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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「ハドロン」中編

ニルヴァーナにて。一先ずガラスは張り替えた。このままじゃ寒いから。引き続きルアとヘルは何でもいいから手伝いたいと、新しく買いつけたテーブルや椅子、パソコンなどを運んでいく。

「(ボク、もうパソコンの配線覚えちゃったよ。これをこうして、こっちがこれで)」

クウカクで作られた白っぽい透明な手。まるで手袋が浮いてるみたい。そんな手が器用に機械と線を繋いでいく。

「(はい出来上がり~)」

「ヘル、その内ピアニストになれるんじゃない?」

そう言って新品の椅子のビニールを剥がすルア。ルアのそんな笑みにヘルは“自分の手”を見下ろす。まるで人間の手のようにグーパーしながら。

「(・・・えへへ、出来るかな)」

当然の如く、明細書だの請求書だので手一杯。だから手紙が1枚パラッと落ちた事になどメルテは気付かない。だからグズィールはそれを拾い、何となく中身を見た。それから階段を上がるグズィール。骨格も大きさも熊のような外見の生き物がのっそのっそと近付いてくる状況に、受付嬢のユウコは生唾を飲み込む。しかしユウコは凝視した。ちょっと不安そうなグズィールの円らな瞳に。──よく見ると普通に可愛い・・・。

「どうかしたの?」

「手紙拾ったの。ルア達に見せたい」

尾状器官で器用につままれた手紙を受け取るユウコ。どんなファンレターかと表情を綻ばせて。しかし直後、彼女はキョトンとした。音もなくスムーズに開けられた自動ドア。ユウコから受け取ったパスを首にかけたグズィールは振り返ったルアに歩み寄る。

「ベクルスから手紙来たよ?」

いつもの冷静なトーン。いやむしろ手紙が来たという事そのものにちょっとだけテンションが上がる子供のような声色。ルアとヘルはロボットのようにゆっくりと顔を見合わせる。

〈特攻部隊に告ぐ。さっきダークエルフのイエンとかいう女がザ・デッドアイの別荘に来やがった。俺らはダークエルフとは関係ねえが、お前らには有益な情報だろ?くれてやる。何とかしろ〉

「やっぱりベクルスだよね?」

「うん、多分。でもダークエルフの事ならグラシアさん達に報告しないと。お父さんちょっと行ってくるね」

「あぁ」

パッと瞬間移動すればそこにはグラシアが居る。だからルアは駆け寄った。特に周りの事など気にせずに。

「グラシアさん」

「ルア、ちょうどよかった」

「(あれ?ここロータリーじゃん)」

ようやく周りを見たルア。

「(グラシアさんに知らせたい事があって会いに行ったんだけど、グラシアさん何でここに?)」

「時間出来たから、こっちの様子見に来たの」

「そうなんですか。あの、さっきベクルスから手紙が来たんです。ダークエルフの事みたいで」

「・・・来たって事は、どういう事かな。ダークエルフがこの世界に」

「(やっぱりロードスター連合王国と関係してるんじゃない?)」

「そうなのかな。でもダークエルフの事ならルフガンさん達に報告しないと」

一瞬、ヘルはルアを見る。──聞いた事あるな。

「ルア達は何か他に変わった事はある?」

「ベクルスが変だけど、特に無いよ?」

まるで天然な天使達のよう。そうルアはそんな事を言ったグズィールを前に、独りで勝手に焦りを抱く。

「変?」

「戦おうとしないの」

「ふふっそれで良いと思うよ?良い事なんだから」

「そっか」

「(グラシアさんの方も何か進展あったの?)」

「そうそう、テムネルをね、浄化出来る魔法が出来たんだって」

「浄化?もしかして、それって、アルファがもう暴走しなくなるって事?」

「そうだよ?今まではテムネルは消せないものだったけど。これからはテムネルに苦しむ人達を救えるって、みんな喜んでるよ」

「私もやりたい。アルファ助ける」

「じゃあ、ルフガンさんのところ行こっか」

それからペルーニの力を借りてルア達がやって来たのはエルフヘイム、治安管理部の本部事務所。

「ルフガンさん」

振り返るルフガンとノコズ、そしてたまたま側に居たコンヴァール。

「おや、グラシアか。そちらは」

「仲間です。ルアとヘルとグズィール」

「そうか。コンヴァール達のテムネルは無事取り除いた。これからダークエルフの検挙作戦を再開させるから、そろそろ君達を呼び戻そうと思ってたんだけど、どうかしたのかい?」

「あの、テムネルを消す魔法、グズィールにも教えてあげて欲しいの」

「ああ、そういえばアルファっていうデュープリケーターもテムネルを宿しているんだったね。でもそれなら俺がやってあげるけど」

純粋な優しい眼差し。ルフガンと同じくグラシア達もグズィールに顔を向けると、注目されるという空気にグズィールはちょっとだけ俯く。

「でも、私も魔法勉強したいの。治癒玉だって覚えたし」

「そうなのか。ふむ、まあいいか。それじゃあグラシア、アルファだけじゃなくてアーサー達も呼んでくれ。ドルタスには俺が連絡する」

「はい」

そして自然溢れる事務所の側で、グズィールはアルファと向かい合う。その眼差しは不安げだ。手始めにと、ドルタスはアルファに向かってテムネルをシュッと吹きかける。

分離(ラズデーレ)

まるで手のようにかざされたグズィールの尾状器官。直後にアルファに纏うテムネルは薄くなる。

「いいね、良い感じ」

アドバイスしているノコズは笑みを浮かべる。しかしその目の前でアルファも何やら不安げにキョロキョロした。

「ねえ、やっぱりアルファ、テムネル消したくない」

「え・・・」

「だって、テムネルの力が無かったら、ベクルス達とか、ダークエルフにも勝てなくなる」

「でも暴走したら、ダークエルフと戦うどころじゃないよ?」

優しく言葉を返すドルタス。

「ならアルファだって俺みたいに魔法を覚えればいい」

するとアーサーは見せつけるように笑みを浮かべ、尾状器官を天にかざした。魔力が青く灯ってそれから、尾状器官が握ったのは刃渡り100センチほどはある、クウカクで作られた立派な青い剣だった。

「さっきまでハルクに教えて貰ってたんだ。そんでさっき出来るようになった。でもまだエクスカリバーじゃないから、練習すればもっと強いものが出来る」

「私もね、魔法勉強してるの。アルファだって、テムネルなんか無くたってもっと強くなれるよ」

アーサーに振り返り、それからグズィールに目線を戻すアルファ。しかしグズィールは分かっていた。アルファの表情はすでに、安心と希望を抱いていた。

「分かった」

「じゃあグズィール、仕上げの魔法」

「うん・・・浄化(オーチス)

ブクブクと泡のように立ち上っていくアルファのテムネル。グズィールやアルファは、ただ見上げていた。そして音もなく消えていくテムネル。アルファは何となく思い出す。ルーファーの横顔や、クローデバンの笑み。シカリダの雄叫びとか、真っ黒な自分自身。まるで、そういう思い出も浄化されていくかのよう。

「ルフガン、魔法勉強したいから、ダークエルフの検挙作戦、ちょっと待って欲しい」

「ふむ。あんまり時間を置けないよ?デルスクス達がいつ何をするか分からないからね」

「うん」

「ルフガンさん、検挙作戦を再開させる前に1つ報告があるんです」

「ん、何だい?」

「さっきルア達のところに手紙が来たんです。ザ・デッドアイのところにダークエルフのイエンって人が来たっていう。ベクルス達もテムネルを持ってるので、もしかしたら何か関係があるかも知れません」

「ザ・デッドアイって君達特攻部隊が追っている組織だよね。ならこっちの方でも調べてみよう。情報提供ありがとう」

スーッと深呼吸したアルファ。そして全身にはボウッと青い光が灯る。向かい合ってるのはアーサー。同じようにアーサーもリッショウをして、まるで“練習試合”の前かのようにカシャカシャと尾状器官を震わす。

「リッショウは俺の方が強いみたいだな。どっからでもかかってこい」

走り出したアルファ。同時に尾状器官から青いダガーを携えて。立ち構えるアーサーが尾状器官の拳をギュッと力ませた直後にそしてダガーは投げられた。しかしアルファは目を見張った。何故なら青いダガーは見えない壁に刺さり、止まったからだ。

「わあ、ズルい」

座って2人の戦いを見学しているグズィールが呟く。

「ズルいって言うな」

それから6本の尾状器官を素早く操り、アルファは上から横からと青いダガーで斬りかかる。その怒濤の攻撃はベクルスでさえ地に伏せさせた脅威的なものだ。しかしアーサーは倒れるどころか2本の手のような尾状器官と2本の腕でそれを捌いた。クウカクを纏った尾状器官と手は、力強くアルファの尾状器官を弾いたのだ。終いには短い方の尾状器官からのショットガンのような衝撃熱波によってアルファは吹き飛び、地面を転がった。

「アルファ頑張って」

「どうだ、リッショウしたら痛くないだろ?」

「・・・え、結構痛かったけど」

「じゃあクウカクだ。それで壁を作れば痛くないぞ」

「うん」

それからアルファは走り出す。リッショウに加えてクウカクも覚えたその立ち回りは先程のものとは大分違う。衝撃熱波を食らっても倒れなくなったし、アーサーをちょっとだけ後ずさりさせた。そうグズィールは独りで小さく頷く。

雷弾(プルグロ)

するとその瞬間、アルファの尾状器官から1発の雷弾が放たれた。倒れる事はなかったが、そのバチバチッと体に噛みついた雷にアーサーは固まった。

「お前それ」

「ほらドルタスがやってたやつ。やってみたら出来た」

「あー。でもそれ全然威力無いぞ」

「なら層術(ソイスクス)をしたらいいよ」

声をかけてきたのはクニーク。グズィールと同じように、何となくアルファの練習試合を眺めていた。そうここは治安管理部の本部事務所の近く。

「どうやるの?」

「1回分の魔力をそのまま混ぜるだけだよ」

「なあ、お前らの魔法とクウカクってどう違うんだよ。魔法の呪文言わなくても同じような事出来るけど」

「単純に精霊の魔法と人間の魔法とで中身が違うんだよ。詳しくは調べてみないと分かんないけど、先ず精霊の魔法は基本的には“潜在意識と魂子(こんし)とのスパーク”なんだ」

ゆっくりと目をぱちくりさせるクニーク。グズィール、アルファ、アーサーはお互いに顔を見合わせると、3人揃ってクニークを見たのだ。

「潜在意識って?

 魂子って?

 スパークって?」

笑いを吹き出すクニーク。見事に質問がバラついたと。

「潜在意識っていうのは、こうしたいああしたいっていう強い願望。魂子っていうのは、魂の粒子だよ。空気中にはね、魂子が溢れてるんだよ。魂にはこの世の全ての情報が刻まれていて、細かくなってもそれは消えない。つまりは集合的無意識、んー、宙に浮いた情報源って言えば分かりやすいかな。それで、(オージャ)

クニークの掌の上に灯る、小さな火。

「火が欲しいっていう願望に、火の情報を持った魂子が集まると、霊気をエネルギーにして火が具現化されるんだよ。そして人間の魔法は、基本的には霊気を使わずに遺伝子で起こすものなんだ。火が得意なものとか、光が得意なものとか、世界によって形は違うみたいだけどね」

「じゃあ、わざわざ呪文なんか言わなくてもいいのか?」

「でも言葉を言った方が考えたい事を考え易いでしょ?」

「まぁ、そう言われると」

「簡単なものとかは慣れれば何も言わなくても出来るけど、言葉にも魂は宿るからね。言葉を言った方が願望もはっきりするし、魂子も集まり易いから」

「どうすれば魔法が強くなるんだ?もっと強く考えるのか?」

「それはそうなんだけど、でも強く考えるのにも限界があるよね?だから層術(ソイスクス)で言葉を足すんだよ。後はエネルギーをもっと良質なものにするか」

「良質なもの?」

アルファが問いかけるとクニークは微笑んで頷く。

「精霊で言えばハイクラスだよ。今2人がやってるリッショウっていうのもそうだよ」

「リッショウを強くすれば魔法も強くなるってハルクも言ってたしな。やっぱりそれしかないか」

アーサーとアルファが戦っている一方、とあるビルの上にパッと現れたのはノコズ。ノコズが独りでやって来たのは、エルフヘイムとはまるで違う空気、景色の街。自然よりも無機質な人工物で覆われた人間の街。しかしゆっくりとその街を見渡すと、ノコズは人知れずパッと消えた。そしてやって来たのは数キロ離れた別の場所。変わったのは公園からちょっとだけ自然が感じられるという事。

また一方、ルフガンは小さな丘の上に建つ、屋根しかない平屋オフィスにやって来た。別の精霊に運んで貰って捜したのは勿論スティンフィー。

「あらどうしたのって、もしかしてダーク・コーカスの事かしら」

「あぁ。今ノコズがロードスター連合王国でダークエルフを捜してるんだが、当然だが闇雲に捜すしかない。だから俺も手掛かりを探しに来たんだ。スティンフィーだったら、ロードスター連合王国のどこを捜すんだい?」

「そうねぇ。あたしは今なら・・・シューガーかしらね。最近、軍の動きがちょっと活発なの。何かまるで、今までになかった新しい技術でも手に入れたみたいに」

「それは元々なんじゃないのか?シャンバートとの繋がりは前からあったんだ」

「でもシャドウがシャンバートの技術や武器を共有してたのはムーンよ。表立って政府や軍と繋がってた訳じゃなかった。でも最近になってシューガーの軍がシャンバートの技術を使ってるみたいなのよ。ムーンが主導したかは分からないけど、きっとシャドウが軍と接触したのよ。だからシャンバートの技術が異世界であるシューガーの軍に渡った」

「何かまるで、元々ロードスター連合王国は国が主体的になって異世界と繋がってた訳じゃなかったみたいな言い方だね」

「サクリアだってそうじゃない?サクリア側で最初にホールを作ったのは民間の研究機関だし。ロードスター連合王国がシャンバートと繋がってたと思ってたのは、勘違いだったのよ」

「なるほど、そうか。繋がってたのはあくまで、ムーンとシャンバート。いやもしかしたら、ムーンとダーク・コーカスかも知れない。シャンバートだって特に異世界との繋がりを名言してる訳じゃない。しかしそれは崩れた」

「特攻部隊がムーンの美術館を壊して、ルフガンさん達もタンジーケルを捜査したからよね?」

「あぁ。拠点なんてものは幾つもあるんだろうけど、問題はその後、どこに逃げたか。コンヴァールはシャンバートのどこかと言ってるから一応探してはいるんだけどまだ見つからない。そんな時にサクリアでダークエルフが目撃された。もしシャンバートに居るとしても、ムーンにだってダークエルフが居る可能性はある」

「ダーク・コーカスを追うより、ムーンを追ったらもしかしたらって事ね?」

「あぁ。スティンフィーは、ムーンはシューガーに逃げたと見ているんだね?」

「うん」

ノコズは耳を澄ませた。ロードスター連合王国のとあるビルの上で。ルフガンが心で話しかけてきたのだ。それはまるで捜査官が無線で会話しているかのよう。そしてシューガーに行ってみてくれという指示に、ノコズはパッとシューガーの街にやって来た。目を凝らすノコズ。しかし一口にシューガーと言ったって範囲は広い。それから何度目かの瞬間移動。それからノコズはふと目を向けた。それは何十キロも先に聳える、年中雪を被ったキレイな山脈だった。

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