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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「目には見えないワクチン」後編

「えーただいまクラニワで、ウパーディセーサと特攻部隊との戦闘が行われています。ザ・デッドアイの声明には、“ザ・デッドアイのウパーディセーサこそが本物だ。ウパーディセーサはザ・デッドアイの道具だ”というものもありますので、恐らくこれは、特攻部隊を相手にした練習戦、と同時にそれ自体が世間へのアピールだという印象があります」

「んー、そうですね。そもそもザ・デッドアイから、ザ・マッドアイが生まれたその背景って、どういったものなんでしょう」

「いやこれが、ま推測なんですけど・・・ザ・マッドアイはアンチザ・デッドアイという事ではなく、ザ・デッドアイの方が独立したという見方が出来るんじゃないかなと、思えるんですよね」

「確かにザ・デッドアイは逃げているという印象がありますけど、普通、一般的な見方ですとザ・マッドアイがクーデターかのように独立をして、ザ・デッドアイはデュープリケーターを作ってそれに対抗したという感じなんですが。ターミさんは、独立したのはザ・デッドアイの方だと」

「ややこしいんですがね、ザ・デッドアイは科学系マフィアとして活動していまして、その中で言うなれば会社名を新しくしたと。しかし派閥があり、独立した方が、ザ・デッドアイという名前を受け継いだと、いう事ではないかな」

「はあ、なるほど」

「その方がデュープリケーターの名前の由来が理解出来ると、思えるんですよね」

尾状器官はしなる。それはさながら、鎖の先に重たい武器が付き、遠心力でもって勢いが増したよう。バリバリっという音が黒く染まった尾状器官を激しく叩き、その衝撃で冷静なウパーディセーサは体を持っていかれて大きくよろめく。しかしレイカは手を止めず、尾状器官はしなった。

「グハァッ」

倒れ込む冷静なウパーディセーサ。その胸元に切り傷を付けて。例の如くすぐに立ち上がるが、ルアはふと気に留めた。冷静なその態度に見える、若干の戸惑いを。更にレイカは詰め寄り、尾状器官をしならせ、バリバリっと黒い尾状器官を叩いていく。しかしそれからだった、レイカが転がったのは。

「・・・フゥ」

冷静な、しかし狂気の含んだ溜め息。ルアは身構える。冷静なウパーディセーサの4本の尾状器官から煙る、黒青の光。それはまるで銃弾を吐き出した後に銃口が見せる余韻の煙だ。その一瞬、ルアはまだ再生しきれていない胸元の切り傷を見る。

「やるわね。ルア、気を付けて」

「うん」

ルアは横に飛び上がった。ルアが居た場所を通り過ぎたのは、衝撃波とは格段に威力が違う、“黒青の砲弾”だった。魔力が石のように固まったものとは言え、やはり空気砲と実弾では物が違う。しかも間隔は空いてはいるが、それが4本の尾状器官から発射されるという状況に、ルアは最大限のスピードで宙を舞う。そこにレイカが向かっていき、尾状器官を真っ直ぐ伸ばしたまま、全身から電気を迸らせながらタックルを仕掛けた。ルアは目に焼き付けた。2本の迸る尾状器官が、真っ直ぐ冷静なウパーディセーサに突き刺さる、その衝撃を。──闘牛の角みたい・・・。

「(うわーお)」

興奮気味のウパーディセーサは吹き飛んだ。ヘリオスが目にも留まらぬ速さで光輝く拳を顔面に叩き込んだのだ。

「(どうなってるの?その速さ)」

「細胞の中に空気より軽い気体を混ぜている。そして噴射ではなく爆発を推進力にしている。その2つの要因で、“トップスピードまでの時間を限りなくゼロにした”んだ」

「(気泡が沢山あって軽いパンみたいな?)」

「・・・間違ってはないが」

「つーか、あ?何なんだよ、そのモデル。違法改造かよ」

「心外だな。改造じゃない!アレンジだ!」

放たれる黒青の砲弾。しかしヘリオスは最低限の距離を跳び、立て続けに放たれる黒青の砲弾を難無くかわしていく。負けじとヘルも光弾を高速連射していくと黒い尾状器官も銃口の向きを変え、そこには黒と白の爆風がぶつかり合うという光のカーテンが広がっていく。お互いが見えなくなる、光と衝撃の膜。それを目の前に、回り込もうとヘリオスは足を踏ん張った。しかしその時だった、ヘルとヘリオスが、全く別の方に振り返ったのは。

「ようっ有名人っ」

やって来たのは、2人の知らないウパーディセーサ。しかも初期モデル。

「『ウパーディセーサ・ヒーロー』はお前だけじゃない」

「ニュース見てないのか?お前達初期モデルじゃ」

「いいじゃねえかいいじゃねえか、細かい事気にすんなよ」

「はっきり言って足手まといだ。いくらウパーディセーサでも、致命傷を負えば死ぬんだぞ」

「ハッ増えやがった、まとめて来いよオラッ」

消えかかっていた光と衝撃のカーテンを突き抜けてくる黒青の砲弾。無差別な攻撃にはさすがに初期モデルたちもすんなりと対処し、ヘルの光弾と共に衝撃波が反撃の形として現れる。興奮気味のウパーディセーサは硬直し、そこにヘリオスが突撃していく。でもやっぱりウパーディセーサだし、後方支援としては役に立つ。そうヘルはヘリオスを見ていた。しかし吹き飛んだのは、ヘリオスだった。興奮気味なウパーディセーサは辛うじて身をよじらせ、至近距離から黒青の砲弾をヘリオスに撃ち込んだのだ。ウパーディセーサらしい運動神経。その俊敏さに、ヘルは迷わず光弾を連射する。

「(大丈夫?)」

「これくらい問題じゃない」

光弾から逃げる事だけに集中している興奮気味のウパーディセーサ。しかし物理的に弾切れなどない魔法攻撃に、最後には光弾を浴びて地面を転がった。飛び出すヘリオスと、初期モデルたち。

「クソおお!」

放たれる衝撃波。振り出される光輝く拳。興奮気味のウパーディセーサの雄叫びと弾ける黒青と光。

「(あっ)」

瞬きも許されない、気迫のぶつかり合い。それから倒れ込んだのは興奮気味のウパーディセーサと、初期モデルの1人。

「ナリバス!」

一瞬ではあったが、興奮気味のウパーディセーサがヘリオスに殴り倒される直前、黒青の砲弾は初期モデルの1人を撃ち抜いていた。急所は外れたが、胸元から鮮血を溢れさせ、ナリバスはゆっくりともがく。

「そいつを連れて下がれ!」

「あぁ」

「まだ、いける・・・ぐ」

「だから言っただろ足手まといだって」

「こんな、もの、すぐ・・・治る」

「致命傷ではないが、お前はもう動けない」

しかしそんな言葉に火が点いたのか、ナリバスはゆっくりと立ち上がる。

「(ヘリオス!)」

立ち上がったのはナリバスだけではない。首を回し、内から怒りを滲み出して立っているのは興奮気味のウパーディセーサ。そしてヘリオスが振り返った時には、黒青の砲弾は放たれていた。

「よお」

そんな声に振り返ったのは、ルア。それは思わずプリマベーラの銃口が下がるほどの驚きだった。何故ならそこに居たのは、ラルガだったから。

「手こずってるみたいだから来てやった。おっさんの指示じゃねえぞ、ザ・マッドアイもそいつの戦力を測りたいからな」

「そ、そう、ですか」

「お前、ザ・マッドアイから来たのか?」

「あ?だったら何だよ」

ルアはふと頭に過らせる。ラルガの変身した姿を。サザーリニの自動車工場で、デュープリケーターを追い返したのはテレビで見た。しかしそれでも、黒いウパーディセーサの強さを前に、むしろ不安は過る。それからラルガは変身した。

「え・・・」

「ザ・デッドアイに伝えとけ──」

見たことないラルガの姿。ラルガはウパーディセーサというより、ブルータス。巨体で、骸骨みたいに骨が浮き出て、大きな尻尾。しかしその姿は、巨体と尻尾はそのままでその上まるで“ロボットみたいに滑らかなフォルム”。

「ザ・マッドアイもアップグレードくらいしてるってな」

光刃一爪三層(クリスーヴェ・アジーノ・トリーソ)!」

伸びやかに湾曲する一閃の光。風船が割れるように、驚く間もなく弾け上がる黒い体組織と、血飛沫。至近距離で黒青の砲弾に撃たれて倒れていたヘリオスは顔を上げた。戦車モードとか言いながら、ちゃんとやる時はやる。アスファルトに残る、1本の線。興奮気味のウパーディセーサは倒れていて、その胸元は大きくぱっくりと開いている。そうかと思いきやまるで傷自体が生きているかのように胸は閉じられ、ヘルは身構える。しかしヘルは首を傾げた。傷は閉じられたが、ウパーディセーサは立ち上がらない。バケツでもひっくり返したかのように興奮気味のウパーディセーサを飾る、大量の血。死んでいるなら傷が再生する事はない、そんな事を頭に過らせた矢先、ようやく興奮気味のウパーディセーサはゆっくりと起き上がった。

「くそ・・・」

再び首を傾げるヘル。起き上がったのに立ち上がらない。興奮気味のウパーディセーサは、まるで寝起きが悪いみたいに頭を抱えていた。

「何だ・・・動けねえ」

「おい・・・」

ヘルとヘリオス、興奮気味のウパーディセーサは揃って顔を向ける。やって来たのは、冷静なウパーディセーサだ。しかしその足には光矢が刺さったままで、足を引きずって歩く姿は優勢を感じさせる。それから2人の黒いウパーディセーサは並んで座り込んだ。

「凶悪化に指定されても、黒いウパーディセーサのデータから作った“ワクチン”が存在しない訳なのでね。仕方ない事ですね」

「はい。逃走した2人の黒いウパーディセーサを見かけた人はすぐに通報をして下さい。いやぁしかしですね、こういったウパーディセーサ・ヒーローというものが密かに話題になってますけど、世論ではウパーディセーサ自体を否定するよりも、ウパーディセーサとしての機能を抑制する『生態制御薬』に対しての賛否が囁かれていますね」

「ただいま」

そう言ってルアが開けたのは玄関の扉ではなく、リビングから庭に出る為の窓。ルーナは振り返り、レーティは微笑みかける。

「お姉ちゃん、やってるよ」

「えぇ、ウパーディセーサの犯罪者から、ウパーディセーサとしての能力を剥奪する訳ですがね、ウパーディセーサ・ヒーローと言っても一般人なのでね、警察がそう判断したら本来人助けしたウパーディセーサも生態制御薬が適用されるとなると、問題になりそうですね」

「はい、もうすでにネットではルアちゃんやヘリオスさん達と共に戦った2人のウパーディセーサ、並びにザ・デッドアイの潜伏先を襲撃した2人のウパーディセーサに向けられて賛美の声が上げられているようです。今後もウパーディセーサ・ヒーローの活動が注目されますね」

「ルア、大丈夫?疲れてない?」

「全然平気、怪我しても治癒玉作ればいいし」

「(ルア、ミルク飲みたい)」

ウパーディセーサが悪い事をしても、良い事をしてもニュースになる。ザ・デッドアイの事もあるし、正直またかとも思う。そういえばブルータスの事やウパーディセーサの事、もうどれくらいやってるんだろう。漢字ドリルをやりながら、ルーナはふとヘルの背中を見る。──キアラ達、元気かな。

「治癒玉って、さっきの?」

「うん。他にも銃弾で撃たれても大丈夫な魔法もあるし、全然危なくないよ」

優しく頷くレーティ。そんな母にルアはリラックスし、コップに注いだミルクを飲み干す。ウパーディセーサの事件に駆けつけ、特攻部隊としてウパーディセーサをやっつけるのはもう慣れた。だからこそ、黒いウパーディセーサの戦闘能力が冷静に脳裏に焼き付く。──次はデュープリケーターたち呼ばないと、ただ長引かせるだけになっちゃう。それからお昼過ぎ、突然響いたインターホン。レーティは警戒心もなく歩き出す。

「はい?」

扉を開けると、目の前に居たのは知らない中年男性。しかも見るからに高級そうなスーツ。レーティは内心で首を傾げる。すると言葉を話す前に、男性はジャケットの内ポケットから名刺が入るような小さなケースを取り出した。

「突然の訪問お許し下さい。私はこういうものです」

名刺を受け取るも、レーティの内心は斜めのままだ。何故なら突然やって来た中年男性は、有名なセレブ向けの病院の院長だったから。そこまで貧乏ではないが、きっと一生行く事はない病院の院長。

「ご用件は」

「魔法です。お嬢さんが使っていた。緑色の、球体。あれを、是非とも買い取りたい」

「はあ。今、ルアは出掛けてるんですけど」

「こういう契約は、親御さんの了承も得るべきですから」

「とりあえず、どうぞ」

「では失礼してお邪魔させて頂きます」

庭に居たルーナはふと振り返る。知らないおじさんがやって来たからと、そして窓を開けた。

「妹のルーナです」

「誰?」

「こんにちはお嬢さん。私はエル・スタンバール総合病院の院長をしている者です」

「院長・・・。ママ、何か病気なの?」

「ううん。まあビジネスの話をしに来たってところかしらね」

「ふーん。もしかしてお姉ちゃんのパパの知り合いとか?」

ルーナなりに頭を過らせたのは、“あたしみたいな人”の事で来た、という事。しかしその場の空気は固まった。

「ルアの父親は、ニルヴァーナの研究員なんです」

「そうでしたか。いえ、私は関係ありません」

「そっか」

そう言うと窓は閉められた。きっとこれから、よく分からない大人の会話が始まるだろうから。そうルーナは庭で過ごしているリヒカの隣に戻る。しかしすぐに、再び窓は開けられた。レーティがルーナを呼んだのだ。リビングに上がり、ルーナは院長の男性の瞳の奥に籠った期待を見る。

「ルーナさんも魔法の玉を作れるんだってね。私がここに来たのは、テレビでルアさんがそれを作ったのを見て、買い取りたいと思ったからなんだよ」

「か、買い取る」

「世の中には、不治の病というものがある。しかしウパーディセーサは、治療薬というには余りにも粗暴だ。病院の理事会では進化薬を採用する以外に手は無いという意見が強いが、私はどうも決め兼ねていてね。しかしそんな時、緑色の玉が怪我人を治すところがテレビや動画で取り上げられてね、私は、それに運命を感じたんだ。だから是非とも緑色の玉を買い取りたい」

「病気・・・リヒカ、あれって病気も治せるの?」

「うん。病気って結局は体の中の怪我だから、どういう病気を治して欲しいか説明すれば治癒玉はちゃんと分かるよ」

「ふーん」

当然の如く、院長の男性はレーティの顔を伺った。レーティにも見えてはいないので、院長の男性には苦笑いを見せる事しか出来ない。

「娘達が言うには、魔法は精霊に力を貸して貰ってるから出来るって」

「んー・・・そうか。なるほど。ルアさんは翼人とも関わりを持ってますからね、納得は出来ます。値段の方は言い値で構わない。これは慈善事業だからね」

「いいねって?」

「こっちが好きに決めていいって事よ」

「ふーん。でも、慈善事業なら、あたしお金いらない。魔法簡単だし、いくらでも作れるし」

ルーナはふと振り返る。「いいよね?」という不安な表情。しかしその胸の内に秘めた優しさに、リヒカは満面の笑みで頷く。

「いいのかい?」

「うん」

「ありがとう」

それから何も知らずに、ルアとヘルは散歩から帰ってきた。ただいまと言えばお帰りと返され、ルアはヘルと共にミルクを飲む。それからルアはふとルーナを見る。リヒカと話しているであろうその横顔に秘められた、満足と期待を知らずに。

読んで頂きありがとうございました。

「エネルゲイア×ディビエイト」の第二章を覚えてると、シャークの言葉や、シャークに対峙した軍人達の態度に背景が見えてくるんですけど。まあこれから書けばいいんですけど。

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