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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「アルファ」前編

「それでも、仲間、助けたい」

それから感じたのは、体が宙に浮くような感覚に陥るほど、全身の所々から体内に向かうように吹き込んできた魔力だった。そして目を開けると、真っ先に抱いた違和感は“常に誰かに見張られているかのような窮屈感”。しかし同時に理解していたのは、血液のように全身を駆け巡る、強い魔力。

アルファは飛び出した。空気を肩で切り、衝撃波という残り香を魅せて。しかしそれを分かっていて、ルーファーは1ミリも戦く事はせず、バノを殴り飛ばしたアルファを眺めていた。

「面白いじゃん」

「・・・何がだ。青と黒が混ざってる事がか?」

「そう。あの3人はすぐに真っ黒になったのに、アルファは自分の力を、いや自分の意思を見失わなかった。でも結局、いつまで見失わないでいられるかが問題なんだけどね」

「助けに来たよ」

静寂を破ったのはアルファだった。何故ベクルスと同じような“異変”を。そんな質問をふと忘れて、アーサーは立ち上がる。

「おう」

直後にバノは角から“黒雷”をちらつかせ、深く息を吐いた。「やりやがったな」を言葉ではなく、態度で表したのだ。そしてバノが尾状器官を怒鳴らせて飛び出すと、同時にアルファは尾状器官の1本から“黒青のダガー”をスッと投げ撃った。それがバノの肩に突き刺さり、体を硬直させたその一瞬にアルファは更に黒青のダガーを2本投げ、アーサーが飛びかかる。ドスドスッとバノの体が波を打ち、そこにアーサーの“青光の拳”。そしてバノが吹き飛んで転がってからだった、アーサーがアルファに顔を向けたのは。

「何だよその魔力」

「テムネル」

「え?テム、ネル?」

「ダークエルフの魔力」

「ふーん。まいいか、先ずはベクルス達をぶっ殺すぞ」

「うん」

それからベクルスは吠えた。黒光の刀を禍々しく光らせながら。まるで大気さえ怯えているかのよう。そんな狂気を放つベクルスを前に、グラシアは構える。その背後にデュープリケーターたちを従えて。そして振り放たれた黒い風圧はグラシアという存在に塞き止められ、真っ二つに裂かれていったが、黒い風圧の中、グラシアはその眼差しに脅威を見た。また力が上がったと。しかしその時だった。シカリダの穏やかじゃない叫びがその場に響き、全身から噴火したとてつもない量の黒い光がその場の眼差しを支配したのは。また何かヤバイ攻撃でもしてくるのかな。そうヘルがルアとテレパシーで会話したところで、まるで誰かに吹き消されたようにシカリダから漏れ溢れる黒い光がピタッと止まる。

「あ~あ」

それから、ガシャンとシカリダは膝を落とした。



第24話「アルファ」



「・・・・・おい」

誰も何もしてないのに、いきなり機能停止したシカリダにベクルスが声をかけたその直後、シカリダは顔を上げた。ルアはヘルの上でプリマベーラを構える。その一瞬、ルアの頭に声が響いた。それはストライクの声。初めてアーサーと戦った時、トドメをさせなかった。──あの時ほど、私はもう未熟じゃない。そして一瞬の静寂の後、光矢は放たれた。パリンッと弾かれるルアの光矢。ルアの瞳に映るのは、動物のように素早く自分の身を守ったシカリダの姿。しかしベクルスが内心で安堵の溜め息を吐き下ろしたその直後、シカリダはノールックで、グラシアとベクルスの方に黒いかまいたちを放った。

「早いなぁ、けどしょうがないのかなぁ」

それから誰それ構わず、視覚でも失ったように手当たり次第にシカリダが黒いかまいたちを巻き起こしていくが、当のクローデバンは何やらブツブツ呟いている。そんな状況に、ようやくルーファーは歩き出した。言葉を出す前に手が出て、ルーファーはクローデバンの襟元を鷲掴みする。

「どういう事だ」

「テムネルは、強力な魔力なんだ──」

シカリダの暴走に目線を下ろしながら、クローデバンは冷静にゆっくりとルーファーの腕を払う。

「力に呑まれて自我を亡くす。珍しい事じゃないよ。人間だって、銃を手にしただけで、簡単に殺し合うじゃないか」

「チッ何とかしろよ」

「自分を見失わないでい続けるなんて、自分の力でどうにかするしかない。せいぜい子分を信じる事だね」

目についたものに襲いかかる、そんな狂気でシカリダはベクルスに尾状器官で殴りかかり、アルファとアーサーの方に黒いかまいたちで八つ当たりし、ヘルとルアに突っ込んでいく。誰と誰が交戦している、そんな暗黙の了解をぶち壊して暴れるシカリダを前に、バノは動き出し、同時にアーサーはアルファを見る。

「お前、大丈夫かよ」

「うん」

たった一言で応えきったアルファに逆にアーサーが溜め息を漏らしたその時。

「シカリダ!」

バノが怒りを表すように黒雷を迸らせ、シカリダをぶん殴った。一旦戦場が止まる。ゆっくりと立ち上がるシカリダ。ヘルはルアと緊張を共有する。すると直後、シカリダは強く頭を振った。

「悪い、バノ」

正気に戻って良かったと、誰も思わない戦場。正気の狂気になっただけ、そうルアはプリマベーラを構え、ヘル達の後方に居るホープ、フリ、ナイトも射撃態勢を取っていく。

「冷静に力を上げれば、案外扱いは簡単だぜ?」

──3人の内、あの尻尾が太い奴は、どうやら順応力が高いみたい。あれもあれで、素質あるか。そうクローデバンは眺める。ベクルスがまた黒い風圧を放てば、それはグラシア以外の周囲を全てを吹き飛ばした。大きな菱形の光が弾け、黒い風圧を消し去っても、ベクルスは歯を溢す。

「2人共、下がって」

「くそぉ・・・」

メアとグズィールは苦しそうに立ち上がる。再生まで、下がるしかない、そう振り返ったメア達の目の前に居た、ドルタス。直後にドルタスは力強く頷いた。

「・・・ドルタス」

その一瞬、グラシアは気を留める。自分の背後に目をやったベクルスの、強者に嬉しがるような笑みに。そしてグラシアも振り返ると、そこに居たドルタスは、変身していた。黒かった髪は黄色に染まり、尖った耳は頭の上に移動していて、鼻が黒ずんでいる、そんな姿に。そしてジヴォーフに憑依して貰ったドルタスは直後、ドゥシピス・ゼプレにメアを取り込んだ。この力はダーク・コーカスを潰す為に作った。相手はダークエルフの霊気を持った。つまりこれは、実戦訓練だと。それから尾状器官は青い光を吹き出した。ボウンッと空気を押し退けて飛び出したドルタスの瞳に映ったのは、シカリダ。

雷刃三層(クリグロ・トリーソ)!」

青い光で飛び出して、アンバランスに大きくなった右腕から黄色い電気を迸らせる。それはまるで稲妻のよう。それから皆が理解したのはシカリダが吹き飛んでからだった。メアの形態を取り込んだドルタスのその強烈な力を。

「・・・ガハァッ!」

シカリダは吐血した。同時にその場の全ての眼差しが、シカリダの胸元をぱっくり切り裂いている大きな傷痕を見つめた。

「テメエェ!」

グラシアの事など忘れ、ベクルスは走り出す。しかもその瞬間、ベクルスの尾状器官がくわえる黒光の刀を何割増しに刀身を伸ばして。

光矢七層(ストレスーヴェ・セムーソ)

シリンダーが1周し、7本の光矢が重ねられ、1本の光矢として放たれる、という一瞬。ドルタスの光壁と黒光の刀がぶつかった瞬間、ガツンッと弾かれるベクルスの尾状器官。それでもベクルスはルアに目を向けずにドルタスへ怒りをぶつけるが、ドルタスはその右手で尾状器官を掴み、2人は真っ直ぐ睨み合う。まるで怒りで歯を溢すように、ベクルスの尾状器官は黒光を吹かす中そこにグラシアが突撃していき、ルアやヘルは期待を膨らませる。──いけぇっ。白く輝く槍は、空を突いた。間一髪でベクルスはジャンプして、それからグラシアの大盾を蹴りつけたのだ。立ったまま地面を引きずり、グラシアは眼差しを鋭くする。更に黒光の刀は爆ぜてドルタスを投げ飛ばし、黒い風圧はルア達の方へと牙を向けていった。悲鳴を上げるように土や小石は捲り上がり、そして黒はルアとヘルの融合光壁を激しく叩く。

「嘗めんじゃねぇぞ・・・ぐ、何だ」

途端に動きを止め、何やら頭を抱えるベクルス。その態度に、誰もが“さっきの事”を脳裏に過らせる。舌打ちを鳴らしたルーファーでさえ。それからベクルスは顔を上げた。その瞳に映るのは“自分自身”。まるで、自分自身を見ているかのような、気持ち悪い浮遊感。──これが、力の、正体か?・・・。ベクルスはすでに、光に殴られていた。ベクルスは自分自身も、浮遊感も忘れて視界に広がる空を理解した。何だったんだ今のは。そう起き上がり、血の臭いにふと顔を向ける。まるで死んでいるかのように動かないシカリダ。その瞬間、肩への衝撃。とっさに目を向けると肩には光矢が刺さっていて、更に目の前にはドルタスが迫ってきていた。勝手に動いた尾状器官によってドルタスは飛び退いていったが、ベクルスが目を留めたのはグラシアで、直後にその表情には笑みが溢れた。──そうだ、お前だ、その光が、俺を怒らせる。そしてベクルスは肩に刺さる光矢を抜いた。

「フウゥゥ・・・・・来いよ」

静かに燃え上がる黒い光。きっとまた、力が上がってる。そう白い光に包まれてグラシアは地面を踏み締め、槍と大盾を持つ手に力を込める。しかしその表情に焦りは無い。リッショウが三国の兵士全体に伝わった時、グラシアが初めてハルクのリッショウを見た時、グラシアは兵士のみんなと共に息を飲んだ。そんな事を思い出していた。──まだまだ、私のリッショウはこんなものじゃない。飛び出すグラシア、構えるベクルス。振り出された黒光の刀と大盾のその衝突は、見た感じ互角。その傍らで、バノは角から黒く迸るビームを放つ。それは今までにはなかった強烈さで、ベクルスだけじゃなく、バノだって力を上げているという事。際限なく放出される黒く迸るビームを新兵達4人は光を集めて何とか防いでいたが、4人は分かっていた。──もう、だめだ・・・。盾として作られた訳ではない、形のない新兵達の光。それが儚く散ったその瞬間、そこにテリッテ、シャークが飛び込んだ。更にはルアの光矢が風を切って黒い光を飛び抜けて、バノの角を弾き上げた。そして最後にはアルファの黒青のダガー。しかしバノは倒れない。

「そんなもんかよ、オラァ!」

中途半端な攻撃では、再生して元通り。けれど攻撃が中途半端なのではなく、バノを守る黒光が強くなった。そうアルファやアーサー、ルア達はバノの全身から全方位に迸る強風の如く黒雷に身を屈め、一様に焦りを覚えていく。その時、アーサーの眼差しが鋭くなった。リッショウという、人間が使う魔法とやら。ハルクという天使が使うそれを見た時、アーサーは息を飲んだ。そんな事を思い出していた。──グラシアに負けてられるか、俺だって、ここまでリッショウを高められるぜ。リッショウを覚えたデュープリケーターたちの中でただ1人、アーサーの存在感が強くなる。全身から煙のように立ち込める青い光という変化と共に。飛び出すアーサー、身構えるバノ。一直線に飛び抜けてアーサーの尾状器官はそれから、バノをぶん殴った。重たい衝撃に吹き荒れる黒雷は止み、バノは転がって地に伏し、静寂が訪れる。

「チッ」

しかし舌打ちを鳴らしたのは、アーサーだった。ノックアウトの手応えはあった。それでも殴られた側の意地が僅かに勝った。バノの手がザッと地面を鷲掴みした直後、伏しているバノを守るように尾状器官から放たれた閃光のように速い黒く迸る小さな弾丸。アーサーは反撃を食らい、アルファの前に転がってくる。

「アーサーっ」

「クソ、まだまだ、リッショウは高められるんだ・・・まだ、行ける」

アルファは仰向けのアーサーの腹に空いた穴を見て、拳を握り締める。幸い貫通はしていない、例え貫通していても安静にして居れば治る。

「休んでて」

「・・・調子に乗るなよ、デュープリケーター」

振り返った途端、アルファは身構えた。すでに黒雷迸る衝撃波が放たれてきていたからだ。

「くっ・・・」

それから倒れたのはシャーク。衝撃波に当てられて動けないまま、アルファは全身から黒光をたぎらせる。続けて放たれる黒雷の衝撃波に、今度はテリッテと新兵達4人がその餌食になってしまう。それでも衝撃波は止まず、次に比較的遠くに居たナイトが倒れる。衝撃波が通り過ぎていく風圧だけでも体が硬直してしまいながら、アルファはゆっくり歩いてくるバノに黒光を溢れさせた。ここにきて、弱いものから狙う狡猾さ。

「どうやらオレもこの力に慣れてきたみてえだ。シカリダを殺った落とし前、つけて貰う」

アルファは目を留めた。アルファを見ていないその眼差しに。まるで軽く拳銃を撃つかのよう。銃声の代わりに響いたのは電撃音。

「フリ!」

一瞬だった。1番遠くに居たのに、いや遠くに居たからこそ狙われたホープ。ホープを庇って黒雷の弾丸に撃ち抜かれたフリは倒れ、そしてアルファは激昂した。

「はあぁあっ!」

6本の尾状器官が作る黒青のダガー。その手数にバノは瞬く間に斬り刻まれる。しかしバノは一蹴りしてアルファを吹き飛ばし、素早く黒雷の弾丸を撃ち放つ。またアルファを通り過ぎて。衝撃音が鳴った時にアルファは振り返ったが、ホープの前にはヘルとルアが立ちはだかっていて、黒雷の弾丸は消えていた。

「チッ」

速度を重視した為に当然威力は下がる。そう無傷のヘルとルアに、バノは舌打ち。アルファが再び斬りかかっていった時にルアはふとホープを見下ろした。女の子に尾状器官が付いただけかのような外見のホープは今にも泣きそうに倒れているフリに付き添う。そんな姿が、何となく自分と重なる。

「フリ・・・え・・・そんな、死んじゃうの?」

自然とプリマベーラを握る手に力が入り、自然とヘルの足が動く。

「やりやがったな・・・」

無心に黒青のダガーを振るアルファを再び殴り飛ばしたところでアーサーは立ち上がる。しかしバノは笑みを溢していた。

「アルファ!そんなもんか!オレらと同じ力貰ってんだろ!」

「おらぁ!」

アーサーの尾状器官に殴られて大きく後ずさるバノ。しかしバノの尾状器官はアーサーに向いていた。

「邪魔だ!」

連射される黒雷の弾丸。アーサーの体は波を打ち、そしてアーサーは倒れ込んだ。凍りついたようにぴくりともしないアーサーに、バノが鼻で笑うと直後、アルファの黒青の光は、黒に染まった。アルファの雄叫びに、ふとドルタスは目を向ける。──マズイ、意思が呑まれた?・・・・・こ、こうなったら──。

「アルファ!」

呼び掛けたシャークに、バノは黒雷の弾丸を撃ち込む。

「黙れよ。今いいとこだろ。せっかく暴走させてやったんだ」

そして黒い光がピタッと止まり、アルファは膝を落とす。巻き添えを食らわないようにと下がっていくバノ。しかしそれからだった、バノの笑みが消えたのは。ドゥシピス・ゼプレからメアを放出したドルタスは直後、アルファを取り込んだのだ。それによって何が起こるかなんて誰も知る由もない、という静寂。

アルファが目を開けると、そこは今戦っている戦場だったが、そこにはバノどころか、みんなの姿は無かった。ザ・デッドアイも警察も居ない、居るのは“真っ黒な自分自身”。

「大丈夫かい?」

アルファは振り返った。ドルタスは知ってる。しかしそこに知らない生き物が1匹。

「何も保障はないけど、僕とジヴォーフでなら何とか出来るかと思って。テムネルは感情そのもののように思えるけど、所詮はただの魔力。とりあえず、拘束魔法からやってみよう」

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