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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「アーサー」後編

俺達は恐らく、全員孤独だ。初めて自我に目覚めた時から、バージョン4はマフィアに恐怖と躾を叩き込まれてきた。俺はあいつらを認めねぇ。だけど勝てない相手には従うしかない。性格上、アルファは従順に働くが、他の奴らだって内心じゃ反発してる。――そう、いつも何考えてるか分かんねぇ“こいつ”だって。

アーサーはふと、キョロキョロしてるグズィールに目を留めた。それは“守られて嬉しがってる訳でもなく”見るからに戸惑ってる様子。

「マフィアって悪い人達なんでしょ?あなただって嫌なら出ていっても良いんじゃないかな?」

対峙するアルファとグラシア。グラシアの問いにアルファは目を泳がせる。

「アルファは・・・別に、嫌だなんて思ってない。アルファは、命令して貰う事が嬉しいから。命令の邪魔をするなら、容赦しない」

それから2人は闘志をぶつけ合った。光の槍が尾状器官を弾き、衝撃熱波が彼方へ響く。間髪入れずに6本もの尾状器官が怒濤の攻撃を繰り出すものの、グラシアのその身のこなしは劣勢という言葉など少しも感じさせない。その傍ら、テリッテは頭から尻尾まで続くギザキザのヒレ、常に青い筋が浮き出て常に体が少し浮いているシャークと対峙していた。

「私、テリッテ。あなたは?」

「オレは、シャーク。あんたは、何のために戦うんだ?」

「何のって、強くならないと、優しくもなれないから」

「つまり、目的は優しさか」

「うん、そうだよ?」

「それは何故だ」

「え!?ん、うーん」

「何故優しさを求める」

「何故って、やっぱり、優しさが1番だからだよ」

「何故そう思う」

「だって、やっぱり優しくされた方が嬉しいでしょ?」

「オレには分からない。優しくされた事がない」

「なら、シャークも三国に来れば良いよ」

「それは無理だ」

「どうして?」

「マフィアには逆らえない。マフィアは、オレ達よりも強い。あんたらも敵わない」

「じゃあ、一緒に戦おうよ。こういうのを、助け合いって言うんだよ?」

「助け合い・・・」

一方、新兵達4人が対峙するメアは、笑っていた。声を上げてる訳ではない。ただ、明らかに笑みを浮かべていた。それから再びの爆ぜる衝撃熱波に、ロックエルとマスカットは吹き飛んで倒れ込む。

「グルゥ・・・体が鈍ってたから良い運動になるぜ」

話し合えば済む、そう思っていた。確かにリッショウのお陰で翼の力は高まってる。けど、相手がこんなに強いなんて・・・。そう、マスカットは立ち上がり、不安げな3人を見渡していく。同時にメアは左肩寄りに生える2本の尾状器官を靡かせ、アンバランスに大きい右腕を軽く回して見せる。

「4人も居てこの程度か?もっと動けるだろ」

「あなたは、グズィールとは違うの?」

マスカットは尋ねる。するとメアはグズィールをチラ見して、喉をグルグルと鳴らした。

「戦いたくないと思うかって?さあな、俺はただ“あいつ”に代わって世界を見てるだけだ。もし“あいつ”がそう望むなら、俺もそうする」

「あいつって?まさかマフィアの人?」

「いや?あいつは、ナイトはデュープリケーター。あいつは、いや、“俺はあいつ”だ。あいつが望めば俺もそうする」

「じゃあ、ナイトと話をさせてよ」

「・・・ダメだ」

「どうして?」

「あいつがどうするかは、あいつが決めることだからな」

マスカット達は顔を見合わせた。「ん?」という気持ちを分かち合っていた。

「じゃあナイトの所に連れてってよ」

「悪いな。俺はあいつを守る為に“出てきた”。マフィアにも、誰にも会わせない」

「・・・じゃ、じゃあ、あの、伝言とか――」

「テメェら!何チンタラしてやがる」

一瞬の静寂。アルファは手を止め、デュープリケーターたちは皆振り返った。グレーのスーツを着て顔の半分を赤いタトゥーで色付けた男、ベクルスに。

「・・・ベクルス」

呟くアルファ。それからベクルスはグズィールとアーサーを見た。

「ちょっと放っといてやりゃ敵に宥められやがって。マフィアの世界に役立たずは要らねえ。このまま腐ってるぐらいなら、出ていくか処分されるか、テメェで決めろ」

アーサーは頭に血が上ったのを自覚していた。役立たずは要らない、その言葉に、アーサーはただ拳を握っていた。そして真っ直ぐベクルスを睨み付けるそんなアーサーに、ベクルスはニヤついて見せた。

「デュープリケーターなんてすぐ補充出来るんだ。役に立たないなら消えて当然だろ・・・この失敗作共」

「・・・そんなこと言うなんてひどいよ!」

今にも怒りが爆発しそうだった。しかしアーサーよりも先に声を上げたのはグラシアだった。「あ?」とベクルスはグラシアに顔を向け、そのニヤつきに殺気を宿す。

「デュープリケーターたちにも、ちゃんと、個性があるのに」

「役に立たなきゃ意味がねえ。それがマフィアだ」

「デュープリケーターたちは、マフィアじゃないでしょ?」

「しょうもねえトンチとか言ってんじゃねえよ。俺らが作ってやったんだ。デュープリケーターはザ・デッドアイの所有する生物兵器なんだよ。個性がなんだバカ野郎」

「黙れぇ!」

その言葉と同時に振り払われる衝撃熱波。その小さく地面を鳴らした青い光は、まるでアーサーの怒りが現れたよう。しかし再び、ただ「あ?」と、ベクルスはアーサーを見る。

「上等だこの野郎!そもそも何の為に生きてるか分かんねぇのに!役に立たないだけで認めねぇのか!ふざけんなよ、ああもういいよ分かったよ、上等だ。お前らマフィアがそう来るなら、俺だってお前らをぶっ潰してやる!言っとくけどな!俺は元々、お前らマフィアを、認めてねぇからな!」

「ほう?威勢が良いな。ハハ、俺はそういうバカ野郎、嫌いじゃねぇ。そのバカに敬意を払って、俺がテメェを殺してやる」

直後にグレーのスーツは青い光に覆われた。人間としての体格は変わらないが、全身を覆う、鎧のように頑丈そうな刺々しい毛皮はまるで別の動物かのよう。そしてデュープリケーターたちのものとはまるで違う、1本のバカ太い尾状器官とその先端に牙が生えた形状はまるでもう1体の別の動物かのよう。それから雄叫びを上げて走り出したアーサー。直後に青々とした火を吹いたのは、ベクルスの尾状器官だった。その青い火を思いっきり振り払い、散り広がる“青”を突き抜けてアーサーは尾状器官を振るう。しかしベクルスは1歩も退かずに尾状器官を巧みに操り、そこには青と青とが火花のようにぶつかり弾け合う衝撃音がドカンと轟く。殺気と怒りと、殺気と微笑。その一瞬、2人の眼差しは真っ直ぐ重なり合っていた。

「その程度か?アーサー」

「この野郎・・・」

まるで意思があるようにしなやかに、ベクルスの尾状器官はアーサーを叩き飛ばし、火を吹いた。風圧に押さえ付けられたその一瞬、アーサーはただ顔を背ける。しかしその時だった、グラシアの背中がアーサーの目の前に飛び込んできたのは。

「アーサーは尻尾をお願い」

「あんた・・・何仕切ってんだ・・・」

「2人の方が良いでしょ?今はここから逃げるのが先!文句はそれからっ」

「・・・ふん」

カツカツと、歯を噛み鳴らすベクルスの尾状器官。目は無いがその鼻先はアーサーを“視る”。同時にベクルスはグラシアを見つめ、微笑を深めた。

「これで2対2だとか息巻いてる雰囲気だが、甘く見るなよ?」

短い尾状器官を吹かしてアーサーが飛び出し、手のような尾状器官を青く光らせる。しかしベクルスは動かない。柔軟に伸縮してベクルスの尾状器官がアーサーに噛み付いていったからだ。ベクルスの眼差しはグラシアに向けられていて、グラシアは翼を靡かせて飛び出し、そして光の槍を振り上げた。ボンッと空気を震わす光の風圧。

「くっ・・・」

よろめき後ずさるベクルス。その眼差しはグラシアと、体を押さえ付ける風圧に対しての怒りに染まる。そこにグラシアの追撃。再び光は空気を震わし、その衝撃はベクルスの胸元から“砕けた体毛”を舞い上がらせた。体をくねらせ、倒れる事は回避したもののその大きな隙を生んだベクルスに2人は気持ちを逸らせる。しかしそんな2人を、ベクルスの尾状器官は素早く牽制した。柔軟に伸縮し、口を開き、鼻先の周囲に複数の青い光球を出現させ、一斉に光線を放つ。そんな攻撃に、アーサーは眼差しを鋭くさせた。――ただの尻尾じゃねぇ・・・。

「2人居るからって甘く見るなって」

その時だった。どこからかの“白い光線”がベクルスの尾状器官を弾いたのは。ベクルスは「あ?」と眼差しを向ける。

「(なら4対2ならどうかな)」

グラシアとアーサーは振り返る。珍しく地に立ってプリマベーラを構えるルアと、ヘルに。するとベクルスは舌打ちを鳴らした。

「アルファ!犬と女をぶっ潰せ」

「うん」

2本の尾状器官を吹かして飛び上がったアルファ。直後に滞空しながら4本の尾状器官から一斉に衝撃熱波を撃ち放つ。その衝撃は地面を揺らしたがアルファは分かっていた。両者は素早くその場から飛び上がったのを。

「アーサー、そろそろ撤退に集中だよ?」

「何でだよ。あんたとなら、ベクルスを殺れるかも知れねぇだろ」

「あ?寝言をほざくな」

「私はアーサー達を助けたいの。ここを出て自由になれればそれで良いでしょ?ベクルスだって言ったじゃん。ここから出ていくか自由にしていいって」

「どんだけお人好しなんだよテメェ。俺ぁそんな優しく言った覚えはねぇ。出ていくと決めたとしても、そんな奴らはそいつらを作ったマフィアのケジメとして処分する」

グラシアはむっとする。しかしその一瞬の態度など、ベクルスは気にも留めない。

「ったく、マフィアを知らねぇバカ野郎はこれだから面倒臭ぇ」

「なら尚更、アーサー達を助ける為に頑張るんだから」

「それは本当に、テメェのエゴじゃないって言えるのか?」

ふとした殺気の落ち着きとベクルスの冷静な問いに、グラシアは目を丸くする。

「どういう事?」

グラシアがそう応えると、ベクルスはグズィールを見た。

「グズィール、どうすんだ?助けて貰いたいのか?ここから出たって、世の中はデュープリケーターなんて認めねぇ。ちょっとでも何かすりゃ、今度は政府がテメェを殺しにかかるぞ。それでも、独りになりてぇのか?」

「グズィール、大丈夫だよ?私達がついてる」

「・・・私・・・死にたくない。独りにもなりたくない」

そう言って、グズィールはアーサーを見た。一瞬、妙な沈黙がその場を包む。

「私、縄張りに戻る」

「・・・グズィール」

寂しそうな背中だという事は分かっていた。しかしグラシアは、グズィールをただ見ている事しか出来なかった。トボトボと去っていくグズィール。それから、ベクルスはフンッと鼻で笑った。その眼差しは、グラシアに対しての優越感を見せていた。

「まさか助けを求めてない奴の気持ちを無視する訳ねぇよな?ハッ」

再び、グラシアはむっとする。

「で?アーサー。ここを出て、どうすんだ?」

「あ?言っとくが俺は俺だ。俺はここを出る。俺に構うな」

緊張感。ベクルスの尾状器官はアーサーに向いていて、いつでも飛び掛からんばかりの殺気を見せる。しかしベクルスは妙に落ち着いていて、それからベクルスは溜め息を吐いた。

「・・・・・・勝手にしろ」

「シャークも、一緒に行こうよ」

テリッテの声に、ベクルスは顔を向ける。しかしシャークはベクルスの顔を伺うような素振りは見せず、ただ空を見上げた。

「マフィアに逆らえると思ってんのか?テメェ」

「・・・オレは、マフィアなんか怖れてない」

「ほう?」

「けど、今は・・・ここに残る」

そう言ってようやくシャークはテリッテを見た。無表情のシャークに、テリッテは言葉に詰まっていた。

「悪いな」

「・・・そっか」

「ならこいつらをぶっ潰せ」

「オレは、お前達マフィアに興味があるからここに居るんだ。従う為に居る訳じゃない」

舌打ちを鳴らすベクルス。その眼差しは若干の焦りを宿しながら、次にメアに向いた。

「おいメア。テメェは、アーサー側か?アルファ側か?」

「はあ?誰でもねえよ。俺はあいつだ。あいつがここに居るから、俺もここに居る」

今まで、ロクに話をして来なかったから分からなかった。いや、その必要は無かった。何故ならザ・デッドアイの子分として働けばそれでいいから。しかしそこで、ベクルスは初めてデュープリケーターたちの個性を実感した。アルファ以外のこいつらは、今までただ“反発する気が無かっただけ”なのだと。そして何故、今反発する気が起きたのか。――アーサーに影響されたか?面倒臭え。

「クソ。もういいよ。シャークとメアは戻れ。アルファ、こいつらとアーサーを潰せ」

「うん」

「アーサー、逃げるよ」

「逃がすな!」

アルファが飛び出すと尾状器官から噴き出す衝撃波は土埃を巻き起こし、アルファがグラシア達の周りをそのまま大きくカーブしていくと土埃も尾を引いてグラシア達を牽制していく。そこで、ベクルスの尾状器官は火を吹いた。といってもそれはグラシア達に対してではなかった。鱗という鱗から洩れていく青い光。尾状器官の付け根から一気に伝っていったそれは口先に到達すると瞬時に青い刀身となり、そしてベクルスの尾状器官は“青光の刀”を吐き出したのだった。常に青光が洩れるベクルスの尾状器官が一度振り出されると、青光の刀は青い風圧を噴かしてグラシアを襲った。負けじと光の槍が振り払われて、“青”と“白”がドカンと衝突する。

それから、アーサーは振り返った。今もグズィールが残っている、クランの樹海に。ふとグズィールの背中を思い出していた。

「まぁ1体だけでも味方に付けられたなら上出来だ。この調子で次も頼むよ」

「はい」

「別に、俺はまだ、味方になると決めた訳じゃねぇ」

デュープリケーターのその一言にノイルは表情を強張らせ、TSA隊員達も静かに武器を握る手に力が入る。その緊張感は少し離れたマスコミにも伝染していくがその時、アーサーが目を留めたのは、グラシアの笑顔だった。

「でも来てくれてありがとね」

「マフィアの野郎共を潰す戦力として不足は無いって思っただけだ。あいつらを潰した後は、どうするか分かんねぇぞ」

アーサーは内心で溜め息を吐き下ろした。それでも笑顔を崩さないグラシアを前に。

「大丈夫、これからグズィールやシャーク達だって説得するから、アーサー独りじゃないよ」

樹海の中の特に涼しいエリア、そこに点在する洞窟の1つに、メアは“帰った”。明かりは観光客用に付けられた簡易なものだけ。そんな薄暗い中、メアはナイトの近くに座り込む。

「アーサーが樹海を出た。特攻部隊側に行ってザ・デッドアイを潰すんだとさ」

ナイトは喉を鳴らす。その感じはただの相槌。

「大抵の場合、バランスが崩れりゃ、このままって訳にはいかないからな。ああまあでも、ザ・デッドアイがまたデュープリケーターでも作りゃ話は別なんだろうけど」

ナイトは喉を鳴らす。静寂に包まれた、静かな相槌。だからといってメアはそんなナイトに特に何も言わない。何故なら、“メアはナイト”だから。

一方、樹海の中に建つ、今はもう廃業したペンション。当時は観光エリアの外れにあったものの、そんな非現実感が逆に一部の人達に好評だったが、今では観光エリアから除外されている事もあってかマフィアの巣窟と化している。そんなブラッジェルのアジトで、ドルタスは大きく伸びをした。作りたいものが完成し、一息ついたのだ。それからドルタスは作業部屋を出た。

「ルーファーさん。アーサーの後釜作りますか?」

ソファーに座るルーファーは腕を組み、唸った。ザ・デッドアイのオリジナルメンバーのナンバー2であり、所謂マフィア達をまとめる“司令官”が放つ静かなる威厳に、ベクルスやヨーガ達はただ黙って返答を待つ。

「・・・いや、必要無い。今じゃもうデュープリケーターより“我々の方が強い”んだ。国が攻めて来ても我々だけで対処出来るくらいだ。だから敢えて“雑魚”を作ることも無い」

「例えニルヴァーナを潰す為だけにしても、駒は多いに越した事はないんじゃないすか?」

「戦争映画みたいに、大軍で攻めて国を落とすような格好、俺はあんまり好きじゃないんだがな。群れなきゃ勝てない事をアピールしてるみたいだろ。だからその為に強いデュープリケーターを作って、それから“そいつらを基にしたウパーディセーサ”で自分達を進化させてんだから」

「ヨーガ、ちょっといいかな?」

“ルーファーを取り巻く空気”の外からの呼び掛けに、1人席を立つヨーガ。振り返る事はないが、それでもマフィアでもない異世界人の存在に気だけは向かせるルーファー。

「デュープリケーター、1人借りていいかな?だめなら新しく僕の使いとしてのデュープリケーターを作ってくれてもいいけど」

「え?何に使う気だよ」

「作りたいものが完成したんだよ。後必要なのは、君達が作ってるデュープリケーターという“力”なんだ。因みにそれが手に入れば、僕はもうここを出ていくつもりだよ」

読んで頂きありがとうございました。

グラシアの後輩であるハルクという天使、リッショウという魔法に関して、気になる方は「エネルゲイア×ディビエイト」をご参照お願いします。

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