる。疲れてはないように見えるけど、落ち込んでいるから。するとクレインはレイトを抱き寄せ、溜め息を吐いた。

「すごい疲れちゃった」

母親はナース。患者のお世話役、そう聞いているけどいつもどんな仕事をしているかなんて子供には理解出来ない。でもそう言うんだから大変な仕事なんだろうと、レイトは母を抱き締める。

「炊き出し、行こうよ」

ボランティアによる炊き出しの列に並び、パンと豚汁を貰い、設置された簡素なテーブルで夕食を取っていくケイシン達。支給されたテントは例えばキングサイズのベッドに3人用ソファーを入れても余裕に過ごせ、完全防水、完全UVカット、高性能な防音機能があり、何かもうすでに仮設住宅なんじゃないかと言われるくらいな高性能テント。その財源は7割が義援金。それに加えて世帯収入によって支援金も支給される。だからケイシン達のテントにはふかふかのカーペットが敷かれ、寝袋も高級なものが置かれている。しかしテントはテントで、さすがにキッチンやお風呂、洗濯機はなく、鍵も無い。やはりテントは家ではない。

翌朝になればまたパンと野菜スープ。いつまでもこれが続くのかと思えば、やはり余裕のある人は自分で家を探す方が賢明だろう。勿論母もギガスになったがそんな事を楽しんでいる余裕はなく、子供達の為にいつものように仕事をしなければならない。そう母が病院に行った後、ケイシン達は歩いていた。これから基地に行くのだが、何となく散歩気分で。

「よおケイシン」

2人の下にやって来たのはケイシンの同級生達。3人の同級生もギガスで、すると3人はケイシンを見下すような眼差しで微笑んだ。

「お前、基地に行ったんだろ?貧乏だもんな。金稼がないとだもんな?けどそんな事必要ねえよな?貧乏な奴には支援金が多く入るもんな?」

「だから?」

「ギフト券寄越せよ。要らねえだろお前らに」

「持ってない」

「は?」

「もう母さんに渡した」

「チッだったら普通に現金でいい、この前みたいに。支援金たんまりなんだろ?」

仮設住宅の建設現場、並んだテントを抜け、そして1台のパトカーが止まった。何故ならギガス同士がケンカしていると通報があったから。警察官の1人がギガスに変身し、その上に警察官のジャケットを着る。カッコ悪いとか言ってる場合じゃなく、そうじゃないと誰が誰か分からないから。

「こら止めなさい!」

警察官ギガスが怒鳴ればケイシン達は軽く吹き飛ぶ。それは威嚇でもあり、げんこつでもある。掴み合っていたケイシン達は見えない衝撃波に引き離され、「チェッ」っとケイシンの同級生が声を漏らす。

「変身を解きなさい。さもなくば弁解の機会は与えずに即時逮捕だ」

変身を解くケイシンとその同級生達。

「君達高校生か。最初に手を出したのは?」

指を差したのは、同級生だった。確かに先に手を出したのはケイシンだった。しかしすぐにレイトが声を上げる。

「あいつらが金出せって、ギフト券寄越せって、だから」

「うるせえよガキの言う事なんか誰も聞くかよバーカ」

しかし案の定、人間の警察官、ギガスの警察官の眼差しは同級生達に向けられ、レイトをバカにした同級生以外の2人がそわそわする。

「なあもう行こうぜ」

「あ?大丈夫だって、おい警察官、オレ被害届出すわ。最初に殴られたのはオレなんだから、それに父親は警察の上層部だ。お前ら下っ端だろ?さっさと逮捕しろよ」

「父親の名前は」

「お前ら下っ端じゃ分からねえよ。話した事もない。いいのか?オレに逆らって」

溜め息を漏らした人間の警察官。それは問題児を前にして、誰もが吐き下ろしてしまうもの。

「いいから言いなさい」

「あ?・・・いいんだな?ハハ、覚悟しろよ?」

「君こそ覚悟した方がいいな」

「あ?」

「問題児が子供に居たら評判が落ちる。近頃はそうなったらすぐに責任問題になる。給料の減額、左遷、最悪は解雇だ」

「そんな訳ねえだろ」

「ならその父親に告げ口したらいい」

「け、警視総監だぞ、いいのかよ」

「・・・フッ」

「何だよ」

「これ以上警察を嘗めるな、現警視総監には、娘さんしか居ない」

「ち、違う、そのもう1つ上だ」

「いい加減にしろ!!」

「・・・・・行くぞ」

同級生達が去っていく。すぐに虚勢を張り、すぐに嘘をつく問題児。しかし大人には敵わず、無様に逃げていくそんな姿を見送ると、警察官ギガスは人間に戻る。

「あいつの名前は分かるか?」

「同じクラスだったから。スカイ・ワシニワ」

「それで、先に手を出したのは本当に君か?」

「・・・まぁ」

「おまわりさん、この前だって」

「レイト」

「この前だって、何だ?」

「・・・さっきみたいに囲まれて、お金取られて」

「どうして警察に相談しない」

「母さんに、心配させたくない」

「おまわりさん、まさかお兄ちゃん捕まえないよね?」

「逮捕したところで正当防衛だ。名前は」

「ケイシン・オオカイト。こっちは弟のレイト」

「おまわりさん、どうしてあいつら捕まえてくれないの?悪い奴なのに」

「それなら被害届を出してくれないと、警察は動けない。それじゃあオレ達はもう行くから、くれぐれもケンカは程々にな」

「・・・はい」

去っていくパトカー。朝から面倒に巻き込まれた。まだ仕事まで時間はあるが、とりあえず基地には行こう。そんな事をケイシンが思った時だった、レイトがケイシンの袖を引っ張ったのは。

「ん?」

レイトが顔を向け、その目線を追いかけるケイシン。その先に居たのは同じクラスの女子、ハロナだった。まだこっちには気付いていない様子。ハロナは前にケイシン達の家に遊びに来た事があった。だからレイトは歩き出した。

「何してるの?」

携帯電話の画面と何もない地面を交互に見ているハロナ。レイトが話しかけると、レイトとケイシンに顔を向けたハロナは親しげに微笑んだ。

「ここよ。学校があった場所。ねえケイシンってどこに転校するの?」

「まだ決まってない」

「え!?ど、どうするのよ早くしないと留年よ?」

「お金無いし、母さんがギフト券欲しいって」

「そっか。1万クローラだもんね。私もお小遣い代わりにギフト券欲しかったけど、ママに反対されたのよ。だって戦争に参加するようなものだからって」

「ハロナも散歩?」

12歳の子供だし顔見知りだから、別に呼び捨てされるくらいはまあいいかと、ハロナはお姉さんらしく膝を曲げ、目線を下げる。

「うん、そんな感じ」

「じゃあ、オレ達、これから基地だから」

「ねえ」

呼び止めるようにそう言ったハロナの横顔は寂しげで、その眼差しはかつて学校があった場所に落とされていた。

「どうして、人間だけだったのかな」

「え?」

「生き返ったの。学校で飼ってた犬達、どうして生き返らなかったのかな。それにウチの犬も」

「そんなの、オレに分かる訳ない。じゃあさ、魔法で何とかしてみれば?」

「出来なかった。色々やったわよ。ネットで調べた魔方陣書いてみたり、祈ってみたり」

「じゃあ・・・精霊、とか」

「え、精霊って、どこに居るのよ」

「それは、ああ向こうの世界で見た。エルフと一緒に居た」

「精霊なら、生き返らせてくれるかな?」

「分かんないけど」

「ハロナ、どこの学校に行くの?」

「ベンダンよ。マザー・セリス女学院付属」

「お兄ちゃん知ってる?」

「知らないよ。聞いただけでお嬢様っぽいけど」

「ハロナ、お嬢様なの?」

「あは・・・まぁ、そうね。言ってなかったけど、私のパパ、警視総監だから」

するとレイトはケイシンを見て、それから2人はふと思い出した。

「ちょ、何よその目。嘘ついてどうするのよ」

「そうだよね、ハロナが嘘つく訳ないよね?」

「何なのよ」

「いやさっき、ワシニワ達がさ、警察官に向かって自分の父親は警視総監だって。でも警視総監には娘しか居ないって」

「何かあったの?」

「別に、ちょっとしたケンカ」

「そう。きっと、みんな、心が疲れてるのよ」

「いや、まあ、うん」

「何よ」

「別に、元々、ワシニワ達にはお金取られたりしてたし」

「そうだったの?言ってよ。そしたら私、パパに言うから」

「いやいいって、母さんに心配させたくないから」

「これからすぐ行くの?基地」

「うん」

「じゃあ私も行く。精霊に会いたい」

「いいの?」

「今日は暇なのよ。明日新しい学校の見学で、明後日から転校手続きで、実際に登校するのもまだ先だから」

ギガスになった民間人をスカウトする際、シューガー政府は仕事してくれたらギフト券を渡すと言うだけでその時点で仕事内容は言わない。そしていざ作戦に参加した場合、口外すれば厳しく処罰されるという署名をさせられる。それは1回だけ参加する人でも変わらない。それから、ハロナはケイシンと共にホールを潜った。しかし基地から基地なので、異世界感はない。指示された通り、パッと行ってパッと戻るという作業の中、ハロナは知らない場所に寄り道した。どこかの森林公園みたいに、見渡す限りの自然。これくらいの景色ならどこにだってある。やっぱりそこまで異世界感はない。

「あの・・・精霊さーん・・・」

「はーい」

振り返るハロナ。しかしそこには誰も居ない。カサッっと音がしてまた素早く振り返るハロナ。するとそこに居たのはポニテラだった。

「か、可愛い・・・あなたが精霊さん?」

「違うよ」

振り返ろうとした瞬間、横にはすでに何かが居て、ハロナは思わず「きゃっ」と尻餅を着く。そこに居たのはヘアスタイルがモヒカンみたいでとてもカッコイイ、メガネをかけた、毛先だけが金色のピンクフラミンゴだった。ハロナは思った。それは正に異世界感だと。

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