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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「目には見えないワクチン」中編

今日先ずやる事はペルーニの力でグラシア達をエルフヘイムへ送ってあげる事。禁界に自由に来れるシュナカラクとペルーニの内、暇なのはペルーニだけ。でもペルーニが行くなら自分達もと、そしてヘルは三国の地に降り立った。ルアが降りると、ヘルは例の如く体をブルブルさせて静電気を払う。

「グラシアさん」

「ルア達も来たんだね」

「少しでも訓練したいので」

「そっか。じゃあアーサー達のところ行こっか」

デュープリケーターたちの家は最早三国や死神界の周りの森全体。しかしペルーニの力を借りれば、どこに居ようと本人の目の前にひとっ飛びだ。それからルアとヘルは他の兵士達と一緒に三国を後にしていく。行き先は合同演習場。グラシア達のチームをエルフヘイムへと送ったペルーニと一緒にそして合同演習場へ入ると、ルアはいつもの通り内周マラソンを始めた。

「えーご覧下さい!ザ・デッドアイが潜伏しているとされている空き家に次々と人が入っていきます!ザ・デッドアイとどんな関係があるのでしょうか。同時に警察や軍隊の動きも活発化しているようです」

そこでカメラのレンズは素早く振り返った。警察官達が一様に眼差しを向けた方へ。

「ウパーディセーサ!」

「カメラさん、そっち!」

もうすでに緊迫感に満ちているそこで、フレームには入っていないアナウンサーのそんな声が拾われる。

「ウパーディセーサです!ウパーディセーサが2人現れました!」

「マスコミ下がれ!」

テレビに映っているのは2人のウパーディセーサ。林に囲まれた別荘として使われるような空き家に面した、一車線道路という広くはない場所で。アナウンサーのやけに逼迫した声や警察官の怒号はフレーム外から、という迫力。ルーナは漢字ドリルの手を止めていた。それからウパーディセーサは銃口を向ける警察官達に構わず、空き家の門前に並んだ。2人のウパーディセーサの背中を捉えるカメラ。沈黙を破ろうかどうしようか、カメラマンにアイコンタクトを送る女性アナウンサー。アナウンサーはマイクを握る手に力を込め、頭の中で文章を整えたがその時だった。2人のウパーディセーサが尾状器官をしなやかに動かし、門前から50メートルはあろうかという空き家の玄関にその先端を向けたのは。それはまるで、銃口を向ける警察官のよう。しかし見るからに、そのウパーディセーサ達は警察関係者ではない。そしてアナウンサーより早く、尾状器官は沈黙を破った。ルーナは勿論、アナウンサーや警察官達でさえ釘付けになっていた。突然やって来た2人のウパーディセーサが、ザ・デッドアイが潜伏する空き家に攻撃を仕掛けたのだ。

一方、アーサーは尾状器官に力を溜めていた。その眼差しに標的を見据えて。力が膨れ上がっていく高揚感と、その高揚感の矛先を定めさせる冷静さがアーサーを包み込み、そして──。

「ジャベリン!」

尾状器官から放たれた青光の槍。それは一直線に風を切って突き抜け、標的であるダークエルフに見事直撃した。弾けるテムネルの黒い光と、一緒になって消えていく青い光。そしてそのダークエルフが気絶すると、すかさずルフガンはダークエルフを光の鎖で縛り上げた。やがてダークエルフが意識を取り戻すが、もうその表情には闘志が伺えない。

「もう降参するかい?」

ルフガンの言葉と、全滅しているシャドウの戦闘員。否応なしにその情景を目に留めたダークエルフはそれから、静かに頷いた。ここはシャンバートのトニカ。スディーバス・カナツからの情報提供により、治安管理部と特攻部隊はシャドウとダークエルフの潜伏拠点の1つにやって来ていた。

「おかしいね」

「そうねおかしいわね」

ルフガンに相槌を打ったパウロニはふとクニークと目を合わせる。

「ホントに分かってる?」

「おかしいって事は分かるわ?何がおかしいのかは分からないけど。ルフガン」

「だから、潜伏拠点なのに、ダークエルフが1人だけで、人間の戦闘員も10人だけ」

「・・・他の拠点にいっぱい居るわよ」

「それはそうなんだが、随分と簡単過ぎる。うーん、気のせいかな」

「とりあえず今分かってるダーク・コーカスの拠点を回れば何か分かるかな」

こういう時には妙に冷静になるクニーク。だからこそルフガンは頷き、制圧が完了した建物を見据える。

「続いてのニュースはこちらです。2人のウパーディセーサがザ・デッドアイの潜伏拠点を襲撃しました。しかし力敵わず、その後2人は近くの病院へと搬送されました」

それからスタジオのアナウンサーから切り替わったのは、正に2人のウパーディセーサが尾状器官から衝撃波を放っていく場面。しかし衝撃波はたった一振りの“黒青の風圧”によって掻き消され、更にはそのまま2人のウパーディセーサは吹き飛んだ。門や警察、マスコミも巻き添えにして。“初期モデルのウパーディセーサ”がベクルス達に敵わないのは当たり前。そうルアとヘルは自宅でテレビを見ていた。“事件”の一部始終を見ていたシュナカラクが知らせてくれたのだ。

「報復などを警戒して警察も規制を強めていますが、今のところザ・デッドアイはまだ潜伏しているようです。しかしながら、ウパーディセーサによってこうしたマフィアに対する抵抗運動が少しずつ活発化しており、世間ではウパーディセーサに対する賛否の声が上がっています」

「所謂、“悪者退治”という動きが活発化しているようですが、ただウパーディセーサがもたらすものは善行だけではないんですよね?」

「はい、先ずはウパーディセーサを称賛する意見を見ていきますと、称賛される1番の理由が、ウパーディセーサの特徴である自己再生能力なんです。この自己再生能力で病気や障害が治ったという報告が多くありまして、これは医学的に見て、人類史上最も大きな功績と称されるほどです。しかしその反面、ウパーディセーサの犯罪もまた数多く報告されている訳でして、只今世界203ヶ国の内、7ヶ国にウパーディセーサの存在が確認されていまして、並びに7ヶ国全てにウパーディセーサによる犯罪が確認されています。ザ・マッドアイの、全ての人間に進化薬を提供する姿勢、というのは未だに継続しているので、ウパーディセーサの良い面と悪い面の報告はこれから増えていくのは確実です」

「(ウパーディセーサじゃなくて、翼の力でもいいのにね)」

「そしたら、三国に人間が押し寄せちゃうんじゃない?」

「(んー、それは何となくヤバそう。あ、ロードスター連合王国の事もあるか。そういえば、精霊と深く関わる世界と関わらない世界の差って何だろね)」

〈それはね、ポイントが高いからだよ〉

ルアの隣、ソファーで寛ぐペルーニ。ルアは「和み」を認識する。

〈霊王が取り決めるんだけどね?その星に住む生き物たちの、んー、光が強いと、精霊も居心地が良いの〉

「光?それがポイントなの?」

〈うん。それでポイントが高いと霊王も行っていいよって言うし、自然と精霊が集まるから〉

「(ポイントって、世界の平和度みたいな感じ?)」

〈うんっそれそれ〉

──平和度か・・・。この世界しか知らなかったし、戦争は当たり前だと思ってたけど。ルアはふとココアを一口飲み込んだ。何となくアンシュカの柔らかい人柄が目に浮かぶ。きっと戦争は当たり前なんかじゃない。

「ポイントって、誰が測るの?」

〈霊王だよ〉

それからルアは庭に出て、伸びをした。ニュースじゃまだザ・デッドアイは動いてない。それならこっちはギリギリまで訓練をするだけ。そうルアがヘルに跨がった時、ルアの携帯電話が鳴り出した。

尾状器官から放たれたのは、黒青の衝撃波だった。それは“初期モデルのもの”とは天地ほどに威力が違う。ミニカーが飛び上がったとでも言うように実物の警察車両は宙を舞う。逃げ惑う通行人、マスコミ、TSA隊員。ドシャーッと落っこちて警察車両がオモチャのように歪んだところで、ノイルは振り返った。精霊に運んで貰うから、連絡すれば1分もかからない。そうノイルはパッと現れたルアとヘルに希望を抱く。

「目標は2体だ。普通のウパーディセーサじゃないが、通常の任務として制圧してくれ。すぐにヘリオス達も寄越す」

「はい

 (うん)」

それからだった、ノイルが目を見開いたのは。ヘルが走り出したと同時に、ルアは上空に向けてプリマベーラの銃口を立てた。そして何やら緑色の光球を打ち上げたのだ。しかも同時に上着のポケットからもう1つ、緑色の光球を“ポロッと溢して”。──どこかで見たような・・・。しかし直後、そんなノイルの疑問は消え去った。ルアから指示を受けたり、操られたりする事もなく、その光球は勝手に街を飛び、怪我人の周りをクルクルしていく。

再び放たれる黒青の衝撃波。更に今度は笑い声が混じりながら。しかしその衝撃波は何を破壊する間もなく、見えない何かに打ち消された。

「ああ?」

ルアとヘルを目に留めた、“黒いウパーディセーサ”。ヘリオスとレイカを除き、初期モデルからベクルス達まで、基本的にウパーディセーサの外皮はくすんだ白に染まっている。しかし今目の前にしているウパーディセーサは、まるで素材が元々黒いかのように黒に染まっている。でも体格や尾状器官の本数など、外見は同じ。もしかしたら、ザ・デッドアイが作った、新モデルのウパーディセーサかも知れない。そうルアはヘルを降り、ヘルと共に翼を解放する。

「ハハッその翼・・・」

「来たな特攻部隊、お前らじゃないと、練習相手にすらならないからな」

「(ザ・デッドアイのウパーディセーサ?)」

「だったらどうした」

「(たった2人じゃ特攻部隊には勝てないよ?)」

一瞬、ルアはヘルを見る。すると1人のウパーディセーサは高笑いを上げ、その悪態はもうそれだけでマフィアとの関係を匂わせる。同時にもう1人は対照的に肩を竦め、“落ち着いた悪態”を見せる。

「高知能犬種のくせにガキみたいな挑発だな。ザ・マッドアイは、ウパーディセーサが人助けしようが人殺しをしようが関与しない。それは、オレ達も同じだ。これがマフィア絡みのテロだと、何をもって決めつける」

「(別にどっちでもいいよ。どっちみち、たった2人じゃ特攻部隊には勝てないんだから。そのまま海外にでも行けばいいのに。わざわざ目立つなんて)」

「うるせんだよ!犬が!」

終始興奮気味の方のウパーディセーサから放たれる黒青の衝撃波。それはヘルの翼から放たれた光弾によって相殺されたが、すでにウパーディセーサは飛び出し、尾状器官をしなやかに振り出していた。ドカンッと重たい衝撃が響く。翼から放たれた強烈な単発の光弾が空中でウパーディセーサの全身を強打したのだ。それでも軽々と立て直して飛びかかっていくウパーディセーサ。その傍ら、ルアと冷静なウパーディセーサは真っ直ぐ見つめ合う。最初に撃ち放たれたのは、光矢。しかし顔をしかめたのはルアだった。何故ならその冷静なウパーディセーサは“まったく避けようとせず”、光矢はグサッと肩に刺さったからだ。

「痛え・・・痛えな。けど──」

すると立ち尽くしたまま、冷静なウパーディセーサは光矢を掴み、引っこ抜いた。

「さすが最新モデルだ」

しかしそれから途端に構えると、まるで無駄な動きをしないガンマンのように黒青の衝撃波を放ってきた。そんな俊敏さにもルアは反応し、光壁で振り払うように衝撃波を弾き、それこそガンマンのように光矢を撃ち返す。そして2人は、走り出した。眼差しという名の銃弾で牽制し合いながら、一方が撃てば弾き、撃ち返せば弾き返す。ガンマンのようにというか、最早ガンマンの戦い。しかしそれから、ルアは微笑んだ。体は軽く飛び回れるし、魔力も増して相手の弾は弾けるし、私の弾はちゃんと通用する。

「身のこなしは上等だ。だがその程度か?その光の矢は」

ルアは感じた。目を向けなくても分かる。今ヘルが、リッショウを使った。だからルアもリッショウを使い、シリンダーの中の光矢を1本にまとめた。

光矢七層(ストレスーヴェ・セムーソ)

放たれる、光矢と衝撃波。すると光矢は気持ちがいいほど衝撃波を突き抜けた。フワッと衝撃波が波を打ち、そしてザザーッと冷静なウパーディセーサは引きずられ、倒れ込む。

「ガハッ・・・・・ぐう」

「ルア」

振り返るルア。レイカがやって来たが、ルアは小さく頷くとすぐに目線を戻した。冷静なウパーディセーサはすでにに立ち上がり始めていた。

「効いたな・・・」

一方、ヘルは内心、怠さとちょっとした怖さを感じていた。興奮気味のウパーディセーサは“何度吹き飛ばしても、リッショウして強烈な攻撃をしても”すぐに立ち上がる。まるで、ベクルス達みたい。それからヘルはやって来たヘリオスに振り返りながら、脇腹に砲身を作った。

「それは何だ?」

「(戦車モードだよ。魔法で作った)」

「なら後方支援は頼んだぞ」

「(うん)」

ヘリオスはウパーディセーサへと変身を遂げる。しかしヘルは直後に首を傾げた。

「(アップグレードしたんじゃなかったっけ)」

「第二形態は切り札として取っておく」

「(おー)」

第二形態というカッコイイ言葉だけで、ヘルは尻尾を振る。首を鳴らし、肩を回す興奮気味のウパーディセーサ。それからヘリオスに向けて放たれた黒青の衝撃波は、ヘリオスを通り過ぎた。何故ならヘリオスは、ヘルがビックリするほど高速で衝撃波をかわしたから。直後にヘルは脇腹の砲身から光弾を高速連射する。牽制にしては重たい光弾を浴び、興奮気味のウパーディセーサが動けずにいるところにヘリオスが突っ込み──。

「グリーム・ブレイカー!」

光輝く拳。それが相手の顔面に叩きつけられた。衝撃熱波の如く凄まじい衝撃が圧縮された拳に、興奮気味のウパーディセーサはグルンッと回りながら吹き飛ぶ。しかし、黒青の衝撃波は放たれた。

「そんなもんかオラぁ!」

ウパーディセーサのくせして、切れた唇を拭う動作を見せた事にヘルはふと人間らしさを感じる。そんな直後、興奮気味のウパーディセーサは衝撃波を連射し、かわしながらも向かってきたヘリオスを殴り返した。ヘリオスも負けじと殴り返すと、そして殴り殴られの攻防戦が始まった。その中でヘルは思った。──あの外皮の耐久力、やっぱり、テムネルなのかな・・・。あの“黒”は、ベクルス達の・・・。

冷静なウパーディセーサは、再び吹き飛び、そして再び立ち上がる。ガンマンの少女に猛獣の少女が加勢しても、黒いウパーディセーサは立ち上がる。さながらそれは、ゾンビのように。しかし光矢は放たれる。牽制や攻撃ではなく、“何となく恐怖を押し退ける為に”。

「こうなったら、あたし本気出すわ。ルア、巻き添えに気を付けてね」

「え、うん」

そういえばアップグレードしたとか言ってた。そうルアは期待する。電気と光に包まれ、外皮の一部を分厚くすると共に“尾状器官を武器状に変化させた”レイカに。1番目を引くのは、“剣のように鋭利になった尾状器官が、常に輝き、電気を迸らせている”という事。

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