表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/273

「シャーク&グズィール」後編

ベクルスは舌打ちを鳴らす。明らかにバージョン3の火力ではないその衝撃熱波に。バージョン3はヒンバの風俗ビルで作られたものだから、明確に戦力を把握していなかったが、それでもバージョン3だ。俺達に敵うはずがねぇ。そうベクルスはまるで閃光のように速く鋭い衝撃熱波に突き倒されたバノに危機感を覚えた。

「くそぉ!」

衝撃の重さを利用し、地面から弾かれるように立ち上がったバノはすぐさま衝撃熱波を返そうと、尾状器官から青い光を迸らせる。しかしすでに、ホープは撃ち放っていた。光の速さで樹海を抜けるその衝撃熱波を。バノの尾状器官は弾かれたが同時にベクルスとシカリダが衝撃熱波を放っていく。しかしまたベクルスは苛立ちを募らせる。土埃や木片を巻き上げる豪快な熱波は、犬の方の奴にむざむざと切り裂かれたからだ。――見たところその火力はバージョン4たちと同等、いやもしかしたらそれ以上か。一体、どこでそんな進化を遂げやがった。

エルフヘイム、魔法研究所のカフェスペース。ダーク・コーカスに関する資料を片手にオレンジジュースを飲むアンシュカの隣で、スッチーはビクッとした。

「ドルタスっ。クランの樹海から出てきたみたい」

「え!小さな禁界が消えたの?」

「ううん。小さな禁界から出てきたんだ。すぐ行く?」

「うんっ!」

暗転する五感、その1秒未満の一瞬の後、アンシュカは笑顔を浮かべた。湖の上を飛んで岸に渡ってきたドルタスに。まるで待ち構えるような構図だが、それでもドルタスは迷惑そうな顔などまるで見せず、むしろ道端で知り合いに会ったかのような笑みを浮かべた。

「ほら見て?あたし今ダーク・コーカス調べてるの。あなたのお父さんにも手伝って貰って。あなたの個体歴史録(パーソナル・レコード)見てエクス・ルキュースに辿り着いたから」

「うわ、恥ずかしいなまったく。まぁ見ちゃったものは仕方ないか。でも説明の手間が省けてちょうどいい、これから、いよいよダーク・コーカスのリーダーを捜すんだ。手伝ってくれるかな」

「当然よ。その為のこれなんだから」

ふっと、小さく笑みを溢したドルタス。その一瞬だけで、行方を眩ませた事なんて何とも思わなくなる。そうアンシュカは今までの事が報われたような達成感をふと抱いた。

「それで――」

それからだった、アンシュカがようやくデュープリケーターたちに目を向けたのは。

「この子たちは?」

「成り行きっていうかさ。そうそう、みんな、自由になったついでに、僕の事手伝ってくれると助かるんだけど、どうかな」

「・・・別にオレは構わない」

デュープリケーターの中で最初にそう言ったのは、シャークだった。他のデュープリケーターたちがシャークにふと顔を向ける中、シャークは何となくテリッテの言葉を思い出していた。

「テリッテが言っていた優しさやら助け合いやらはよく分からないが、ベクルスとの戦いに加勢してくれた借りは返す」

「そうだな、シャークの言う通りだ。ナイト、俺たちもドルタスを手伝ってやろうぜ」

グルグルと喉を鳴らすナイト。するとその後、ドルタスはグズィールを見たが、グズィールの眼差しはアンシュカに流れた。

「アーサーは?」

「あたし今別行動だから分からないわ?知りたければスッチーに連れてきて貰う様に頼むけど」

そう言ってアンシュカがスッチーを一瞥すると、グズィールもアンシュカの隣に立つ、明らかに人間じゃないが人間の様に佇む笑顔の生物を見る。

「連れてきてくれるの?」

「うん。すぐ呼んで来れるよ?」

頼りになる生物だと、グズィールが目を丸くする中、スッチーは直後にとある方向へ指を差した。

「だってそこに居るし」

「へ?」

そうアンシュカが声を洩らしてそれから、キャンプ場でバーベキューをしていたルア達の下に、アンシュカ達が“歩いて”やって来た。振り返るルア達と、アーサー。一瞬の沈黙の中、グズィールは目をパチクリさせた。お肉にかぶりついているアーサーに。デュープリケーターはそもそも、食事を必要としない。オートファジーと自己再生の高速サイクルにより、“外からエネルギーを摂取する必要が無い”からだ。

「おお、グズィール、つーか皆も、ホープまで。せっかくこれから俺たちであいつらをぶちのめそうってとこだったのに。出てこれたって事は、やっつけたんだろ?」

「ううん、痛手を負わせた隙に逃げてきただけだよ、ねぇそれ――」

「そうか、んじゃベクルスは俺がやるからな?」

「アーサー!」

モグモグを止め、アーサーは「え?」とグズィールを見る。足早にトコトコと歩み寄って来るグズィールにアーサーは「何だ何だ」とただ戸惑うが、直後にグズィールは尾状器官を伸ばし、アーサーの手からお肉を取り上げた。

「アーサーだけズルい」

「グズィール大丈夫だよ、お肉も野菜もいっぱいあるからね?」

グラシアが優しく声をかけるそんな傍らで、ルアはふと椅子に座って優雅に佇むヘリオスに歩み寄る。この場には自分達だけじゃなく、テリッテやロックエル達も居るからだ

「お金、大丈夫?」

「金なら問題無い。もしかしたらキャンプ場からオーダー制限がかかるかも知れないが、それならデリバリーでも頼めばいい」

「(さすがヘリオス、太っ腹)」

「あ、あのグラシアさん、デュープリケーターたちがマフィアから逃げられたなら、私達はどうなるんでしょう」

「そうだよね、ノイル」

そう言って、グラシアはテリッテと共にノイルに指示を仰ぐような眼差しを向けていく。

「こっちの頭数が増えて、同時にあっちの戦力が落ちたんだ、これは単純にザ・デッドアイを殲滅するチャンスだろう。そこで同時にブラッジェルの壊滅までいけたら最高だしな。このチャンスに乗らない手は無い」

「ブラッジェルの壊滅?多分難しいかも」

口を挟んできたドルタス。ノイル達がふと顔を向けると、そんなドルタスとノイル達の空気に交ざり込もうと、アンシュカもしれっと歩み寄る。

「直接聞いた訳じゃないんだけど、何か、ブラッジェルのバックには大きな組織があるから、ザ・デッドアイの人達に下手な真似はしない方がいいってブラッジェルの人が言ってた」

「大きな組織?TVMでもブラッジェルの事はそれなりに把握してるが、聞いた事ないな。他に何か聞いてないか?」

「んー、あ、もし樹海のアジトが落ちる事になってもブラッジェルには逃げ場があるとか言ってたな」

「それはマズイな。デュープリケーターたちが居なくなった事の劣勢さは本人達の方が分かってる。もしかしたらもう逃げる準備くらいしてるかもな。まあでも、最悪ブラッジェルは逃がしてもしょうがないか」

そうノイルが深刻そうに目線を流したりする中、おもむろにドルタスはアンシュカが持つダーク・コーカスの資料を優しく取り上げる。そしてドルタスはダーク・コーカスのメンバーリストに目を通していく。ダーク・コーカスのメンバーは大抵世間からテロリストとして見られてる。ある意味有名だから逆に本人達は居場所や活動履歴を巧妙に隠してる。分かるのはどこでテロを起こしたかくらい。しかしそこでふと、ドルタスは目線を留めた。

「やっぱり、怪しいんだよなぁ」

「どこが?」

「結成当初からダーク・コーカスに居るメンバー、みんなシャンバートに関係してるんだ。通ってた大学がシャンバートにあったり、入ってた刑務所がシャンバートにあったり、働いてた会社がシャンバートにあったり」

「え、それ、関係あるかしら。みんなエルフよ?」

「でもほら、逆に出身国だからこそ深い因縁が生まれたりするし。それに、シャンバートは精霊とは関わってないし」

「精霊と関わらない国はいっぱいあるわよ?」

「そうなんだけど、何か勘で」

「じゃあ・・・シャンバートの何を調べればいいかしら」

「んー、でもとりあえず、アンシュカは先にシャンバートに行っててくれないか。僕はブラッジェルのアジトを壊滅させてから合流するよ」

「分かったわ」

クランの樹海、ブラッジェルのアジト。その時すでに、ブラッジェルの男達は身支度を始めていた。パソコン関係のデータの類いの片付け、食糧のまとめ、テキパキと動くそんな男達を、ヨーガやベクルス達はただ眺めていた。そこでふと、ヨーガは広げた腕を背もたれに掛け、深くソファーに座るルーファーに目を向ける。

「ルーファーさん、何人残りますか」

「そうだな、ここは、捨て駒は使わない」

「え、時間稼ぎ要員が居ないんじゃ、マズくないですか」

「考えられるだけトラップを仕掛けまくれ。いくらお前らでも今の頭数じゃ無事に逃げられるか分からない。今は呑気に捨て駒ばら蒔いてる場合じゃないだろ」

「トラップですか・・・」

「ヨーガ、手榴弾あるか?」

ベクルスが尋ねる。

「あぁ。ワイヤーが引っ掛かって爆発するベタなやつ?」

「鉄板だからな。あとはどうすっかなぁ。バノ、お前の“アレ”、使えないか?」

ベクルスのアレという言葉にバノは一瞬眉を潜めて固まるが、それからブラッジェルの男達がアジトを後にすると、意を決したバノはベクルス達と無言で頷き合った。ベクルス達がバノを独りアジトに残し、適当な場所に手榴弾とワイヤーを仕掛けていく中、ヨーガは手榴弾とワイヤーを仕掛けながらふと思い出していた。戻ってきたベクルス達がルーファーにホープの事を報告した時の事を。あれから、センバドールの風俗ホテルから逃げた後から、犬と女のデュープリケーターの行方は全く分かってなかった。ブラッジェルのアジトに落ち着いた後、同じように特攻部隊から逃げてきたバージョン4第1号を元にアーサー達を作ったが、犬と女の姿は見る事はなかった。それが、ホープという名前まで名乗り、しかも実質バージョン5であるベクルス達を退けるまで進化するとは。実に興味深い。デュープリケーターは基本、生まれた直後の幼体から“順応という名の再構築”という名目で脱皮を1回だけ行う。つまり人間のような半永久的な成長、或いは老化はしない。なのに、ホープは進化した。ナイトとメアは分離であり進化ではないから、実質的に例外はホープだけだ。

「ヨーガ、何ボーッとしてる」

「フッお前は気にならないだろうが、ホープの進化は想像以上にあり得ない事なんだぞ?」

「敵が強くなった事に関しては興味あるけどな。ああもしかして、ホープの進化を解明出来ればアルファを強化出来るって事か?」

「まぁそれもあるが、純粋に気になる。だって、あいつらは、俺が作ったんだから」

香ばしい匂いが鼻を突く。テレビでは何度か見たことあるけど、実際に見たことは無かった。何故ならベクルス達は必要無いと言っていたから。けど、アーサーがこんなにも、嬉しそうに食べてるし。そうグズィールは熱を帯びる鉄網から肉片を持ち上げ、口に運ぶ。熱と肉汁、そして頭の奥底をガツンと殴るような驚きと、恍惚。――何だ、これ。

「グズィール、美味しい?」

笑顔でグラシアが語りかけてくる。オイシイという表現は分からない。でも、初めて感じるこの恍惚をそう表現するなら、きっとそうなんだろう。

「うんっ」

「良かった」

するとそう言ってグラシアは笑顔を深める。同じように鉄網の上で赤から茶色へと変わった肉片を口に運んでいくシャークやメア達を見てから、グズィールはふとアーサーを見る。

「ベクルスの野郎共、こんなウマイもの食ってたんだぜ?ズルいよな」

「うん」

「グズィール、野菜も食べて?美味しいよ?」

赤くて円いもの、緑の細いもの、黄色くて曲がったもの、グズィールはパクパクと食べていく。そんなグズィールを前にまるで可愛い後輩でも見ているかのように笑顔を溢していくグラシアの傍らで、シャークは歩み寄ってきたテリッテと顔を合わせた。あの時には見せなかったテリッテの笑顔に、ふとシャークは思わず目を留めていたのだ。

「マフィアの人達に興味があるって言ってたけど、もういいの?」

「あぁ、もういいかな。今は、あんたの言ってた助け合いという言葉の意味に興味がある。だからドルタスに借りを返そうと思う」

「そっか。マフィアの人達を懲らしめるの、一緒に頑張ろうね」

焼けた肉片を口に運ぼうとしたところで、シャークは何となく手を止める。一緒にという言葉にふと気を留めた。

「・・・あぁ」

それから肉片を口に運び、モグモグしながら、シャークはテリッテの笑顔を見る。

ベクルスはふと振り返った。手榴弾も仕掛け終わり、さっさとここを離れようという頃、ベクルスは妙な胸騒ぎを視界いっぱいの樹海の向こうに感じていた。

「アルファ」

「・・・え?」

――まさか、もう特攻部隊の野郎共が。いや流石に早すぎるか。

「辺りを見回って来い。万が一特攻部隊を見付けたらバレずに戻って来い。戦闘はするな」

「うん」

グラシア達とデュープリケーターたち、いくらザ・デッドアイが強くても、この頭数なら。樹海を歩く誰もがそう思うほど、そのふとした沈黙には自信だけが満ち溢れていた。アーサーの持ち場だったエリアにしか無い、まともな道。舗装こそされてはいないのだが、それでも道と言える道はここだけ。それはまるで自信を讃える為の一本道か、誘い込む為の一本道か、ふとそんな事を考えながら、ヘルは珍しく隣を歩くルアに顔を向ける。そんなヘルの首筋を撫でながら、ルアは自分の代わりにヘルの背中に乗るペルーニの「リラックス」を感じていく。

大した時間もかけずに戻って来たアルファに、怠慢半分の安堵を抱きながらもベクルスは手榴弾を仕掛け終えた他の人達を見渡し、軽い溜め息を吐く。ザ・デッドアイが生き残る為には、確かに手段は選んでられない。しかし寄生する事自体は難しくなくても、寄生する宿なんてそうそう転がってる訳じゃない。こんな事、いつまでも続けられない。――バージョン5でも十分な気もするが、ルーファーさんは何を考えてんだか。宿が無くなったら、餓死だぞ・・・。そうなる前にザ・マッドアイを潰しにかからないと。

突然の爆発。樹海に充満する、その殺気の乾ききった空気を突如押し退けるように轟いた爆炎に、アーサーはひっくり返った。意気揚々と先頭を歩いていたアーサーのその姿に特攻部隊の足は止まり、ノイルが声を上げた。

「罠だっ。皆一旦動くなよ?ヘル、何か違和感は無いか?」

「んだよ、くそぉ」

「(んー、確かにちらほら臭いが濃いとことそうじゃないとこがあるけど)」

「アーサーっ血出てるよ」

「気にすんな、これくらい直ぐに治る」

グラシアがアーサーの再生力に目をパチクリさせている傍らで、ノイルはとある箇所を凝視する。正に刑事ばりに屈んで目を凝らしているノイルをルアとヘルが見つめている傍らで、ノイルは優しくそれに触れた。目を凝らさないと分からないピアノ線か何かが張られている、そうノイルはふうっと立ち上がった。

「そうだな・・・。ルア、ヘル、魔法の壁作ってくれ。爆発の威力からしてただの手榴弾だろうから、壁を張ってブルドーザーみたいに強引に突っ切って行けばいい」

「はい

 (うん)」

それから面白いほど爆発はルアとヘルの光壁に押し退けられ、そしてブラッジェルのアジトに辿り着くと、再び意気揚々とアーサーが先陣を切り、玄関を衝撃熱波で吹き飛ばす。

「ベクルス!・・・・・・あれ?」

ゾロゾロと、特攻部隊が無人のアジトに足を踏み入れていく。その殺気の乾ききった空気に、ノイルはすぐに確信した。やはり、もう逃げたか・・・。随分と、すばしっこ――。

「アーサーぁ!上!」

ルアがビクッとするほどのシャークの声。アーサーだけでなく、その場の全ての目が上へと向けられる。

「逃げろ!」

再びシャークの声。ドルタスと、アーサー以外のデュープリケーターたちは分かっていた。バチバチと青い光を迸らせる、明らかにマズイ雰囲気を放つ、その青く輝く球体を。しかもそれは、この前見たものよりも、大きいものだ。

それから直後、青く輝く球体は樹海に人知れず建つアジトを人知れず、木っ端微塵に爆破した。建物が1つ吹き飛ぶほどの轟音は人知れず消え行き、あらゆる破片がひらひらと舞い落ちる。その時、車の中で、バノはふっと笑みを溢した。

読んで頂きありがとうございました。

エルフの世界には敬語というものは無いんですかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ