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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「ホープ」後編

グラシアとアーサー、2人はそれから天魔界の宿舎にやって来た。

「グラシアさんっ」

宿舎のエントランスで、顔を合わせた途端に人懐っこくグラシアに抱きついてきた天使、ユリ。しかし例の如く可愛い後輩にグラシアも驚く事すらせずにユリを受け止める。

「あ、そうだユリ、アーサーがヒョウガに会いたいんだって。どこに居るか知らない?」

「さっきまで会議室に居たみたいでしたけど。そういえば畑を見学したいって言ってたので、畑じゃないですか?」

「そっかありがとね」

住宅エリアと隣接した畑。三国、死神界は共通して農業が盛んである。何故なら禁界以外に住む養殖される動物を持ってきたところで、禁界では磁場の影響で生体を維持出来ないから。食肉にする為に狩るエニグマは成体になると最低でも3メートルほどの巨体を有し、磁場に順応する為の防衛本能で戦闘力もある。なので兵士でなければ狩猟など叶わない。国中に食肉が行き渡らない訳ではないが、それなら畑を作って食糧を確保した方がいい。だから学校ではみんな農業の事を学ぶ。そんな話を、畑の前で聞いているのはシャーク。そしてそんな話を得意げにしているのはヒョウガ。

「あ、居たヒョウガ」

振り返るヒョウガ、シャーク、畑の事をシャークに教えていたマスカット。

「あの、ヒョウガにね、頼みがあるの」

何となくよそよそしいグラシアの態度を理解しているのはマスカットだけ。

「俺、明日の為にもっとリッショウを高めたいんだ。ハルクには見せて貰ったけど違う奴とも戦いたいんだ。手合わせしてくれよ」

「明日、何だっけ、森の外の国の警察みたいなエルフと一緒に悪者退治だっけ、さっきホルス大尉が言ってた。グラシアさんも修業するの?」

「うん、私も早くハルクみたいにリッショウを使いこなしたいから。でも私はソルディに頼むからヒョウガはアーサーと手合わせして欲しいの」

「そっか、いいよ。もしあれなら他の魔法も教えてあげようか?あでもハルクから教えて貰ってるか、クウカクとか、エクスカリバーとか」

「エクスカリバー?何だそれ、強いのか?」

「超強いよ。剣魔法の最上級だし。でもそれは1日じゃ無理だろうけどね」

「ほう、教えてくれよ」

「うんいいよ。でもそれには先ずクウカクが出来ないと」

「そうなのか」

アーサーはそんな昨日の事を思い出していた。すげえいい運動になった。他の魔法も教えて貰って、エクスカリバーなんて難しいやつは出来るようにはなってないが強くなった実感はすげえ。メアとかにも教えてやらないと。いや、あいつらも直接ヒョウガに会った方がいいな。

ドルタス、グラシア、アーサー、アルファ、メア、ナイトがルフガン達治安管理部と顔合わせしている一方、ホープはグズィールと共に森を歩いていた。木々の葉が密集し過ぎて、少し日光が届きづらい、静かな森。そこで出会ったのは、死神のメーリラと1体の『イビル』。人間が人間以外の生き物を動物と呼ぶのと同じく、三国の住人と死神が自分達以外をエニグマと呼ぶ。つまりデュープリケーターもエニグマであり、イビルもエニグマ。するとホープは首を傾げた。何しろ、ホープはイビルを初めて見たから。

「もしかして、ホープと、グズィール」

「うん、あのそれは?」

「この子はフンニャ。もしかしてイビルと会うの初めて?」

「うん。イビルって名前は聞いた事あるけど」

「そうなんだ。無理ないよね、ここに来たばっかりだし。私も実は、あなた達見るの初めて。私達これからイビル達の村作りなの、良かったら来る?」

禁界の近くの草原にて。ルフガンが“偵察から戻ってきた”精霊、ノコズに顔を向ける。その一瞬、ノコズの妙に落ち着いた態度にルフガンは気を留める。

「ダークエルフの霊気の変なモヤモヤ、トニカとは別のところからも感じる。シャンバートの外れにある“岩原(がんげん)地帯”」

「あんな岩しかない原っぱにダークエルフが?一体・・・」

「囮かも知れないわね」

治安管理部員、パウロニが口を開く。

「トニカへの戦力を分断させる気かも。岩原地帯は無視した方がいいんじゃないかしら?」

「囮か・・・。しかし岩原地帯はシャンバートの国境から10キロしか離れていないし、鉱物が採れる岩原地帯は全く人が立ち入らない訳じゃない。無視していいものだろうか」

「なら、岩原地帯には一般人を避難させる為だけに治安管理部員を数名行かせてみて、様子見とかは?」

「それじゃその治安管理部員達が危ないよ」

治安管理部員、クニークがそう言うとパウロニは眉をしかめて小さな溜め息。

「仕方ない、トニカの街をダークエルフとの戦闘で壊す訳にはいかないからな。岩原地帯の人を人質に取るとか何も言ってきてないから、岩原地帯は後回しにしよう。そして総動員で早急にトニカのダークエルフを捕獲する」

「殺すんじゃないのかよ」

ルフガンの仕切りにアーサーが口を挟む。

「ダークエルフだってエルフだ。心を入れ替えてさえくれれば先ずはそれでいい。殺すのは、基本的にはステージ2以上のダークエルフだ」

「ステージ?」

「ダークエルフには“脅威レベル”があるんだ。1であれば本人次第でイマージになれる。イマージとなればダークエルフでなくなるからそれでいいが、問題なのはステージ2となったダークエルフ。魔力と心の癒着が強く、最早イマージには戻れない。そうなったら、ステージが3になる前に魂を肉体から切り離すしかない」

「ステージ2は、強いのか?」

「あぁ勿論。しかし君達特攻部隊の力を借りれば、そう脅威ではないと思う」

それからちょっと厳かな雰囲気で、治安管理部のエルフはシャンバートの街を歩いていく。とは言え治安管理部員以外は目立たないようにと精霊によって屋根から屋根へと運んでいる為、数名が一組になって治安管理部員が街を歩いていくだけの感じに、見る人は見るし、見ない人は見ない。そしてトニカの街に建つタンジーケルの自社ビルを前に、ドルタスはルフガンと頷き合った。長さ20センチほどの長方形の箱。そんなコンパクトなもののスイッチをドルタスが押した直後から、ルフガンや他の治安管理部員達はふとキョロキョロした。霊気を感じない、まるで別世界に来たかのような不思議な感覚。

「うん、この状態でモードを変えて、感知出来るようにしたテムネルを放出すると──」

これまた不思議な感覚だった。精霊でなければ感じる事の出来ない、ノコズ曰く“変なモヤモヤ”。これがそうなのかは分からないが、霊気の感じないフィールドでただ1つ感じる、“目には見えない煙たさ”。するとその直後、ビルの中に感じる、ロウソクに灯った篝火みたいな煙たさは瞬間移動し、ビルの入口前のちょっとした広場の真ん中に現れた。

「スディーバス・カナツ」

呟くドルタス。そしてそんなドルタスからカナツに目線を移すと、ルフガンは前に出た。

「スディーバス・カナツ。俺達は治安管理部だ。君は社長だよね?これから会社を調べさせて貰うよ」

「断るに決まってるだろう。まったく、聞いた通り、特攻部隊とやらは素早い」

「何故、特攻部隊を知ってるんだ」

「え?分かってるから来たんだよな?なら何でここに来たんだ」

「俺達は、ダークエルフの居場所が分かる装置を作る事に成功したんだ。それでシャドウの情報を基にして、タンジーケルの捜索を決定した。悪いが、この後は岩原地帯で待ち伏せている君の仲間のところに行くんだ。早く済ませたい」

「・・・・・随分と厄介な物作ったな。てことはこれから、ダークエルフとの全面戦争だな。覚悟出来てるのか?」

「覚悟なら、とっくに出来ている」

「フンッ」

手を挙げるカナツ。それは見るからに誰かへの合図。ルフガン達が気を引き締めた直後、ビルから駆け出てきたのはざっと20人は超える、武装した人間達。しかし人間達はびっくりするように足を止めた。ドルタスと治安管理部員達、彼らを庇うようにグラシア達が現れたからだ。

「特攻部隊、聞いてた数と違うな。まさか岩原地帯か?」

「いや。一先ずこれだけ居ればと思っただけだが?」

「嘗められたもんだな。まぁいいとにかく、このまま黙って会社には入らせない。いいから撃ちまくれ!」

20人を超える人間達が持つ、霊器の魔力放出機構を取り入れた魔導機関銃。装填する“魔力を蓄積させたバッテリー”の魔力を「光弾(プルスーヴェ)」のような形に変換して撃ち出していく。因みに性質を変えて魔力をバッテリーに蓄積させれば、魔力の性質によって火の弾や雷の弾へと弾の性質も変わる。番犬の威嚇のように、それらが一斉に吠えていく。しかし直後に舌打ちを打ったのは、カナツだった。魔導機関銃の魔力には多少のテムネルを混ぜている。少なくともエルフ達が作る光壁なんて屁でもない。なのに、全ての魔導弾がキレイに壁にぶつかって砕けて消えていく。──特攻部隊の、いや、禁界の力か。だったら。

「おらぁっ」

指示を出す前に振り返り直すカナツ。すでにアーサーからは青い衝撃熱波が放たれていた。そして間もなく、地面を捲りながらやって来た青い衝撃熱波は悲鳴ごと数人の人間を呑み込んでいった。そんな強烈さにとある人間は尻餅を着いたり、後ずさって銃口を落としたり。

「あいつら呼べ!」

1人の人間が走っていくと同時に、飛び出していくアーサー。直後にアーサーはリッショウを使い、存在感、気迫が爆発的に強くなる。その瞬間、カナツの眼差しに本気が灯る。振り出されたアーサーの尾状器官の拳とカナツの拳はそして、爆発音みたいな衝突音を轟かせた。互角だからこその、キレイな空気の爆発音。しかし次に動いたのはアーサーで、もう片方の手のような尾状器官でジャブを繰り出すと、間髪入れずにストレートパンチでトドメを刺した。勢いよく転がるカナツ。一方、カナツが言った“あいつら”の居る一室に入った人間の男。

「何、してるんだ・・・」

男が見たのは、ボコボコの壁と床、とっ散らかったテーブルというテーブル、そして倒れている“監視”、という状況。唯一立っているのは、“向こうの世界から連れてきた2人の人間”だけ。男はすぐさま魔導機関銃を発砲する。しかし魔導弾はベクルスの胸元を傷付ける事すら出来ずに消え失せた。

それからクローデバンは目を覚ました。まだ頭がジンジンする。何が起こっ・・・そうだ。目を覚ましながら暴れたベクルスにやられたんだ──。直後にクローデバンは絶句した。ふと見た会議室の入口。なんとそこにはドアそのものが吹き飛んでいた。

「いてて。どれくらい寝てたかな」

それからクローデバンが見たのは吹き飛んだ入口の外で死んでいる人間。恐らく俺を呼びに来たのかな。──せっかくだし、この遺体、使うか。クローデバンは片膝を着き、手をかざす。精霊使いでもない人間がベースじゃ本来のギガスの半分くらいの力しか出せない。それでもないよりはマシ。そして通常よりも3割くらい小さなギガスは歩き出した。その足取りは迷いなく、まるで生前の記憶に導かれているかのよう。廊下を進み、階段を降りていくその途中、再びクローデバンは言葉に詰まった。何故なら下の階では会議室以上に荒らされていたから。──どこ行ったかな。早いところ拘束魔法で縛らないと。

「観念しろ」

アーサーの言葉に、むくっと起き上がるカナツ。しかしそのまま座り込んで、立ち上がらない。カナツはふて腐れるように目線を落とした。カナツを包囲する、特攻部隊。すでに武装した人間達は全滅していて、それでも独り抵抗を続けていたカナツはようやく座り込んだのだ。ビルの入口前のちょっとした広場の中央であぐらを掻いて頬杖を着くカナツに、歩み寄るルフガン。

「念の為聞くが、岩原地帯は囮なのか?」

「・・・囮じゃない。どうせ行くんだろ?言っとくが、岩原地帯に行ったって何も出来ないぞ?」

「何故かな」

「言うか。ま、言ったところで──」

突然の爆発音。それはカナツでも振り返るほどだ。ビルの6階の窓が吹き飛んでいた。パラパラとガラス片が落ちてくる事など誰も気に留めず、全ての目が何事だと、“落ちてくるギガス”に向けられていく。ギガスなのに、ドサッと地面に落ちた瞬間に粉々になるその弱々しさに、カナツは溜め息を1つ。それからまた6階から落ちてきた2つの何か。拘束魔法で縛られながら、バンジージャンプのように落ちてきたが、案の定ドサッと落ちたのは、ベクルスとバノだった。

「ベクルス?何やってんだよ」

ウパーディセーサの姿で黒光も纏ってるのに拘束され、6階から落とされたベクルス達にアーサーは問いかけるが、ベクルス達は案の定、話をする余裕など無いようにもがいていく。ドゥシピス・ゼプレにナイトを取り込んでいるドルタスは内心で首を傾げる。もしかして話が“出来ない”んじゃないかと。しかしそれでも、アーサーは歩み寄った。そしてなんとアーサーはベクルスに1つ、蹴りを入れた。

「ベクルス!」

「うるせえ!黙ってろ」

「何でここに居るんだよ、ここ、世界が違うんだぞ」

「あ?世界?何言ってんだ」

「あっアーサー!」

グラシアの声と同時に、6階から落とされた黒い火の玉。しかし当然の如くアーサーは6階ではなく、グラシアに顔を向けた。

「どぅわっ」

火の玉が落とされたのはベクルスに向けてだった。しかしその爆風に巻き込まれ、転がるアーサー。

「く・・・そ・・・」

アーサーがようやく6階を見上げたその時だった。クローデバンが6階から飛び降りてきたのは。

「特攻部隊、まさかもうここに来るなんて。あれ、スディーバス?」

「クローデバン・ドラッコだな。治安管理部だ」

「・・・ふう。スディーバス、何座ってんの」

「分かるだろ、もうお手上げだ」

「さすがに諦めるの早くない?ここが治安管理部に落ちたら、スディーバスだって困るよね?」

「だったら、特攻部隊を負かしてくれ」

「しょうがないな」

グラシアでさえ身構える、ふとした静寂と緊張。ベンダンでの、あの強烈な魔法が頭に過ったからだ。しかしそれからクローデバンが手をかざしたのは、ベクルスだった。拘束されたまま、ベクルスは宙に浮かぶ。

「やめろ!」

「俺がテムネルをあげたんだ。お前達は俺のもんさ」

「あ?ふざけんなよ。何する気だ!」

「見なよ、この状況。何事も無ければお前達は帰すつもりだったけど、こういう時の為の“道具”だからね」

「あのバケモノにする気か?」

バノが問いかける。するとクローデバンは笑みを返した。

「バケモノってなんだよ、おい!」

「こいつ、死んだシカリダをバケモノに変えて戦わせやがったんだ」

「テムネルに魂が完全に溶けてしまえばみんななるんだよ。“いつなるか”を、俺はコントロールしただけ」

「・・・ぐ、ぐあ・・・」

ベクルスから溢れる黒光がざわめき出した。それはまるで黒光自身がベクルスを攻撃しているかのよう。

「やめろ!・・・ぐ、こんなところで、死んでたまるかよ・・・。ぐ、おおっ・・・」

「おいアーサー、助けろっ」

「な、何でだよ・・・」

「ぐあああっ・・・・・ぐう・・・」

「抗わない方がいいよ?苦しいだけさ」

クローデバンを睨み付けるベクルス。しかしその眼差しは空へと弾かれる。ベクルスは見ていた。空ではなく、絶望を。視界が霞み、募ると同時に“何か”に呑み込まれる恐怖。──内側から、喰われていく・・・。

「ぐああああ!・・・た・・・」

あまりの光景に後ずさるアーサー。同時に内心で首を傾げる。──た?。

「・・・すけ・・・」

「はああっ!」

眩く風を突き抜ける光の槍。それは一瞬、ホープのレーザービームを彷彿とさせる。ドサッと地面に落ちるベクルス。光の槍が飛んでいき、ビルの入口を吹き飛ばしてそれからだった、クローデバンが、グラシアを睨み付けたのは。

読んで頂きありがとうございました。

今のところヒョウガとユリは友情出演くらいな感じですね。

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