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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「アルファ」後編

ドルタスはただ立ち尽くす。どこを見ているかも分からない眼差し。それはまるでフリーズしているかのよう。そんなドルタスの姿に、やがてバノは足を動かした。すかさずヘルは走り出し、牽制するようにルアが光矢を撃つ。そうかと思えばそれは牽制などではなく倒す為の光矢で、バノは仕方なくドルタスから殺意を逸らし、足や肩にルアの光矢が刺さったままヘルの光球から逃げていく。その時、アーサーは目を開けた。それはまるで自動修復の為のフリーズから解放されたかのよう。それでも意識が回復しただけのアーサーは頭を上げ、目を留めた。──アルファ?いや・・・ドルタス?。何で・・・・・“突っ立ったまま動かないんだ”・・・。

(ツェピー)!」

ドルタスは真っ黒なアルファに黄色い光の鎖を投げ込んだ。光の鎖は頭上で勝手に渦を巻き、アルファの体に巻きついてからキュッとなる。

「それから?」

ドルタスがそうジヴォーフに問いかけると、ジヴォーフは耳をピンと張り、腰を据え、意識を集中した。すると真っ黒なアルファはみるみる色付いていき、最終的には普通のアルファが黒いオーラを纏ったようになった。

「こんなもん」

「ドルタス、ここは何?」

「ジヴォーフに用意して貰った僕達の精神世界だよ。アーサーがやられた時にアルファ、暴走しちゃったからさ、ドゥシピス・ゼプレで取り込んでみたんだ」

「出してよ、アーサー助ける」

「うん、その前に約束。決して、テムネルに呑まれない事。暴走したらアルファがアーサー達を傷付ける事になっちゃうから」

「・・・約束」

それからドルタスはアルファを排出した。黒青の光を纏うアルファは、冷静にアーサーに駆け寄る。

「アーサー」

「お、アル、ファ・・・。問題ねえよ。寝てりゃ、治る」

「うん」

ヘルの両翼からマシンガンのように放たれる光弾。しかしそうかと思えばその両翼から放たれたのは砲弾のように強烈な単発の光弾。ドカンッと空気を喚かせる光弾にバノは背中を地に着ける。すぐに顔を上げたものの、その眼差しはただ一点、ルアのプリマベーラの銃口に奪われた。しかし、バノは笑った。

「いいのかよ。特攻部隊はともかく、お前らが目障りなら、今度は父親が死ぬぜ?それとも妹がいいか?家は分かってるんだ」

プリマベーラは震えていた。そして僅かに銃口が下がる。その表情は赤みを帯び、今にも怒りが噴火しそうだ。ただの脅し文句。しかし絶対に襲われないとは言い切れない、闘志の揺らぎ。

「ルア!」

グラシアの叫びと共に、ルアとヘルの融合光壁を叩く黒い風圧。直後に黒い風圧は融合光壁を突き抜けて、ヘルの体は浮き上がった。とっさにヘルはその場を離れ、バノは素早く立ち上がる。

「(ルア)」

「分かってる、ちょっと、怒り過ぎちゃった。ドラマみたいな脅し文句過ぎて」

「(家ならストライクが居るしさ。もう同じ奇襲なんて食らわないでしょ)」

「うん」

やがてアーサーが起き上がり、シャークが起き上がり、ヘルとルアに追われながらもバノが舌打ちを鳴らした時、その傍らでベクルスの黒光の刀が地面を叩くと黒光は爆ぜ、地面は揺れ、グズィールや新兵達が足をもつれさせる。範囲はある程度狭まったが、その黒い爆風が大盾を構えたグラシアを硬直させたその時、爆風と砂埃を押し払い、ベクルスの眼差しはメアを捉えた。飛び出したベクルスは黒光の刀を振り、メアは青い光を溜め込んだ右腕を振る。

「メア!」

しかしアルファは叫んだ。メアの鋭い爪は一瞬、黒光の刀を止めたものの力敵わず、メアは斬り倒された。最早デュープリケーターではベクルス達には敵わない。その痛感を黒青のダガーに換え、アルファはベクルスを襲った。

「もうちょっとだ」

黒光の刀と黒青のダガーの押し付け合いの最中、ベクルスはそう言ってアルファに狂気の笑みを見せた。

「もうちょっと力が上がれば、お前らみたいな雑魚、一撃で処分出来る。せいぜい足掻くんだな。お前は最後だ、仲間が死んでいく姿見せてやるよ」

直後にベクルスは笑みを消した。そして力むように表情を歪ませた。何故なら黒青のダガーは光を吹かし、真っ黒に染まったからだ。

「く・・・そおらっ!!」

ようやく押し退けたのに、アルファはその瞬間から斬りかかってくる。そうベクルスは冷静に焦りを覚え、アルファに斬りかかるが、感情というものが生命においてどれだけの枷になっているのかとふと考えてしまうほど、斬られながらも“黒光のダガー”は投げられ、ベクルスは右肩を貫かれる。それから脚を斬られ、腹を刺され、顔を殴られて尻餅を着いた直後に尾状器官、両腕両足、胴体と、全身を貫く黒光のダガー。

「ぐ・・・はぁ・・・・・」

ベクルスには最早アルファを見上げる力も無い。力無く仰向けのベクルスを見下ろす、黒光に包まれたアルファ。しかしアルファもまた立ったまま動かなくなり、不気味な静寂が吹き込む。

「アルファぁ!」

声を上げたのは、バノだった。その直後、機械がセンサーで感知したようにアルファは最速で振り返る。しかしそれから最速で飛び出した時──。

「アルファ!」

声を上げたのはグズィールだった。ヘルが放った単発光弾にバノは吹き飛んで倒れ、立ち止まっていたアルファはようやくグズィールを見る。暴走の証である“光の消えた状態”ではないから、アルファはまだ暴走してない。そうドルタスは固唾を飲んだが直後、アルファは尾状器官の1本をゆっくりとグズィールに向けた。

「だめ!」

立ちはだかるグラシア。

「仲間だよ?傷付けちゃだめ!」

アルファの脳裏に殴り込む、ヨーガとの記憶。真っ先に心を掴んだのは不安。まだ言葉も喋れない時、どうすればいいか何も分からない不安。ただ立ち尽くしキョロキョロする事しか出来なかったそんな中、ヨーガは言った。

「そっちに立ってろ」

何だか分からないけど、拭われた不安。しかし言われた場所でまたキョロキョロしていると、不安はまたどこからともなく覆い被さってきた。そんな時、ヨーガはまた命令してくれた。

「ちょ、どけって」

しばらくして喋れるようになってから、ヨーガの近くに居ると、何度も襲ってきた不安はその度に拭われた。脱皮したアルファの安定具合を見てそれから次のデュープリケーターを作り始めた時、ヨーガは言った。

「また作るの?」

「仲間は必要なものだ。仲間とは守り合え。人間も動物も、生き残る為に群れるからな」

──忘れてた、ヨーガの命令。

ふと思い出したのは、ベクルスが言ってた、命令を聞かないアーサーを処分しろという命令。どすの聞いた声だから思わずその通りにしちゃった。けどデュープリケーターを作りながら、ヨーガはこうも言った。この命令は、ベクルス達の命令よりも優先しろ、と。

ドルタスは胸を撫で下ろした。アルファを包む黒光に、まるで目を醒ますように青が混じり込んだのだ。しかし同時にドルタスは思い出した。精神の中で約束をかわした事と、ブラッジェルのアジトで初めてドゥシピス・ゼプレを使った時の事を。──そっか、約束じゃ、だめだった。

「アルファ、さっきの約束、忘れていいよ。その代わり命令だよ?テムネルに呑まれて、仲間を傷付けちゃだめ」

「うんっ」

即答するアルファ。まるで子供が応えるように頷いたアルファに、アーサーは呆れたように鼻で笑う。その時だった、ゆっくりとアルファ達が振り返ったのは。それはまるで雄叫びのよう。倒れて虫の息のベクルスだが、尾状器官は大きく口を開け、黒光を天に向かって吹かし、そしてこれまた巨大な黒光の刀をくわえた。

「まだあれが残ってたか」

呟くアーサー。

「メア、また体借りるよ」

「あぁ」

戦いに備えてドルタスはメアを取り込み、グラシアは短く深呼吸し、武器を構え直す。まるで構えているかのように天に向けられる黒光の刀。その大きさにグラシアでさえ警戒するというふとした沈黙の直後、どこからともなく“黒い光の鎖”が飛んできて、尾状器官をキュッとした。それから誰が何をする間もなく、釣り上げられたベクルスの体は幽霊美術館へと飛んでいき、そして幽霊美術館にぶつかると思った瞬間、ベクルスは消えた。言葉を失い、完全に止まる空気。そうアーサーはアルファやグズィールと顔を見合わせるがそこで、ドルタスは目を留めた。“窓をすり抜けて3階から飛び降りてきた”その男に。──ダークエルフ。まさかこの建物全体に光壁を?。なるほど、この建物に入ったから、シュナカラクはザ・デッドアイを探知出来なくなったんだ。

「君が、ベクルス達にテムネルを」

「まあね」

マフィアという人種のとは違う種類の殺気を微笑みに乗せ、ダークエルフの男、クローデバンは手を伸ばした。その先には、シカリダの遺体。すると直後シカリダの遺体は炭のように色を失い、浮き上がり、肥大した。

「まさか、ギガス・・・」

ハイクラスの精霊は霊力に心身を焼かれて魂を失った人間の遺体を操る事が出来る。それはハイクラスだからという事ではなく、単に強い霊力を持っているから。そしてシカリダの遺体は1.5倍くらい大きくなり、体格もより動物的な骨格へと変化し、地上にドスンと降り立った。

「バノ!中に」

顎で指図した知らない男にバノは舌打ちを漏らしたがすぐに飛び出し、光矢は空を射る。それでもヘルは追いかけたがそこにギガスが飛び掛かりヘルは俊敏に飛び退く。

「悪いけど、ベクルス達はもうちょっと使わせて貰うよ」

(ツェピー)!」

ドルタスの手から飛び出す黄と青の光の鎖。同時にクローデバンは両手を広げる。

火柱(ストグニア)──」

パチンと、クローデバンの目前で勝手に弾かれる光の鎖。

爆破(ヴザーロ)!」

ダークエルフらしい黒い火柱。しかしそれだけではなく、それは地面の中から爆発したような火柱で、瞬く間にクローデバンから放射状に連発していく。それはまるで地面そのものが噴火でもしたかのよう。ズドンドンドンと向かってくる“爆発する火柱という壁”にドルタス達も素早く対応出来ず、それは1番後方に居たホープでさえ思わず顔を背けて硬直してしまうほどだ。そしてホープは振り返り、息を飲んだ。放射状にランダムに爆発する火柱は数は減っても無慈悲に警察、更にはマスコミの方にまで広がっていったのだ。

「何なんだくそぉっ」

舞い上がる土埃の中に見える青い光。飛び出してきたのはアーサーだった。しかし土にまみれたアーサーはキョロキョロした。何故ならすでにクローデバンの姿は無かったから。居るのはギガスだけ。アーサーを見たギガスは素早く飛び掛かり、灰色の身体から黒風を迸らせる。

「アーサー」

アルファの隣に転がってきたアーサー。傷は浅く、アーサーは軽やかに立ち上がる。

「強えな。気を付けろ」

しかしギガス対特攻部隊。いくら怪物となっても、ギガスは特にグラシア、アルファ、ドルタス、ルアとヘルの連携攻撃に歯が立たず、“何度目かの機能停止”。倒れ込んだギガスにドルタスは急ぎ足で駆け寄り、観察する。再生まで間もなく。その間にコアの特定をしなければならないからだ。──どこだ、全然見つからない。塞がれ始める傷。ドルタスは表情をしかめる。──コアが無いなんて事・・・まさか。これが、ハイクラスとテムネルの違い・・・。

「ドルタス!」

アーサーの声と、振り回されるギガスの尻尾。太い右腕で受け流し、吹き飛ばされながらも受け身を取るドルタスに入れ替わるように飛び出すアルファ。一方で光矢を放ち、ギガスの足止めをしながら、ルアはヘルと気持ちを共有する。──いつまで続くんだろう・・・。

「おい、ドルタス、何かこう、一気に消滅させられるほどのでかい攻撃でもしろって」

「え・・・それなら『融合(プラーヴ)』かな。魔法はね、複数人で合わせれば合わせるだけ強力になるんだ。でもアーサー達、そもそも魔法やった事ないよね?」

「あいつらは?」

アーサーが尾状器官の指を差した先には、当然の如くルアとヘル。それからドルタスとルアとヘルは向かい合う。しかしルアとヘルは目を瞑っていた。ルアとヘルは“他に誰も居ない戦場”で、ペルーニとシュナカラクと向かい合う。そうここはルアとヘルの精神世界。

「じゃあ、火と光の柱にしよっか。私とルアが光で、シュナカラクとヘルが火」

「うん

 (うん)」

「融合光壁はもう出来てるからな、難しく考える事はないだろう」

ルアとヘル、ペルーニとシュナカラクが頷き合ってそれから、ルアとヘルは目を開けた。最初はちょっとびっくりした。いきなり融合魔法の提案をしてきたドルタスに。しかしすぐにヘルは嬉しそうにテンションを上げたし、ルア自身も他に手は無さそうだと思っていた。そんな時、グラシアが大盾から光を放ち、ギガスは転んだ。

(ツェピー)!・・・ルア!」

深呼吸するルア。黄と青の鎖がギガスの体に巻きついて、絶好のタイミングが訪れたのだ。ヘルのテレパシーでもってすでに心は繋がっている。そしてルアはギガスに手をかざした。

光火柱(スヴェンジャスト)!」

コンロに火が点くように、地面をクルッと這う光と火。その一瞬の後、地響きを鳴らして光は天に向かって弾け昇り、同時に火は天に向かって吼え上がった。近くに居たアーサーやアルファが後ずさりしてしまうほどの眩さと熱気。その中に閉じ込められたギガスの姿など全く見えない力強さ。3秒ほどのそれは蛇口を捻ったように空に消えると、そして一同は正に丸焦げのギガスを目にした。それは希望であり絶望だった。強烈な魔法の成功、それでも“ただ丸焦げになっただけ”のギガス。ドルタスは頷きながらも眉を潜めて、アーサーは小さく溜め息。それから静寂を破ったのは、線香花火のように悪あがきを見せてきた黒風だった。──いやここで突っ立ってられるか!。

「アーサー離れて!」

振り返るルア。響いたのは、ホープの声だった。しかしそこにはホープの姿は無かった。解き放たれる、青々としたレーザービーム。射線上に居なくともヘルは飛び退き、びっくりしたグズィールは人知れずつまずいて転ぶ。何故ならその光線が放つ眩さが尋常じゃなかったから。警官達やマスコミ達の眼差しさえ拐うその光はギガスを押し退け、幽霊美術館とでぺっちゃんこ。それからギガスとレーザービームに押し付けられて幽霊美術館を丸ごと覆うテムネルの光壁は悲鳴を上げるように霞んだが直後、見えない壁に亀裂が走った。

「どぅおっ」

尻餅を着いていたアーサーは立ち上がる事も忘れて呟いた。何かが割れる音すら拐うように、なだれ込むように幽霊美術館を貫くレーザービーム。そして射線が上げられて、これまた蛇口が閉められるように光が消えると、そこには真ん中だけがキレイに抉り取られた幽霊美術館だけが残った。

「アルファ?」

アーサーの声も虚しく、いきなり飛び出して幽霊美術館の中に入っていったアルファ。黒風のざわめきすら聞こえない、ちょっとした放心感。その中で、ルアは真っ直ぐ見ていた。その“9本の細い尾状器官”を縮ませて背中にしまい込んだ、“スレンダーな犬っぽい”デュープリケーターが、“ホープよりも年上な女性のデュープリケーター”に変身するところを。

「(ホープ、だよね?)」

ヘルの問いに、自分の体を見下ろしたその女性デュープリケーターはヘルを見ると、キョトンとした顔で頷いた。一方戻ってきたアルファに、アーサーはキョトンとする。アルファは上部の尾状器官2本で、おんぶするように背中に抱えていたからだ。スヤスヤと眠る、見知らぬ幼体デュープリケーターを。

「お前、そいつは」

「バージョン5」

「・・・そうか」

読んで頂きありがとうございました。

そういえばストライクは何してたんだっていう。いえ、本業に戻っただけでした。

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