「女神の誕生」前編
「アニ・ソーサを奪うと画策したのは、アマバラのアマテラス姫だった。しかしその目的はギガスの長の封印を解く為だった。アマテラス姫は、ギガスと人間のハーフで、ギガスの長が、かつてアマバラに施された封印を解かせる為、アマテラス姫を動かしていた。そして封印は解かれ、用が済んだとアニ・ソーサは還された。全てはアマテラス姫の画策、ザ・デッドアイは関係無かった。途中アマテラス姫の亡命の情報を掴み、それならアマテラス姫を味方に付けてアマバラとの停戦に繋げようと動いたが、それは叶わなくなった。そもそもザ・デッドアイはプライトリアに敵意は無い。よってプライトリアも、ザ・デッドアイに関しては敵意を持たない」
総勢25人の各部隊長は王間に集まり、アポロン王子を前にする。アポロンの隣にはアテナ姫とアルテミス姫も居て、2人の残念そうなリアクションはそのまま各部隊長達に伝染する。
「だが望みはある。アマテラス姫が駄目なら、ギガスの長を味方に付ける。ギガスの長はアマバラを恨んでいる。プライトリアがギガスの長の怒りを抑えれば、アマバラはプライトリアに借りが出来、プライトリアへの攻撃を止めさせられる。ギガスは肉体を持つ精霊だそうだ。そしてその長の霊力は凄まじい。だが必ずやり遂げる。皆はそれまで、通常通りアマバラの迎撃に専念してくれ」
「はっ!!」
頷いたアポロンにすかさず手を挙げてみせる数人。アポロンは妙に笑顔のアリマに目を留める。
「アリマ」
「その鎧のデザインは、誰が」
「父上だ」
「そうですかぁ」
「おかしいのか?」
「んー、ちょっと女子ウケはしなさそう」
「な・・・」
小さく吹き出したアテナにアポロンが振り向くと、アテナはこれ見よがしにニヤついていた。
「ほら~」
「私自身が気に入っているんだ、それでいいだろ」
第14話「女神の誕生」
「王子、鎧はともかく、まさかお1人では行きませんよね?」
「いや、アテナは通常通り総司令だが、心配はいらない。新しい鎧に、ハイクラスの霊力、不安など無いさ。私はデーモンズ・キャニオンに赴き、ハイクラスの精霊と契約を交わした」
第12隊長のグルエットを皮切りに、当然皆は言葉を失う。しかしすぐに納得したように、各々感心していく。流石、王子だと。
蒼白い光が鋭く空を突き、ヴァンガードを襲う。その激烈な冷気は瞬時にヴァンガードをバラバラにし、そして敵を殲滅すると“ギガスと同じような姿”になった4人はようやく落ち着いたと、お互いの姿を見合い始める。
「ねぇ、おじさん」
「おじ・・・」
「助けるってその、どうするの?」
セリーアンが尋ねると、ベルデルートの戸惑いなど気にする事なく、皆はベルデルートを見る。
「人間を捨て、ギガスになって欲しい。そしてギガスとして子供を産んで欲しい」
「それって、おじさんと結婚するって事でしょ?」
「人間とは違い、精霊の世界には表立って結婚という形は無い。それに私以外にもギガスは居るから、そう緊張しなくていい」
「でも、私達、精霊じゃないし」
「いや、転生するんだ」
「てんせー?」
「と言っても死ぬ訳じゃない。魂を人間のものから精霊のものに変えるだけだ。それに精霊になったって私のように自由に人間の姿に変身出来る」
「それじゃ、いつでもお家に帰れるの?」
珍しく口を開いたチュクナに、3人は驚きでもってふっと顔を向ける。
「そうだな。だが生活拠点はこことは違う世界へと移して欲しい」
「チュクナ、まさか精霊になりたいの?」
セリーアンの問いの直後、屋上の扉が開けられエッサが出てくる。
「みんな!」
「エッサ」
人間に戻ってエッサに歩み寄るセリーアンに続き、3人も人間に戻っていく。
「エッサ、私、人間には戻らない」
「セリーアン」
「私、ちゃんとエッサ達は悪くないって言うから!」
そう言うと、セリーアンは瞬く間に人ではなくなり、そして屋上からマスコミの人間達を見下ろした。そして直後、セリーアンは屋上から飛び降りた。
ルーナはマスコミに駆け寄ってきたセリーアンを、タブレットで視聴していた。パシャパシャとカメラが鳴る中、緊張した顔色で、でも力強い眼差しのセリーアンがテレビに映る。
「私達、自分の意思で戦ったの。私達を世話してくれた施設を守りたかったから」
「不幸な目に遭って、怖かったよね?」
記者の問いに、セリーアンはブンブンと首を横に振る。
「いきなり拐われて魔獣にされたけど、私、不幸だなんて思わない。守りたい人を守れて、悪い奴をやっつけられて、私嬉しい。だからもう人間には戻りたくないの」
「本当に、自分で決めたの?」
「うん!だって――」
セリーアンの脳裏に、ふとメイジーナが過る。
「――私、自分の手で友達守りたいから」
変身し、ひとっ跳びで屋上に去ったセリーアンを見届け、ふとルーナは顔を上げる。
「着いたぞ」
タブレットを置き、ルーナは遊撃車を駆け降りる。
「パパ!」
「・・・ルーナ!?ど、どうしたんだ。てっきりサザーリニに居るもんだと」
「戻ってきたの。魔法でね、ママが生き返るかも知れないから」
「ま、魔法・・・まさかそんな事」
「いいからっ」
ルーナはリビングのど真ん中で、突っ立って目を閉じた。兵器研究施設を映しているテレビの音は聞こえなくなり、静寂に包まれる。そして心の中で、ルーナはリヒカと頷き合う。
「手を前に出して、こう言うの――」
ルーナは目を開け、手を前に伸ばした。
「魂使の精さん、ママの魂を呼び覚まして下さい」
雑音やらテレビの音がワッと戻るが、それとは対照的にルーナ達の間に1秒、2秒と沈黙が続く。すると直後、青い羽を生やし白いワンピースを来た小さな人が突如ルーナの目の前に現れる。可愛らしく、小さく手を振る精霊にルーナは目をパチクリさせる。そして直後、精霊が両手を上げると、ルーナの目の前には透明なレーティが現れた。
「・・・マ・・・ママ?」
「ルーナ・・・」
「さぁ霊力を注いで」
ルーナが精霊に目を向けた時、そう言った精霊はパッと消えた。霊力を注ぐ、頭では分かっていても、ルーナは母に抱きついていた。そんなルーナを前に、ランディは呆然としていた。ランディの目には、レーティの姿など見えてはいなかったからだ。直後、ランディは落胆し、理解する。人が、生き返る訳がないと。
「もういいよルーナ。見えないって分かってて、そんな演技する気分じゃない」
「あ・・・」
「ルーナ、早くランディを安心させてあげて」
「あそっか」
「ランディ」
力が抜けたようにダイニングチェアに腰掛けていたランディは弾けるように振り返る。確かにレーティの声がしたと、ランディは絶句した。ルーナはレーティに抱きついていた。
「・・・レーティ、なのか?」
「そうよ。その、私、撃たれたはずだけど」
「生き返ったの、魔法で」
「魔法?そんなまさか」
「ほんとなのにぃ、これからいっぱい見せてあげるんだから」
ヴァンガードを殲滅し、見知らぬ魔獣が元に戻るのをルアとヘルは見ていたが直後、ヘルは吠えた。
「なんだ犬!」
「お父さんその人、マフィアの」
「ヘル、大丈夫だから。ラルガはもう俺の味方になったから」
「(ほんとに?)」
「お父さんだ?おっさんの娘か?」
「あぁ、ルアだよ。それでこっちがヘル」
しかしラルガはマフィアらしく笑顔も柔らかい雰囲気すら見せず、ただ小さく頷き、ルア達から目を逸らした。そんな態度に、ルアとヘルは不安げに顔を見合わせてからユピテルを見るが、そんな時にルアの携帯電話が鳴る。相手はストライクだった。
「ストライクさん」
「レーティさん、生き返ったよ」
「ほんとですか!?」
「あぁ。ルーナちゃんも、ランディさんも喜んでる」
「お父さん!ママ、生き返った」
ユピテルは大きく、静かに頷いた。心から安堵するようなそんな態度に、ルアとヘルは「良かった」と見つめ合う。
「すぐ帰るって伝えて置いて下さい」
「あぁ」
「お父さん」
ルアは父に抱きつく。ユピテルは娘の頭を撫で、ラルガはそんな父娘など気にも留めず、同時にアンシュカが建物から出てくる。
「本当は、俺が精霊に頼んでレーティを生き返らすつもりだったんだよ」
「そうなの?」
「おっさん、生き返るとか、何なんだよ。死んだもんが生き返るのかよ」
「あぁ、精霊に力を貸して貰えば、人は生き返る。けど病気や寿命で死んだ者は対象外らしい」
「対象外?」
「審査があるのよ」
無邪気な笑顔でアンシュカが応えるも、それでもラルガは眉間を寄せる。
「ニルヴァーナやザ・マッドアイを作った俺が頼んで、断られた。けど当人の娘が頼んだらオーケー、そういう世界なんだよ」
「ふーん」
「え、お父さん、頼んだの?精霊さんに」
「レーティが死んだすぐ後にね」
「そうだったんだ」
「ユピテルの娘?可愛いわね。あたしアンシュカよ」
「あ、ルアです、こっちはヘル」
「珍しいわね、守護獣が精霊使いだなんて」
「え?アンシュカさん・・・もしかして、プライトリアの」
「ううん。あたしはエルフよ。プライトリアから北にあるエルフの国から来たのよ」
「(へー、ほんとに居るんだぁ。そう言われたらちょっと耳尖ってるっぽいかも)」
それからヘルは毛並みを靡かせ、自宅の庭に着地する。ルアはすでに母を目に留めていて、素早く飛び降り、そして真っ直ぐ母に抱きついた。
「ただいま!」
「お帰りルア。ヘル・・・よね?」
「(ママぁー)」
変身を解きながら駆け寄り、ヘルの尻尾はブンブンと風を切る。久し振りのママの匂い。額を撫でるその手に、ヘルはこれまでの事を振り返る。――でも、この匂いで、もう全部が想い出のよう。
「私達、自分の意思で戦ったの。私達を世話してくれた施設を守りたかったから」
セリーアンの発言が、「偉大な少女」という見出しなどでワイドショーでひっきりなしだ。ルアはママが作るソイミートボールのキャロットソースがけを頬張りながら、テレビを見る。今は夕食時、しかしそこに、ルーナの姿はない。
「今のお気持ちは!」
「不思議な、感じ、です。人間じゃなくなった実感はまだないです」
記者達はとある男の人に集まっていた。サザーリニの自動車工場から出てきた、全くマフィアっぽくない男の人。見出しには「一般人のウパーディセーサ第1号」と出ている。
「ネット上では、偉大な少女を賛美する書き込みが多く寄せられ、この男性の他に、すでに4名が自動車工場に入っていきました。自動車工場から約100メートル離れた数ヶ所では警察による通行止めが実施されていますが、自分で生産した訳ではないという理由で生確法には当たらず、現状では通行止めに法的拘束力はありません」
「法整備されるまで待て」、そんな看板を立てて無駄な通行止めをしている警察が映されるテレビを、ルーナは4人と共に観ていた。夕食を共にしながら。
「エッサ、さんびって何?」
「褒めてるのよ」
「わぁ、えへへ」
エッサは照れるセリーアンの頭を優しく撫で下ろす。――確かに、ユピテルの言う通り、政府は、ここはこの子達を研究対象にしたいから帰さなかった。
「みんな、もう、ここには居なくていいわ」
少女達は食事の手を止め、エッサを見る。エッサは優しい目で、でもどこか寂しそうに微笑んでいた。
「明日になったら、家に帰るのよ。ニルヴァーナと協力して特効薬を作ったら研究員が家に行くの。だから、もうここに居なくてよくなったの」
「そっか。でもセリーアンは特効薬いらないんでしょ?」
ルーナの問いに、セリーアンは頷いて即答する。
「あたしも人間には戻らないよ?」
「ルーナ・・・まさかあなた達、全員でマフィアと戦うつもりじゃ」
「ううん。何かね、チュクナとジュリはおじさんの所に行きたいんだって」
セリーアンがそう応えるとエッサは2人を見るが、5人の内比較的口数の少ない2人は黙ってエッサを見る。
「おじさんって?」
「・・・ベルデルートの、おじさん」
チュクナは応えた。
「え、ま・・・それ、って、ギガスとかいう、あの?」
「・・・・・・うん。精霊の、世界で暮らすの」
「そ、そう・・・なの、ね。まさか、キアラも人間に戻らないなんて言うの?」
キアラはセリーアン、そしてルーナを見ると、まるで友達と一緒だと言わんばかりに頷いてみせた。そんなキアラを含めた5人を前に、エッサは呆れたようにため息をつく。しかしそんなエッサに、セリーアンは笑顔を見せる。
「たまに、エッサにも会いに行ってあげるからね?」
「あら、そう?」
そして少女達は笑顔で、部屋に戻っていった。研究終了通告の為に集めた最後の夜、だからといって厳粛な空気も、悲しげな雰囲気もない。しかしそれは逆に寂しさを紛れさせる。そうエッサは、真夜中に1人、窓から月を見上げていた。
「続いては、マシエスタからザ・マッドアイの拠点が消えました。・・・午前5時、魔虫が突如拠点を離れた事を確認し、マシエスタ軍が拠点に踏み込んだところ、中はすでにもぬけの殻だったと、午前7時の会見で発表しました」
「ただいまぁー」
「ルーナお帰り、朝ご飯は?」
「食べる」
笑顔で席を立つレーティ、続けて何気なく挨拶するランディ、ルア、ヘル。いつもの家族を前に、ルーナはふと、これまでの事を振り返る。――でも、まるで何だか、長い遠足にでも行ってただけかのよう。
「王子!エンディが」
ルーカス第1隊長の切迫した呼びかけに、アポロンは足早に王間を駆け降り、医務室へ向かった。そのベッドには、矢で射抜かれ、瀕死の状態だというエンディが横たわっていた。
「申し訳ありません。警戒が、厳重に、なってて」
「恐らく私がアマテラス姫と共に城へと足を踏み入れたからだろう。迂闊だったか。ツクヨミ姫かスサノオには会えたのか?」
「会えませんでした」
「なら他の方法で手引きの足掛かりを作る。お前は休んでくれ」
「すいません」
色々と頭を巡らせながら、気が付けば王間に戻ってきていたアポロン。何となくバルコニーへ出ると、そこには花壇の前で精霊と談笑して過ごしているアルテミスの姿があった。アポロンはふと思い出していた。いつかの事、1人で散歩している時は何をしているのかを聞いた時、精霊と話していると応えたアルテミスを。しかし実際、ああやって精霊と話しているのを見たのは、初めてだった。
「お兄様」
アルテミスがアポロンに気付き、微笑んで手を振る。アポロンが手を挙げてみせると、アルテミスは去っていく精霊にも手を振った。
「ギガスの長へ会いに行く手筈は整えられそうですか?」
「密偵のエンディが負傷してしまって今は手詰まりだ」
「そうですか。ザ・デッドアイの脅威が去って安心しましたが、私、あちらの世界に行って普段とは違う事が出来たの、とても楽しかったです」
「良い想い出になって良かったよ。・・・ん」
「はい?」
「アマバラの城内の蔵の1つは、ザ・デッドアイの拠点だ。もしそこにホールがあれば、あちらから、アマバラの城内へ直接行けるかも知れない」
「ですが、あちらの世界にも、ザ・デッドアイの人間に会えるような伝はないのでは。・・・あっ」
「え?」
「私、伝があります」
まるで目覚めるように、ホールが光を灯す。静かな重低音と賑やかに電気が迸る音の後、ホールは光の膜を張り、そしてそこからアポロンとアルテミスが姿を現した。
「静かですね。お姉様達がザ・デッドアイを追い出してそのままなのでしょうか」
「霊波を感じるが」
「私と一緒に居たルアと、守護獣のような獣のヘルが、正式に精霊と契約したのです。それからルアの付き人も精霊使いなので、きっと何かの足掛かりに繋げられるかも知れません」
「そうか」
「鎧は納めて置きましょう、目立つと何かと面倒です」
「そうだな」
「それからお兄様?ここはプライトリアではないのでくれぐれも無闇な火柱はだめですよ?」
そう言うとアルテミスは兄の腕に優しく抱きつく。
「まったく、余程ここへの遠足が楽しみなのだな」
ヘルは分かっていた。庭に出てルアを呼び、足取り軽やかに玄関へと回り込む。そんなヘルを追いかけていったルア。
「アルテミスさんっ。あ、こんにちは」
ふとした緊張と怯えたような眼差しのルアに、アポロンはあの時の事を思い出す。
「この前は、悪かった」
「え」
「関係ないお前達を火柱で襲った事は、品位に欠けるものだった」
「あ、いえ、大丈夫です」
「(何だ、いい人じゃん)」




