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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「守るべきもの」後編

まるでバカでかいスピーカーで爆音を流したようだった。音楽ライブやクラブの真っ只中とはまるで比較にならない、内臓を直接殴られるような気持ち悪さ。痛みや傷は無いが、感情が爆発しそうなほどの強烈な「不快感」。直後に銃声が鳴った。だが今ではそんな銃声も可愛く聞こえる。1人の武装警官がその虫の羽を撃ち抜いたのだ。無駄に疲労した中で、その行為は無駄に英雄的に見えた。それからまた、警官隊と“異様な生物”との戦いか始まった。少しずつランディは平静さと取り戻していく。マスコミの人達が抱えるカメラは全てガラクタと化し、怖いもの見たさで集まった住民達は逃げ去っていく。

「カカカカッ」

横開きの口が小刻みに震える。誰もが一瞬の恐怖を感じた瞬間、1人の警官の目に映ったのは“歪んだ虫の顔”だった。それからランディの目に映ったのは、一瞬の爆音と共に吹き飛ぶ1人の警官だった。何メートルも離れた距離を真っ直ぐ吹き飛び、警官は玄関前に停めてあったランディの軽トラに激突した。ガシャーンと凄まじい衝撃音が響く。運転席は大きくへこみ、警官は気を失った。

「パパっ」

玄関扉の脇窓から顔を出したルーナの呼び掛けに、ランディは我に返る。しかし窓ガラスが全て砕けた自分の家に、ランディは改めて言葉を失った。

「お姉ちゃーん、テレビの虫来たーっ」

「ルーナ、駄目だ家に入ってろ」

「カカカカッ」

虫は羽の振動を口に伝えて衝撃波を吐き出す。それはヒトを小石のように吹き飛ばすほどの威力だ。目の前でそれを見た警官は危険を察知し、間一髪でそれをかわした。それは容易く地面を巻き上げ、ゴウゴウとまるで炎のような轟音を上げて地面を這っていく。跡を残し、真っ直ぐ飛び、芝生を巻き上げ、そして――。

「パパぁっ!」

すぐに玄関を開け、ルーナはランディに駆け寄った。意識は朦朧としていて、頭からは血が出ていた。家の壁にあんなに激しくぶつかったのだ。

「パパ!」

「(ルアっランディが虫にやられた)」

「プリマベーラ取ってくる、先行ってっ」

「ワンッ」

2階に駆け上がるルア。ジュシアル・ブーツとプリマベーラなんて物騒なものはすでに部屋のクローゼットにしまわれている。2つの武器は、ルーナを助ける為にとルアの実父がルアに贈ったものだ。しかしルーナが無事に助けられ、しまわれていたのだが、ルアはそれらを引っ張り出した。これから、どんな運命が待ち受けているとも知らずに。

ヘルが駆け出していった横で、ランディを見下ろすルーナは怒りに震えていた。目の前でパパを傷付けた。ルーナは自分でも、自分の中にある“異変”を感じていた。何だか体が熱い、そして、雑音が凄くうるさく感じる。頭の中で銃声と悲鳴がぐるぐる、ぐるぐる。それもまた、ルーナの怒りを引き上げる要因だった。許せない。それはよくある反射的な感情だ。しかしその時、ルーナの感情は異常に高ぶった。そして、体中の骨が軋み始めた。

「(ボクも戦う)」

ヘルが2人の警官に語りかけるが、警官隊はヘルに見向きもせずに虫の脚を狙って銃撃していく。

「一般市民なんだから、下がってなさい」

「(えーん)」

銃撃される度体は波打ち、緑色の血が吹き出ていく。まるで恐怖に狂ったように警官隊は無慈悲にライフルを連射する。やがて脚を撃たれた虫は転び、銃撃は頭に集中した、その時。

〈ヴオオン〉

「ぐあっ!なっ」

「(上だあっまた来たぁっ)」

「な、んだって」

ライフルの弾には勿論限りがある。警官隊は武装してはいるが、それは“暴徒”の鎮圧用装備であり、そもそも未確認生命体用の装備など無い。2人の警官は、一気に絶望感に見舞われた。

「(やっぱりボ――)」

その瞬間、ヘルと警官の間を“轟音”が駆け抜けた。2人と1匹が振り向くより早く、彼らの目の前で虫が吹き飛び、同時に脚が飛び、頭が飛び、緑色が吹き上がり、そしてバラバラになった体は警察車両にぶつかっていった。反射的に2人と1匹が振り返る。その先に居たのは、1人の少女、と思われるものだった。

――ルーナ?

ヘルの嗅覚は確信していた。あれはルーナだと。しかし視覚は戸惑いを感じさせた。その眼はガラスのように赤く光っていて、背中には4枚の虫の羽を生やしていた。一瞬の静寂の後、警官隊はルーナに銃口を向けた。

「(ダメぇっ!)」

〈ヴオオン〉

「く・・・」

頭が割れそうになる中、警官隊は見た。少女が空に手を伸ばし、羽を震わしながら掌から衝撃波を放つのを。直後、煩わしい騒音が止んだ。警官隊が空を見ると、虫が落ちてきた。すると虫はそのまま、爆音を立てて警察車両に落っこちた。警官隊は落ちた虫から、ルーナに顔を向けていく。その目は鋭く、警官らしい正義感に固まったものにヘルには見えた。ヘルがルーナに駆け寄る頃にはルーナはヒトに戻っていたが、それから警官の1人が冷たい声で話しかけた。

「ルーナ・スコーレさんですね?ザ・デッドアイに誘拐された子供の1人である」

「(大丈夫だからね)」

ルーナの傍につき、ヘルは警官隊を睨み付ける。それから、ルーナは黙って頷いた。直後にヘルを呼びながらルアが出てくるが、その張り詰めた空気と警官隊の眼差しにルアは何事かと固まる。

「あの事件後、誘拐された子供達は検査入院して全員が問題なく退院しました。しかし後日、その子供の1人が傷害事件を起こしまして。その際、その子供はモンスターに変身したと。その他にも誘拐された子供が変身をしたという事実があります。なので現在、政府によりその子供達を“保護”しています。だから君も保護します。いいですね?」

「断る」

皆がランディを見る。ランディは怒りの形相で警官隊を睨み付けていて、ルーナを庇うように警官隊に詰め寄った。ランディの目には焼き付いていた、霞んだ視界の中で、ルーナの背中から羽が生える光景が。

「どんな姿だろうと、ルーナは人を傷付けるような人間じゃない、ルーナは俺の娘だ!そんな人間に育てた覚えはない!」

「でしたらランディさん・・・再検査入院という事でどうでしょう」

「再検査?・・・」

「研究機関で保護されていれば、人間に戻る特効薬も出来るかも知れません」

「そんな事言って、政府はモンスターを駆除する事しか頭に無いんだろ!騙されてたまるかよ!」

「すいませんがねランディさん」

そんな時、そこに新しい警察車両がやってくる。それを一瞥したランディは一瞬、その警察車両に危機感を抱いた。

「これは任意ではありません。強制執行です」

ガチャと、ライフルのチャージングハンドルを引く音が後方で鳴り、ランディは振り返る。軽トラに激突した警官が意識を回復させていて、ライフルの初弾を装填した。その音は威圧と恐怖以外の何ものでもない。

「何でだよ、俺達が何したっていうんだ!被害者だぞ俺達は」

「さあ来なさい」

1人の警官がルーナに手を伸ばすとランディがそれを振り払い、逆に掴みかかる。するとそれがまるで火蓋を切ったように、警官はランディの腕を取り、背後に回り、逮捕術などでよく見る腕と肩を固める関節技をかけた。

「いってぇ!くっそぉ」

ルアとヘルはただ眺める事しか出来ずに居た。ただ怯えていた。育ての親が、警官に拘束されている、そして同時に、妹が連れていかれていく。助けたい。でも、何も出来なかった。ルーナは泣く事なく、黙ってランディとルア達を見ていた。こんな巨体でも無力だとヘルはただルーナを見つめ、武器を持っても何も出来ないとルアはただ立ち尽くす。

「くそ・・・」

ルーナを乗せた警察車両が無情に走り去っていくと、ランディは崩れ落ちるように膝を落とした。2人の警官が死に、2体の虫のような生物が死んだそこは、少しだけ血生臭さが広がっていた。

「さっきの奴らが言ってたんだ。警察は、殺す為に連れていくって」

「それって、どんな人?」

「ほら、あのバケモノになった奴の仲間だ」

「え?・・・ランディそれ、マフィアだよ?」

「そうなのか?」

「(マフィア、もしかしたらルーナを取り返しに来たのかな)」

「ああうん、そうかも。ランディ、マフィアの言う事なんて聞かなくていいよ。ホントに保護してくれるだけかも」

「・・・マフィアも、警察も信じられるか。例えマフィアの言う事でも、警察がモンスターを生きて返す訳ないのは本当だろ。・・・くそぉ、ルーナはまだ15なのに、何でこんな目に遭わなきゃならないんだ」

ヘルはルアと顔を見合わせる。膝を落とし、絶望しているランディに何て言葉をかければいいのか。そんな事を思っている時、ルアの携帯電話が鳴り出した。亡骸を処理している警官隊を、マスコミの人や近隣の人が眺めているのをまた眺めながら、ルアは携帯電話を取り出した。画面には“お父さん”の文字があった。

「お父さん」

「大丈夫か?今テレビにそこが映ってるぞ?」

「うん。私は大丈夫。お父さんは?変な虫、来た?」

「あぁ、けどセキュリティが万全だからな。もうすぐその虫の死体が運ばれてくるから、知り合いが遺伝子分析を楽しみにしてるってさ、ははっ」

「そっか」

「元気ないな。どうしたんだ?」

「ルーナが、警察に連れていかれちゃった」

「おいおい、何だそれ、グレちまったのか?」

「ううん。誘拐された時にね、何かされたみたいで、私は見てないけど、人間じゃない姿になったみたいで、それで連れていかれちゃったの」

「人間じゃない姿?それは・・・んー、1回ちょっと会ってみないとな。ちょっと、ルーナを俺のところに連れてきてくれないか?」

「え!?そんなの無理だよ、連れていかれちゃったもん。それにあの虫も沢山居るし」

「虫の事なら大丈夫だ。今から“超速達”でプリマベーラのアタッチメント贈るからさ」

「アタッチメントって?」

「そりゃあ見てのお楽しみさ。ちゃんと説明書も付けとくからさ」

「そこ出し惜しみしてる場合じゃないでしょ」

「それから助っ人も寄越すからな?」

「・・・うん、分かった。ありがとう、いつも」

「ははっ照れちゃうだろ。俺はお前の父親なんだ、一生頼っていいんだからな?」

「うん」

“噂の魔獣薬”で公に変身が目撃された通称「タリエ・デパート」。名前の由来はそこを牛耳る人物の名前から取ったもの。魔獣薬使用者の暴走事件後、タリエ・デパートは警察の介入により、裏取引のデパートとしての役割を終えた。しかし“裏取引のフィールド”なんてものはどこにだって作られる。大御所マフィアが牛耳るゲイビー・デパート。そこにノイルは居た。バーカウンターに寄り掛かり、グラスを傾ける。魔獣薬が引き起こした悲劇など他人事のように過ごす無法者達。

「すげぇ事になってるぜ?」

たまたま近くに居た奴らが何やら騒ぎ出した。ノイルは横目にそいつらを見る。どうやらタブレットで何かを見ているようだった。

「おいこれ、まるで魔獣薬使った奴みたいじゃねえか?」

「え?」

「ほら、タリエ・デパートでさ、魔獣薬使った奴が暴れただろ?似てねぇか?」

「あー、そういやそうだな」

「なぁちょっと俺にも見せてくれ」

そこにノイルが割り込んだ。無法者達は名も知らない無法者仲間を見るような眼差しでスペースを開ける。ノイルが見たのはライブ映像で、首都の中心部にある兵器研究施設から大量の“虫”が湧いて出ていくというものだった。ガラスのように赤く光る眼に、背中から伸びる脚。ノイルの頭に事件の事がふっと甦る。

「こいつらは?」

「いや分かんねぇよ。今さっき突然だ。知ってんのか?」

「いや、俺も魔獣薬使った奴に似てると思って」

ノイルは胸騒ぎを覚えていた。ザ・デッドアイと何か関係があるのだろうか。しかし兵器研究施設は国の要の1つだ、そんなものにいくら何でも忍び込める訳ない。公にはされていない為、ノイルは知らないあの“ホール”の行方。もしそれがあの施設なら、ホールに何か起きたのだろうか。

デパートを出ると、ノイルは適当に人気の無い公園に足を踏み入れ、不良っぽく隅っこに座り込んだ。妹の敵を取った後でも尚、ノイルはただ裏社会に身を置き、意味もなく酒を飲んでいる訳ではない。さりげなく周りを警戒した後、ノイルはジェルに電話をかけた。

「おおニュース見たか?」

「兵器研究施設だろ?」

「あぁ、やっぱりあれが例のサンプルなのかな」

「だろうな、さっきラット達が出てったよ。敵討ちだって息巻いてな」

「そうか。ザ・デッドアイの拠点掴んだぞ?そこもでかい倉庫があるらしい。もしかしたらそこでもホールがあるかも知れない」

「おお、2回目ともなれば前より編制もマシになるからな、早速キャプテンを担いでみるか」

「へへ、じゃあ土産話待ってるわ」

そこにスパイが居る事など、散歩している親子連れや犬連れの人達は知る由もなく、その男は何食わぬ顔で公園を後にしていく。するとそこで、ノイルは声をかけられた。その灰色の髪の男はどこか爽やかそうで、しかしその爽やかさが逆にミステリアスな雰囲気を醸しているような風貌だった。

「ノイル・ヘルターさん?」

「え?」

「俺の事はストライクと呼んで下さい。怪しいもんじゃないですよ。とりあえず人には探偵で通ってます」

「探偵?そう、で?」

「まああの――」

所変わり、ルアの実父からの電話の約2時間後、ルアの下にドローン便が届いた。

ドローン便、それはGPSで目的地を設定したら全自動で飛んでいくドローンに、郵便物を持たせるもの。ドローンを返す時は、郵便物を受け取った者が付属の書類にサインし、1番近い郵便局へ飛ばして返せば良いだけ。料金は郵便物を贈りたい人がネットでドローンを注文する際に支払う事になっている。積載量と設定により変わるが、最高速度は50キロ。フル充電でも飛行時間は約10時間だが、目的地設定時、途中に郵便局があれば自動で経由して局員にバッテリーを交換させる為、国内の隅々まで実動可能。尚、ドローン便仕様のドローンはテロ対策の為、ダイナマイトでも壊れない郵便物収納箱以外の所に何かをくっつけたりした場合、稼働しないように製造するのが決まりになっている。とは言え、差出人や“合言葉”の記入欄が無記名のドローン便の箱は無闇に開けないようにするのが1番だというのが暗黙の常識だが。通称「超速達」。周囲の障害物との距離を読み取る“空間把握機能”の技術競争は常であるが、近年では住所ではなく“人間”に目的地を設定し、“どこでも受け取れる”機能などの技術競争が盛んである。

ルアはポストの上に止まったドローン便の差出人記入欄を見る。父の名前、そして合言葉記入欄には「ヘル元気か?」の文字。その文字だけでも、ルアは父を想い安堵し、笑みが溢れ、そして少しだけ寂しくなった。箱を開けると、そこには段ボール箱が入っていて、「爆発物」とマジックで書かれていた。

「(うわーお、爆発物だっ)」

「ヘル、何でそこでテンション上がるの」

読んで頂きありがとうございました。ドローン便、あったらいいな系のやつですね。あったとしても僕は使うかどうか分かりませんが。笑

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