「無敗の法則」中編
「あんたらが差し向けたのか?さっきのギガス」
「・・・いや、先程のギガスは、我々の指示ではない」
「そうか」
シャークはキョロキョロする。ユラユラと浮きながら。シャークがちょっとでも動こうものなら軍人達が慌てるように立ちはだかるが、シャークは銃器を構えた軍人達などには恐れもせず、高い目線でもって軍人達の向こうを眺めていく。それからまたシャークが方向転換してすぐさま軍人達が立ちはだかったところで、ようやくシャークはその目障りさを眼差しでもって軍人達に訴えた。
「何故邪魔をするんだ」
「邪魔するに決まってるだろ、オレらのテリトリーなんだから」
「じゃあ何故、攻撃が通じないと分かってて基地を作っているんだ」
「もう攻撃が通じないという事はなくなった。ギガスがそれを証明したからな」
恐れている事を感じさせないように強気に応えるエンガオ。しかしシャークは態度の移り変わりなどには関心を見せず、むしろそういう雰囲気すら観察する。
「デュープリケーター、お前達の事も粗方調べはついている。そういうお前は何故、翼人と共に行動している。お前達はザ・デッドアイに作られ、反社会勢力の単なる道具だったはずだ。それが特攻部隊との接触後、特攻部隊側になった。そして今やまるで上界の存在かのように振る舞っている」
「何故特攻部隊になったか、それは・・・救われたから、かな」
「お前達の知能の高さは理解する。つまりは恩義という事か」
「あぁ」
「お前は、知りたくないか?何故ここ一帯が、隔絶されているか。何故そもそも山に囲まれ、しかも近付く生物を頭痛と吐き気で追い払うか。更には機械系統まで狂わせる」
「そういえば何故、あんたらはそうならない」
「知りたいなら教えてやってもいいが、条件がある」
「条件・・・」
サクリアにて、クラニワの別荘地。ベクルスはテレビを横目にソファーに座る。するとそこにやって来たのはブラッダー。何やら慌てた様子だが、ベクルスはただ顔を向ける。
「ルーファーさん、死んだって、何があったんだよ」
「誰かに恨まれて殺される。それがマフィアだろ」
「いや、だけど、ルーファーさん言ってたぞ、自分のウパーディセーサは特注だって、例えブラックでも簡単に殺すなんて無理だろ。誰だよ、いや特攻部隊くらいしか居ねえよな、くそ」
「さっき、ゲンゲラードさんに呼ばれた」
「な、ああ、で」
「ザ・デッドアイは解散させないって言っといた。新しいリーダーが誰かより、今は外敵に目を向けるべきだろ、でどうだった」
「ああ、いやそれが、クージのウパーディセーサの情報は何も。国家機密級だろうし」
「そうか」
「なあ、確かお前、出身はフロンスターリだったよな?」
「あぁ、それが何だ」
「行った事あるだろ?遊園地」
「・・・いや、ねえよ」
「そうか。まぁ大人になりゃ遊園地よりカジノだしな。子供でも出来ない限り、行く事はねえかなぁ」
「お前、女居るんじゃなかったのか」
「ああ居るよ。まぁいづれそうなるかもなぁ」
ベクルスはふと思い返す。そういやレイラと行った事はなかった。もし生きてたら、そういう所に行ってたりしたんだろうか、と。
「あのすいません」
玄関から聞こえてきた男の声。聞いたことのない、そしてあっちも“ここがどういう所か”なんて知らないような声色に、ベクルス達はふと顔を見合わせ、とある言葉を頭に過らせた。ベクルス達が玄関に行くと、そこには明らかにマフィアではないが、少し血だらけの何となく柄の悪そうな男性が居たが、初めて見たその印象は、柄の悪そうな割りには怯えているという事。
「ウパーディセーサ・ブラックか?」
「あぁ、今すぐ。シューガーのギガスが暴れてる」
「あ?どこで」
「あっちのカジノ。しかもザ・デッドアイの人間はどこだって」
「おいおい、オレの遊び場だぞくそ。何でシューガーのギガスが、いやそんな事より行こうぜベクルス」
「薬はどうすんだ」
「素人よりオレらの方がやれるだろ。それにオレらのテリトリーで暴れて放っておけるかよ」
ベクルス達がいつものカジノにやって来ると、その惨状には当然いつもの心地いい騒がしさはない。ルーレット台はバラバラに砕け散り、スロット台などはそこら中に転がっていて、血だまりや死体だってある。暴れているのは1人のギガスだった。
「ザ・デッドアイを出せ!」
風の塊が投げつけられ、スロット台が吹き飛び、悲鳴が上がる。すでにブラッダーは走り出していた。ウパーディセーサ・ブラックではあるが、特注の為に体型はゴリラのように筋肉質。とは言え筋肉質なのは尾状器官も同じで、太い尾状器官から噴き出される黒青の光の推進力は凄まじく、そしてブラッダーは先制のパンチを決め込んだ。吹き飛ぶギガス。その傍ら、ベクルスはふと目に留めた。虫のように入ってきた緑色の光球を。殴り返されてブラッダーが転がる傍ら、緑色の光球はクルクルと回って怪我人を完治させていき、そんな状況をベクルスが眺めていると、やがてそこにTSA、そしてルアとヘルがやって来た。
「(あ、ベクルス)」
──チッ鼻が利く犬だ。そう内心で悪態はつくが、ベクルスはただ突っ立ってギガスを殴り飛ばすブラッダーを眺める。
「特攻部隊!手を出すんじゃねえぞ。ここはザ・デッドアイのテリトリーなんだ」
そう言うとブラッダーは尾状器官を噴き出して飛び出し、ふらふらと立ち上がったギガスをぶん殴る。
「そういやテメエ、ザ・デッドアイを出せって、何か用かよ」
殴り倒した後にそう問いかけるブラッダー。マフィアらしいそんな威圧感に、ギガスは「ハッ」と笑い声をぶつけた。
「お前らのせいだ」
「あ?」
「お前らがブラッジェルを潰したせいで、お前らがベンダンに来なければ、美術館は壊れずに済んだんだ」
「あ?お前、まさか、ムーンの人間か?」
直後にギガスは風の塊を放った。それを至近距離で受けたブラッダーは身を屈めながらも吹き飛び、倒れているスロット台にガシャンとぶつかった。ふうっと息を吐くギガス。ウパーディセーサ同様、自己再生能力で瞬く間にスタミナは回復するが直後──。
「火光矢!」
真っ赤に燃える光矢が放たれた。それはルアが構えたプリマベーラからのもので、ギガスは反応はしたが遅く、真っ赤な光矢はその瞬間にギガスの胸元を貫いた。光を尾に引きボウッと消える様は危険なようでキレイでもある。そんな魔法にギガスが倒れ込んだ時、ブラッダーは慌てて立ち上がる。
「手ぇ出すなって言ってんだろ」
「こ、こっちだって仕事で来てるんです」
「うるせえっしかも何で女に助けられなきゃならねえんだ」
頬を膨らませるルア。そんなルアにペルーニが微笑みで宥める中、ギガスはゆっくりと起き上がり、片膝を立てて深呼吸。その最中、胸元からは血が滴り落ちる。
「1つ教えてやる」
そう言った直後、ベクルスは変身した。バカ太い1本の尾状器官は変わらないが全身は黒く染まり、タトゥーのように灰色のラインが入ったその変わりようにルア達が目を見張った直後、尾状器官はヘビのようにしなり、ギガスの頭を丸ごと覆うように噛み付いた。
「恨むのは勝手だが、死んだ方が悪い、それがマフィアだ」
ボトッと落ちる胴体。それからベクルスの尾状器官はプッとギガスの生首を吐き出した。ベクルスはふと、ルーファーの死体を思い出していた。
それからニュースで報道されたのはザ・デッドアイがカジノを守ったという“事件”。通報があり、特攻部隊が来たと同時にザ・デッドアイも来て、特攻部隊と共闘したという報道のされ方に、コメンテーターとして呼ばれた専門家がクーデターを経てザ・デッドアイの活動方針が変わったなどと解析していく。そんな番組をルーファーは酒を片手に呆れたように観ていて、そこに玄関から普通にバノが帰って来るが、ふと顔を向ければバノも妙に疲れたような顔色をしていた。
「また絡まれた。ったくマスコミの野郎共、オレらがマフィアだって忘れてんじゃねえかな」
「何か応えたのか?」
問いかけるブラッダー。
「別に、オレはその時居なかったし、知らねえって。つーかまずいな」
「え?」
「シューガーのギガス、軍隊として編成されてるんだと。でそのギガスの軍隊は翼人の世界に攻め込む隊と、周辺国に攻め込む隊があるって」
「どこで聞いたんだ、シューガーまで行ったのか?」
「あぁ、そこら辺のマスコミの野郎取っ捕まえた」
「周辺国って、ここやクージに、戦争を吹っ掛けるって事か?武装ってんなら分かるけど、さすがにそこまでバカじゃねえだろ。さっきのギガスだって別に軍隊とは関係ねえだろうし」
「まぁ、けど軍隊は本当だからな、それに軍隊じゃないギガスはもうこっちに来て暴れてる。クージがキナ臭くなったのだってギガスが暴れたからだって言われてる」
「ああ、だからか」
「軍隊を使って戦争する事はないだろう。それならむしろ暴れたいだけの野郎を気にしていればいい」
ベクルスがそう口を挟んで酒を飲むとブラッダーも鼻息でもって相槌を伺わせ、バノもそんな雰囲気に内心で相槌を打って何となく冷蔵庫を開けていく。
シャンバート、トニカにて。現在エルフヘイムに住んでいる身にとっては、シャンバートの街は緑が無さすぎる。だからといって嫌な気はしない。人間の街は人間の街で、エルフヘイムにはない発想のファストフードがある。シャドウが管理しているとある大規模工場の敷地内で、デルスクスは振り返った。そこにパッとやって来たのはイエンだった。
「ここに居たんだ。ロードスターの軍人達、もういっぱい来てるの?」
「あぁ、ギガス部隊の基地を作る為に。食うか?」
デルスクスが差し出したのは店独自のブレンド塩がかけられた太めのフライドポテト。それを1本取り、イエンはホクホクを噛み締める。
「治安管理部は知ってるのかな」
「知ってるだろう。だがこれはロードスター連合王国の問題だ。オレ達はただシャドウを遣わせて異世界との繋がりを提供しただけ。人間の問題なんだから治安管理部も傍観するしかないだろう」
「でも派手になって来たら、シャンバートの政府も動くんじゃないかな」
「そこは人間同士、対立はしないだろう」
「そういえば、何でそもそもあたし達ってシューガーの軍事施設に入れたの?シャドウが指定してきたって、コネがあったのかな」
「少し調べた。そもそもムーンは、国の暗部組織だそうだ」
「ふーん。じゃあ、最初からロードスターが主体だったの?」
「そういう事だろう。大丈夫か?」
「え?」
「精霊に力を封印されたんだろ?あれからどうしてた」
「別に、普通にエルフヘイムで過ごしてた。それに正確には制御だよ。あたし、3人よりもテムネルが強いんだって。やっぱりあの膨大なテムネルを吸収したからだって、だから暴走しないようにしてくれただけだよ」
「そうなのか」
「精霊から聞いたけど、あれからシャドウとは関わってないって?」
「隠れる必要が無くなったからな。ダーク・コーカスじゃないダークエルフ達にシャドウをやった」
「やった・・・ダーク・コーカス、まさか自然消滅?」
「そういう事だ」
「そのダークエルフ達も、極致に?」
「どうだかな。隠れる場所が欲しいだけだと言ってた」
「ふーん。じゃあ何で居るの?」
「見ているだけだ。どんな動きになるか」
「じゃあもう、シュトナン達とは集まらないの?仲間だったのに」
「集まらないという事はないだろう。それより、今までずっと隠れるように生活してたんだ。お前だって自由に過ごせばいい」
それからイエンは転移してエルフヘイムの街を歩く。通行人や精霊たちがちらちらと自分を見てくるが、だからといってあからさまに避けたり恐れたりするような態度は見せない。目的もなく歩き、辿り着いた高台のベンチ。そこでイエンは意識と視界を飛ばした。転移するほどの速度で飛んでいきそして見下ろしたのはシャンバートの街プライトン。そこは生まれ育った街で、あのまま変わっていなければ今も両親がいるはず。だから何となく見下ろした、その一軒家を。自分の部屋は正面側の2階。そっと窓から入ってみると、そこには知らない少女が居て、机で勉強していた。それから意識を戻すと、イエンは空を見上げた。──何かもう、それだけで吹っ切れた。
「大丈夫だよ」
かけられた声に目線を落とせば、イエンの目の前に居たのは、羊だった。角は無く、白い肌で、見るからに丸々としてモッフモフな体毛だが言うまでもなくそれは精霊で、羊の精霊は円らな瞳でイエンを見ていた。
「私がそばにいてあげる」
「え。別に、霊匣要らないけど」
「でも寂しがったでしょ?これからどうしようって。だから無意識に誰かを呼んだんだよ」
「誰か」
「私、フルーピス」
「・・・イエン」
蹄の音がパカパカと鳴る。今まで精霊となんて関わって来なかった。どう接していけばいいのか分からないけど。そう世間話でもしながらそれからイエンは“住宅紹介所”に赴いた。それは平べったい屋根と看板が特徴的な、壁の無い建物。構えられたカウンターの前にイエンが立つと、カウンターの向こうでデスクワークをしていた男性エルフがやって来て「いらっしゃい」と挨拶する。それから集合住宅か一軒家かを選び、地区を選び、空き家を選ぶ。内覧がしたければ住宅紹介所で働く精霊が転移させてくれる。契約書なんてものは無く、必要なのは署名だけ。そして2階建てで全6部屋のアパートの1階の部屋に、イエンは入居した。
「イエン、丘の上の公園行かない?」
「うん」
エルフヘイムに住んだ事がないと話せば住宅紹介所を紹介してくれて、どこでもいいけどと話せば公園が近い方がいいとアドバイスしてくれる。精霊って、なんて親切なんだろう。そうイエンはパカパカと歩くフルーピスと微笑み合う。カラフルなお花畑が観光客も精霊も呼ぶ丘の上の公園で、イエンは花の香りを運ぶ優しい風に吹かれていく。住んだ事ないのに、すごく懐かしい。それはやっぱり自分にエルフの血が流れているからか。
「またどこかで誰かがマガツエルフになったら、フルーピスも行くの?」
「マガツエルフっていうか、呼ばれれば行くよ。その為の精霊だし」
「あたし、変わったのかな」
「変わったんじゃない?寂しくなくなったでしょ?」
「うん、そうだね。あたし、デルスクスみたいにやりたい事見つけなきゃ。でも、どうしよう」
「今まで、楽しかった事は?」
「うーん、全然無かった。ダークエルフだったし」
「気になる事は?」
「気になる・・・・・んー、あ、ウパウパ」
「ウパウパ?何?それ」
「違う世界のね、変身する人間達。こっちの世界じゃ見たことのない人間で、何となく・・・昔を思い出すの。ダークエルフで、隠れて生きてた時。そういえばどうしてるかなって」
「気になるなら行ってみようよ」
「でも、見るだけでいいし、実際に行かなくても」
「そんなんじゃ私みたいに丸くなっちゃうよ?」
「・・・え、ならないでしょ」




