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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「無敗の法則」前編

まるで未開拓なんじゃないかと思うほど伸び散らかった木々を通り抜け、そして男は岩山を見上げた。あと数メートル前に進めば、そこは“拒絶の地”。人も動物も機械も等しく拒絶される、足を踏み入れてはならない領域、そう禁界だ。足を踏み入れようものなら“禁界頭痛”が体を蝕む。まるで本当に神に押さえ付けられてるかのようだと、誰かが言った。かも知れない。いや、誰かしら言ってるだろう。──しかしオレは、そんな神など“もう”畏れない。

草木も生えない、岩だけの山。禁界をぐるっと囲んでいる岩山脈は岩だけにでこぼこしているが、遠目から見ればそれはまるでカルデラのようにキレイに壁となっていて、どこから見ても標高は3000メートルほど。途中転げ落ちたが、それから男はようやく地面に降り立った。岩山の内側だが、そこには見慣れた機材、そして国旗がある。だから男は力が抜けたように笑った。しかし直後、そうかと思いきや男は思い切り両拳を天に突き上げ、歓喜した。そうここは唯一禁界の中にあるロードスター連合王国の“何も無い”前線基地。

「うおおおお!──」

「それくらいにしろ!」

ビクッとした男が振り返った先には上官の姿があり、男は途端に背筋をシャキッとさせる。

「人間には戻れないのか?」

「戻れない事はありませんが、長くは居られません」

「そうか」

「エンガオ少将、すぐに攻めるんですよね?オレすぐ行けます!」

「クリーダ・ストアス。お前の経歴に目を通した。民間人採用の整備士から衛生兵に転属して間もない」

「はい」

「つまりは前線に立った事もない。何故お前なのか分かるか?」

「それは、ただの・・・実験だからです」

「そう聞いてるはずだ。ギガスという状態で禁界に入れるか、これはその為だけの実験だ。実験は成功したが早まるな。お前1人行ったところで、翼人には敵わない」

「そんなのやってみなくちゃ分からないですよ」

「おまけに上官への口の聞き方もなってない。お前の仕事はこれから帰投し、身体検査する事だ」

「いや、その・・・」

「何だ、今のは命令だぞ。お前は民間人から軍人になったんだ、従え」

「でも、エンガオ少将はギガスのすごさが分かってないじゃないですか」

「ギガスの資料にもすでに目を通している。お前は禁界の現状は把握しているのか?」

「え、ああはい。読みました」

「現在あそこには翼人だけじゃなく、デュープリケーターが住んでいる。そしてデュープリケーターは特攻部隊だ。お前が勝てる根拠など無い」

「そんなの、分からないじゃないですか」

するとクリーダは走り出した。エンガオが怒鳴るように呼び止めても、クリーダは半分だけ振り返り、周りの軍人達はそわそわする。

「ちょっと行ってきます、オレ、ずっと翼人に会いたかったんです」

「ふざけるな!」

しかしクリーダはまた走り出した。まるで好きなサッカーチームでも勝ったかのように歓喜の雄叫びを上げながら。

「バカ民間人を連れ戻せ!」



第36話「無敗の法則」



これではわざわざ敵に新しい武器を紹介しに行くようなもの。それでもギガスを大勢向かわせれば禁界の国は落とせるかも知れないが、あんなバカを放っておく訳にもいかない。とは言えギガスは走るのが速い。とても人間では追いつけないと、分隊長のスカナは数人と共にバイクを走らせていく。森ではあるが起伏は激しくない為、小回りの利くバイクは難無く突っ走っていってそれから、スカナ達は減速した。視界にクリーダを捉えたものの、同時に禁界の兵士達も見えてしまったからだ。しかし声などかけてしまえばそれこそ気付かれる。しかし迷っている間にも、クリーダは塀を乗り越えていってしまう。

「・・・・・ぐふっ」

それからスカナは何度目かの溜め息を吐き捨てた。何度目かのノックダウン。ドサッとクリーダは倒れ込み、そしてまたゆっくりと立ち上がる。

「ふう・・・くう、ふう、強いな。うおお!」

走り出したクリーダ。そして全身を炎で包むが、叩きつけられてきたグラシアの大盾に吹き飛ばされ、クリーダはまた転がった。

「ストアス!」

第1演習場にて。グラシアを始め、塀の外に立つスカナに顔を向けていく三国や死神の兵士達。

「お前、“最初から”負けてるじゃねえか。お前の任務は帰投だろ!さっさと戻れ!」

「そうだよ?もうそれくらいにしなよ。あなたの負けだよ?」

「ふう、ふう」

演習していた三国と死神の兵士達は乱入者を最早同情の目で見ていた。しかしクリーダは立ち上がる。フラフラとした疲労感はまるでボクサーかのよう。

「1つ、教えてやろう。絶対に負けない方法を」

「ん?」

「それは・・・・・負けを認めない事だ!」

そよ風が通り過ぎていく。まるで大して心に響かなかったかのように。スカナは溜め息を吐くことすら忘れたが、そこに1人の女性兵士がちょっと前に出た。

「分かるよ、気持ちが大事って事だよね?」

「あぁ」

「でも死んじゃったら負けなんじゃないかな」

男性新兵が呟く。

「何かを守る為に戦い、死んだとしても、それは負けじゃない──」

グラシアは一瞬目を丸くした。塀を乗り越え、歩いてきたスカナがクリーダの頭をパチンと叩いたのだ。

「──いてっ」

「前線にも立った事ない人間が適当な事言うな。これ以上は時間の無駄だ、どうせお前は帰れば軍人をクビになるだろう。お前はたまたまギガスになっただけだ、帰って機械をいじくってろ」

「・・・あの」

スカナに連れられ、大人しくクリーダも塀を乗り越えようとした時、女性兵士が声をかけ、スカナとクリーダは振り返る。

「これからロードスター連合王国が攻めてくるって本当ですか?」

「え?」

「その人が言ってたけど」

目線を泳がせるクリーダに顔を向け、ようやくスカナは溜め息を思い出す。

「それは言えない。何故ならそれが軍人だからだ」

ブーンとバイクが走り去っていく。それを何となく見送るグラシア達、そしてシャーク。

「何だったんだ、あいつら」

「でも、あの灰色のエニグマみたいな人が言ってた事が本当なら、ノイルにも言わないと。あとスティンフィーにも」

「プライトリアという国の人間達に援軍を頼むのか?」

「うん、そうだね」

シューガーの首都カケベル。その時そこは拍手に満たされていた。マスコミ達がカメラを回し、何となく集まった観客達はそれぞれ希望を抱いたり、悲しみや寂しさを噛み締めたり。それでも拍手が向けられているのは“街に空いた穴”のど真ん中に作られた、100メートルの高さを有したモニュメント。先端が球体のように丸くなっている、どこかトロフィーのような存在感。モニュメントの真下の空洞部分には献花台があり、ギガスの関連事案の被害者に向けての花が置かれている。モニュメントの足元はすでにコンクリートで固められていて花壇も敷かれ、今後モニュメント付近は公園になるだろうとリポーターは話していく。そんな一方、カケベルの軍事基地ではとある人達が整列していた。それはあの時“生き返った人達”。軍人がほとんどではあるが、そこには有志で集まった民間人の姿もある。それは正にギガス部隊の結成の瞬間だ。そして基地内の科学研究施設ではギガスのDNAが解析され、ギガスという“ギフト”は着々にロードスター連合王国のものになっていく。そんな白衣の人達をガラス越しに眺める中年男性に、1人の男性がやって来る。姿勢よく上官に会釈しながら。

「シャンバートに何人か向かわせ、何としても白いエルフを見つけ出せ」

「はい」

「続いてのニュースです。科学系マフィアで知られるザ・デッドアイのナンバー2、ルーファー・アイザーが今朝、クラニワの別荘地の近くで遺体で発見されました。ザ・デッドアイはブルータス、ウパーディセーサ、デュープリケーターを作り、度々特攻部隊との戦闘を繰り広げていましたが、実質的にザ・デッドアイの活動を仕切っていたナンバー2の殺害に、内部抗争などを含めて警察が関連を調べています」

そんなニュースが流れた時、自宅で朝ごはんを食べていたルアやルーナ達は何となくキョトンとした。そういえば最近ザ・デッドアイは派手に動いてなかった。内部抗争って、ほんとにあるんだ・・・。そうルアはふとベクルスの顔を思い出す。朝ごはんを食べ終えてそれから向かった先は三国。訓練する為ではあるが、ついでにこっちのニュースを伝えようと思ったから。

「グラシアさん、おはようございます」

「うんおはよう」

「さっき、ニュースでやってたんです。ザ・デッドアイのナンバー2が死んだって。何となく内部抗争っぽい雰囲気みたいで、もしかしたらベクルスが何かしたのかも知れません」

「そうなんだ。ノイルもそう思ってるのかな」

「警察は調べてる最中みたいです」

「ベクルスが何だって?」

合同演習場にて、近くに居れば案の定話に入ってくるアーサー。

「ザ・デッドアイのナンバー2のルーファーって人が死んだってニュースでやってて、もしかしたらベクルスかもって」

「ルーファー、あいつか」

「知ってるの?」

「俺達が生まれた時、居たからな。そういえばベクルス達のリーダーだったな」

「(リーダーが死んだらもうザ・デッドアイは解散かな)」

「どうだかな。ああいう人間達は仲間ではあるけど何か心のそこじゃ信頼してないっていう雰囲気だし、また別の誰かがリーダーになるだけなんじゃねえかな」

「でもベクルスならもう大丈夫なんじゃない?」

そう言って笑みを浮かべるグラシア。しかしルアは内心で首を傾げる。

「(大丈夫って?)」

「ベクルス、戦わなくなったんでしょ?」

「(そうみたいだけど、ザ・デッドアイってまだ居るし、それに死んだのはナンバー2だよ。結局本物のリーダーが居る訳だし)」

「ま、来たら来たでぶっ飛ばすだけだろ。それよりルア達知ってるのか?ロードスターの事」

ルアとヘルがキョトンとすると、アーサーはグラシアを見る。

「昨日ね、ギガスと一緒にロードスター連合王国の軍人が第1演習場に来て、宣戦布告してきたの」

「(宣戦布告。シューガーのギガスだよね?)」

「うん多分。これからギガス部隊でここに攻め込むって」

「これからって、すぐに来るの?」

しかしそんなルアの緊張した問いに、グラシアはむしろ本当にそうなのか分からなそうに困った顔をした。

「ギガスの人、本当はここに来る命令なんてされてなかったみたいで、軍人の人に叱られてたの。でも攻めてくる事自体は本当だと思う」

「(そりゃあ元々攻めようとしてたんだし、軍隊にギガスが入ったら士気は上がるよ。でもスティンフィーがプライトリアとエルフヘイムが三国の味方するって言ってたよね?)」

「うん。だから今日はルア達にお願いがあるの。スティンフィーにこの事伝えて欲しいの」

「はい」

サクリア、フロンスターリ。ザ・デッドアイの最後の砦である合法カジノ店にベクルスは居た。何故ならザ・デッドアイのナンバー1、ゲンゲラードに呼ばれたから。最上階の1番大きな一室、つまりボスの部屋にベクルスは入った。当然の如く、ゲンゲラードの表情は凍りついている。例えマフィアでも、息子が死んだと知って普通では居られない。そうベクルスは生唾を飲む。凍りついている表情で、社長が座るような豪勢なオフィスチェアに座るゲンゲラードは突き刺すようにベクルスを見て、デスクの上のウイスキーグラスに入ったクルミを1つ取って食べる。

「オレは、もうザ・デッドアイを仕切ってない。5年前にザ・デッドアイはルーファーに任せた。カジノは儲かるからな、ニュースじゃ科学系なんて言ってるが、クスリは元々副業なんだよ。まあカジノはマフィアの臭いをちらつかせないようにしてるから、世間はクスリが本業だと思うしかない。だからまぁ仮にザ・デッドアイが世間的に解散してもオレには痒くもないし、ザ・デッドアイは死なない。むしろオレにとっては都合がいい。マフィアってのは何が起こっても立ち上がりゃいいんだ。・・・大体は分かる。恨まれないマフィアなんていないからな。だが一応知っておきたい。誰が殺った」

また1つグラスの中からクルミが取り上げられ、ベクルスは思わずスーッと歯の間から音が漏れてしまうほど息を吸った。

「・・・・・俺です」

しかしゲンゲラードは凍りついた表情のまま、小さく頷いた。

「正直だな。マフィアの世界は殺るか殺られるか。マフィアってのは恨まれる側だ、恨む側じゃない。今更お前みたいな小僧は恨まん。で、どうする。お前らはウパーディセーサを作ってるんだろ?それは使い方によっちゃ金になる。お前がこれから仕切るのか?ザ・デッドアイを」

「分かりません。けどザ・デッドアイは解散させません。シューガーも、クージもキナ臭いんで、防衛策は必要ですから」

「シューガーのギガスか。クージは?」

「ウパーディセーサは世界中に広まってますから。つまりそれは世界中で、ウパーディセーサをベースにした何らかの武器が作られるって事です。クージがウパーディセーサ関係で動き出したって情報が入りました」

「そうか、もしザ・デッドアイを取り仕切るなら伝えておく。ここに迷惑がかかるような事をしたら、殺すからな?」

相手がウパーディセーサとか関係ない。凍りついた表情で、まるで吸った息を吐くような殺害予告。そんなマフィアたる威厳に、ベクルスは思わず生唾を飲んだ。

「・・・はい」

シューガーの軍事施設にて。とある研究室ではいつものように問題無く“ゲート”が作動していく。それは外見的には丸いテントのようなもの。中を覗くまでもなくその中は真っ白。雲と霧の違いは、地表に近いものが霧で、上空にあるものが雲であるが、機械の中で作られたそれは“雲”である。何故ならそれは、雷雲発生装置だから。翼人が“雲から現れる”事はすでに分かっている。だから問題は“それをどうやって再現するか”。そしてロードスター連合王国は雷雲発生装置を作り、ゲートを完成させた。

「どうぞ」

研究員が一言発し、軍人がゲートに入る。一瞬なので、体に電気が走る感覚は微か。ゲートを潜り抜けるとそこは禁界にあるロードスター連合王国の前線基地。今でこそゲート間の移動だが、最初は壁のような山の中腹で、すかさず機材を送り込みゲートを作った。ゲートを潜れば交代の為にやって来た軍人はすかさずエンガオにビシッと敬礼し、エンガオは頷く。

「エンガオ少将!」

誰かの叫びが響き、エンガオもやって来たばかりの軍人も弾くように目線を向けていく。

「見つけたぞ」

何も無い前線基地。何故何も無いか、それはやはりゲートの大きさでは歩兵の為の武器や機材しか運べなく、たまにエニグマという巨大生物がやって来るから。しかし今やって来たのはエニグマではなく、シャークだった。ガシャガシャと銃器が構えられて囲まれるシャーク。

「こんなところに基地があったのか」

「エンガオ少将」

「排除しろ!」

まさかこのデュープリケーターはあれから我々を追いかけていたのか?何という執着だ。鳴り響く銃声、しかし程なくして銃声は止んだ。命令もなく。何故ならデュープリケーターには見えないバリアが張られているようで、エンガオじゃなくても撃っても無駄だと理解したから。

「何しに来たデュープリケーター」

「あんたらを調べてるだけだ。別に今戦うつもりはない」

しかしエンガオは表情を強張らせていく。戦う気があろうが無かろうが、知られてはいけない場所を知られたこの状況は、生きた心地がしないから。

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