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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「メビウス」後編

「ベクルスに聞いたんです。ザ・デッドアイは被害者だって。それって、どういう事なんですか?」

「マフィアとは言え、被害者感情としては当然だね。ニルヴァーナの目的は“いかに強い生体組織を作るか”でね。それで考えついたのがウパーディセーサなんだ。でもそれはこの国では法律に触れる事でね。だから事が運びやすいように、“悪い事をしても当然だろうって思われる人達に盾になって貰う事にしたんだ”。そうすれば、悪い事をしてもその人達のせいに出来るからね。だからニルヴァーナは、ザ・デッドアイを無理矢理取り込んだんだ」

「そう、ですか。何でザ・デッドアイだったんですか?」

「ザ・デッドアイが1番科学に精通していたからだよ」

「ウパーディセーサを作ってどうするつもりなんですか?」

「ただ強くありたい、それだけさ。人間っていうのは銃で撃たれたり、車に轢かれたり、病気になったりして簡単に死んでしまう弱い生き物だ。君達のようにすぐに怪我が治ったりはしない。俺は、その弱々しさを科学で覆したい」

「何で、それがこの国では悪い事なんですか?」

「ははは、それは俺が聞きたいよ。人間は人間以外の生物を簡単に品種改良する。倫理観というものを持ち出すなら、とっくに倫理を逸している。なのに、人間だけ、品種改良してはならないなんて、理解出来ないね」

「じゃあ、違う国でやればいいんじゃないんですか?」

「いや、“生確法”はこの国で発足したもので、世界中で見てもこの国は1番生確法に理解がある。勿論助成金に関しても。生確法というのは、人間以外の生物の研究ならのびのびとやっていいという法律さ。助成金というのは、研究する人の為に国が出すお金だよ。簡単に言うと、このサクリアという国では、そういう研究がやり易いんだ」

「そうなんですね」

「ユピテルさーん。明細書と、手紙です」

「ありがとう。グラシアくん、せっかく来たんだ、下でゆっくり話そう」

「はい」

見知らぬ人からの手紙をデスクに置き、そしてエントランスパーク。ユピテルはグラシアとテーブルを挟む。そんな時にパッと2人の間に現れたサハギー。

「およおよ、いらっしゃい」

「こ、こんにちは精霊さん」

「ウラはサハギーだよ」

「私、グラシアです」

「ピュアリストと話せるなんて運が良いなぁ」

「グラシアくん悪いね、先にサハギーくんの報告を聞いていいかな」

「どうぞ」

「“向こう”の様子はどうだった?」

「新しい研究材料を見つけて、『ウパーディセーサ・ベータ』の開発を始めたよ。目下の目的は最高硬度の皮膚組織だって」

「そうか。まったくカルハンも、サハギーくんが居ないと経過報告もしてくれない。困った人だ」

「またウパーディセーサを作ってるんですか?まさかまたマフィアを」

「いや、カルハンが居るのはグラシアくんの国がある世界だよ。アマバラという国でね、生確法も助成金も無いが、彼なりにのびのびとやっている」

「そうですか」

「さっきグラシアくんに話したのは基本的な事さ。グラシアくんが聞きたいのは、どうしてルア達が戦ってるか、という事だよね?」

「はい」

「ザ・デッドアイの復讐は今に始まった事じゃない。ルア達がザ・デッドアイと戦う事を決めたのは、母親を殺されたからだ。まあでもそもそもニルヴァーナがザ・デッドアイに関わってなければそんな事は起きなかったと言われてしまうと返す言葉は無いけどね。でも精霊の力を借りれば、死んでしまった者を生き返らせる事が出来る。実際それでレーティは生き返った。でもその頃にはルア達は逞しく成長していて、今でもニルヴァーナから逃げ出したザ・デッドアイと戦ってくれている」

「アーサー達と、ウパーディセーサは関係あるんですか?」

「あぁ。ウパーディセーサを作る過程でブルータスが作られた。デュープリケーターはザ・デッドアイがブルータスを基に独自で作ったものだ」

「・・・難しいですね」

「ごめん、簡単に言うと──」

「そうじゃなくて、あなた方がウパーディセーサを作らなければ、ルア達は戦ったり傷ついたりせずに済んだ。でもウパーディセーサを作らなければ、アーサー達が居なければここまでザ・デッドアイを追い詰める事は出来なかった。あなた方がやった事は、良い事と悪い事、2つを生み出した。私、ベクルスから話を聞いて、もしかしたら悪いのはニルヴァーナかもって思ったんですけど、ユピテルさんから話を聞いたら、やっぱり悪いのはザ・デッドアイだと思います」

「そうか」

そうしてようやく、柔らかくなった表情でグラシアはカフェラテを口に運んだ。しかしその天使の眼差しには、罪深き者に怒るような鋭さは全く伺えない。

「グラシアくんが俺に話を聞きに来たのは、もしかしてどうすればザ・デッドアイを潰せるかではなく、どうすれば鎮められるかを考えたいからかな?」

「はい。三国にはこんな言葉があります。悪は善を生み、善は悪と共に理を解く。悪であるザ・デッドアイは、善であるアーサー達を作った。私思うんです。アーサー達とベクルス達が手を組めば、きっと誰も傷付かずに戦いを終わらせられるって」

「デュープリケーター達が仲介者になれば、ザ・デッドアイは怒りを向けている相手と和解出来る、そういう事かな?それは、具体的にどうすればいいんだい?」

「ベクルス達は復讐心に囚われています。でも本心はただ生きていたい、それだけなんです。だから、アーサー達がベクルス達と和解出来れば、いづれベクルス達がザ・デッドアイのリーダーを説得出来るんじゃないかなって」

「なるほど、戦闘員の戦意が喪失すれば実質的な組織活動の停止、か。ウイルスでワクチンを作り、そのワクチンでウイルスを弱める。あり得ない事じゃない。しかし、マフィアが生きるという事は、傷付けられる人がいるという事。悪が善を生み出すとしても、悪が善になる事はない。ニルヴァーナがマフィアを使った理由は1つだけじゃないんだ。悪によって生み出されたウパーディセーサが善人に広がり、やがてマフィアを弱めるのではなく、消滅させる、少なからずそれを期待してるからなんだ」

「そう、ですか。でも、諦めちゃだめですよ?善と悪が一緒になれば、悪だって救われます」

「救い、か・・・」

「悪い事をやったって自覚が出来れば、何も殺す必要はないんじゃないですか?」

「それについては、もっと人間の事をよく知ってから答えを出した方がいい」

「・・・そう、ですね。あの、ありがとうございました、私、ちょっとすっきりしました」

「グラシアくんにはいつもルア達が世話になってるからね、まぁこれくらいじゃお返しにもならないだろうけどね」

「そんな事ないですよ」

それから空のコーヒーカップを残し、グラシアはスッチーと共に消えていった。返却口にコーヒーカップを返し、ユピテルはコーヒーを一口。善と悪は、人によって見方が違う。グラシアくんの言う通り、ウパーディセーサは使い方によって善にも悪にもなる。思い出したように研究室に戻ると、ユピテルは知らない人からの手紙を開いた。同封されていた写真には、青年と少年の姿があった。写真を覗き込むサハギー。

〈マフィアの手下だけど、ウパーディセーサのお陰で弟が歩けるようになりました。ザ・マッドアイには怖くて手紙を送れないので、ニルヴァーナに送ります〉

「およおよ、ウパーディセーサの治癒力で病気が治ったのかな」

「恐らくそうだろうね」

「ウパーディセーサは科学そのものだからね、そこには善も悪もないよ。グラシアが見たらどう思うかな」

「機会があったら見せてみよう」

──善にも悪にも成りうる、善でも悪でもないもの。それはまるで、メビウスの輪のようだ。それならむしろ、決めつけてはならないのだろう。だから科学は、追い求める価値がある。

エルフヘイム、魔法研究所。パッと戻ってきたスッチー、グラシア。アーサーは振り返り、歩み寄る。当然そこにベクルス達の姿は無い。

「あいつら、大人しく戻ってったのか?」

「うん。きっと、ベクルス達は迷ってるんだと思う。もしかしたら今のベクルス達なら、戦いを止めるように説得出来るかも知れない」

「え?それはないだろ。ベクルスだぞ」

「最後に言ってたよ?ベクルス。敵だけど、殺し合わなきゃいけない訳じゃないって。仲良くはなれなくても、戦わないようには出来るよ」

「説得って、どうするの?」

問いかけるアルファ。しかしグラシアは考え込み、アーサーも小さく溜め息を漏らす。

「それは、やっぱりちゃんと戦わないって言えば」

「でも、あっちはやる気なんじゃないのか?仮にベクルスを説得しても、ルーファーはどうなんだよ」

メアのもっともな意見。しかしそこでふと、グラシアは何かに気が付くようにあっとした顔を見せる。

「そもそも、ザ・デッドアイが怒ってるのはニルヴァーナにだよ?アーサー達は関係ないんじゃない?」

確かにベクルスは、モチベーションはニルヴァーナだと言っていた。そんな記憶を振り返るように、今度はアーサー達があっとした顔で黙り込む。

「それで、アーサー達がザ・デッドアイとニルヴァーナの仲を取り持つの」

「えぇ?何でそんな事しなくちゃいけないんだ」

言葉を詰まらせたのか、グラシアは驚きやらちょっとした責めるような気持ちを持ってアーサーを見る。そんなグラシアにアーサーは目を泳がせる。何故ならグラシアの表情の色の消え具合が、地下洞窟の時のものに似ていたから。

「だ、だってよぉ・・・俺だってベクルス達が気に食わないんだ。俺達だってザ・デッドアイの被害者だぞ」

「・・・・・そう、だね。でも、殺し合わなきゃいけない訳じゃないでしょ?」

「それは、そうだけど」

「アーサー達はもうベクルス達と住む世界が違うんだし、戦わないように出来るなら、その方が絶対いいよ?」

アーサーは振り返り、アルファ達と目を合わせていく。キョトンとしているアルファ達。でもそれは少なからずグラシアの言葉に納得しているかのよう。そしてアーサーは内心で溜め息をついた。こうなったら、グラシアは面倒臭い。でもグラシアが正しい。だからこそ、心にこびりついているベクルス達への怒りがもどかしい。

三国、合同演習場。先に“ステップアップ”したのは、ヘルだった。三国の歴史上、エニグマが翼の力を使った事は無い。何故なら禁界では“人類以外の生物”は翼の力を必要としない進化を辿ったから。しかしそんな事は直接関係なく、ステップアップ出来たのは単にヘルが熱心に鍛練を続けていたから。と言っても、それは些細な事だ。ルアと比べてリッショウが強まり、クウカクを使って武器を作れるようになっただけ。

「ヘル、戦車みたい」

別に嫉妬する事なく、ルアは見守るように笑みを溢す。

「(へへーん、戦車モードだよ)」

ヘルの両脇腹から1本ずつ“生えた”機械っぽい砲身。そして光の弾を発射出来る白い翼。更には隙があればたまに口からも光を吐き出す。そんな戦闘スタイルを見せるヘルは、さながら戦車だ。

〈ルア〉

キラキラしているペルーニ。人間の目に精霊は“キラキラにしか見えない”が、心は繋がっている為、ルアは「安堵と慰め」を認識する。

〈翼の力とは別に、魔法も練習してみない?そういえばルア、治癒玉やった事ないよね?〉

「そういえばそうだね。傷を治す魔法、覚えた方が良いよね」

〈実は、良いんだけど、ちょっと寂しかった。翼の力ばっかり練習してて〉

ルアはペルーニにつられて、照れるように笑みを溢す。

「言ってよ」

〈えへへ〉

ヘルはヘル、私は私。そうルアは握り締めたプリマベーラを見下ろす。──私なりに、私も頑張らないと。

治癒玉(セレミヤ)

それから、ルアは言われた通りにイメージを膨らませて呪文を呟いた。掌の上にポウッと現れた緑色の柔らかい光。キラキラしているペルーニ。ルアは「可愛い」を認識する。何故ならその治癒玉は、ちっちゃくて可愛いものだったから。

〈初めてやって出来ただけでもすごいよ〉

「そう?・・・あ」

ちょっとした風が吹き、治癒玉はサッと消え去る。

〈あ、そうだ。プリマベーラから出したらどうかな。霊器だし〉

「うん。治癒玉(セレミヤ)

ヒューンと治癒玉は飛んでいった。そして銃口から放出された活きの良い治癒玉は塀にぶつかり、ボヨンッと跳ね返って地面を転がる。見つめ合うルアとペルーニ。そして2人は、爆笑した。

「何それ」

目を丸くして、しゃがみ込んだのはテリッテ。そしてテリッテは治癒玉をつまみ上げたが直後、治癒玉はテリッテの周りをクルクルと回り出した。

「わわっ」

「それは傷を治す魔法なんです」

しかしテリッテはどこにも傷を負っていないので、それから治癒玉は怪我人を捜して飛んでいった。

「へぇー」

テリッテ、ルア、ペルーニは目を向けていく。ヘルの周りをクルッと回ると治癒玉はさっさとヘルから去っていき、人目もはばからずまるでさ迷うように手当たり次第に兵士達の周りを回っていく。

〈もしかして、怪我人捜してるのかな〉

そもそも翼の力を持っているから傷の治りが速い。つまり、よっぽどの事がない限り、治癒玉に仕事は無い。ルアは途端に、治癒玉が不憫に思えてきたのだった。

「どうすれば戻って来るの?」

〈呼べば来るよ?〉

「おーい、戻って来てー」

距離的には大声を出しても聞こえるかどうか分からないくらいの距離。しかし治癒玉はピタッと止まり、すっ飛んで来た。そしてルアの目の前にやって来ると、治癒玉はルアの目の前で上下に揺れた。

〈怪我人は?だって〉

「ごめんね、治癒玉の練習してたの」

〈ちゃんと出来たものは怪我を治さないと消えないから、ポケットに入れといたらいいよ〉

「そうなの?じゃあ、今は休憩しててね」

風船みたいな感触の治癒玉をポケットにしまい、ようやくルアはプリマベーラを見下ろした。──まるで、クロスボウ型の魔法の杖みたい。

「(魔法の練習?)」

「うん。そういえばやってなかったし。あの融合魔法もあるし」

「(あー、ね。ボクもやろっと。光属性の攻撃だけじゃ、せっかく魔法使えるのに勿体ないし)」

「うん」

「それは、私には出来ないの?」

そう言ってやって来たグズィール。熊顔なので表情は分からないが、その声色は何となく治癒玉に憧れているかのよう。

〈出来るよ?動物は人間と違って精霊と契約しなくても魔法使えるから。でもそれ以前に、デュープリケーターの魔力ってギガスの遺伝子から来てるし、きっと練習すれば精霊と同じように自由に魔法を使えるようになるよ〉

「そうなんだ。その緑色の光があれば、アーサー達をもっと速く助けられる」

「(グズィールはファイターよりビショップ派なんだね)」

「ビショップ?」

「(ファイターは前線に立って戦うジョブで、ビショップは回復が得意なジョブなんだよ)」

「ジョブ?」

「(そういう仕事って事)」

何で、例えがゲームの話なんだろう。そう独りルアが内心で首を傾げているところで、その場にパッと現れたシュナカラク。ルアは頭を巡らせた。何か、進展があったのかなと。

読んで頂きありがとうございました。

いよいよダークエルフが追い詰められていきます。

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