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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「毒の花」中編

とあるテレビクルー達とTSAは対峙した。やる気に満ち、怖いもの見たさなテレビクルー達と、そんな無駄に勇敢なジャーナリズムに“うんざり”なTSA隊員達。

「護衛はするが、それ以上の責任は追わないからな?どうせ結果は見えてるんだ」

1人のTSA隊員の言葉。しかしそれでも“そこに初めてやって来た”そのテレビクルー達はやる気を納めない。それどころか、むしろ逆に火が点いたかのように余裕を見せつけるテレビクルーの男。するとその男はおもむろにポケットから1つのインスタントカメラを取り出して見せた。

「対策くらい考えてる」

ライフルを持つTSA隊員と、ウパーディセーサなので武器を持たないTSA隊員の2人に先導され、いよいよ樹海の中の“例の境界線”に足を踏み入れるテレビクルー達。

季節は初夏。これからまだ暑くなるのだが、湖のすぐ側にあるその樹海では湖からの風により常にちょうど良く冷やされ、真夏でもそこまで気温は上がらない。なので特に夏では避暑地として利用されるが、今はその面影はまるで無い。テレビクルーが立ち入るにも、武装したTSAに付き添って貰わなければ足を踏み入れる事さえ叶わないというのが今の現実。

それから数分も経たない内に、カメラマンは声を上げた。

「くそっ・・・マジかよ」

足を止める一行。その眼差しは最新式テレビカメラを必死に触りまくるカメラマンの男に向けられる。

「やっぱ駄目か。しかし何だな、デジタル機器が使い物にならなくなる樹海。しかもそこはデュープリケーターの巣窟。マスコミの人間なら絶対行かなきゃならない場所だっつうのに、デジタル機器がそれじゃ、仕事にならない」

「だから言っただろ。戻るぞ」

「もうちょっと待ってくれよ。インスタントカメラがあるんだ。まだ希望はあんだよ」

「いやダメだ、ここからなんだよ、“奴ら”の縄張りがな。インスタントカメラの前にお前らの命が使い物にならなくなるぞ?」

そう言ってライフルを持つTSA隊員が遠くを見つめると、テレビクルーの男も同じように樹海を見渡す。しかし縄張りの境目なんてものは全く見てとれず、1つ見えるとするなら誰かによって木に巻かれた赤い布切れだけ。そう男はその樹海に対し、途端に小さな恐怖を抱いた。

「まさか・・・デュープリケーター?ハッむしろ歓迎だ、バッチリ撮ってやる」

「・・・バカかよ」

「バカじゃねぇ、これが、仕事なんだよ」

そう言って、テレビクルーの男が前に進んだ直後だった。どんな動物だとも言い様のない、怪物の呻き声。太く、重く悪寒を引きずる警戒と敵意の声。血の気は引く、しかしそれでも、男はインスタントカメラを構えた。草を掻き分けるようなザザッという音を引き連れる足音。それはまるで爪が石ころにでも当たるかのような硬さの感じるものだ。小さく、インスタントカメラが鳴る。

「あんたらも、死にに来たのか?」

「いや違う」

普通に、デュープリケーターとTSA隊員が会話している。そうテレビクルーの3人は一様に目を見開いた。まるでテロリストと対峙するように表情の引き締まったTSA隊員。しかし銃口は向けず、その態度は正に“知能の高い敵”を刺激しないようにしているもの。

「それ以上近付くなら命は無い」

再び小さく、インスタントカメラが鳴る。男の眼差しはギラついていた。そして無意識に、足を踏み出したのだった。一瞬だった。TSA隊員がテレビクルーの男に目を向ける事しか出来なかったその僅かな瞬間、もうすでに、衝撃波は撃ち放たれていた。轟音と共に宙を舞う土埃、草や小枝、そしてテレビクルーの男とインスタントカメラ。

「おいっ!」

あれから1週間が経った。観光名所としてそこそこ人気のあるクラン湖と、そこに沿ったクランの樹海。小さな禁界があるのは分かってる。ドルタスはきっとそこに居るはず。しかし今やそこに捜しに行く事はとても困難。何故なら最近になって、湖の東側から樹海にかけて、TSAが規制線を敷き始めたから。その時、アンシュカはクラン湖西側のキャンプ場に居た。晴れ渡る青空の下、アンシュカは東側である小さな向こう岸を眺める。左手にはお皿、右手にはフォーク、そして何となく哀愁の漂う背中。

「アンシュカさーん、お肉焼けたよー」

「はーい」

澄んだ空気と人々の楽しそうな笑い声。東と西とじゃ随分と雰囲気が違う。一方は楽しいガヤガヤ、もう一方は厳かな規制。そうアンシュカはお肉を頬張った。その傍らでヘルは大きく口を開け、ルアは焼かれたお肉をヘルの舌の上に乗せる。

「(いいねー、最高だねー、お肉だねー)」

「そりゃお肉よ、お肉なんだから」

レイカに注がれる、子供達の羨望の目。レイカはお肉を食べながらも、ちらちらと周りの客を気にかける。

「ん?な、なぁ、2人共、見てくれ」

そんな時、そう言ってヘリオスはウッドテーブルに乗せていたパソコンをクルッと回した。ルア達はふとパソコンのディスプレイに目を向ける。パソコンにはニュースが映っていて、アナウンサーはクラン湖の事を喋っていた。

「現在でもその記者は意識を回復する事なく、集中治療室で処置を受けています。尚、同伴の記者並びに警護に当たったTSA隊員は無事だという事です。そしてこちらが、クランの樹海で撮影された写真です。クランの樹海に入場規制が敷かれ、磁場の異変が確認されてから今回、初めてデュープリケーターの撮影に成功した事により、ヘンデント署は樹海にザ・デッドアイが潜伏しているとして捜査と規制を共に強化するようです」

「(あれ、何でデュープリケーターとザ・デッドアイが関係してるの、警察が知ってるんだろ。確かセンバドールの背後にザ・デッドアイのオリジナルメンバーが居たの、世間は知らないはずじゃ。お父さん何かしたのかな)」

「いや、俺だよ」

そう缶ジュース片手にストライクが口を開く。

「まぁオリジナルメンバーだなんてタレ込んだらニルヴァーナが疑われるからね。警察には、実はセンバドールがデュープリケーターを作れたのはザ・デッドアイから独立した数人が関わってたからって言ったんだ。しかもセンバドールはあくまで利用されてただけって事もね」

「(でももしセンバドールがザ・デッドアイの事色々喋っちゃったら?)」

「うん、問題はそこだけど、まあ大丈夫じゃないかな。センバドールもマフィアだし、そうそう警察に踏み入られるような事はしないでしょ。それより、これでザ・デッドアイが“あっちの樹海”に居る事が濃厚になった。そろそろ俺らもあっちの樹海に行こう」

「でもTSAが入場規制してるわよね?」

アンシュカが尋ねる。しかしストライクはむしろ余裕のある笑みを見せ、アンシュカはそんな態度にふと目を丸くする。

「俺達はね、警察にコネがあるんだ。知り合いの警察官に頼んで正式に話を通せば、むしろTSAは協力してくれるよ。なんてったって、有名な特攻部隊だし」

それから後日、1台の遊撃車がクランの樹海を前に停車した。出迎えたその街のTSA隊員が規制線を開け、そして特攻部隊はクランの樹海に到着した。1台の“招かれざるお客”を引き連れて。少しした後にやって来たその白いワゴン車の前に、TSA隊員は立ちはだかる。するとすぐに運転席は開けられた。

「ダイヤテレビだ。これ社員証」

「知らないのか?デジタル機器は全部使えないぞ?」

「分かってる。でも特攻部隊だからな」

そこでふと、TSA隊員とオーリスは振り向いた。間もなくしてまた別の車がやって来たのだ。しかもその車から降りてきた人達も撮影の為の機材を抱えていて、オーリスは「さっさと通してくれ」という思いを力の抜けた眼差しで訴える。

ルアはちらちらと、テレビクルー達を気にする。そこはまだデジタル機器が動くエリアで、テレビクルーが肩に担ぐカメラが時折こちらの方を見てくる。まるで、スポーツ推薦でも受けて頑張ってる学生みたい。そうルアは何となくそわそわする。

「ルアさん、ヘルくん。ちょっといいかな?」

ルアは振り返る。ジャーナリストという人はみんなそうなのかと思うくらい、強い眼差しのオーリスに。

「ダイヤテレビのオーリスだ。デュープリケーターの詳細とか、マフィアの詳細とか、もし分かったら後で教えてくれないか?」

「・・・はい、分かりました」

「うん、ありがとな」

自分達の車の運転席に軽く腰を掛けたオーリス。空を見上げ、のんびりリラックス。そんな彼に、ミシアは歩み寄る。

「何ボケッとしてんの。特攻部隊も他の取材陣もみんな行ったよ?」

「わざわざカメラ壊しに行く事ないだろ。それに俺らの目的は樹海より、ルア達だ」

テレビクルー達と彼らを警護するTSA隊員。それからルア、ヘル、ストライク、ヘリオス、レイカ、アンシュカ、そしてノイル。やがて、彼らはとある事象を目の当たりにする。テレビクルー達がざわつき始めたのだ。各々機材を触りまくり、一様に落胆していくその傍らで、ヘルとレイカはふと顔を見合わせた。――何か、来る。

「(誰か来るよ?)」

「何だって?こんな時に」

「マスコミはここまでだ、下がってくれ」

1人のテレビクルーの呟き、TSA隊員の注意換気。ざわつきの中に、急に降りかかる緊張と恐怖。それからTSA隊員の2人とノイルは頷き合い、3人の警察官の誘導によってテレビクルー達は後ずさっていく。

「ニュースで見たぜ?特攻部隊ってのが向かってるって。お前ら、随分期待されてんのな」

鳥顔だが、首から下はまるで二足歩行のドラゴンっぽい骨格。全身は鱗と毛皮に覆われ、4本の尾状器官の内、上部の2本は先端が手のようになってて、下部の2本は極端に短い。今までに、“見たことないほど洗練されたデュープリケーター”。しかも流暢な言葉に宿る“知的な敵意”に、特攻部隊の面々は一様に警戒心を強める。

「ハッ・・・ま、相手が誰であろうと、俺は見張りの仕事をするだけだ」

カシャカシャと震える尾状器官と、左右に傾けられる首。それはまるで準備運動のよう。そこで最初に動いたのは、ヘリオスだった。素早くウパーディセーサへ変身し、その手から“白い衝撃熱波”を繰り出した。しかしそれはまるで虫でも叩き落とすように掻き消され、直後にヘリオスは飛び込んできたデュープリケーターのその尾状器官に殴り飛ばされた。飛び込んできたデュープリケーターから逃げると同時に、その周りを囲んだ特攻部隊。それからベドマを体に宿したストライクは右手に着けたグローブに霊力を込めた。ついこの前、ユピテルから貰ったハイクラス対応のグローブ型霊器。

滝氷刀二層(ヴォド・レドミーチ・ドゥバーソ)

“滝のように溢れる黒い水流”。しかし霊器によって安定したそれは最早、“刀のように鋭く凍結した黒い水流”だ。しかし振り上げられようとした黒い刀はその瞬間、尾状器官に受け止められた。傷も付かないその様に、ストライクの眼差しは鋭さを増す。それからレイカが翼から放った“帯電する熱波”も差ほど効果が無い状況に、ストライクの眼差しは焦りに染まった。しかしその時だった。デュープリケーターが勢いよく地面に背中を打ったのは。素早く立ち直ったものの、ストライクの眼差しには一筋の希望が灯った。そしてデュープリケーターは真っ直ぐ睨み付けた。犬に乗っかり翼を生やし、霊気を感じる妙に豪華な武器を更に“光で飾った”その女を。間髪入れず、ルアは光矢を撃ち放つ。「霊気」と「翼の力」が融合した、“ただの光の矢”。――女を殺れば後はザコ。そうデュープリケーターは光矢をかわし、飛び掛かる。

「(光刃一爪(クリスーヴェ・アジーノ)!)」

しかしその時デュープリケーターが見たのは“光の刃”だった。ストライクやアンシュカの目に映ったのは“ただの光刃一爪”。しかしその威力はハイクラスの霊気を操るストライクの攻撃を上回っているように見えた。再び転がったデュープリケーター。それでも素早く立ち直り、デュープリケーターは睨み付ける。女を乗せて翼を“4枚も”生やした、霊気を感じる妙に鮮やかな毛並みの上に更に鎧まで着込んだその犬を。しかしそこでデュープリケーターは内心で面白がった。

「お前ら一体、何なんだ?」

「(え?何って・・・)」

「改良版トゥマーレで作った禁界の磁場に適応した“俺ら”は、少なからず精霊の力に強いって言われたのに」

「ねぇ!それ、ドルタスに?」

アンシュカが尋ねると、デュープリケーターは小さく「あぁ」と応えた。

「(簡単に言うとね、ボク達も、禁界に適応してるって事かな)」

「ほう?まあいい、お陰でこれから退屈しなさそうだ」

逆に言えば、このデュープリケーターに対抗出来るのはルア達だけ。そうストライクは希望と絶望と同時に悟っていた。

「あたしドルタスに会いたいの。連れてってくれないかしら」

「え!?そいつぁ・・・無理な相談だな。言っただろ、俺らは見張りなんだ」

「ザ・デッドアイの見張りでしょ?でもドルタスはザ・デッドアイとは関係無いのよ。だから良いでしょ?」

「・・・つっても、ザ・デッドアイと『ブラッジェル』のアジトには誰も入れるなって言われてる。お前ら特攻部隊だよな?警察関係者だよな?それならやっぱ無理だ」

「あたし特攻部隊とは関係無いのよ。だから良いでしょ?」

「しつけぇなぁ・・・。んー、それでもザ・デッドアイには逆らえねぇ、諦めろ」

「そっか・・・」

「それより――」

その瞬間、デュープリケーターの全身から青い光の筋が浮かび上がる。鳥顔で表情は分かりづらいが、ルア達は感じていた。その闘志を。そして次の言葉をすぐに想像していた。

「――もっとやろうぜ」

応えを待たず、飛び掛かるデュープリケーター。撒き散らされる青い衝撃熱波。加勢しようにも近付けないストライクだが、それでもルア達に注視して背中を向けたデュープリケーターに斬りかかる。しかし直後、ストライクは目を見張った。短い尾状器官を巧みに使い、衝撃波で素早く旋回し、背後の敵にも隙を突かせない、その脅威に。それから手のような尾状器官が空を掻く。黒い光壁で尾状器官を受け止めながら、ストライクは垣間見ていた。その一瞬のデュープリケーターの鋭い眼差しを。その後だった、その眼差しの意味を知ったのは。――旋回の為のものじゃなかったのか・・・。

「(あっ)」

まるでショットガンのように、短い尾状器官から弾けた衝撃熱波。しかしストライクを目で追う間もなくヘルはデュープリケーターのパンチをかわす為にステップする。そこでルアが光矢を撃ち放つも、肩に光矢が刺さったままデュープリケーターは光壁ごとルア達を殴り飛ばした。

「つう・・・いてぇ・・・ハッ」

起き上がりながら、ルアは恐怖していた。単身で光の刃を放ち、口から光弾を吐き出すもヘルが青い衝撃熱波に呑み込まれるのを目の当たりにしていたからだ。本能で分かっていた。次は自分だと。

光矢(ストレスーヴェ)!」

7本の連射された光矢。ブスブスとデュープリケーターに突き刺さる。

「ぐ、ぅああぁ!」

雄叫びを上げるデュープリケーター。そのまま倒れろ。そう誰もが内心で期待する。しかしそれから、立ったままデュープリケーターは真っ直ぐ、ルアを見た。足取り重たく、1歩踏み出すデュープリケーター。ルアは恐怖で動けなかった。

「どう、だ・・・強ぇだろ、俺・・・ハッ」

まるでマフィアのようなしぶとさ。見せつけるように、デュープリケーターは自身の体に刺さった光矢を1本、ゆっくりと抜いて見せる。

「ぐっ・・・ふう・・・うぅ・・・ふう・・・ふう」

気迫だけで立っているのは分かっている。しかしその気迫こそが、ルアを恐怖させていた。

「ルアちゃん!撃て!」

ハッと我に返るルア。しかしその時だった。振り返ったストライクが絶望したのは。問答無用で放たれた衝撃熱波。その矛先は、ルアだった。姿の違う、別のデュープリケーターの出現と、光壁ごと吹き飛んだルア。ストライクは決意した。

「皆、撤退だ!」

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