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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「目には見えないワクチン」前編

「(シュナカラクっ。何かあったの?)」

「ヘリオス達から報告だ。カジノ店にベクルスとバノが入っていった。しかしそれから新しい動きはない」

ヘル達には分からない。何故、ベクルス達が平然と戻ってきたのかを。だから再び見張りの為にとシュナカラクが消えていくと、ヘルはペルーニを見た。

「(あっちのチームに、今どんな感じか聞きたいからさ、連れてってくれない?)」

「うんっ」

「(ルアちょっと行ってくる。グラシアさん連れてくるよ)」

「え、じゃあペルーニにグラシアさんを連れて来て貰えば?」

力の抜けた表情と、真っ直ぐな眼差し。そんなルアに目をぱちくりさせたヘルは、ゆっくりと上を向いていった。それはまるで、人間でいうところの“惚けた態度”だ。

「(あ~)」

しかしそれからやって来たのはグラシアを含めた、別チームのみんなだった。

「おうグズィール」

陽気に手を挙げるアーサー。アルツを見に行くと足早に去っていくアルファ。休暇を取って帰省でもしてきたかのようにリラックスしているメアとナイト。テリッテや他の兵士に囲まれて笑顔を溢したグラシアはそして、ルアとヘルに顔を向けた。

シュナカラクは見下ろす。適当な建物の上で、ザ・デッドアイの最後の砦である隠れ蓑を。これから、またどんなデュープリケーターを作るのか、はたまた別の何かで戦力を増強するのか。そんな精霊の監視を知ってか知らずか、そしてようやくベクルスは力の抜けた溜め息を吐いた。ソファーに座り、酒を一口飲みながら。

「ヨーガ、バージョン5は作らないのか?」

「作っても、また特攻部隊に取り込まれたらこっちが不利になる。だからこれからは、どうウパーディセーサを強化するかだ」

「ルーファーの指示か」

その部屋で2人きり、ヨーガは振り返った。──呼び捨て・・・。

「俺の意見だ、それが採用された」

「そうか」

それからその部屋に入って来たのはバノ、ウダオラ。ウダオラはルーファー達がセンバドールに入り込んだ時に、別動グループとしてここに逃げてきた1人。2人は他愛のない話を咲かせて表情を緩ませ、酒を片手にソファーに座る。その傍ら、ベクルスとバノの遺伝子情報を、ヨーガはFO細胞に落とし込んだ。



第28話「目には見えないワクチン」



「さっき報告したが、ヨーガ、今俺らは優勢だ。特攻部隊は今二手に分かれてる。戦力が分散してる内に、さっさと新しい力作ってくれ」

「そうか。何とかする」

特攻部隊に構う事はない。俺らの目的はニルヴァーナ。最初からここに逃げ込んでいたザ・デッドアイのメンバーと合流した今、全員が強化したウパーディセーサになれば、戦力に問題はない。そう、ベクルスは一点を見つめ、酒を一口飲み込んだ。──ようやくツキが回ってきたか?・・・。

そして“情報共有”は済んだ。グラシアによってダークエルフの事やベクルス達の事がルア達に報告され、ヘルによってベクルス達のその後がグラシア達に報告された。しかしグラシアは冷静に考え込む。これからもグラシア達のチームは治安管理部に協力する。ベクルス達がザ・デッドアイに戻っても、私達はダークエルフ達を追いかけなきゃいけない。

「またノイルに報告しなきゃね」

グラシアとルアとヘルがノイルに会いに行くと言って消えてそれから、グズィールは振り返った。ロックエル達に向かって、アーサーが得意げに活躍した事を話している。──ここに来る前の私だったら、きっとズルいって思ってただろうな。

「ザ・デッドアイが動き出したら、私達も頑張らなきゃね」

「うん」

グズィールはテリッテの笑顔を前に、ふと思い出した。それはアーサー達がシャンバートに向かった頃、ホープと共にイビルの村作りを手伝った時の事。

──2時間前。

死神と三国の住人達、4種族が協力して、方角的には三国から北東の方面に当たる場所に村を作っていく。ある者は“自分だけの武器”を利用して木を切り倒し、ある者は土を耕す。ホープとグズィールは死神のメーリラ、イビルのフンニャと共に穴を掘っていた。縦だけではなく、横にも。少し遠くの川から水を引き込む為の穴。と言ってもメーリラはスコップなど持っていない。穴を掘ると言えば昔から“ここの人達”は翼の力を利用する。地面に手を当て、意識をすれば具現化された力が勝手に土を掻き分けてくれる。更には想像次第で、土を圧し固める事も出来る。つまり、パイプを作る事が出来るという事。

「どうして、みんな武器の形が違うの?」

グズィールは尋ねる。するとメーリラは目を丸くしたが、ちょっと上を向くと微笑んだ。

「それぞれ、出来る事が違うからじゃないかな」

「出来る事・・・」

「誰かと同じ事をしなくちゃいけない訳じゃないでしょ?武器っていうのは、自分に合った形であればそれでいいんだよ」

「・・・そっか」

パイプの中で空気の流れを作れば、水も一緒にやって来る。そんな考え方で作られた小さな噴水を、グズィールは眺めていた。

合同演習場での訓練は実質終わった。しかし常に、1割の兵士は自主練習の為に居残りをする。アーサーが適当に強そうな兵士を呼び止め、熱心に修行に勤しむ中、グズィールは片付けの手伝いをしていた。

「ありがとうグズィール」

「うん」

「ラフーナ余ったし、食べていいよ?」

「うん」

男性兵士がそう言うと寄ってきたのはメア、ナイト、ホープ。言った側からラフーナが無くなった事に満足げに笑うと男性兵士は去っていき、それからグズィールはポップコーン片手に映画を見るようにラフーナをかじり、アーサーを見る。

一方シャークは独り、ユラユラと森を散歩していた。何故なら、この森がどれくらい広いか、気になるから。しかし三国から何十キロ離れたところでシャークは動きを止めた。その先に見えたのは、三国の住人や死神とも違う人間達だった。シャークは頭を過らせる。その人間達の話を思い出していた。

「あんたら──」

ザザッと武器を構える、迷彩柄の人間達。マフィアとはちょっと違うが、似たような殺気。シャークはとりあえずリッショウをして警戒を見せつける。

「確か、ロードスター、連合王国、か?」

「ど、どうしますか隊長」

「まさか、サクリアのデュープリケーターが、ここにも、一体どういう事だ」

「あんたら、確か、シャンバートと手を組んでるんだよな」

「何だと、情報が漏れている、くそ」

「あんたらは何故、ここに来るんだ?」

しかしそこに沈黙が吹き込んだ。子供が聞くような真っ直ぐな質問に、銃口を向ける人間達は隊長を除き、顔を見合わせる。

「お前には関係無いだろ。一先ず戻るぞ」

「待てよ」

まるで聞こえていないかのように、人間達は去っていく。だからシャークはユラユラと追いかけた。すぐに振り返る男性隊長。

「来るな」

「気になるだろ。前に聞いたんだが、ここはあんたらにとっては死後の世界みたいなもんだって。あんたら、幽霊か?」

「そんな訳あるか。それは、正確な解釈ではない。現に我々はこうしてこの世界に足を踏み入れてる」

「そうなのか。じゃああんたらも、空から来たのか」

隊長は合図した。指でひょいっとするだけの合図。再び去っていく人間達。何とも中途半端な会話。だからシャークはユラユラと追いかけた。またも振り返る人間達。

「これ以上は機密事項だ。もう話す事はない」

「それは何故だ」

「は?お前、機密事項の意味を知らないのか」

「話す事が無いなら、そもそもここに来る必要は無いんじゃないか?主張があるからここに来るんだろ?」

顔を見合わせる人間達。妙に真を突いた言葉に、男性隊長は軽く鼻で笑う。

「未踏の地に挑むのは、人間の性だろ」

「性、か。それなら何故、武器を持つ。きっとあいつらは、ただ来たいというだけなら許すんじゃないかと思うが。未踏の地に挑むのと、敵意を持つのは関係無いんじゃないか?」

再び男性隊長は指をひょいっとした。歩き出す隊員達。しかし男性隊長はそれから、半分だけ振り返った。

「これはこちらの問題だ。サクリアで生まれたお前には関係無い」

「侵略を止めないなら気を付けた方がいい」

「何だと?」

「あんたらが思ってる以上に、あいつらには味方が多い。オレらも含めてな」

サクリアで生まれた、生物兵器。しかしそれはあまりにも知的で、まるで“人間のように危険”だ。ロードスター連合軍、上界探査隊、第5分隊長はそう森を歩いていく。途中で振り返ってももうデュープリケーターの姿は無い。しかしそこに安心などない。むしろその姿無き脅威は止めどなく不安を連れてくる。

「隊長!エニグマです」

男性隊長はサソリ型エニグマの後ろ姿を捉え、“馴れたように”指を立てる。静かに歩いていく隊員、その一瞬、隊長は1人の“特殊武装の”隊員とアイコンタクトする。パキッと枝を踏む音が妙に響き、エニグマは半分だけ振り返る。しかし“いつも通り”だ。対エニグマ用の特殊武装員が警戒はするが、エニグマは見境無しに襲ってくる事はなく、そこには警戒がぶつかり合うだけの沈黙が流れるだけ。それから第5分隊は禁界をキレイに囲んでいる、まるで“外壁のような山脈”として知られている、通称「壁山(かべやま)」の麓に帰投した。

「スカナ、どうした、やけに早いな」

第4分隊長、マリダが声をかける。

「デュープリケーターに出くわした。司令官に報告しないと」

「何で、こっちの世界に居るんだ」

「いや、サクリアの特攻部隊には翼人も居る。連れてきたんだろう」

「ああそうか」

「それに報告しなければならないのはそれだけじゃない。ロードスター連合王国とシャンバートが繋がってる事をデュープリケーターが知っていた」

「・・・何じゃそれ。んー、あ、それは、あれじゃないか?」

「え?」

「こっちの世界のルートで情報が漏れた、そう思えば不思議じゃない。タンジーケルだって落ちたんだ」

「けど、漏れたって、最重要機密だぞ。何で“地域丸ごと鎖国してる”ここの奴らが知ってるんだ」

「・・・それは、何でだかな」

ユラユラと宙を行き、シャークは天界の宿舎へとやって来た。別に急ぎ足ではないが、シャークはそして会議室に入った。

「ハルク」

「ん、どうかしたか?」

「今さっき、ロードスター連合王国の人間に会った」

眉を上げるハルク。だからと言って慌てる事はまったくせず、現在会議が行われていないそこでリラックスしている兵士達は顔を見合わせた。

「あいつらって、どうやってここに来てるんだ?」

「それは俺達には分からない。もしかしたらスティンフィーに調べて貰ったら分かるかもな」

「話して気になった事がある。人間達は、ここが人間にとっては死後の世界みたいなもんだっていう事を正確な解釈じゃないって言ってた。あんたらは、気にならないのか?何故人間がやって来るか」

「そりゃあ気にはなるさ。けど、そういう風習なんだ。周りの事より、自分達がどう生きていくかを重視していたからな」

「そうか」

「シャークって、考えるのが好きなの?」

女性兵士の笑顔での問いかけに、シャークはふと樹海に居た時の事を過らせる。

「好きというか、気になったら、知りたい」

「シャークは学者に向いてるんじゃない?」

別の女性兵士がそう言うとそれから2人の女性兵士は静かに笑い、そんな温かいような柔らかい雰囲気に、シャークは何となく意を決した。

「オレ、これからオレなりに調べてみようと思う。ロードスター連合王国の人間達の事とか、この世界と、下の世界の関係とか」

「そうか。それなら分かった事は本にしてくれないか。その方がきっとこの国にとって役に立つものになる」

それから日が変わり、ルア達が自宅で朝食を取っていると、朝の情報番組はザ・デッドアイのニュースを流した。

「えー、現在、ザ・デッドアイが声明を発表してから6時間、クラニワの街にはそれほど緊張感が充満しているという印象は感じられません。並びに声明が発表されてから、ザ・デッドアイに新しい動きはありません」

「はい、ありがとうございました引き続き取材をお願いしまーす。えー、ザ・デッドアイが声明を発表しただけでは警察もやんわりと取り囲んで観察するくらいしか出来ないらしいんですが、ザ・デッドアイはこれまでセンバドール、ブラッジェルと、所謂寄生をして生き延びてきた訳ですが、これからの動向はどう予想されるでしょうか」

「うん、ザ・デッドアイは元々科学系マフィアですから、“元々ウパーディセーサはこっちのもんだ”っていう声明を基に予想するなら、ザ・マッドアイとは違うモデルのウパーディセーサを世間に広めたり、まあウパーディセーサを中心にした活動が予想されるでしょう。そして1番懸念される事は、ザ・デッドアイはザ・マッドアイに攻撃を仕掛けた訳ですから、その対立や抗争によって一般人が巻き込まれる危険性でしょう」

ふとルアはココアを啜りながらヘルに顔を向ける。正直に言うと、もっと魔法の練習がしたい。けどザ・デッドアイが動き出したなら、やるしかない。そう、ヘルと見つめ合う。

「ママ、クラニワってどこ?」

「ここからだと、車で2時間くらいかな。ほら小さい頃に遊園地行ったでしょ?フロンスターリ。その近くよ」

「遊園地、んー、そんなに覚えてないけど」

微笑み合うレーティとランディ。それからレーティはふと、ザ・デッドアイのニュースに釘付けになっているルアを見る。

「ルア」

そんな時にランディが声をかけた。珍しい事ではないが、ランディの心配そうな横顔にレーティは一瞬目を丸くする。

「ん?」

「魔法って、難しいのか?」

「ううん」

「魔法って言ったら、回復が鉄板だろ?そういうのは出来るのか?」

笑いを吹き出すルーナ。

「うん、これ」

思い出したように、ルアはポケットから取り出した。吹き出したルーナがすぐさま口をあんぐりさせてしまうほどの、柔らかい光そのものである緑色の光球を。しかしルーナが釘付けになったのは、ルアの手によってむぎゅっと歪んでいるその衝撃だった。──何そのオモチャ感・・・。

「それ、前にアルテミスさんがやってたやつ」

「うん」

ルーナが手を伸ばした瞬間、治癒玉はスッとルアの手から飛び出した。内心であっと声を漏らすルーナをよそに、それから治癒玉はランディの周りをクルッとした。

「な、何だよ」

「もしかして、指治ったのかな」

ランディは今朝、料理中に指を切ってしまった。ルーナがそう呟くと全ての眼差しがその絆創膏に向けられてランディは戸惑うが、それでも半信半疑で絆創膏を剥がしてみる。

「まさか、治ってる・・・」

驚いたのはランディとレーティだけ。ルアはペルーニやヘルと微笑み合い、ルーナは妙に表情を落ち着かせる。

「あたしもやる、それ」

「イメージして呪文を言えばすぐ出来るよ」

それから食器を洗っているレーティに作った治癒玉を見せるルーナを横目に、ルアは庭先への窓を開けた。

「ちょっと出かけてくる」

「うん、行ってらっしゃい」

そして庭先で、ルアはヘルに跨がった。

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