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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「ハドロン」後編

ノックもなく開かれる扉。しかし不審者が来たなどとは微塵も思わず、ばったり出会ったメイドは「お帰りなさい」と驚くような笑みを見せる。

「父さん居る?」

「はい、書斎に居ます」

エクス・ルキュース本部、つまりドルタスの実家。ドルタスは掃除の行き届いた階段を上がり、廊下を進む。しかしその隣でアンシュカは疑問を抱えていた。

「わざわざ玄関から入らなくてもいいんじゃないかしら。大きな家なんだし」

「それじゃあ久しぶりに帰って来たって感じしないんじゃないかな」

「どれくらい振りなの?」

「もう1年くらいかな。ダークエルフの事ばっかりだったし、情報収集で動き回ってたし」

「そうなのね」

アンシュカはふとドルタスの横顔に宿る、憑き物が取れたかのような柔らかさを見ていた。初めて会った時は表情が堅かった。常に考え事をしていた。今思えばダークエルフの事でいっぱいいっぱいだったからだと分かるが、あの頃と比べると今は霧が晴れたような表情だ。それからドルタスは1つの扉を開ける。そこは書斎と言うより、どことなく社長室のような部屋。ふとした顔を上げるハムナド。

「おおドルタス。お帰り」

「うん」

「ドルタス、何か良い事があったという顔だな」

「あったって言うか、切り開いたんだ、自分の手で」

ハムナドは目線を落とす。自分のデスクの上に置かれたのはアタッシェケース。そしてドルタスがケースを開けると、そこに入っていたのはボールとスプレー。

「情報くらいは入って来てると思うけど、ダークエルフの検挙作戦の要であるテムネルボールとテムネルスプレー。家にも置いておいた方がいいと思って。浄化の手順のメモも入ってるから」

「ありがとう。良かったな。魔法研究所に行くと家を飛び出していった時は心配だったが、念願が叶ったじゃないか。マリーユも喜んでるだろう」

「うん。これからはダークエルフに脅える必要は無くなるけど、テムネルが無くなる訳じゃないからね」

「あぁ」

そしてノコズは帰還した。場所ではなく、ルフガンの下に。ルフガンが居たのは治安管理部の事務所でもエルフヘイムでもなく、シャンバートだった。都会の街キルデイク、そのとある公園。

「ルフガン」

「あぁ、どうだった」

「うん見つけたよ」

「それってダーク・コーカスの居場所?」

話に入って来たのはルフガンと共に居たエリザグラス。ノコズは一瞬で理解した。イマージだったエリザグラス。しかし浄化の魔法で最早イマージですらなくなったのだと。

「うん」

つまりエリザグラスの父親の潜伏先を見つけたという事。しかしエリザグラスは柵に頬杖を着いて「ふーん」と言って池を見つめただけ。公園らしく時間は長閑に流れていく。

「イマージじゃなくして貰っても言うつもりはなかったけど、見つけちゃったならしょうがないよね。ねえ1つ聞いていい?」

「何だい?」

「テムネルは無限でしょ?浄化する意味あるの?」

「そう言われてしまうと困ってしまうが、しかし往々にしてテムネルは人々を傷付ける。放っておく訳にはいかないよね?」

「・・・そっか」

それからノコズとルフガンは治安管理部の本部事務所に戻って来た。チラッと見たアーサーとアルファはまだ戦っている。スタミナがとんでもないのか、グズィールが癒しているのか、しかしそんなデュープリケーターたちがじゃれ合っているように思えて、ノコズは微笑みを溢す。

「アーサー達、デルスクスの居場所が分かった。そろそろいいかい?」

「もうか?しょうがねえ」

「アーサー達、頑張ってね」

「あそっかグズィールは別のチームか。ベクルス達はどうなんだよ」

「戦わなくなった」

グズィールがそう応えるとアーサーはふとグラシアを見た。そして脳裏に過らせたのは戦わないように出来るというグラシアの言葉。──このまま、戦わなくなるのか。でもそれはそれで、何か・・・つまんねえな。

クラニワにて。ベクルスはソファーにドスンと座っていた。その右手には携帯電話を握って。

〈ニュースで見ただろ。早急に新しいウパーディセーサを作ってくれ。出来たら俺にメールしろ。取りに行く。メールは見たら消せ〉

メールを送信し、そしてその送信済みメールを消し、ベクルスは無言のまま携帯電話をポケットにしまう。テレビは点いているが、テレビには背を向けてソファーに座っているベクルスにバノは歩み寄る。

「そういえば来ないよな?特攻部隊。制御薬作ったのに。さすがにベクルスが協力したから追うのを止めるなんて事はねえだろうし」

「もしかしたら、あの異世界の女の所に行ってんじゃねえか?まあそれならそれで時間稼ぎになる」

「何のだよ」

「新しいウパーディセーサだろ。新調すりゃ制御薬だってゴミになる」

「ヨーガに連絡したのか?」

「あぁ」

「・・・はは、ウパウパ」

「笑ってんじゃねえ」

「新調か。なあ、あの女も言ってたけど、テムネル持ってたら魔法使えるのかな」

「お前・・・」

「戦力になるならやった方がいいだろ。マッドアイの鼻を明かせてやれる。それにアーサーの野郎だってやってただろ。出し抜かれてたまるかよ」

「方法が分からねえ」

「まあ・・・・・だよな」

シューガー、サルマン山脈の軍事施設。最高地点は標高6108メートル。約4000メートル地点には平原が広がっている為、シューガー政府はそこに目を付けて国の重要施設を作った。メリットは勿論、山の麓に来た外敵を狙い撃ちに出来るという事。霊気検索をしてもテムネルの壁がある為、行けるのは山の麓の軍事施設まで。だからノコズはそこに目標を決め、みんなを運んだ。パッと現れる特攻部隊。山から吹き下ろされる冷たい風が吹くそこは所謂滑走路。滑走路沿いには戦車や装甲車の格納庫もあり、もし有事の際に敵がそこに居ようものならすぐさま狙い撃ちだ。サイレンが鳴り、外敵を認知する基地。そのサイレンは当然の如く山中の基地でも鳴らされる。だから何事だと、シュトナンは廊下に出た。

「エルフ!特攻部隊だ!」

報せに来たのはサミガ。ダークエルフだと訂正するような悠長な空気ではない事を、シュトナンは真っ先に理解する。そして戻って来たシュトナンの真剣な表情を見ただけで、デルスクスはその空気を感じ取った。

「麓に特攻部隊が来た。さすがに早すぎる」

「シュトナン、もしかしてあの人間達かな」

「イエン、どういう事だ」

問いかけるデルスクス。

「サクリアに、クローデバンからテムネルを宿らされた人間達が居るの。特攻部隊は敵だって言ってたけど、私の事特攻部隊に話すって脅してきた」

「脅す?何したの」

問いかけるディーノ。

「別に何も。ただテムネルを持ってるからどんな奴か見に行っただけ。最後にシュトナンに言いくるめられて怒ってた。だから・・・シュトナンのせい」

「おいおい。先に見つけたのはイエンじゃないか。一先ず、様子を見に行ってくる。ついでにバースタともちょっと話したい事あるし」

「あぁ」

去っていったシュトナン。するとそこでサミガは1人残り、ふとデルスクスを見た。

「動かないのか?先手を打った方がいいと忠告したのに」

「相手が早すぎた。しかし本気を出せば特攻部隊など脅威じゃない。慌てる事はない」

案の定、特攻部隊は取り囲まれていた。300ほどの歩兵。そして格納庫から半身を出した戦車と装甲車。ルフガンは山を見上げる。あんな山奥に逃げた理由はなるほどこういう事か。それからライフルの銃口を突き付け、1人の軍人が前に出る。

「お前らは特攻部隊ではないな?何者だ」

「俺達はエルフヘイムの治安管理部だ。君達がダーク・コーカスを匿っている事は分かっている。直ちにダークエルフと手を切った方が君達の為になる」

まるで警察が一般人にするような警告。銃器で武装した正規の軍人の“空気をちゃんと醸している”その男は眼差しだけでキョロキョロする。

「そんなものは知らない。これから1歩でも動けば攻撃を開始する」

「それじゃあ逃げる事も出来ないじゃん、ずるいよそんなの」

口を出したクニーク。子供みたいな口調にその男は思わず眉間を寄せた。

「ずるいだと?魔法を使っていきなり不法侵入してくるのはずるくないのか」

「それは・・・」

「動かず、消えろ。でなければ攻撃する」

「君達と戦うつもりはないよ。俺達は」

「我々はお前らと話すつもりはない」

「お前らバカか?」

口を出したのはアーサー。口調から見える攻撃性に、軍人達の空気がピリつく。

「銃器なんか俺達に通じる訳ねえだろ。雑魚は黙ってろよ」

「黙れデュープリケーター。特攻部隊が不法侵入してきたという事態がどれだけ重大か理解出来ないのか?」

「あ?」

「サクリアによるシューガーへの侵略行為だぞ。お前らがここを破壊でもしようものなら戦争の火蓋が切られる。サクリアの大勢の人間が死ぬぞ」

「私達特攻部隊は、治安管理部に協力してるだけだよ?」

翼に鎧という、この国では知れ渡った翼人であるグラシアがそう口を開けば、軍人の男はまるで“見慣れた有名人でも見るような冷静さ”をぶつけていく。

「特攻部隊は別にロードスター連合王国をどうにかしようって思ってる訳じゃないの。ダークエルフを捕まえたいだけなの」

「そんなものは知らないと言ってるだろ」

「君が知らないだけだよね?なら偉い人を呼んでくれるかな?」

訪れる沈黙。膠着状態という緊張感。するとようやく、軍人の男は溜め息を吐いた。

「バースタ」

振り返ったのはシャドウのリーダーの男。シュトナンが麓の“山内基地”に降りてきたという珍しさに、バースタは冷静に固まる。

「外には出ない方がいい」

「分かってる。ちょっと様子を見に来たんだ」

「いずれ撤退するだろう。特攻部隊はサクリア政府が管轄する軍事組織。いくら何でも基地で暴れるような事は出来ない」

「なるほど。それを見越してここを指定したのか。しかし治安管理部への対処はどうする」

「治安管理部だけなら、取るに足らないだろ」

「確かにそうだが、今やテムネルは鉄壁じゃない。それに、ずっとこうして居る訳にはいかない」

「それはあんたら次第だ。シャドウが出来るのはあんたらを守る事だけ」

「そうだね」

それから少々時間が経ち、ルフガン達の下にやって来たのは通信機を持った男。やっと誰か来たとクニークが内心で溜め息を吐くが、すると誰が口を開く間もなく、通信機のスピーカーから声が響いた。

「グラシア、そこに居るか」

「ノイル!?どうしたの?」

「どうしたのはこっちのセリフだ。今すぐ撤退しろ。それは司令官として許可出来ない」

“山上基地”に戻って来たシュトナン。それから適当な場所に立ち、意識を飛ばす。風や日光は感知出来るが物理的に影響は受けないから寒くもなく眩しくもなく、そして雪原を抜けて見下ろす麓の地上基地。しかしそこにはもう特攻部隊の姿は無かった。

「続いてのニュースです。特攻部隊に在籍している翼人を始めとした数名のデュープリケーターがシューガーのサルマン基地に侵入した件で、シューガー政府はサクリア政府に対して抗議の声明を出しました」

それから画面に映ったのは記者会見。パシャパシャとライトがちらつき、サクリア軍の偉い人が謝罪はしないが抗議を受け入れるという厳粛さを見せる。しかしそんなテレビを真っ直ぐ見る事はなく、ノイルは腕を組み、頷いた。警察署内の使われていない会議室で、ノイルはルフガン達から話を聞いていたのだ。

「事情は分かった。しかし困ったな」

「ノイル、ごめんなさい。ちゃんと報告しなくて」

「いやいいって」

「でも、私がちゃんと」

「いや、俺の配慮が足らなかった」

「後悔したって時間が戻る訳じゃない。幸い、シューガーも抗議しただけで国際問題にはなってない。ただこれからはもう同じ事は出来ない。違う作戦を考えないとな」

アーサーはふとグラシアの背中に目を向ける。グラシアはテレビを見ていた。テレビでは魔法の危険性が取り上げられ、それがデュープリケーターの危険性、延いては翼人とは何かという事まで話が広まっていく。

「要は、どうやって山上基地にダークエルフが居るって事を認めさせるか、だよな。あんたらの魔法で何とか出来ないか」

「そう言われてもな。考えればありそうだが」

「テムネルの壁にテムネルボールぶつければいいんでしょ?ノコズにサッとやって貰ってさ。ダークエルフの目の前に転移出来ればさすがに言い逃れ出来ないよ」

「いいわね」

「行ったとしてもシューガーの人間に見つかったら問題になる。だとしたら、ダークエルフから出てくるようにするのが1番リスクが無い」

ノイルの冷静な反論と眼差しに、クニークとパウロニは顔を見合わせると、またあれやこれやと論じていく。しかしそんな中──。

「あ!」

テレビを見ていたグラシアが突然声を上げ、振り返る。だからノイルは「え」って言った。

「私、良い方法思いついた」

「何?」

何かは分からなくてもグラシアの笑みにつられてパウロニは笑みを浮かべて問いかける。

「マスコミの人に、サクリアは悪くないって言うよ。そうすればシューガーもダークエルフを捕まえる為に基地に入る事許してくれるよ」

マスコミに言う。それだけか。余りにも簡単な説明に、ノイルはただグラシアの笑みを見る。

「どういう事よ」

「えっと、マスコミの人って情報をみんなに伝えるのが仕事でしょ?マスコミの人がシューガーにダークエルフが居て、私達はダークエルフを捕まえたいだけだっていうのをシューガーのみんなに伝えて貰うの。そうすればシューガーだってサクリアは悪くないって分かってくれるよ」

「いや、さすがにマスコミにそんな力は無いと思うけど」

「でも、私達のせいで軍の偉い人が怒られちゃって。誤解を解かないと。悪いのはダークエルフなのに、関係ないシューガーとサクリアがケンカするなんてだめだよ」

「ちょっと待てよ?つまり凶悪犯を庇ってる国をジャーナリズムで追い詰める訳だが、国ってのはマスコミよりも強いんだ。マスコミの動きなんて、国なら簡単に潰せるぞ」

「でもやってみなくちゃ分からないでしょ?」

「それにちゃんとした証拠が無ければ、いくらマスコミだけ動いたって世間は信じないからな。けどもし証拠があれば、もしかしたらやってやれない事はないかもな」

「ほんと?でも証拠って、どうすれば」

腕を組んだままのノイル、グラシアの2人に再び沈黙が訪れる。するとそんなところでパウロニはパッと表情を咲かせた。

パシャパシャとライトがちらつく。そこは特攻部隊主体で行われる記者会見。警察署のエントランスに集まったマスコミはそして画角の真ん中に立ったグラシア、ノイル、ルフガンを撮影していく。分かりやすいからと翼を解放している姿のグラシアにはより一層目を輝かせながら。本当に上手くいくのかと内心では疑うノイル、まさか自分がこんなところに立つとはと内心で呟くルフガンを他所に、グラシアはそして、マスコミの前で小さく深呼吸した。

読んで頂きありがとうございました。

本物の天使がテレビに出る、そりゃあ画になりますね。

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