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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第2章「バチルス」

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「バチルス」前編

「先程の姿は、ウパーディセーサなんですか?」

1人の記者の問い。その一瞬の最中、ヘリオスはふと自分を見下ろしてきたレイカと目を合わせる。何を思って、ましてやマスコミのど真ん中でポーズなんか取ったのか。

「まぁ、そうだけど。ウパーディセーサのせいでグライドスーツの売り上げが伸び悩むだろうから、俺も思い切ってウパーディセーサに手を出すことにした。それに――」

それに?・・・。そうテレビクルー達が心の中で期待を膨らませるその一瞬の最中、ヘリオスはまたレイカを見上げる。ヘリオスの呆れたようで疎ましいような眼差しに何かを感じたのか、レイカは少し首を下げる。

「皆さんも見ただろうけど、せっかくウパーディセーサになったから、悪者退治もいいかなと」

「しかしウパーディセーサとはまるで違う姿ですよね?」

「それに関しては企業秘密と言わせて貰う。行くぞレイカ」

テレビカメラは穴が空くほど貫くように真っ直ぐ捉える。ヘリオスがやんわりと光に包まれたその情景を。体を伝う光の筋という既存のウパーディセーサには無い演出、それから全身を飾る“赤い差し色”。テレビクルー達は言葉を失っていた。既存のウパーディセーサには無い皮膚の“テカり”。そして“2本になった尾状器官”。



第16話「バチルス」



テレビ局。そこに1組の取材班が帰ってきた。さっきまでヘリオスとレイカを囲んでいた1人、オーリスは直ぐ様デスクに着いている課長の前に歩み寄った。

「ザ・マッドアイがデュープリケーターを全て迎撃した後、センバドールのホテルに居るデュープリケーターは守りに徹して再び膠着状態なんで、その間に例のネタ、追いかけます」

「おう」

自分のデスクで取材データをまとめていたオーリス。そこに同じ取材班のミシアがやって来る。

「オーリス、今センバドールのホテルの近くで待機してるダイクとちょっと電話したんだけど、新しい動きがあったみたいよ?」

オーリスはテレビにふと目を向ける。それは課長のデスクの背後にある、壁掛けの大きなテレビ。

「んだよ、せっかく時間出来たと思ったのに。帰って来た途端にもう新展開かよ。何だよ、あのデュープリケーターは、新型か?」

「今度はグリフィアンだって。特攻部隊に数を減らされたからその対処も兼ねてるだろうってダイクが」

「グリフィアンのデュープリケーター?翼なんか今更だろ。またサザーリニに向かうのか?」

「まだ分かんない。見る限りまた膠着状態じゃない?」

「おいおい、第2波か?」

くるりと椅子を回してテレビを見ながら呟く課長。テレビクルーがニュースを見てから動き出すんじゃ普通なら笑われる。しかし今は常にセンバドールは生中継で監視下だ。テレビのボリュームを上げる課長も含め、その場のテレビクルー達がテレビに釘付けになる。

「えー再び動き出しました。有翼という意味である所謂グリフィアンのデュープリケーター、およそ十数体がクワイホテルから飛び去っていきます」

「ミシア、ハーク、行くぞ」

レポーターのミシア、カメラマンのハーク、そして運転手やらたまに第2カメラマンをやったりもする班長のオーリス。それから3人はテレビ局を飛び出した。

グリフィアンのデュープリケーター、そんな“無駄なフォルム”に、テレビの前でユピテルは腕を組んだ。ブルータスはそもそも尾状器官で空を飛ぶ。そのシステムはジェット噴射。スタンダードのブルータスやヴァンガードは4本の尾状器官でのジェット噴射でもって空を飛び、推進力は勿論、旋回能力でも翼を軽く凌駕する。なのに“あれ”は、4本の尾状器官に2枚の翼。ファッション的には分からないが、少なくとも機能的には無駄なのだ。一体、どんな思考で造られたのか。いや、思考よりも嗜好か。・・・そんなダジャレは流石に考えてないか。

「なんかちょっと可哀想ですね」

ユピテルは振り返る。たまたま近くに居たメルテが呟いたのだ。

「可哀想?」

「翼も尾状器官も?って、本人が1番煩わしいと思ってますよ。きっと、科学者じゃない素人の発想でしょうね」

「確かに。ザ・デッドアイは無論、センバドールの中にも、臓器同士の相互作用をちゃんと鑑みたりするような人間は居ないだろうからね。何か、意図があってグリフィアンなんか付与したんだろう」

一方、ラルガとギールは肩を並べて見上げていた。翼を靡かせ、尾状器官で飛んでくるデュープリケーターたちを。最初に来た奴らの特徴を強いて言えば“熊のような剛腕”。しかし次にやって来たのはまるで別物かというほどの骨格と翼。何か作戦があっての事か、例えそうだとしても敵は敵。とりあえずぶっ潰すだけ。そうラルガとギールは各々指を鳴らしたり、首を鳴らしたり。

「ハッどんな奴が来ても関係ねぇ。全部ぶっ潰してやる」

「つーかさラルガ、翼、無駄じゃない?」

その瞬間、2人は目を見張った。上空から、1体のデュープリケーターが青い火球を吐き出したのだ。それは一直線に2人の下へと落とされて、自動車工場の事務所ビルの屋上は直後にボンッと衝撃を立ち上らせた。

クワイホテル4階。最早押し掛けてきたザ・デッドアイのフロアになってしまったと、風俗嬢達から言われてしまっているそこで、また1体のデュープリケーターが目を覚ました。ザ・デッドアイの男、ヨーガは内心で胸を撫で下ろす。

「こいつは何の遺伝子を入れた?」

ヨーガの上司的存在、ムソーが問いかける。まるで絵画展で絵画を眺めるような冷静さで。

「犬です。ヘルハウンドです」

「何を入れても問題ないのは、ベースであるブルータスの遺伝子データが完璧だからか?」

「そうですね。流石科学者ですよ」

「そういや、シャドーのガキの遺伝子を入れた奴はまだ目覚めてないのか?」

「はい。417号室に居ますけど、見ますか?」

それから2人は、酸素カプセルを前にした。その中で横たわっているデュープリケーターの姿に、ムソーはふと首を傾げた。――何だこいつは。デュープリケーターだと分かっているはずなのに、そうムソーは思わず言葉を失っていた。

「今サザーリニはどうなってる」

「今はテレビ見た方が早いですかね。どこも生中継やってるんで」

マフィアの巣窟、しかしここは言ってもホテル。機材や薬品、コードだらけで臭いも雑多、しかしここは言ってもホテルの部屋。ヨーガはホテルの部屋で、普通にテレビを点けた。サザーリニの自動車工場では今正にデュープリケーターたちがザ・マッドアイを襲っていたが、普通のウパーディセーサと、まるで発展途上段階の魔獣とブルータスが混ざったような奴に、デュープリケーターたちは落とされていく。

「チッあのデカブツ、どこであんな力を付けやがった」

「2体の特殊なウパーディセーサも、やっぱりニルヴァーナじゃないですかね」

「クソ。ウパーディセーサの野郎共。単にザ・マッドアイとニルヴァーナの真似事じゃこの程度か」

「ニルヴァーナのウパーディセーサも入ってるんですけど、やっぱり所詮はブルータスって事ですかね」

「とにかくでかくて強い奴だ。強い遺伝子を手当たり次第ぶち込めば出来んだろ」

「やってますって、時間が掛かるだけで」

ミシアは携帯電話を耳元から下ろした。ハークはすでにカメラをバッグにしまっていて、他社のテレビクルー達も“戦闘が止んだ自動車工場”から各々撤収を始めていく。

「ダイクの方も、また膠着だって」

「うし。今すぐニルヴァーナ行くぞ。今の内にとっとと取材しとく」

それからワゴン車はニルヴァーナの敷地外に停車した。ハークはバッグのままカメラを肩からぶら下げて、ミシアとオーリスは手ぶらでバタンとドアを閉めた。ロータリーを突っ切り、そして目の前にはエントランスパーク。しかしエントランスパークには入らずに2階の受付カウンターへ向かう為のすぐ脇の階段を上がっていくオーリスに、ミシアは内心で「え?」と驚く。

「エントランスパークでならアポなしで手当たり次第に聞き込めるのに」

「俺はそういうの好きじゃないんだよ。挨拶だけはちゃんとするのが俺のポリシーでね」

「断られたら?」

しかし半分だけ振り返ると意味深な微笑みだけ返してきたオーリスに、ミシアは呆れと共にもどかしさを募らせる。――ほんと、変にこだわるとこあるんだよね、この人。

「どうも、ダイヤテレビの者です。取材をお願いしたいんですけど」

「アポは取っておられません・・・よね」

パソコンを見ながらそう応える受付嬢ユウコに、ミシアはそんなユウコの顔色を伺いながら不安を過らせる。

「なんでこうして直接頼みに来たんです。ブルータスの話を伺えたらと思いまして、広報担当とか、取材のお願いだけでも何とかさせて貰えないですかね」

「・・・少々、お待ち下さい」

振り返るオーリス。そのしてやった顔に、ミシアは「分かった分かった」と表情で静かに応えて見せる。それから2階の応接室で、オーリス達はメルテと顔を合わせた。

「すいませんね突然」

「こっそりカメラ回すとかダメですからね?」

メルテの眼差しの先はハークのバッグだ。しかしそんな警戒の空気をオーリスは明るい愛想笑いで吹き飛ばす。

「そんなセコくないですよ。これでも大手なんで」

「それで?受付から聞いたかも知れませんがニルヴァーナには広報という広報は無いので、事務の人間の答えられる範囲でしか答えられませんよ?」

「話を聞けるだけ有り難いです。では先ずブルータスの事で、ザ・マッドアイのウパーディセーサはブルータスが元ですよね?じゃあジャンヌダルク家のヘリオスとレイカの元は一体何ですかね。本人達はウパーディセーサだと言っていたので普通に考えればブルータスなんでしょうけど、ヘリオスとレイカはザ・マッドアイの常駐者ではない。つまりはザ・マッドアイの者ではない訳ですよね?まぁウパーディセーサは誰でもなれますが、あのオリジナリティーがザ・マッドアイの技術ではないとすると、ニルヴァーナって事になるんじゃないんですか?」

「他に技術を持ってる者が居ないってだけでニルヴァーナと決めつけるんですか?」

「いやでも、そうなんじゃないんですか?」

「少なくとも私はジャンヌダルク家とニルヴァーナの繋がりを把握してません」

「そうですか。“あちらの世界”の方々とは今でも接触はありますか?」

「えっと魔法使いの方々とですか?」

「えぇ。“ロータリーでの火柱”でもそうですが、“未確認巨大生物に変身する男”や、スコーレさん宅のルアちゃんとヘルくんの魔法とか、色々“あちらの世界”との関わりはありますよね?」

「ルアちゃんとヘルくんは魔法を教えて貰っただけの話のようなので大きな関係は無いでしょうけど。今現在、接触はありませんよ?今後一切無いことはないでしょうけど」

「じゃあザ・マッドアイとは今でも接触はありませんか?」

「私が知る限りでは無いですよ。私が知る限りと言っても私はこれでも事務長なので、私が知らない事はありませんけど」

ワゴン車に帰って来た3人。ミシアは途端に溜め息を吐き下ろす。収穫は無さそうだ、そんな雰囲気を醸し出すミシアの隣の運転席で、オーリスは唸った。

「少なくとも私は、ね。ミシアどう思う?」

「え?うーん。まぁ怪しいっちゃ怪しいけど、そもそもニルヴァーナ自体からは何も臭わないし」

「おいおい。あちらの世界との接触に関してはスムーズにありませんと言った。けど他の話に関しては少なくともとか、私が知る限りとか。分かっているけど話さない、そういう言い回しだ。少なくとも私じゃない、てことは他の誰かがやっている、そういう事だ。だってどう考えたって他に無いだろ?あんな高度な技術を持った組織。つまりは組織としてじゃなく、個人的にジャンヌダルク家に技術を提供した奴が居るんだ」

「なぁ、ニルヴァーナほどの技術を持った組織なんて他に無いなんて、流石に言い切れないだろ。ザ・マッドアイもそうだろうし」

「ならスコーレさんとこの娘と犬の事は?異世界の魔法との接触に、パイプ役が居ないなんてあり得ない。しかもその娘と犬は頻繁にニルヴァーナを出入りしてる。居るんだよ、ニルヴァーナに。世間も知らない黒幕がさ」

ムソーは絶句した。ふらりと立ち寄ったその部屋で。目覚めたのに“活動してなかった”個体。ヘルハウンドのデュープリケーター。そいつが目覚めてから翌日の事、ムソーは何の気なしにヨーガの下へとやって来た。しかしそこでムソーが見たのは、“抜け殻”だった。

「ムソーさん」

「これは・・・脱皮、か?」

「はい。最初の奴もグリフィアンも、目覚めたら数時間以内には外に出てったんですけどね」

「全部脱皮したのか?」

「いえ、それが、この1体だけです」

「今は?」

「屋上じゃないですかね。もうすぐ出撃です」

まるで体の中だけでずっと反響し続けてるみたい。体に目立った傷は無いが、代わりに“傷ではないダメージ”が際立つ。これが“この鎧”の特徴かな。そうルアとヘルは重たい体を起こした。クワイホテル前にて、ルアは辺りを見渡す。警察車両を始め、屈強なTSAの人達は皆、蹴散らされている。横たわる警察車両はボコボコで、TSA隊員達は動かなかったり、もがいていたり、怪我人に駆け寄ったり。そしてヘリオスとレイカもボロボロのようだ。でも幸い、ホテルはまた鎮まり、“嵐は過ぎ去った”。でも同時に、ラルガへの心配が頭を過った。ヘルは遠くを真っ直ぐ見上げた。それは“嵐が過ぎ去った方”。――とんでもない強敵。サザーリニ、大丈夫かな・・・。

天を駆けるその姿はまるでペガサスのよう。尾状器官で空を飛んでいる最中、時折その4本足は“地を蹴るように空を掻く”。それは“色の違うそいつ”だけではなく、他の個体もそうだった。ラルガやギールは闘士のように気を研ぎ澄ませ、同時にテレビの向こうから、ユピテルはそんな芸当に頭を巡らせる。

「お前はここに居ろよ?外には出るなよ?」

頷きもせず、勿論言葉も発せず、そのヴァンガードはロッズを真っ直ぐ見つめる。それから外に出たロッズが見たのは、青い光と共に吹き飛んできたギールだった。

「ギール!」

「クソ!ボスには気を付けろ。動きも硬さも段違いだ」

「ボボァン!」

気味の悪い鳴き声だ。何となく犬みてぇなデュープリケーター、見た目通りに知能も高そうだ。そうギールはデュープリケーターが口から吐き出した青い衝撃熱波を突き抜けて、そのムカつく顔をぶん殴る。こっちだって何もしてない訳じゃない。ギールのそんな胸中に同調するように、その時1人の男が自動車工場の屋上から飛び降りた。その瞬間にその男、オンスは変身する。風を受けて靡く尾状器官。そして“その巨体”の重量をそのまま力に乗せて、オンスはデュープリケーターを1体踏み潰す。それは正に豪快そのもの。

ユピテルは片眉をひょいっと上げた。なるほど。表情にはそう書かれていた。巷のウパーディセーサは言うなれば人間サイズのブルータス。しかし新たに参戦したあのマフィアは言うなれば“ブルータスサイズのウパーディセーサ”。――きっとエーバドルフも、焦っているんだろう。

オンスが豪快にデュープリケーターを殴り殺すその傍らで、新タイプのキャリバーが雄叫びを上げた。通常のキャリバーは2本の尾状器官と、1本の剣のようになった尾状器官が特徴となる。しかしそのキャリバーには2本の尾状器官が無く、代わりに4つの噴気口が付けられた。つまりは尾状器官の管が省かれたものが4つになって背中に付いた訳だが、それによりブルータスの中で1番の重量級がより強い推進力を得た事になったのだ。そしてラルガを含め、3体の重量級は豪快にデュープリケーターたちを撃破していった。しかしそれからだった。ラルガが舌打ちを打ったのは。いよいよ最後の1体。士気の勢いそのままに突撃していったオンスはビンタされて血を噴かし、新タイプキャリバーは首根っこを噛みつかれてブンブンされた。そこで舌打ちを打ったラルガ、疲労したギールは同時に呟く。

「・・・クソ犬が」

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