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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「見果てぬ空の向こう」後編

やっと会えたオレの女神。いや天使か。オレはステカに一目惚れした。ステカが、彼女はオレが好きみたいだと言って、応援してきた。そんなに言うならと付き合ったけど。そしてステカは空に帰ってしまい、オレは彼女とデートした。でもやっぱりステカが忘れられなくて、だからなのか彼女とギクシャクして、終いには何故かオレがフラれた。その翌年だった、カケベルに遊びに行ったのは。そしたらたまたま爆発に巻き込まれた。急に体の感覚が無くなって、このまま世界に溶けていくのかと不安に、いや、というより不安さえも消えていくのかと思った。けど気が付けば生き返っていた。街が無くなった事より、自分の中に巡る“力”の事の方で頭がいっぱいだった。一体、オレはどうしたんだと。ギガスになった人間を国が求めているって噂を聞いた頃、オレの下にもスカウトが来た。それは上界でのとある仕事に参加して欲しいという話。民間人は自由参加だと言われたけど、オレは来た。だって、きっとこれは、運命だから。今じゃこう思える。何でギガスになったか。それは、ステカに会いに行く為だ。

ステカは、苦笑いを浮かべた。覚えているかと聞かれたら、名前を覚えてるくらい。キューピッドは基本的に、誰かを応援するのが仕事。友達が出来る事は嬉しいけど、友達を作りに下界に行く訳じゃない。でも友達になれたら友達にはなる。でもキューピッドには決まりじゃないけど、暗黙のルールがある。それは人間と結婚はおろか、恋愛もしないという事。だって人間は、上に連れて帰れないから。そういう仲になっても、ただ寂しいだけ。逆にキューピッドが惚れられてしまう事はよくある。でもその度にちゃんと説明する。人間は、上には行けないと。でも今、その人間が、上に来てる。だからステカは困ったような眼差しをグラシアに向けた。

「オレその、ステカに一目惚れしてさ。それで、確かにこの姿じゃ何だし、そのとりあえず、1回、山の向こうで、デートしてくれないかな」

「ほんとにあたしで、いいの?」

「え、あぁ。オレじゃ、ダメなの?もしかして人間とはそういう関係になっちゃいけないとか」

「決まりじゃないけどね?普通は人間は上には行けないから、そういう関係にはならないようにしてるけど」

再びステカが困ったような眼差しをグラシアに向けた時、グラシアは優しく微笑んだ。

「先ずはテルビオの言うように、冷静に話し合ってみたら?でも、どうして山の向こうなの?」

「ほんとは地元のシューガーでデートしたいけどさすがにそれは止めた方がいいと思って。山の向こうならすぐそこだし」

「ステカ、大丈夫?もしかしてお腹空いた?」

若干フリーズしていたステカに、真剣な表情で問いかけるヴァナ。しかしいつものような突拍子もない問いに、ステカは我に返ったように落ち着いた。

「まだ大丈夫だよ。そのじゃあ、デート、しよっか」

一方その頃、禁界の森の見回りをしていたアーサーは1本の木から1つの果実をもぎ取った。それはラフーナという果実。球状で、全体にかけてでこぼこしている、そんな外見。それからおやつとしてラフーナをかじりながら歩くアーサーの前に2体のギガスがやって来た。お互いが存在に気付き、訪れる緊張。リッショウを発動させるアーサー。しかし直後、アーサーは首を傾げた。ギガスの1人がまるで人間のように後退り、転び、尻餅を着いたのだ。それは明らかに、殺気もなくただビビってるという印象だ。

「で、じゅ、じゅーぷりぺーたー」

「は?まさかお前らも、ただの観光客か?」

「お前らもって」

「さっきも来やがった。天使に会いに来たとか言って」

「どうしようお兄ちゃん」

コケた方がそう口を開き、アーサーは顔をしかめる。

「お前、子供か。チッ全然暇潰しになんねえな」

よく見ればコケたギガスは体格が小さい。そうアーサーがラフーナをかじる中、大きい方が小さい方に手を貸して立たせる。その時だった、ガサッと草が揺れる音がしたのは。目を向けるアーサー、2人のギガス。そこに居たのは1体のイビルだった。

「アーサー」

「ん、お前は」

「リーケー」

「おおリーケーか、お前も散歩か?」

「サンポ。ソレ、ダレ」

「ギガスって奴だ」

「おーい、待ってー、リーケー」

「ん?・・・・・おうグズィール」

「アーサー、あ、その人達、まさかギガス?」

「あぁ、けどこいつらは子供だ」

「ギガスって、繁殖するんだっけ」

「え?そうじゃねえ。人間の子供がギガスになってるって事だろ」

「そっか。何しに来たの?」

グズィールがそう聞くとアーサー、リーケーも顔を向け、小さいギガスが大きいギガスの背後に隠れる。

「オレ達も、別に翼人の世界ってどういうところか、見たかっただけで」

「じゃあ、私が案内してあげようか?」

「え・・・いいの?」

「いいよ」

表情は分からないが、2人のギガスは明らかに人見知り感を漂わせる。しかしアーサーはふと振り返った。その眼差しの先はグズィール。その顔はいつものように惚けたようで、でも最初の頃よりもずっと気楽そうだ。──グズィールも、もう普通に天使みてえだな。いや、そもそもそういう性格なのかな。

「その前に、僕も、この森散歩したいな。カブトムシ居るかな」

それからアーサーはラフーナをかじる。歩いていくグズィール、リーケー、2人のギガスを眺めながら。それにしても、今のも民間人だからいいものの、こうやって普通にギガスが入って来れるなら、侵略目的のギガスだっていつでも入って来れるはずだ。いつどこから、何人来るか分からない。もしかしたら一気に100人とか来るかも知れない。いくら1番強いリッショウが出来るようになっても、俺1人じゃさすがに分が悪い。グラシア達も体は人間と同じで、腹が空くからずっと見回ってられないし。どうしたらいいんだ。

パッと転移してやって来たテルビオとステカ。そこは禁界の外だが、地名も分からない、というより地名なんかないんじゃないかというほどの草原。ついさっきこの世界に初めて来た人間と、禁界の住人が、エルフヘイム圏内の草原にぽつり。何故ならテルビオはとりあえず中継基地建設地からは離れたところにと適当にやって来たから。キョロキョロしながらもテルビオが人間に戻ると、ようやくステカは思い出したように笑顔を浮かべた。

「うん、テルビオ、会った事ある。でも、何で別れちゃったの?」

「オレ、フラれたんだ。何でかは分からないけど。多分、ずっと、ステカの事考えてたからかも」

草原で2人きり。照れ臭そうにそう言ったテルビオを目の前にして、ステカも頬を赤らめる。

「やあ」

顔を向けるテルビオとステカ。直後にテルビオは呆れたように眉をしかめ、ステカは目を丸くして固まった。そこに居たのは、例の宙を浮くウサギっぽい姿の精霊だった。

「戻って来たんだねー」

「悪いけど、これからオレ達デートなんだ」

「へー、じゃあ仕事はサボったままなんだー」

「あ」

思い出したように声を漏らしたテルビオの顔を、ステカはふとした表情で伺う。

「仕事、サボってるって?」

「オレ、この世界には基地建設の為の作業員として来たんだけど、でも結局その基地は翼人の国に侵略する為のものだし、オレはそんなの作りたくないし、だからいいよ、サボったままで」

「そっか。この可愛いエニグマはテルビオの知り合いなの?」

「ボクはエニグマじゃないよー、精霊だよー、名前はシークフィン」

「あ、精霊さんなんだ。あたし初めて見た」

「いやだからさシークフィン、オレ達これからデートだからさ、2人きりにしてくれないかな」

「えー、せっかく良いデートスポット紹介してあげようかなって思ったのに」

「え」

「紹介してくれるの?せっかくだしお願いしようよ」

「そ、そうだね。じゃあお願いしていいかな」

「いいよー」

話を聞けば小さい方は12歳、名前はレイト。大きい方は16歳でレイトの兄、ケイシン。2人は異世界に行けるというので軽い気持ちで基地建設に参加したのだそう。レイトは歩きながら終始木々を叩く。レイト曰く、虫が落ちてくるから。しかし体組織が脆弱な生物は禁界では生きていられない為、虫が落ちてくる事は絶対にないが、そんな事など知る由もなく、それからレイトは1本の木の根元をほじくる。

「全然虫いない、何で?」

「森には、エニグマしか居ないってみんな言ってるよ」

「エニグマって?」

「大きい生き物だよ?」

子供の興味は移りやすい。そんな言葉を体現するように、グズィールの事を見て一瞬固まったレイトは木を叩く事などもう忘れたように歩み寄り、グズィールの肩甲骨辺りから伸びる尾状器官の1本を掴んだ。

「何これ」

そう言いながらレイトが尾状器官を引っ張ると、それは蛇腹のホースのように伸縮した。先端が3本指のようにパカッと開く尾状器官がレイトの腕を掴むと、まるでゾウの鼻のような吸い付きにレイトは笑った。

「レイト、あんまりいじくるなよ」

「私は別に大丈夫だよ?」

しかし全身黒い体毛に覆われ、ゴリラをベースに鳥の骨格が合わせられたような生き物、イビルには子供の興味は向けられず、レイトが少し遠目からリーケーをジロジロと見ている時、リーケーはふと鼻を利かせた。

「ア・・・ニンゲン、ニオイ」

「え、人間の臭い?・・・うん、確かに。例の軍人かな」

「え、近くに居るのか。ヤバイ、離れなきゃ、仕事サボってる事バレたら怒られる」

「どうして怒られちゃうの?」

一行は立ち止まる中、グズィールがそう聞くとケイシンは「え?」と固まった。何故仕事をサボったら怒られるのか。しかもそんな変な問いかけを円らな瞳でしてくるから。

「だって、仕事をサボるだけじゃなくて、デュープリケーターと仲良くしてるところなんか見られたら、情報漏洩とか言われて、とにかくヤバイんだよ。レイト、森の探索は止めて早く翼人の国に行くぞ」

「・・・うん」

「そうはいかない」

ビクッとするケイシン。同じようにびっくりしてグズィール達も振り返ると、そこには1人のギガスが居た。いつの間に、そしてどうしてここが。ケイシンはそう血の気が引くのを実感する。

「上界探査前線基地から森を監視してみれば、本当に仕事をサボってるとはな」

「まさか、民間人を全員監視してるのかよ」

「個人を監視している訳じゃない。ただ翼人に会いたいが為に基地建設に参加する者が出てくる事くらい予測してる。お前達、名前は?」

「・・・聞いてどうするんだよ」

「強制送還する。拒めば公務執行妨害だ」

「・・・そんな。でも、この作戦って、極秘って聞いたけど」

「それが何だ」

「こ、公表してやるぞ、子供を強制的に働かせたって」

「何を言ってるんだまったく。お前達民間人は自由参加だろ。それに子供の言う事を誰が信じる。報酬はいらないのか?親に言い付けるぞ」

「そんな。ちょっと翼人に会うくらい、いいじゃないかよ」

「ダメだ。先ず仕事をしろ。いらないのか?ギフト券。親が悲しむぞ」

まるで親に叱られてしまってるように、そしてケイシンは黙り込んだ。

「ちゃんと仕事すればサボってた事は内緒にしてやる」

そんな時、そこに2人のギガスが山の方から飛んできた。木々の上から降りてきたその2人は意識を飛ばし、同類を見つけたから近寄ったのだった。

「おー、デュープリケーターが居るぞ。あんたらも抜け出してきた口か?結構居るんだなぁ」

「お前達、名前は」

「え?・・・オレはバルオ、こっちはショーケイン」

「今すぐ戻って貰おう。オレは上界探査前線基地から、お前達のようなものを監視している者だ」

「げっ・・・軍人、監視してんのかよ」

「当たり前だろ。まだギガスは人手が足りないんだ。臨時とは言え民間人の素行を信用などしない。もし命令に背けば公務執行妨害だ。勿論報酬もない」

「くっ・・・何だよ、仕方ねえ、行こうぜ」

素直に戻っていく2人のギガスを見送った後、その軍人はケイシンに顔を向ける。それはケイシンの方から動く事を促す、大人の無言の威圧。

「レイト」

沈んだ声色で声をかけたケイシン。するとレイトも落ち込んだ様子で兄に歩み寄り、そして2人はパッと消えた。

「ちょっと三国の人と会うくらい良いんじゃない?」

「・・・・・情報漏洩を防ぐ為だ」

素っ気なくそう言うとそのギガスはパッと消えた。グズィールの真っ直ぐな眼差しになど見向きもせずに。それから中継基地建設現場では号令が下された。それは民間人ギガスに対する注意、そして警告。その為に作業を一時中断し、人数を確認するというもの。変身を解いて整列していく作業員達。名前を確認していく軍人。名前を言えばタブレットが音声を認識し、自動でリストにチェックを入れるから人間が目で探す必要はない。そうして軍人が最後の1人の名前を言って、タブレットが認識する。結果、チェックされてない民間人が2名検出された。その情報を基に軍人が数人、上界探査前線基地に赴き、意識を飛ばしてサボってる民間人を捜す。そんな事になっているなんて知る由もなく、テルビオはお花畑を眺めていた。勿論隣にはステカが居て、2人の傍にはシークフィンが居る。

「キレイでしょー、ここには野生の花と育てられた花、合わせて30種類の花が咲いてるんだよ」

「すごい、そもそも三国にはこんな広い公園ないし、こんなの初めて」

「シークフィンって、そういうガイドなの?」

「ううん、そういう訳じゃないよー」

「テルビオ、どの花が好き?」

「えっと・・・・・これかな」

「それもいいよね、あたしはこの緑の花かなぁ」

「種、持って帰ったら?」

「え、いいのかな」

「でもー、禁界の外からは持ち込めないんでしょー?」

「普通はそうみたいだけど。ユリっていう天使がね、異世界から食べ物の種を持って帰る時、種にちょっとだけ力を込めるとちゃんと育つって言ってたよ」

「へー、禁界の力を宿らせるのかぁ。それなら問題ないねー」

中継基地建設現場。上界探査前線基地から戻ってきた軍人は首を横に振った。確かに翼人は人気だから、仕事をサボって見に行こうという事は予測出来る。しかしここは異世界。同じように惑星であり、沢山の文明がある。つまり、冷静に考えれば、山の向こう以外の全てにも興味を持って当然だという事だ。さすがにこの世界全てを監視する事は無理だ。上界探査前線基地には再び監視の目は置くが、建設現場の責任者の軍人は一旦諦めて作業員達を眺めていく。

「今日は楽しかったね。ありがとうシークフィン」

「いいよー」

「テルビオも、ありがとう。デート、誘ってくれて」

はにかむステカ。その微笑みだけでテルビオは手汗をズボンで拭き、耳を赤らめる。

「また、誘ってもいいかな」

ふと見つめ合う2人。その一瞬だけでも恥ずかしくて、頬を赤らめたステカは俯く。そんな2人の空気など読まず、すぐ傍で2人を見ているシークフィン。

「うん」

夕焼けで空が優しく赤らめていき始めた頃、転移でステカを三国の入口まで送り、テルビオはパッと中継基地建設現場の近くに転移した。ていうか、このまま戻らなくたっていいんじゃないのか。だってオレは別に基地なんか作りたくないし、報酬なんていらないし。そう思い、テルビオは名もなき草原で座り込んだ。

「やあ」

「あぁ」

「元気ないねー」

「基地が出来たら、戦争が始まるんだ。ステカの国が侵略される」

「そうだねー。でも何とかなるんじゃないかな」

「何で?」

「禁界の味方は多いからからねー」

しかしこのままシューガー政府と縁を切ったところで、衣食住はどうしよう。ステカには会いに行けるが、オレ自身の生活はままならない。そうテルビオが座り込んでしばらくした時、そこに3人のギガスがパッと現れた。ふとした顔を向けてから、テルビオは飛び上がるように立ち上がる。

読んで頂きありがとうございました。

別にこっちから求めなくとも、精霊は波長が合えば会いに来るんですね。

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