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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「メビウス」前編

退化して目が無いのにクラーの足取りは軽やか。何故なら蔦みたいな無数の触角は手でもあり、目でもあるから。坂を上り、左に曲がり、坂を下る。正に自分の家の中を歩くように6本の足はトタトタと回転していく。辿り着いたのは、先程の川が流れる広い空間と同じくらいに広い空間。

「わあ」

声を漏らすパウロニ。直後にパウロニは優しい笑みを浮かべた。視界に広がったのは何頭ものクラー、そして何頭もの子供のクラー。

「グワア」

更に一行を案内しているクラーは歩く。しかし子供だろうとクラーはクラー。グロテスクな生物ランキングの上位にランクインする生物に歩み寄る事はせず、動物好きのパウロニですら大人しくクラーの群れを素通りしていく。それから再び上ったり下ったり、曲がったりしていったその時、パウロニに限らず数人は感じた。──空気が変わった・・・。

「外の匂いかしら」

「あぁ」

しかしルフガンの相槌も空しく、そしてクラーは足を止めた。まるで、到着したと言わんばかりに。何故ならその先にはもう、道が無かったからだ。

「グワッ」

「え?」

行き止まりまで数メートル。それでもパウロニは1人足を向かせた。行き止まりで足を止めたパウロニを見守る一行。しかし直後、上を見たパウロニは笑みを溢した。

「上に穴が空いてるわ。日光が届かないくらい上だけど、きっと体が入るほどの穴でもないわね」

「そこもテムネルで塞がれてるんじゃ・・・」

クニークの呟きの直後に歩き出すノコズ。それからパウロニと同じように上を見上げたその時、ノコズは消えた。グラシアやアーサーは目を丸くするが、同時にエルフ達は確信した。再びノコズがパウロニの隣に姿を現した頃にはエルフ達の表情に最早不安は無い。

「霊気が遮断されてない。出れるよ」

「良かったぁ、安心したらまたお腹空いてきちゃった」

そう言ってパウロニは歩き出す。ドライフルーツの入ったポケットに手を入れながら。

「ありがと、これお礼よ」

無数の触角はうにょうにょとドライフルーツを受け取ると、口に運んだ。そんなクラーを撫でるパウロニ。エルフは言葉ではなく、心で動物とコミュニケーションが取れる。だから目は無くともクラーはパウロニの笑顔を感じていた。そしてクラーは、トタトタと去っていった。



第27話「メビウス」



ノコズによって外に上げて貰うと、そこはお花畑だった。雪山などで言うところのクレバスの小さいものが幾つかある、少々奇妙なお花畑。名前は無い。だからこそエルフ達はキョロキョロした。

「こんなところに繋がってたなんて」

「いや、繋がってるっていう言い方はちょっと違うんじゃない?穴っていうだけで出入口じゃないし」

パウロニとクニークが緊張の解けた会話をしている傍ら、ルフガンはノコズからここがどこら辺なのかを聞く。そんなエルフ達に、グラシアは歩み寄る。

「これからどうするんですか?もしかしてあのビルに戻るんですか?」

「そうだな。タンジーケルはまだ調べる必要があるようだし、特攻部隊も引き続き頼む」

「はい」

「しかし今は、ダーク・コーカスの者達が未だに俺達を岩原地帯の地下洞窟に閉じ込めてると思い込んでいる間にやれる事をやった方がいい。ドルタス、何とかテムネルを弱めるような装置を作ってくれないか。それがあればもしかしたらタンジーケルの秘密の場所にかけられたテムネルを何とか出来るかも知れないからね」

「やってみる」

「じゃあちょっと休憩しようか」

エルフヘイム、魔法研究所にて。ドルタスは自分の部屋で依頼された物を作っていた。例の如く近くのテーブルにはオレンジジュースが置かれている。魔法研究所のカフェスペース1階のテラス席。アンシュカは満足げに微笑んだ。これまでの経緯、クラーの事。見た目はグロテスクだけど、クラーは別にエルフを襲うような事はしない。

「じゃあ、地下洞窟の入口を塞ぐテムネルの壁は残ったままなのね」

「大丈夫よ。私達がタンジーケルに行けばすぐに解かれるわ?」

その傍ら、グラシアはふと顔を向けた。席がいっぱいな訳ではない。しかしベクルスとバノはテラス席からは少し離れて静かに、そして何となく寂しそうに佇んでいた。

「いやぁオレ、何かどっちでもよくなった」

「あ?」

「だから、このままこの世界でさ、人生やり直してもいいかなってさ。光の鎖が解けた時、思い出したんだ。子供の頃、探検家になりたかった事。ここ異世界だろ?マフィアでもなかったらそうしてたな」

「ならそうすれば?」

少し離れたところから、コップ片手にアルファは声をかけた。アルファとベクルス達を交互に見るグラシア。しかしそこには、緊張感は生まれない。

「オレは、自分からマフィアになったんだ。夢は夢だ」

「でも、このままザ・デッドアイがやられて無くなったら、自由」

「そう簡単には潰されねえよ俺達は。俺達はどんな事をしても生き残る。その為にウパーディセーサを作った。ザ・デッドアイがニルヴァーナの言いなりになったのは、ウパーディセーサ計画があったからだ。そんでようやくニルヴァーナの檻から脱け出した。自由なのは今だ」

そこで、グラシアは人知れず立ち上がる。

「ねえその、それなら戦わなくてもいいんじゃない?」

アーサーは振り返る。グラシアが声をかけても緊張感の生まれないその空気に。

「ニルヴァーナはモチベーションだ。そもそもザ・デッドアイは被害者だ。ぶちのめさないでいられるかよ。ウパーディセーサを利用してやろうってのは最初から考えてた事だ」

「ザ・デッドアイは、被害者・・・」

「ニルヴァーナも、何でわざわざマフィアに手ぇ出したのか分からねえけど」

それから席に戻り、グラシアはオレンジジュースを一口飲む。これまでの戦いをふと振り返った。私達は途中参加で、そういえば何故ルア達がマフィアと戦ってるのか、全容は知らない。途中参加でも、マフィアという存在がどれだけ人々にとって悪いものかは分かってる。けど、ベクルス達も人間だし、言い分があるなら、無視しちゃいけない。

そしてドルタスは1階に降りてきた。その表情は一仕事終えて満足したようなものだ。空のコップをカウンターに返し、テラスに出てきたドルタスに気が付くと、アンシュカ、スッチーと共にいたジヴォーフは冷静に歩み寄った。

「タンジーケルにテムネルっぽい歪みがあるよ、多分地下洞窟に居たダークエルフじゃないかな」

「そっか」

「出来たかい?」

歩み寄ってきたルフガンに、ドルタスはポケットから取り出したものを見せた。それはボール状のもので、人差し指と親指で作った輪っかくらいの大きさ。

「霊気干渉出来るテムネルを詰め込んだボールだよ。これを投げつければテムネルに特製テムネルがいっぱいくっつくんだ。そうすればさっきみたいなテムネルの壁にも普通の霊気で干渉出来て壊せるようになるはず。とりあえずルフガン達に1人1個ずつ」

「うん、ありがとう」

「ルフガン、あたし岩原地帯に行ってあの壁壊してくる。練習は必要でしょ?」

「そうだな。特攻部隊の誰か1人に付き添って貰うといい、俺達は先に行ってる」

再びの緊張。治安管理部、特攻部隊はタンジーケルのビルを見上げる。入口前のちょっとした広場に着く前、追いついたパウロニの満面の笑みに1つの希望を抱いたルフガン。その希望を持って、そしてルフガンはタンジーケルの敷地に足を踏み入れた。するとビルの手前にパッと現れたのはシュトナン、そして1体のギガス。勿論それは魔法も使えない人間から出来た不完全なものではない。

「どうやって壁を壊した」

「言わないわよ?」

「別にいい、お前らをここで殺しちゃえばいいんだから」

ギガスが走り出そうと身構えたその一瞬、グラシアとアーサーは条件反射的に意識を尖らせ、ギガスが走り出すとグラシアとアーサーも動き出した。2人の存在感が爆発的に増大し、それはまるで2つの彗星が飛んでいくかのよう。そうシュトナンは、ギガスに2つの存在が強烈にぶつかるその情景に眉を竦めた。

「待て!」

それでも自分だけ一目散にビルの中に逃げようとしたシュトナンに、ルフガンは声をかけた。ルフガン達治安管理部の背後には特攻部隊という、ちょっとヤバイ威圧感。

「タンジーケルの地下に何があるか白状してくれるなら魂の解離は免除するが」

「・・・あれ、スディーバスは」

「今頃事務所で『イマージ訓練』だ。君もそうしたいよね?」

「イマージ・・・そりゃあスディーバスはまだステージ2じゃないから、“こっちがどれだけ自由か味わった事ない”だろう。それに、イマージになるつもりなら、最初から闇に堕ちない。オレだって、オレの意思で極致を目指してる」

ギガスは口に溜めた炎を爆発させるように吐き出した。その爆発音はまるで咆哮のよう。それから爆発した炎は10本のレーザーに分かれ、湾曲して辺り一面を爆撃した。地面を叩く爆発の風圧に乗せられて、砂煙がシュトナンとルフガンの間を抜けていく。見えなくなったのはほんの一瞬だった。しかしルフガンは溜め息を吐いたのだった。何故ならシュトナンは姿を消していたから。

「仕方ない、先ずはギガスを抑えよう」

グラシアの放った光の槍がギガスに直撃し、ギガスは突き押されるように宙に浮く。その先にはタンジーケルのビルがあったが、直後そこには衝突音が鳴り響いた。光の槍が消えるとテムネルの壁に押さえつけられていたギガスはドサッと落ちるが、例によってその巨体に空いた穴は次第に小さくなっていく。また、あの時の繰り返しか、そうグラシアとアーサーが再生していくギガスを見つめていた時、歩き出したのは、ドルタスだった。精霊に憑依して貰ってる訳でも、デュープリケーターの誰かを取り込んでる訳でもないドルタスにグラシアは目を丸くする中、ドルタスはボールを投げ込んだ。放物線を描いてそしてボールはギガスに当たり破裂して、黒い光が煙のようにボワンッと広がり、消えていく。現象自体はシンプルだが、それからドルタスはギガスに手をかざした。

雷弾(プルグロ)!」

たった1発の、普通の雷弾。テムネル相手に、そんなものは焼け石に水だ。しかし今正に修復中の箇所に当たると弾けた電気はギガスの体組織に亀裂を走らせた。その現象はルフガンでさえ「おお」と声を漏らしてしまうほどの驚き。テムネルに、普通の霊気が通用したと。

「うん、良い感じ。これならもう簡単にこのギガスは倒せるよ」

「なら俺がやってやる」

シュトナンが居ればどんな驚きの表情を見せただろう。ふとそんな余裕の勘繰りさえ出来るほど、アーサーの青い光にそしてギガスはバラバラになって消えていった。満足げに頷くルフガン。──これからは、もうテムネル相手にエルフが遅れを取らなくなる。これは、本当に歴史的な快挙だ。

「まずいな」

しかしルフガンの意に反して、シュトナンは見ていた。4階の窓から、その歴史的な快挙を。それからシュトナンは急ぎ足でエレベーターに乗り込んだ。行き先は地下1階。エレベーターがシュトナンを吐き出す頃には、“片付け”は済んでいた。降りてきたシュトナンに目を向けていく人間達。

「もう行ける?」

「あぁ」

すでにホールは光の膜を張っていた。青白く光っているのは“ベクトルがアクティブ”だという事。

「じゃ頼んだよ?」

シャンバートの武器を携帯している人間達は適当に整列してホールを潜っていく。そして狭くはない地下室では、まるで夜逃げした後かのようにホールとシュトナンだけになる。

投げ込まれるボール。それは見えない壁にぶつかった。タンジーケルのビルへの侵入を拒むように張られたテムネルの壁はそれから、普通の魔法で打ち砕かれた。再びタンジーケルのビルへと入っていく治安管理部、特攻部隊。

「地下へ降りるにはどうしたらいい」

ルフガンの問いに、受付嬢はゴクリと生唾を飲み込む。

「・・・分かりません。幹部以下には知らされていないんです」

「そうか」

しかし治安管理部員達に振り返ったルフガンの眼差しは、何も衰えていない。

「探そう」

それからパウロニはアーサーとメアを連れて迷路のような廊下を進み、適当な倉庫の扉を開ける。しかしちょっと見渡しただけでバタンと扉を閉め、パウロニは次の扉を開ける。そうして次で5つ目の扉。本当にちゃんと見てるのかとアーサーが内心で呟いたがその時、扉を開けたパウロニは「あっ」と声を出した。思わず覗き込むアーサー。その一室にあったのは、エレベーターだった。

「地下に行く為だけのエレベーターか。けど何でそんなもん作ってんだ?」

「そりゃあ、隠したいからよ」

パウロニはエレベーターの降下ボタンを押した。一旦みんな集まったが、広さ的に全員は乗れないので先ずはパウロニと適当な数人。そしてエレベーターはドアを開けて乗客を吐き出したが、直後にパウロニは言葉を失ったのだった。それから後から降りてきたルフガンが緊張感を持ってエレベーターから出ていく。

「これは・・・全く何も無いなんて」

それなりに広い空間、なのに倉庫として扱われてる訳でもなく、全く何も無い。しかしだからこそ分かるのは、やはりここには、何かがあったという事。

「ルフガン、どうする?」

また振り出しだと、残念そうに問いかけるパウロニ。いつもならまた逃げられたと、ダークエルフという存在への距離感を噛み締めるだけ。しかしルフガンは最早落胆など感じなかった。

「シャドウやダーク・コーカスが向こうの世界のロードスター連合王国と繋がっている事は分かったからな。逃げたといっても探す場所は限定されてる。焦らずに追い詰めていこう。ドルタス、このテムネルボール、全ての治安管理部員の手に渡るくらい作ってくれないか」

「じゃあレシピあげるよ」

「あぁ、助かる」

そしてエルフヘイム、魔法研究所。ルフガンは満足げに遠くを見上げていた。1人のダークエルフを捕まえられて、1人のダークエルフの魂の解離を遂行出来た。それは正に希望だ。その傍ら、アンシュカとスッチーの前に居るのは特攻部隊とベクルス達。

「ルフガンさん、私、一旦ベクルス達と向こうの世界に行きますね」

「あぁ」

「じゃ、運ぶよ?」

「うん」

消えたのはスッチー、ベクルス達、そしてグラシア。形としては見張り。しかし精霊の力を借りてサクリアにやって来たグラシアはベクルス達に監視の目を向けるどころか、笑みを向けた。

「ベクルス達、あんまり周りに迷惑かけちゃだめだよ?」

「母親みたいな事言うな」

「生きるだけなら、迷惑かける必要なんかないんだから」

「・・・アーサーに伝えとけ。俺達は敵同士だってな」

グラシアの困った人を見るような眼差しに背中を向けたものの、ベクルスは体半分だけ振り返る。

「だからって、殺し合わなきゃいけねえ訳じゃねえが。ま、それはお前ら次第だな」

そして雑踏の中、ベクルスとバノは普通に歩いて去っていく。それからグラシアは、スッチーと顔を見合わせた。

「ユピテルさんのところにお願い」

研究室に居たユピテルは振り返った。声をかけてきたのは、グラシアだった。

「珍しいお客だね」

「ちょっと聞きたい事あるんです」

「何かな?」

「私、そういえば何でルア達がマフィアと戦ってるか、ちゃんと聞いてなかったと思って」

「何故、ここに?」

ユピテルは理解した。グラシアが向けてくる、困った人を見るような眼差し。それはまるで、天使が罪深さを審判しに来たかのよう。

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