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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「無敗の法則」後編

人間しか居ない街。擦れ違う人間達は必ずといっていいほど振り返る。何故なら歩いているのは白い肌に黒い血管が走る、光を帯びた女と、羊だから。単にエルフと羊が珍しい訳じゃなく、正にイエンはシューガーの首都の“例の穴”を作った人物だから、例えサクリアのクラニワを歩いていても「あれってもしかして」みたいなひそひそ話が沸き立つのだ。しかしイエンはそんな人間達の眼差しなど気にせず、クラニワの別荘地を歩く。

「ここは羊が居ないのかな。でも歩くって楽しいね」

「羊の群れに紛れたらフルーピスがどれか分かんなくなっちゃうよ」

「そう?でも私だって分かる方法あるよ?」

「どういうの?」

「イエンって呼ぶの」

「ああ、そうだけどさ」

それからイエンとフルーピスは立ち止まった。目の前には一軒の家。フルーピスはふと顔を上げ、何となく不安そうなイエンの横顔を伺う。

「話す事決めた?」

「決めてないよ、そんなの。友達じゃないし」

「森の香りを感じればリラックス出来るよ」

「うん」

それからイエンは歩き出し、フルーピスは森の香りを吸い込みながら後をついていく。そんな女と羊を遠くから眺める、1人の男の存在には知る由もなく。玄関扉を開け、ザ・デッドアイの拠点に入ったイエンはそのままリビングに入っていく。ふと目を合わせるイエンと、ベクルス。

「お前・・・」

しかしすぐにベクルスは目線を移した。イエンの背後にやって来て、耳をパタパタっとしたその羊に。何故ならただの羊なのに、気配、存在感、それらに違和感を感じるから。

「何だそいつ」

「私フルーピス」

「何だ?喋りやがったぞ」

ダイニングからやって来たブラッダー。しかし以前の事があるから不用意に近付く事はせず、そこには怖れない警戒が漂う。

「当たり前でしょ、精霊なんだから」

そんな警戒をイエン自身も同じように醸しながらそう言って、そこにふと沈黙が流れると、空気を悟ってかフルーピスがちょっと前に出る。

「イエンがね、あなた達がどうしてるか気になるって」

「あ?」

しかしそう応えただけのベクルスに、フルーピスは頭でイエンをちょっと押した。

「別に、勘違いしないでよね。あたしが気になってるだけなんだから」

「その姿は何だ、何かの魔法か?」

それでもむしろソファーに深く背もたれ、問いかけるベクルス。

「これは、マガツエルフの姿。言っとくけどこの前より強い魔法使えるんだからね」

「だろうな。シューガーの事はニュースで知ってる。お前らはそもそも、何の為にシューガーの街をぶっ壊した」

「え、別に、特攻部隊と戦ってただけだし。シューガーに居たのもたまたまだし」

「まぁでも、こいつらのお陰でギガスが出来て、その力でこっちの戦力も増強出来たしな」

距離感はあるがブラッダーの声色にはイエンへの恐怖や敵意は無く、「あぁ」とベクルスが相槌を打つ中、ブラッダーはベクルスが座る3人用ソファーの斜め隣にある1人用ソファーにドサッと座る。

「ねえ、何でウパウパになったの?」

唐突な問いだが、ベクルスがふと気になったのはイエンの子供のような態度と、何となくイラつきを覚えてしまいそうな、哀れむような眼差し。

「何でって、生きる為だ」

「ふーん」

「でもあなた、幸せそうだね。達成感っていうのかな」

ベクルスは眉間を寄せた。この羊は何だ、人の心でも読みやがるのか。その直後、ブラッダーは笑いを吹き出した。

「何だベクルス、女でも出来たか?」

「そうじゃねえよ。羊、余計な詮索はするな」

「詮索じゃないよ。そういう匂いを感じただけ」

「お前らはまだ特攻部隊と殺り合ってるのか?」

「え・・・んー、ううん。もうこれからは戦わないかな。だからあれだよ?特攻部隊にあたしが来たって言ってももう意味ないんだから」

「そうか、ん」

ふとベクルスが目を向けた先、それは窓。建物の周りはほぼ自然。ある程度周りの敷地も一軒の庭として取っている為、窓から見えればそれはこの建物の敷地内に居るという事。

「どうした」

「いや、何か見えた気が。おい、まさかこれからも自由に出入りするつもりじゃねえだろうな。お前の家じゃねえぞ」

「え、ダメなの?」

「あ?ダメだろ」

「でも鍵開いてるし」

「お前の為じゃねえ」

冷ややかな眼差しをベクルスに向けるイエン。そう言いながらも、この人間達は真正面から乱暴してきたり、無理矢理に何かをしてきたりしない。こういう態度が逆に、何となく気になっちゃう理由。──結局、来たら来たで、相手してくれるんだから。イエンはフルーピスを見下ろした。その表情は何となく満足げなもの。だからフルーピスも「良かったね」と小さく頷く。

「あたしがどうしようとあたしの勝手なんだからね」

しかしベクルスはそれを鼻で笑っただけ。そんな態度が逆にイエンを微かに喜ばせているなんて考えもせず。それからイエンは外に出た。その直後、ガシャっと蠢く人間達。イエンは首を傾げた。さっきまでは誰も居なかったのに、外に出た途端、そこには何人もの軍人と何人ものギガスが居る、そんな状況に。

「マガツエルフだな?」

「何なの?君達、サクリアの軍人?」

ふとフルーピスは顔を上げる。目線の先はただの“空気”。しかしそこには明らかに“遮断されているという感覚”が立ち込めている。──まさか、この家の周囲が、光壁で囲まれてる・・・。

「我々はシューガー軍だ」

「何?何で、ここに。まさかあたしに復讐しに来たの?」

「いや、お前を迎えに来た」

「え?」

しかしイエンが見渡す限り、軍人達は銃器を構え、ギガス達はすぐにでも飛び掛かって来るんじゃないかという具合で見つめてくる。

「確かにお前は街の一端を無に返した張本人。しかしその代わり、我々は力を手に入れた。それに免じてお前への討伐は保留にしてやる。だがそれには条件がある」

「え?」

「我々の為に力を使え。我々の為に戦い、新たにギガスを作り続けろ」

「断ったら?」

「無論、殺す。人間には敵わないなどと余裕ぶるなよ?我々にだってダークエルフの協力者が居る」

「え?ならその人達にマガツになって貰えばいいじゃん」

「その者達は・・・マガツになるのを拒否した」

「何で?」

「マガツになる為にダークエルフになった訳じゃないと」

「だったらマガツになりたいダークエルフに頼んでよ」

ふとイエンは空を見上げた。転移しようと思ったのに、出来ない。まさかテムネルで壁を作ってるなんて。するとそんなイエンの小さな態度の変化を、その軍人は鼻で笑った。

「無駄だ。ギガス隊の者達は魔法を習得している。お前はここから逃げる事は出来ない。我々の下に来るか、死ぬかだ」

「だから、マガツになりたいダークエルフに頼んでよ」

「勿論その選択肢はある。だが他でもないお前は、我々に対して罪を償わなければならない。街を破壊したんだぞ!本来なら処刑だが、それを保留にしてやってるんだ」

「罪・・・」

イエンはふと記憶を巡らせた。とりあえずそう決まったからシューガーの山の上の基地にやって来て、だから自然と治安管理部や特攻部隊との戦場はシューガーになった。別に、あたし、悪くない。

「おい、何だテメエら」

リビングの窓を開けて庭先に出てきたであろうブラッダーの声が曲がり角の向こうから聞こえてきた。だからイエンはその方へ顔を向けるとその直後、銃声が喚き出した。玄関側に居たら見えないので何となく歩き出し、そして角を曲がった時、目の前に転がってきたのは1人の軍人だった。

「ねえ、この人達シューガーの人間だって」

まるで知り合いに声をかけるようにイエンがそう言うと、変身していたベクルス、ブラッダー、バノは一瞬イエンを見てから軍人達を睨んでいく。

「テメエら、ザ・デッドアイにケンカを売ってただで済むと思うなよ?」

「いちマフィアが偉そうに」

「あ?」

「一国の軍事力を嘗めるなよ?」

そう言った1人のギガスが殴りかかるが、ギガスはまるで人間のように軽々とベクルスに殴り飛ばされ、軍人を巻き添えにして転がっていく。

「何か言ったか?マフィアのテリトリーに勝手に入ってくる方が悪いんだろうが!」

「ザ・デッドアイだと・・・」

そう呟いた“イエンを捕獲しに来た隊”の隊長は1人のギガスを睨みつける。そのギガスはイエンがとある一軒家に居ると報告してきた男。するとそのギガスは何とも人間らしく戸惑い、頭を下げた。

「すいません、てっきりエルフの家かと」

「ここは分が悪いな。退却だ!」

その瞬間から、1人のギガスが数人の人間と共に転移して逃げていく。

「よお」

ベクルスの呼び掛けにふと顔を向けた隊長の男。直後にベクルスの尾状器官はプッと何かを吐き出した。隊長の男の足元に転がってきたのは、ギガスの生首だった。

「次またギガスとかいう雑魚で遊びに来たら、容赦しねえからな?」

「くっ・・・ザ・デッドアイ・・・今に見てろ」

それからフルーピスは匂いを嗅いだ。それは光壁が無くなり、開放感が色んな匂いを連れてきたから。

「くそ、あいつら」

呟くブラッダー。ブラッダーが見ている方にイエンも目を向けてみれば、リビングの窓が銃弾によってか割れてしまっていた。

「おい、お前のせいだ、お前が直せ」

「何でよ」

「あ?何でじゃねえだろ。お前があいつら連れてきたんだろうが。こういうの魔法でどうにか出来るんだろ?」

「んー、どうしよう」

困ったようにフルーピスを見下ろすイエン。するとフルーピスは耳をパタパタっとして、その可愛らしさにイエンの表情は少し穏やかさを取り戻す。それからソファーに座るベクルスはふと顔を向けた。窓を開け閉めするイエンの背中を。飛び散ったガラスは全部庭に捨て、サッシの隙間にもガラス片が無い事を確認したイエンはそしてベクルスの向かいのソファーに座った。

「終わったらさっさと帰れよ」

すかさずそう声をかけるブラッダー。嫌そうな表情も、寂しそうな顔も、怒るような態度も見せず、ただ目線を落とすイエン。しかし腰は上げないそんなイエンに、ベクルスは小さく溜め息を漏らす。

「何でお前戦わなかった」

「その前にあんた達が来たし、そしたらあいつら逃げたし」

「まさかお前、ここに居れば安全だとでも思ってんのか?」

「そんな事は思ってないけど、でも結果的にここに居たからあいつら逃げたし」

「なあ、最後にあいつら、今に見てろって言ったよな?知らねえ間に恨みでも買ったかな」

そう言いながらもバノは疑問に思っても恐れる事は全くなく、他人事みたいに面白がった笑みを溢す。

「まあまた来ても問題ねえ。オレとバノでもギガスくらいどうって事ねえし」

「けどこの家が巻き添えになるのはどうにかしねえと。つーかあいつら、瞬間移動で逃げたよな?つまりそれでいきなりここを包囲したって事だよな?それって、何だっけ、前に言ってたよな?この女の仲間、声だけでバカにして来やがった奴。あいつ、オレらもそういう魔力を持ってるって。お前だって言ってただろ、テム何とか」

「テムネル」

「オレらだってそれ持ってるって言ってたよな?ならオレらだって、出来るんじゃねえか?瞬間移動」

「まぁ、出来るけど」

「おお、教えろよ」

しかしイエンはバノではなく、ベクルスの顔を伺う。

「でも、自由に来ちゃダメなんでしょ?」

まるで子供みたいに揚げ足を取ったイエンに、ベクルスはそんな微笑みを見ることさえ面倒臭いといったようにとりあえず窓を見た。それはガラスではなく光壁でもって作られた窓。ガラスのように透明で、何らガラスと変わりはない。

「しょうがねえな」

シャンバート、トニカの大規模工場。現在、そこには軍人、民間人合わせて200人の人間が整列していた。勿論その人達はシャンバートの人間ではない。それから200人の前に立った1人の男。

「これより、壁山の外側の麓に、上界探査前線基地の為の中継基地建設作戦を開始する。建設場所は指定の地点に変わりはない。これは後に禁界に突入する上で最も重要な作戦だ、気を引き締めろ」

200人が動いていくと、彼らは次々とギガスに変身していき、各自機材を持って“消えていく”。彼らが向かった先は広大な草原。その周囲にはまばらに木々が立っていて、自分の現在位置が分かるような物を持っていなければ普通に迷子になる、そんな場所。しかしそこでふと見上げれば、2キロほど先に見えるのは聳え立つ岩山。自然に出来たんだろうけど、まるで外敵を拒むようにキレイに円を描いている。溜め息と共に、民間人の1人が人間に戻った。それを見て、軍人のギガスが歩み寄る。

「戻るな、ギガスじゃスタミナが切れたなんて言い訳は存在しない」

「あれ、頭痛が来ない」

「説明聞いてなかったのか?先ずは頭痛が来ない場所での建設が先だ」

民間人の男がふと目に留めたのは、杭とワイヤーだけで簡素に引かれたライン。

「本当に人間じゃダメなんですかね」

「だったら試しに行ってみるか?」

200人が転移で行ったり来たり、どんどん機材が運ばれていく中、その男は恐る恐るワイヤーを跨ぐ。その直後、やって来たのはまるで直接脳みそを握られているかのような圧迫感だった。グググと押さえ付けられている気持ち悪さはすぐに吐き気を連れて来る。男はすでに禁界から出ていたが、惰性のように襲ってくるめまいに歩くことは出来ず、パタンと倒れ込んだ。そんな姿を見ながら、ギガス達は作業を進めていく。

「ふう・・・ふう、死ぬかと思った」

その時だった、ギガス達が動きを止めていったのは。それは想定されてない訳じゃない。しかし200人の中のリーダーの1人の軍人のギガスが“その人達”に歩み寄りながら思ったのは、速すぎるという事。

「君達はロードスター連合王国の者達だね。俺達は治安管理部だ」

ルフガンがそう告げたところで、5人の治安管理部員達の中のクニークは小さくキョロキョロする。みんな同じで、ちょっと不気味だと。

「来ると思っていた。お前らはまさか禁界を守っているのか?」

リーダーの1人のギガス、オオグスは人間に戻り、問いかける。まるでロードスター連合王国の軍服を見せつけるように。

「それは君達の行い次第だ。禁界だとか関係なく、侵略が目的で動いている者達を放っておく事は出来ないよ。ましてやエルフヘイムとそう遠くないキャニオン付近ではね」

「我々は、上界探査隊だ。こっちでは禁界は上界と呼ばれている。我々の目的は探査だ」

「ならこの前の宣戦布告は何だい?それだけじゃない、俺達は禁界の住人から直接君達と戦闘をした件を聞いている。この期に及んでのそれは、子供の言い訳にもならないよ」

「お前達は確か、人間でいうところの警察だと、サクリアでの記者会見で言ってたな。お前達は何様なんだ?たかが一国のいち警察だろう。異世界の国にまで干渉する権利は無いだろう」

「異世界に干渉しているのは君達の方じゃないか」

ルフガンの背後から、クニークのヤジが飛ぶ。

「それは違う。最初に干渉してきたのは紛れもなく翼人だ。何千年も前からな。我々はそれに対してリアクションと取っているだけだ。お前達は本当に知っているのか?翼人と、こちらの世界の関係を」

読んで頂きありがとうございました。

イエンとベクルス達がまさかの発展。ちょっとしたポイントになるかも知れません。

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