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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「ナイト&メア」後編

湿った洞窟によく響く、鈍い足音。真っ暗闇なのだから振り返っても意味は無いが、ナイトメアは振り返った。知らない臭いと、地面だけでなく壁からも響いてくる震動に、知らない奴が来たと理解したからだ。

「(そんなにオレが気になるのか)」

「・・・アルファは別に、ナイトメアがどんな奴かなんて気にならない」

「(なら何しに来た)」

「命令だから。ナイトメアもこんなとこに居ないで、縄張りに着くっていう命令を受けてる。だから出てきて」

「(命令?・・・。必要の無いオレに、命令は必要無い。大方、ただ存在を気にしているだけだろう。それともマフィア達はオレが必要だと言ったのか?)」

「それは、聞いたことない」

「(お前は、お前への命令を気にしていろ。オレへの命令なんて気にするな)」

「・・・うん、でも・・・・・・大丈夫?」

「(何がだ)」

「命令された事やってると、シャークみたいに悩んだり、アーサーみたいに苛立ったり、グズィールみたいに寂しがったりしなくて済むのに」

「(なるほど。お前は、孤独が嫌いか)」

「嫌い、かどうかは分からないけど、みんなを見ていると、何か嫌になる」

「(お前も、自分の事だけ考えていればいいだろ)」

「・・・・・でも、気になる。仲間、だもん」

「(仲間?オレ達がか?)」

「だって、アルファもみんなも、ナイトメアのデータから作られたから。考えは違っても、やっぱり、同じデュープリケーターだし。気になるのは、そもそも仲間だって思ってるから」

「(仲間、か)」

アルファはトボトボと洞窟を出ていく。――何で、みんな命令を気にしないでいられるんだろう。使わされる為に作られたのに。使わされていれば、孤独じゃないのに。その時だった、アルファが突如微かに鼻を突いてきた臭いに立ち止まったのは。そして振り向くと、アルファが目に留めたのは、少女が持つ魚だった。

「何それ」

初めて顔を合わせたにも拘らず第一声がそんな言葉に、少女は目をぱちくりさせる。

「魚、だよ。あなたは?」

「アルファ」

「そっか」

「アルファ、あなた達知らない。名前も聞いた事ない」

「それは私達がここのマフィアの人達に会った事ないからかな。それに、私達、名前は無いの」

「それは・・・もしかして、自由だから?」

「そう、なのかな」

それからアルファは振り返った。命令でもなく、洞窟に入っていくその2体に。樹海を歩きながら、アルファは何となく少女の微笑みを思い出していた。自由だからかと問いかけた後に、ふとどこか嬉しそうに溢したその微笑み。仲間だから気になる。しかし同時に、仲間なのに、みんなと違う。その事がまるで、岩肌に付いた苔のように頭の中にこびり付く。

「はい、食べなよ。おいしいよ?」

「(何だこの臭いは)」

「あのホテルで食べた焼き魚を思い出したら、食べたくなったから。ついでにナイトメアのも獲ってあげたの」

「(オレの為にか?)」

「うん。はい口開けて?あ、見えないや、ちょっと明るくして?」

その時だった、彼らが初めてお互いの顔を認識したのは。犬が尾状器官からボッと青い光を灯し、洞窟を照らしたのだ。しかしお互いの姿にどうという事などなく、少女はナイトメアの口に焼き魚を放った。青い光に照らされて、満足げに微笑む少女。

「わぁ・・・」

青い光に照らされて青く反射する水溜まりに、少女は歩み寄る。洞窟は思っていたより広く、思っていたより、キレイ。少女はそこで、ふと座り込んだ。そんな少女に馴れ合うように、隣に腰を落とす犬。ホテルでの喧騒が嘘だったかのように何も無い静寂と、青い洞窟。

「自由って、何だろうね」

そう言って少女は犬を撫で、犬は溜め息のように鼻息を漏らす。そんな少女たちの近くに腰を落とす、ナイトメア。

「おーい、ナイトメア」

振り返るナイトメア、そして少女と犬と青い光。彼らはシャークの隣のデュープリケーターに目を留める。

「ほら、そっちがナイトメアだ。こいつはグズィール。あんたに会いたいって言うから連れてきてやった」

「(そうか)」

「え、そっちは?」

「私達、ナイトメアが作られる前に作られたデュープリケーターなの」

「何でここに?」

「この森に逃げてきたナイトメアが心配で、ついてきたの」

「・・・ここに、住んでるの?」

「ナイトメアはね。私達は隣の洞窟に住んでるよ」

グズィールは洞窟を見渡す。ひんやりとした空気、青だけに照らされた空間、その見た事も感じた事もない洞窟というものに、グズィールは無意識に地面を嗅いだ。

「私の縄張りに、こんな洞窟無い。ナイトメア・・・ズルい」

「なら、グズィールもこっちに住めば?」

「それは出来ない。縄張りに着いてないと、ベクルスが怒るから」

「そっか。じゃあ次は私達がグズィールの縄張りに遊びに行ってあげるよ」

「ほんと?」

ナイトメアはただ眺めていた。思い立ったように立ち上がり、そしてグズィールとシャークと共に、いとも容易く洞窟を出ていく少女の背中を。ふと少女が呟いた言葉が脳裏を過る。

「(自由・・・か。確かに、何なんだろうな)」

シャークは、じゃあ何故、意思を持つと言っていた。必要とされてなくても、存在理由はあっていいと。まったくあいつらはゾロゾロとやって来て、言いたい事を言って・・・。そのせいで、要らぬ疑問を持ってしまった。そういえば、オレは何故、ここを選んだんだろう。マフィアから、デュープリケーターから避けられればどこでもいいはずだ。

そして何日ぶりかの日の光と、森の臭い。とはいえ、途端に見舞われたのは、暖かく照らされる森のようにどこまでも広々とした、健やかな孤独だった。洞窟を選んだ理由も無ければ、洞窟を出てからの目的も無い。それでも何となく足を運ばせ、湖の畔。水面に映る自分を見下ろして、空を見上げて、ただ時が過ぎ去る静寂。

「(自由とは、何なのか)」

その時だった、草が擦れるような音と足音に振り返ったのは。隆起した岩肌を登ってきて、頭からゆっくりと姿を現してきたアルファから、ナイトメアはゆっくりと目線を水面に戻す。

「ベクルスに、ナイトメアは出てこないって言ったら、ベクルスはもうナイトメアの事は気にしないって」

「(まぁ、元々、必要の無いものだからな。なら、お前も、もうここには来ないのか)」

「え、でも、アルファは、ナイトメアの事気になる。だから、ベクルスが言ってた事、伝えようと思って」

「(お前も、そういう意味じゃ自由だな)」

アルファは静かに岩肌を降り、ナイトメアと肩を並べる。

「アルファ、自由だと思ってない。言われた事、してるだけで」

「(だが、それもお前の意思なんだろ?)」

「んー、そうだけど。じゃあアルファ、縄張りに戻るから」

元々、必要は無い、しかしそれでも気にはされていた。しかし今、もう気にされる事もなくなった。もう、シャークたちも、マフィアに言われてオレの下に来る事もないのか。このまま、ずっと孤独か?。アルファはああ言ってたが、もう、あいつらとは話せないのか?。マフィアはまた、オレから存在理由を奪うのか?。

目的の無い森と、愛着のある洞窟。気が付けば洞窟に戻り、座っていた。目的の無い、心地の良い孤独と、あいつらとの時間。どちらを取るか。いや、選べないな。気が付けば、そこには“俺”が居た。俺は犬のように青い光で、洞窟を照らした。

「この奥って何があるんだろうな。ちょっと見てくるわ」

オレは、心地の良い孤独を選んだ。だから代わりに、俺が“見てくる”。それから帰ってきた俺は、水溜まりを目の前に座り込んだ。

「俺、メアで良いよな?お前がナイト」

「・・・あぁ」

「暇だしな。とりあえずあいつらの縄張りでも回るか」

オレは自分の意思でここに居て、メアは自分の意思でここを出ていく。これが、自由という事か。ナイトはふと、青い光で洞窟を照らした。ここが、自分の縄張り。少しくらい、歩き回るのも悪くない。そうナイトが洞窟を歩くと同時に、メアは森を歩く。ナイトは孤独だから洞窟に居て、俺は孤独だから仲間に会いたいと歩く。これも、名前の無いあいつらのとはまた違う自由なのかも知れない。それから、メアは首を傾げた。アーサーの縄張りに入ると、そこは見たところ“荒れていた”からだ。木が倒れていたり、岩石が散らばっていたり、そしてその中で独り佇むアーサーに、メアは歩み寄る。

「何だお前」

「俺はメア。ナイトは洞窟だから、代わりに俺が見に来た」

「ナイト?メア?何だ?分裂か?新しく脱皮でもしたのか?」

「脱皮・・・まぁ、そんなようなもん、かな。よく分からない、気付いたら居たんだ。それより、森が荒れてるが、何かあったのか?」

「政府の奴らだよ。そもそもデュープリケーター作って縄張りに着かせるのは、政府からアジトを守る為だからな。その政府とさっきまで殺り合ってた。ま、良い運動にはなるからな、俺は別にいいけど」

「運動、か。グズィールじゃないが、いいな、俺もやりたいな」

「だったらお前も縄張りに着けばいい。って言っても何か、アジトに繋がる道らしい道は1つだけで、その道は俺の縄張りを通るから、戦いたい時はここに居るしかねぇけど」

それからメアが見つけたのは、グズィールの背中だった。座り込んだグズィールの丸まった背中に、メアは声をかける。

「よぉ」

ビクッとしてから振り返るグズィール。そして案の定、初めて見るメアにグズィールは目をぱちくりさせ、鼻をヒクヒクさせる。

「ナイトメア?」

「俺はメアだ。臭いが同じなのは当然だ。俺はあいつなんだから」

「分裂・・・・・えぇー」

「ズルいか?」

「・・・・・分かんない」

「・・・・・何だよ」

空に向かって足を投げ、キレイにひっくり返っているシャーク。そんなシャークの寝息を聞き流しながら、メアはシャークの近くに座り込む。

「・・・シャーク・・・・・シャーク」

足がピクッとしたところでシャークは目を覚まし、クルッと体を起こした。

「いつの間にか寝てたのか。ん?・・・あんたは・・・」

「俺はメア。ナイトが洞窟に居る代わりに俺が洞窟を出たんだ」

「それは・・・」

「何故かって?さあな、気が付いたらあいつと俺になってた」

「いや、気になるのは何故、あんたが洞窟を出たのか」

「あぁ・・・あいつが洞窟を選んだからだ」

「それは何故だ」

「それはあいつに聞けよ」

それからメアがアジトの前に来ると、そこにはアルファが居た。まるでセンバドールのホテルを守る以前の自分のように佇むアルファを前に、意味も無くムシャクシャが頭を通り過ぎていく。メアに気が付くと、アルファは首を傾げ、小さくキョロキョロする。

「何してんだ?」

「門番。アルファ、リーダーだから、ここで立ってるのもアルファの仕事」

「そうか。でも門番って、見たとこ暇そうだな」

「アルファは暇だとは思ってないけど」

「立ってるだけだろ?」

「立ってるのが仕事だもん」

黙って頷き、メアは歩き出す。するとアルファは黙ってアジトに近付いてくるメアを見つめ続け、アルファを通り過ぎようとしたところで尾状器官を伸ばし、メアを制止する。

「ん?」

「門番の仕事は、門の前に来た人の要件を聞く事だから」

「そうか。俺は、アーサーと同じ仕事をさせろって言いに来たんだ」

「分かった、伝えてくる」

「おいおい何でだよ俺が直接行く。お前の仕事はここに居る事だろ」

「要件を伝えるのも門番の仕事」

「めんどくせえだろ」

「めんどくさくない。仕事だから」

「ハァ、しょうがねえなぁ」

「ナイトメアはここで待ってて」

「俺はナイトメアじゃない。メアだ」

「・・・そっか」

それから座り込んでいたメアはベクルスの声に振り返った。一瞬、メアは目を見開く。何故ならそこにはヨーガの姿もあったからだ。アルファからメアの事を聞いて思わず出てきたヨーガの事など別に構わず、それからメアは立ち上がり、ベクルスを見る。

「お前、どうしてそうなった」

ヨーガが尋ねる。

「さあな。気付いたらこうなってた。それより、暇なんだ、俺も政府と戦わせろ」

鼻から溜め息を漏らすヨーガに顔を向けるも、ナイトメアだのメアだのどうでもいいベクルスはただただ1体の戦闘要員を見る眼差しで、ヨーガからメアに目線を戻す。

「だったら縄張りに着いてろ。そもそもお前らは戦う為に作られたんだ。その内嫌でも戦うようになる」

「あぁ?分かってんだぞ?1つしかない道はアーサーの縄張りにあるって。その内って、それまで暇だろうが」

「チッ知るかよ。今だって樹海の外じゃTSAが群がってんだ。その内っつったらその内だ。黙って従ってろ」

メアは小さなムシャクシャを自覚する。そう吐き捨てて背中を向けていくベクルスと、その見下したような眼差しに。力では敵わないと分かっているから余計に募る苛立ち。まぁいい、俺は自分の意思でここに来たし、自分の意思で縄張りに着いたんだ。ナイトの居る洞窟の前という縄張りで、メアはふと空を見上げる。それから何となく丘を登り、洞窟の上。

「あ」

振り返るメア。茂みを抜けると居たメアという存在にキョトンとする少女と犬と見つめ合うという沈黙。直後、少女はまるで声をかけられたかのように犬を見る。

「ナイトメアなの?」

「いや、俺はメアだ。分裂ってやつかな」

「へぇ、何で?」

少女の無邪気な問いに、メアは空を見上げる。

「俺が洞窟を出たのは、お前に・・・憧れたん、だろうな」

「えへ、私、そんな憧れるような事」

「いや、きっと他の奴等も言わないだけで同じように思ってる。お前らはベクルスに何も言われないし、自由だしな」

そして現在、街中の街頭テレビにとあるニュースが流れていく。街を歩く人々は厳かそうなニュースキャスターを前に立ち止まったり、立ち止まらなかったり。

「センバドールのクワイホテルで初めて目撃された、少女のようなデュープリケーターを筆頭に、現在デュープリケーターたちは特攻部隊の管理の下、クランの樹海から逃亡したブラッジェルとザ・デッドアイの追跡に対して協力態勢を見せていますが、しかし一方でマフィアが作った生物兵器である事には変わりはないとして、警察の一部隊で管理する問題ではないなど、専門家の中で意見が分かれている模様です」

クランの樹海。周りでは獲物を狙うようにマスコミが見張っていて、マスコミという濁流をせき止めるようにTSAが居るものの、ナイトはまた無意識にキョロキョロしてしまう。するとそこに歩み寄ったのは、ホープだった。しかもその顔には微笑みを添えて。

「楽しみだね、新しい森。魚獲れるかな」

「オレは、洞窟を探したいがな」

「あ、いいね」

頬を寄せてくる犬のデュープリケーターの首を撫でるホープ。そんな和やかな雰囲気を感じ取ってか、歩み寄ってくるテリッテ。

「その子は何ていう名前なの?」

「名前、無いよ?」

「そっか、じゃあ付けてあげないとね」

「んー、じゃあナイト付けてよ」

「まったく。お前がホープなら、そいつはフリーダムといったところだろう」

「じゃあ、フリ」

すると名前を付けられて嬉しがるようにまた頬を寄せ、ホープはまたフリの首を撫でる。その時ナイトが目を留めたのは、敵意や距離感でさえまるで無いテリッテの笑顔だった。

「ノイル、そろそろ日も暮れちゃうみたいだし、今の内にデュープリケーターたちを私達の世界に案内していいかな?」

グラシアが切り出したそんな話に、ノイルはヘルに顔を向ける。

「(もし今帰って来ても、TSA的には準備に時間かかるんじゃない?)」

「まぁ、そうだな・・・」

それから、ヘルは着陸した。シュナカラクが帰って来ればノイルに連絡すればいい。そんな簡単な段取りを頭に据えてルアはヘルから降り、ヘルは変身を解いていく。その最中、帰って来たルア達に玄関のドアではなくリビングの窓を開けるルーナ。

「お帰り」

「うん、ただいま」

読んで頂きありがとうございました。

ホープの進化やナイトメアの分裂にはちゃんと理由はありますが、問題は誰が気付いて説明してくれるかですね。

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