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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「毒の花」後編

ニルヴァーナのエントランスパーク。ルアはココアを啜った。その眼差しはテレビに向けられていて、テレビでは情報番組のスタジオにて「ブラッジェル」についてのトークが繰り広げられていた。情報をまとめられたボードを前に喋るアナウンサー。

「ブラッジェルというのはそもそも、クランの樹海で生息する毒の花の名前ですよね。別名は血彩花(けっさいか)。外敵に触れられると葉脈から神経毒を汗のように滲ませて身を守る花で、花びらから煮出した毒の致死量は花一輪で成人の3人分だとして、国から『特定有害植物』に認定されています。一方、マフィアの勢力図に詳しい専門家の話ですと、マフィアのブラッジェルの名前の由来は、正に花のブラッジェルのように周りを敵に回す攻撃性から来ているとの事です。ザ・デッドアイから独立したという新勢力に関しては、どうにか自分達を存続させる為に、今現在マフィア間を点々としているのではないかとの見解を示しています」

「まぁそもそもマフィアなんでアレだけど、じゃあセンバドールは被害者だったって事なのかなぁ」

「続いてはこちらですね。特攻部隊敗北、という事で、今現在クラン湖東側、クランの樹海では戦闘は行われていないものの規制は続いてまして――」

再びルアがココアを啜った時、その眼差しはふとヘルに向けられた。丸まってスヤスヤと眠るヘル。お父さんの言ってた通り、傷もダメージも治りは早い。けど、負けは負け。そしてこれからも勝てる気がしないという恐怖。1対1では分からないけど、ヘルはあのデュープリケーターからは別のデュープリケーターの臭いがまだ幾つかあったって言ってた。

「ルア」

コーヒー片手に、ユピテルがルアの隣に腰を落とした。ユピテルはいつものように、優しい目をしていた。

「元気無いね、大丈夫かい?」

「身を守るので精一杯で、全然だめだった。デュープリケーターは見張りだからあっちから攻めてくる事は無いと思うけど。でもずっとこのままじゃ、アンシュカさんも困っちゃうし」

「うん。でも話が通じる相手なら、勝ち負けが全てじゃなくなる。そういう時は、無理に戦わない方が良い」

「え、でも、このままじゃだめでしょ?」

「禁界の住人はね、禁界の外の人達から『純真主義者(ピュアリスト)』って呼ばれてるんだ。だから翼の力にもっと慣れる為にも、純真な人の戦い方を学ぶ為にも、グラシアくんに協力を頼んだらどうかな?」

「純真な人の、戦い方?・・・」

それからルアは、ヘルに跨がった。そしてヘルと共に翼を解放すると、ルアはロータリーまで見送りに来たユピテルを見下ろした。

「行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい」

ヘルは地面を蹴った。しかし重力に反して、そのままヘルとルアは上昇し続けていく。ユピテルは科学者として、ただ微笑んでいた。そしてエントランスパークに戻り、微笑みながらもやっぱり首を傾げたのだった。

手綱を握り締め、ルアは空に漂う雲を捉える。重力なんて忘れるほどただ風を感じ、螺旋を描いて空を駆け上がっていよいよ雲を目の前にした瞬間、ルアとヘルの頭の中にはふと“自動車型タイムマシンでタイムトラベルする映画”のBGMが流れ出した。

「(いやっほー!)」

雲の中で、バチバチと静電気が鳴く。視界は“白と雷光”に支配されたが直後、まるで“本当に時間でも飛んできたかのように”ルアとヘルは一瞬の内に雲を駆け抜けた。相も変わらず青空の下。しかしルアとヘルはすでに違和感を認識していた。翼の力を持つ者同士は、気配で分かる。それを言葉で理解する前に、“地面いっぱいに広がる翼の力”をルアとヘルは感じていたのだ。そしてまた、螺旋を大きく描いて降下していく。地面に降り立つ前から、ルアは手を振った。地面から笑顔で手を振る、禁界の住人達に。

「(はい到着ぅー)」

「こんにちはぁ」

雲を抜ける時の静電気で妙にムズムズする。そうルアがヘルを降りた直後、ヘルは全身をブルブルさせる。

「よく来たねぇ、ラフーナ食べるかい?」

「はい、ありがとうございます」

露店を開く人の良さそうなおばさんから、ルアはラフーナを受け取る。普通、三国の住人からすれば、“人間はこっちから会いに行くもの”。しかしルアは“あっちから会いに来た人間”。ちょっとした有名人。しかし過去1回だけ“あっちから会いに来た人間”にもまるで親戚のようにお店の果物を渡してくるおばさんに、ルアは笑顔を溢す。膝で突いてヒビを入れ、そこから引き裂いて半分に割ると、ルアは半分のラフーナをヘルの口に入れる。

「ルア、ヘル、いらっしゃい」

ルアは振り返る。そしてヘルが小さく尻尾を振る中、ルアはモグモグしながらまた心が温まった。それは普通に、待ち合わせはしてないけど友達が会いに来たような高揚だ。

「アリシアさんこんにちは」

「こんにちは。今日はどうしたの?」

「グラシアさんに会いに来たの」

「そうなんだぁ。せっかく来たんだし、もし時間あるなら一緒に“慰労会”見に行かない?」

「慰労会?」

「(何を労うの?)」

「んー、みんな、だよ?」

「(みんな?)」

「国の為に働いてくれてる兵士とか、レストランやバーで働いてくれてるシェフやウェイターにウェイトレス、それから農業を担当しているみんなとか。とにかく、みんながお互いにいつもお疲れ様の気持ちを込めるの」

「(へー、すごいね。それってどれくらいの間隔でやるの?)」

「キッチリ決まってる訳じゃないの。栽培してる野菜たちが余るようになってきたら、それを一気に消費する為に催すから。今はちょうど慰労会の最中で、畑の近くの大通りのそこらじゅうで野菜を焼いたりしてるんだよ?」

「(へー野菜食べ放題なら、行きたいな)」

やがて、香ばしい匂いが優しく鼻をくすぐってきた。まるで神社に初詣で来たかのような賑やかさ。シンプルに網焼き、葉っぱで包んだ蒸し焼き、野菜スープ、野菜料理のオンパレードだ。小腹が空いたらいつでも、無くなるまで食べ放題、そんな中で、ルアは屋台のおじさんから野菜スープを受け取った。おじさんの笑顔は、本当に商売っ気の無い、心に余裕のあるものだった。縁日というよりボランティアの炊き出し。そう野菜スープを啜りながら、ルアはふと思い出した。純真な人の戦い方という、ユピテルの言葉を。

それからそこに、兵士達がやって来た。といっても厳かな行進や大名行列などではなく、まるで団体客がふらっと来たかのよう。いつもは兵士の宿舎に隣接するバーで兵士達は食事するが、慰労会の最中ではシェフやウェイター、ウェイトレス達を休ませる為にもなるべく慰労会でお腹を満たす、とアリシアが微笑む。

「(でも店番のヒト達は休めないんじゃないのかな)」

「大丈夫だよ、代わりばんこだもん」

そうアリシアは微笑み、野菜を一口。

ルアはふと目を留める。翼の力は“気配が分かるだけ”で“誰かは分からない”。だからルアはとっさに歩き出した。人混みの向こうで見えたグラシアに向かって。

「グラシアさん」

「あれルア!?来てたんだ、どうかしたの?浮かない顔だね」

「はい、あの――」

それからデュープリケーターの事、ユピテルの提案をルアから聞いて、グラシアは優しく微笑んだ。

「ルアは優しいね」

「え?」

「デュープリケーターにトドメを刺さなかったのは、きっと心の底じゃそう望んでたからだと思うな」

「そう、なのかな」

「先ずは、翼の力を高める事から始めよっか。ルアの鎧はまだ完璧じゃないもんね。それが済んだら、次は私も行くからね」

優しい気持ち。ルアはただそれを感じ、無意識に笑顔を浮かべていた。

「ありがとうございます」

クランの樹海。鳥顔のデュープリケーターは湖を眺めていた。そこに、四足歩行で熊型のデュープリケーターがやって来る。

「アーサー、何で逃がしたんだよ。あれくらいじゃやろうと思えば動けたろうに」

アーサーは鼻で笑った。特攻部隊の女に射たれた光の矢。その痛みを噛み締めていた。

「特攻部隊だぞ?暇潰しを潰してどうすんだよ」

「また来るのかな」

「人間じゃないっぽい女が、ドルタスの事言ってたしな。ここには用があんだ。来るだろ」

「また来たら、私もやりたい」

「じゃあお前は犬の方な」

「・・・・・・何だよっ」

「どわっ」

バシャーンと盛大な水飛沫。巨体が湖に落ちたのを、グズィールはただ見下ろしていた。再び盛大な水飛沫。尾状器官を使ってアーサーが飛び出してきたのだ。ビショビショのアーサーは全身を震わせる。

「何すんだよ、ったくよぉ」

鼻息をフンッと吹かし、グズィールは去っていく。そんな背中をアーサーは面倒臭そうに眺めていた。――ほんと、よく分かんねぇ奴だよ。ああ寒ぃ。

それからふとアジトに戻った時、アーサーはドルタスに目を留めた。そう言えば、何も言ってなかった。そして何やら機械をいじくっているドルタスに、アーサーは何気なく近付いた。

「特攻部隊が来た時、あんたに用があるって女が来たぞ。あんたの女か?」

「いや。ただの同僚だよ。何か言ってた?」

「いや特に。ただ必死そうだったってだけで」

「・・・そっか」

「何作ってんだ?役に立つものなのか?」

「うーん、どうかな」

「ハッ何だよそれ」

「すごく役に立つものとして希望は持ってるけど、これでだめだったら、希望が無くなる」

「ふーん」

ただの同居人、マフィアでもない男にそこまで興味も無く、アーサーはドルタスに背を向けていく。それからまたTSAやらマスコミが遊び半分でやって来るのを軽くあしらったりして数日後、その時アーサーは縄張りの境界に立っていた。つい先程見たニュース。再び特攻部隊がやって来る。そう、アーサーは待ち構えていたのだ。そしてアーサーは目を留めた。犬の背に乗った女を。

「よぉ、あんたらも大変だな、いちいちニュースで騒がれてよ」

「私、グラシアっていうの。あなたは?」

「あ?・・・あんた、特攻部隊じゃねぇな。あんたも戦うのか?」

「私達、今日はあなたと話をしに来たの」

面倒臭そうな溜め息。そんなアーサーの“人間らしい”仕草を、ルアはただ見つめる。

「・・・やだね。俺は暇潰しがしたいんだ。話がしたいなら、先ずは俺と対等に戦える力がある事を証明しろ」

「そっか・・・分かった」

「ま、期待はしねぇけど。ああ名前か?ハッ、覚えとけ、俺の名は、アーサーだ」

「翼解放」

ルアはヘルから降りて、光と共に鎧を纏って翼を生やしたグラシアの背中を見つめる。それからグラシアは右手に剣、左手に菱形の盾を持った。それは翼の力で作り出したもの。ルアはふと、三国での事を思い出した。そこは慰労会の片隅での事。

「翼を解放しないまま、翼の力を引き上げていく瞑想はね、兵士の基本なの」

ルアはヘルと顔を見合わせ、目を瞑る。翼の力。それは体の中の奥底に、常に“何かある”という感覚。精霊の力とはまた別の、“体の一部”という感覚。

「(わぁ、結構力が溢れてる)」

「うん、良いね。そこで翼を解放して」

「翼解放

 (翼解放)」

ルアは自分の体、ヘルの体を見回す。首から下の全身が、鎧に包まれていた。今までは所々でしかなかったのに。そして同時に感じていた。これまで以上に強く安定している力と、それがもたらす高揚と自信を。

菱形の盾から放たれる眩い光。アーサーは大きく後ずさる。しかしその表情は笑っていた。

「その力、それに翼に鎧、あんたも禁界に適応してんのか」

「適応っていうか、そこで生まれ育ったの」

「ほう――」

アーサーの全身から青い光の筋が浮かび上がる。

「良いねぇ。負かす甲斐があるってもんだ」

「嘗めないでよね。これでも私、隊長なんだから」

ルアとヘルは目をパチクリさせた。品のある落ち着き、それはまるで本物の天使のよう。それがグラシアの印象だった。しかしいざ戦いになった時のその“剣を振るう迷いの無さ”に、意外性を感じずにはいられなかったのだ。青い衝撃熱波を盾から放った眩い光で吹き飛ばし、光を纏った剣で尾状器官を弾き、飛び上がり蹴りを入れ、振り下ろした剣から放つ眩い光で追い打ちをかける。その敵に対しての非情さと、品のある笑顔とを、ルアはふと脳裏に重ねていた。再び放たれる眩い光。しかしその中を突き抜けてきた拳に、グラシアは転がった。

「手加減しやがって・・・ふぅ」

「・・・それは・・・あなたもじゃない?」

「だって、殺しちまったら潰す暇が無くなるだろ。あんたが手加減出来るのは、俺が手加減してやってるからだ」

しかし直後、アーサーはその威勢を落ち着かせた。なんせ目の前の遊び相手はまだピンピンしていて、しかもその強気な眼差しには余裕が見えていたから。

「私は手加減してる訳じゃない。本気を出してないだけ。言ったでしょ?私は話をしに来たの」

「まだ遊び足んねぇな。さっさと本気出せよ。その全力、俺が負かしてやる」

また少し、眼差しが強くなる。そんなグラシアを前にアーサーは拳を握り締める。するとグラシアは盾を持つ手と、剣を持つ手を重ね合わせた。その瞬間、盾は剣先と柄先の上下へと分離し、盾と同化しながら上下に伸びた剣は“槍の形を成した光”となった。その一瞬で、ルアとヘルの脳裏にとある記憶が甦る。それはセンバドールのホテルでの戦闘で見た、光の槍の記憶。光そのものを握り締めるグラシアのその姿は正にこの世のものではない神秘さがある。そう、アーサーはカシャカシャと尾状器官を震わせた。一瞬の静寂。直後アーサーが飛び出してそして――。

「はあっ!」

光の槍が振り回された。同時に光の風圧がアーサーを襲うとその巨体は激しく靡き、押し退けられた。

「チッ」

しかしそれでも尾状器官は衝撃波を吹かし、巨体を飛び上がらせた。光を抜けた先で、敵意と高揚の眼差しと、凛とした闘志の眼差しとがぶつかる。それから光の槍は尾状器官や拳を尽く弾いていく。あしらわれていると言えばそうなのだが、アーサーは怒りよりも“楽しさ”を感じていた。鈍っていた体が悦ぶ。そうアーサーはグラシアに殴りかかる。反撃されて後ずさるとそれからアーサーは尾状器官の手に目一杯の力を込めた。尾状器官の手が青く輝く。

「どおらっ!」

空気が震える、ドカンという鈍い音。周囲に逃がされた風圧が草木を揺らす。その渾身の一撃は振り当てられた光の槍に勝り、そしてアーサーは荒い息と共に笑ってみせた。

「グラシアさん大丈夫?」

「うん・・・ふぅ」

盛大に転がったのに立ち上がったグラシアを前に、アーサーはカシャカシャと尾状器官を震わせる。

「そろそろ、私の事認めてくれない?」

「あ?・・・・・・認める?」

グラシアは内心で首を傾げた。その一瞬、アーサーの威勢が凪いだその態度に。

「・・・俺は、俺以外のものを認めねぇ」

「それは、どうして?」

グラシアは目を留めた。その一瞬の、アーサーの眼差しの揺らぎに。

「・・・デュープリケーターなんてもの、誰も認めねぇから。俺達はみんな、ただの道具だ。戦う為だけに作られた。だから俺は、デュープリケーターを認めねぇ奴らを全て負かして、俺が否定仕返してやる」

「私は、あなたの強さ、認めるよ?」

「強いだけのものに、意味なんかねぇよ」

「ねぇ、その――」

突然の衝撃熱波。グラシアはアーサーのではないそれをとっさに切り裂いた。するとアーサーは振り返り、グラシアとルア達は各々息を飲んだ。姿を現したグズィール、並びにその他3体のデュープリケーターたちを前に。

「ルア、一旦、戻ろっか」

「え・・・」

グズィールは声を上げるより早く、口から青い衝撃熱波を吐き出した。それをグラシアが受け流してそれから――。

「私の相手はしてくれないのか?」

「・・・ま、また来るからね?」

クランの樹海手前。そうデュープリケーターに応えて逃げ帰ってきた事を頭に巡らすグラシア。落胆するノイルやTSA隊員達、その周りのマスコミの騒ぎようなど耳には入らない。樹海を見つめながらグラシアはただ、アーサーの眼差しと言葉から伺えた“寂しさ”を思い出していた。

読んで頂きありがとうございました。

翼の力が鍵になる今回。偶然にも翼の力に出会ったルアとヘルは、やっぱり主人公属性とやらですね。

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