「シャーク&グズィール」前編
「借りるって、いつまでだ?」
「先ずは実際に動くかどうかの実験だから。まぁほんの数分かな」
「何を作ったんだ。それくらい聞く権利あるはずだろ?」
ソファーに座りながら、頭だけ振り返って尋ねるルーファー。マフィア達が背筋を伸ばすそんな声色にも、ドルタスは余所者らしく少しも動揺すらしない。
「今だから言うけど、君達が作ってたデュープリケーターに“人工禁界の霊気”を提供したのは僕の為でもあるんだ。つまり僕が作った『ドゥシピス・ゼプレ』は、改良版トゥマーレで作った人工禁界に適応したデュープリケーターを使って、エルフでも人間でも“霊獣化”出来るようにする為のものなんだ。あ、霊獣化って分からないか。簡単に言うと、憑依かな」
「憑依?・・・実際に見せてみろ」
「うん。じゃあ、アルファの体、借りていいかな?」
ドルタスの眼差しに、アルファはキョロキョロする。その挙動はどこかルーファーに助けを求めているかのよう。
「貸してやれ」
「うん」
別に憑依にビビってる訳でも、人見知りな訳でもない。“頼むより命令”しないとアルファは動かない。そこは地味に面倒臭い。そうルーファーはドルタスに歩み寄るアルファを見る。それからドルタスは“交差するベルトで左胸に固定した円いもの”から、光を放った。レーザーのように細い光だ。するとそれがアルファの体に照らされた瞬間から、アルファの全身は淡い光に包まれていた。瞬く間に、アルファの全身は透明になっていく。そしてアルファが完全に消えた直後、光は弾けてドルタスに降り注いだ。やがて左胸の円いものが青く光ると、ドルタスの体はアルファと同じような外皮、外殻、そして6本の尾状器官を持つ形態へと変化を遂げた。その様に、ルーファーは思わず立ち上がった。
第20話「シャーク&グズィール」
「うん・・・良いね。実験大成功だ」
「・・・おい、それ、ザ・デッドアイにも作れ」
「ああ、じゃあさ、これの設計図とレシピ、あげるよ」
「簡単に作れるのか?」
「大丈夫、簡単に作れるようなレシピを作るから」
腕を組み、唸るルーファー。その間にもドルタスは変化を解き、左胸からアルファを排出する。
「君達と同じように、僕にだって力を求める理由があるんだ。時間を持て余してここに居る訳じゃない」
「理由?」
「・・・倒さなきゃならない敵がいる」
眼差しを真っ直ぐ付き合わせるルーファーとドルタス。その訪れた静粛さに、ルーファーは小さく鼻息を吐き下ろした。言葉だけなら、同じような境遇。しかしドルタスの眼差しには、復讐心と共に、正義感が垣間見える。
「・・・ま、いいか。ならすぐにレシピを作れ。終わったらアルファ以外の奴ら、自由に使っていい」
「うん。どうも」
「ルーファーさん、アルファ以外、処分していいすか?」
「ん?」
「もう雑魚を作る必要が無いなら、そもそも要らないっすよね」
「折角作ったのに、勿体ないじゃん」
しかしそう口を挟んできたドルタスを、ベクルスはただ一瞥しただけだった。
「お前だってバージョン4より5の方が良いだろ。ルーファーさん、見たところ、あいつらがアーサーのようにならないとは断言出来ません。例え雑魚でも特攻部隊に取られるよりかは、早く処分した方がいいと思います」
「・・・それもそうだな」
「良くないよ。折角生まれたのに」
「あ?黙ってろ。これはザ・デッドアイの問題だ」
「そんな。可哀想だよ」
しかしドルタスの言葉を無視してベクルスは歩き出し、ドルタスは頼るような眼差しをルーファーに向けるも、ルーファーはドルタスの眼差しを分かっていて冷徹な顔で黙り込む。
「ルーファー、要らないなら、僕が助けても問題無いよね?」
「レシピはどうすんだ」
「バージョン4たちが居なくなったら取引も無いじゃないか」
ナンバー2にタメ口。そんな雰囲気にヨーガ達は内心で勝手に緊張する。しかしルーファーはただ小さく鼻息をフンッと吹かせると、ソファーにドスンと座った。
「・・・・・・勝手にしろ」
グズィールは独り、自分の縄張りを見渡していた。苔の生えた岩肌が所々で隆起した地形、生い茂る木々。適当に座り込み、尾状器官で地面をほじくって、脆くなっている木片を投げ飛ばしたり。それからグズィールは、空を見上げた。ベクルスに啖呵を切るアーサーを思い出していた。
初めて自我に目覚めた時、目の前にいたのはアーサーだった。まだ喋れない時の事。お互い、ただ“仲間かも知れない者”を感知していた。それからベクルスがやって来て、広間に連れられて、別の仲間かも知れない者と顔を合わせた。
「自分の持ち場を確認したら、随時警備に当たれ」
ベクルスは最初から威圧感が凄かった。アーサーやシャークがグルグルと喉を鳴らして反発しても、ベクルスには敵わなかった。脱皮して強さを自覚した後で再び刃向かってもやっぱり敵わず、それから皆は“大人しくなった”。その頃にはすでにナイトは姿を消していたが、代わりにメアが出てきたので頭数的には問題にはならなかった。
グズィールは全力で樹海を駆け抜ける。尾状器官を推進力にして。時折振り返ると背後にはベクルスの姿があり、直後にベクルスの尾状器官は容赦なく衝撃熱波を吐き出してくる。
「シャークっ」
「え?グズィール、どうした・・・」
木々を切り裂き、木片を吹き飛ばした青い光にシャークは目を留めた。言葉を失い、そしてすぐに理解したのだ。その青い光という殺気が、誰のものかという事を。
「ベクルス・・・」
「おーい」
シャークとグズィールは、ベクルスではない声に振り返る。それはベクルスも同じだった。
「・・・テメェ、邪魔する気か?・・・ドルタス」
「ルーファーも言ってた。バージョン4たちを助けに行ってもいいって」
「は?そんな訳あるか。・・・大方、勝手にしろとでも言ったんだろ」
「あ・・・そ、うん」
「クソ」
「ベクルス、バージョン4たちを傷付けたら、レシピをあげる取引が無くなるよ?いいの?」
「チッ・・・だからか。・・・ハァ、まいいか」
「え!?いいの?」
しかしドルタスの念押しに、ベクルスは笑みを返した。その狂気が最早答え。そうドルタスは表情を引き締める。
「マフィアのケジメは絶対だ。邪魔するなら、テメェもただじゃ済まねぇぞ。テメェこそいいのかよ。テメェの目的とやら、果たす前にテメェの命が無くなるぞ?」
「何でだよっ!」
怒鳴るグズィールに、「あ?」とベクルス。
「私、ここに残ったのに!」
「だから・・・最初、お前らは用心棒の為に作られた。だが今じゃ俺達の方が強い。だからお前らはもう必要無い。それだけだ」
「そんなの酷いよ。だったら、私もアーサーみたいに出ていく。私死にたくない」
「嫌なら力で抗え。それがここのルールだ。来いよ。この俺を倒せれば、全て自由だぞ?」
「シャーク、グズィール、僕も一緒に戦うよ。でもその前に他の仲間と合流しよう。みんなが集まればベクルスにだって勝てるよ」
「させるか」
付け根からボボボンと青い光を洩らしていき、そして青光の刀を吐き出すベクルスの尾状器官。
「グズィール、体借りるよ」
――コイツらは、一体何なんだ?。最初の自我がそうだった。だから喋れない時も、喋れるようになってからも、オレはコイツらを観察してきた。何故コイツらは威圧的なのか。何故コイツらは命令するのか。だからオレはコイツらに興味を持った。
青い光が彼方へと爆ぜていく。“グズィールの形態を体に憑依させた”ドルタスの衝撃熱波によって。舌打ちを鳴らし、ベクルスは尾状器官を振るう。しかし青光の刀は空を斬り地面は虚しく叩かれて、ベクルスはそこに飛び掛かってきたシャークに猛烈なビンタという反撃を食らう。再び鳴らされた舌打ち。それでも崩した体勢のままベクルスは尾状器官を振るい、青光の刀は2人を牽制する。
――オレたちが脱皮する頃には、コイツらはウパーディセーサになっていた。最初から居たナイトからデータを取り、オレたちよりも力をつけた。それはどうやらオレたちをより服従させ易くする為ではないようだ。なら何故力を求めるのか。ベクルスはもうオレたちは必要無いと言った。なら“今”、オレたちは何の為に存在している。
「だからオレも、まだ死にたくないんだ。アイツらが何なのか、オレは何なのか、知りたいからな」
シャークはそう言って、グズィールとメア、そしてドルタスを見渡す。きっとコイツらも、少なからず生きたい理由はあるはずだと。それからメアは苛立ちを目の前の岩壁にぶつけた。
「マフィアの野郎共・・・。このまま、まんまと消されてたまるかよ。仕方ねえ、おいナイト!」
薄暗い洞窟にメアの声が響き渡る。ドスンドスンとナイトの足音がシャークたちに近付いていく。
「俺たちも戦うしかなさそうだぜ?怒りをぶつけるチャンスだ」
グルグルと喉を鳴らすナイト。そんなナイトにメアは微笑んだ。メアには分かっていたからだ。そのグルグルは同意のグルグルだと。
「で?ベクルスは?」
「分からない。でも逃げたって事は他の奴らを連れてまたやって来るだろう」
それからシャークは洞窟を出た。いくらバージョン4が集まっても、ベクルスが仲間を連れてきたら勝ち目は薄くなる。空を見上げたシャークがふと思い出したのは、テリッテだった。しかしその時、シャークは足音に振り返った。
「この森から出た方が良さそうだね。そうすれば人間達が騒ぎ立てて、マフィアも追い掛けて来づらくなるはず」
「ドルタス、あんたは何で、オレたちに協力を?」
「そりゃあ、君達が可哀想だと思ったから、助けようと思って」
「何故、可哀想だから助けようと思った」
「え!?いやそれは、やっぱり君達だって、何の罪も無い、生きる資格のある命だから。勝手に作られたからって、勝手に殺されていいって訳じゃない。僕さ、そうやって理不尽に傷付けられた子達を沢山見てきたんだ」
「・・・理不尽。マフィアのアイツらが、オレたちにしてきた事は、理不尽なのか?」
「僕はそう思うけどね。今までは力の差があるから抵抗出来なかっただろうけど、でももし抵抗出来る力があるなら、理不尽には抵抗しなきゃだめだ。あ、これ、父さんの言葉だよ」
「あんたの言う通り、森を出た方が良さそうだ」
「・・・うん。じゃあみんな呼んで来るよ」
それからドルタスがグズィールたちを連れて洞窟を出てきた時、ドルタス達の前方にはマフィア達が居た。ベクルス、シカリダ、そしてバノ。3人が変身し、そこには威圧と殺気をぶつけてくる静寂が訪れる。
「ドルタス、お前はもう後戻り出来ないからな?覚悟しろ」
「別に後戻りするつもりないよ。僕はバージョン4たちに味方するって決めたから」
「まったく、これだからバカ野郎は面白ぇ」
「グズィール、体借りるよ?」
「うん」
グズィールは自分の体の感覚が薄れていくのを感じていく。やがて目線がドルタスの頭上に固定されると、その無重力感はまるで自分が自分自身の“魔力そのもの”になったかのよう。しかし完全に体の感覚が無くなった訳じゃない。それはまるで、1つの取っ手を2人で掴んでいるかのよう。――あっ。
ドルタスの尾状器官の動きが鈍り、その隙にドルタスはベクルスからの反撃を食らう。――ドルタスと気持ちを1つにしないと。何をしようとしているのか、予想して合わせるように・・・。
振り下ろされる青光の刀。そこに尾状器官を振り当てるドルタスに合わせて、尾状器官に魔力を集中させる。するとそこで感じたのは、まるで追い風に乗るような魔力の軽さだった。ドルタスの尾状器官から放たれた衝撃熱波に勢いよく跳ね返される青光の刀。同時にベクルスは舌打ちを鳴らす。――うん、今のは良い感じだった。
一方、シャークは衝撃熱波を圧縮した球を頭上に作り出し、シカリダに向けて飛ばしていく。シカリダはそれを俊敏にかわしていくが、地面に落ちたり何かに当たれば爆発するその球に警戒してそのまま距離を保っていく。しかしそれからだった。シャークがシカリダに脅威を感じたのは。警戒と観察、そして的確な反撃。やはりマフィアには敵わないのか。そうシャークは懐に飛び込んできたシカリダを必死に薙ぎ払う。――いや、それなら・・・。
まるで翼のように翼膜のある尾状器官で殴り掛かってくるシカリダ。するとシャークはそこで、体を回転させた。常に少し浮いているシャークには空気抵抗や重力など気にならない。4本の尾状器官全てから衝撃熱波を噴かしながら、自分の周囲全体に攻撃を繰り出したシャークを前に、シカリダはまた距離を取る。それから間髪入れず、複数の衝撃熱波球をばらまくシャーク。それらの爆発はシカリダに命中し、そしてシカリダは爆風で見えなくなる。――やったか?・・・。
しかし直後、シャークの視界はグルグルと回った。爆風の中から放たれてきた複数の衝撃熱波によって。
「(シャーク!)」
ドルタスの目の前まで飛ばされてきたシャーク。ドルタスとグズィールがシャークに目を留めたその時、ドルタスは振り向いた。青光の刀が、青い風圧を放っていた。――うわぁっ!・・・。
「(シャーク!)」
「ふう・・・ウゥ、問題無い」
フラフラと浮いているシャーク。その体は傷だらけで、今正に自己修復している最中だ。それはシカリダも同じのようで、ベクルスの下にシカリダがやって来た時、同時に2人の下にもっと傷付いたバノもやって来た。
「2人共、時間稼いでくれ」
「あ?お、おぉ・・・分かった」
刀のように反った角を生やしているバノ。するとバノは2人の背後に下がり、角に青い光を溜め始めた。何となくマズイ雰囲気、そうドルタスは素早く尾状器官から衝撃熱波を放っていく。しかしそれはベクルスの青光の刀に切り裂かれ、バノには届かない。やがてバノの角は頭上に青い光球を作り出し、更に青く輝いていく。毎秒、少しずつ大きくなっていくその恐怖はメア達にも衝撃熱波を撃ち放させた。それからドルタス達が撃ち、マフィア達が捌いていくという衝撃熱波の銃撃戦。しかし刻一刻と青い光球は大きくなり、やがてそれはバノ自身をすっぽりと覆うほどのものになった。誰がどう見ても、マズイ雰囲気。そしてバノは、足を踏ん張った。
「うおぉお」
振り返るベクルスとシカリダ。遂に来たか。――上等だ。
「ぉぉおおり――」
その時だった。ドルタスがそれに目を留めたのは。それは一瞬だった。そしてバノが渾身の一撃を放つより早く、バノ、ベクルス、シカリダは爆発に呑まれた。「ん?」と顔を見合わせるドルタス達。
「・・・バ、ノ。テ、メェ・・・」
「違えよ・・・オ、レじゃ、ない」
爆風が流れていき、それでも“ボロボロで済んだだけ”の3人が見えてくると、3人はキョロキョロしていた。ドルタス達に目もくれない3人を、ドルタス達がただ眺める、そんな時、ベクルスはそれに目を留めた。そして叫んだのだった。
「テメェかぁ!」
樹海に響く、ベクルスの声。全ての目が“彼女ら”に向けられる。言わばバージョン3であるヘルハウンド型デュープリケーターと、その背中に乗る少女型デュープリケーター。その彼女らを前に、それからナイトは呟いた。
「・・・・・・ホープ」




