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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「告白」後編

ユピテルは自分のデスクの引き出しを開け、取り出したフォトケースをルアに差し出した。蓋を開けるルア。それには若いユピテルを含めた5人の男達の写真が入っていた。特に畏まらず、普通に過ごしている風景を切り取った、それだけで5人から友情が感じ取れる、そんな写真。

「お父さん?」

「うん。大学生の時。これが所長のカルハン。このエーバドルフが、ザ・マッドアイのリーダーだ。ヴォーレと、スーニコフも、ザ・マッドアイ側に居る」

それからユピテルは椅子に座った。深くもたれ掛かると、その眼差しは天に向けられた。

「俺達の目的は、ただ1つ。人類の進化さ。ウパーディセーサ計画、それは人間の生態をランクアップさせ、簡単には死なない、強いものにするという事。つまり、(ニルヴァーナ)から解放する為のもの。ニルヴァーナは、輪廻転生という意味で、つまりは死を意味する。ここの名前をニルヴァーナにしたのは、何があっても目的を忘れない為。で、ある日ね、物理学を専攻してるスーニコフをリーダーに、ホールを作ったんだ」

「あれお父さん達が作ったんだ」

「いや、言うなら、同着かな。当初の目的はただの運搬用だったんだけど、そこで奇跡が起きたんだ。何と、ホールは異次元の世界に通じちゃってね。それから誰にも言わず内々で異次元の世界を調査してね。話を聞くと、あっちの、アマバラって国の人も偶然同時期にホールを作ってて、それで偶然にこっちと繋がったって。そこで、俺達は魔法を知り、魔虫を知り、ギガスを知った。ストライクとは国境沿いのアマバラの街で会ってね」

「あれ、ストライクさんってプライトリアの人なんじゃ」

「俺の家はフヌアっていう、アマバラとの国境沿いにある街にあってね。隣街がもうアマバラなんだよ」

「そうなんだ」

「(ギガスって、結局何なの?)」

するとユピテルはベルデルートを見た。ルア、ヘル、ルーナ、ストライク、ノイルはその目線を追う。ベルデルートが変身すると、皆は絶句した。

「あの時のっ」

ルーナが声を上げると、人間に戻ったベルデルートは落ち着いた眼差しで頷いた。

「私達ギガスは、肉体を持つ精霊だ」

「(うえ!?)」

「彼はベルデルート、魔獣薬に組み込む為のギガスのDNAを提供してくれた。とは言え、そこからかな。俺達と、エーバドルフ達が、分かれちゃったのは」

ルアはまだ、絶句していた。冷静さを欠いている訳じゃない。ただ、何と言えばいいか分からなかった。

「エーバドルフ達は魔虫を、俺達はギガスのDNAを使って、ウパーディセーサ計画をそれぞれ進めたんだ。ルーナ達、魔獣の少女って呼ばれる子達は皆、魔虫じゃなくギガスのDNAを組み込まれた魔獣薬を投与されてる」

「お姉ちゃんの、パパが、あたしを魔獣に、それって、ママを殺したのも?」

「マフィアを操ってたとは言え、元々あった小さな組織を支配して大きくしたから、常に復讐の機会は狙われてただろうね。だからレーティやルア達を守る為にストライクを向かわせたりヘルを贈ったりしたんだけど、やっぱり法律違反してる俺に、バチが当たったのかもね」

「そんな・・・酷いよ!」

「ルーナ」

「ママ、死ななくたってよかったのに」

「確かに、レーティ自身も、俺の事恨んでるかもね。どんな顔で謝りに行けばいいか」

「謝るって、もう死んじゃってるのに!」

怒鳴るルーナに、ユピテルは優しい眼差しで微笑んだ。その微笑みを前に、ルアは首を傾げる。

「大丈夫、レーティは生き返るから」

涙を拭いながらも、ルーナは絶句した。ルア達に再び沈黙が訪れる。

「結果的に、俺はいつも、運が良くてね。異次元の向こうに行けたのも、精霊に出会えたのも。幸運なのかも知れない」

「お父さんどういう事なの?」

「精霊の世界には、色々な資格があるらしくてね。魂を使わす事の出来る精霊は、肉体を失った魂を元に戻せるんだ。人は死ぬ時、その魂は肉体から離れて細かく散ってしまう。けどその散った魂を元に戻して霊力を注げば、死んだ人間は生き返るんだ」

ルーナは首を傾げ、ルアを見る。ルーナを見たルアは首を傾げ、ヘルを見る。ルアを見たヘルは首を傾げ、ユピテルを見る。

「少し難しかったかな」

「すごい難しかった」

「ははっ・・・と言っても、それは死から解放される訳じゃないから。だから俺は、生き返る前に、そもそも死なない強さを求めたいんだ」

「ユピテルさん、1ついいすか」

ノイルが真剣な表情で口を開く。しかしユピテルは責めるような眼差しのそんな警察官に、落ち着いた頷きを返した。

「ザ・デッドアイを作る必要はなかったんじゃないすか?」

「ニルヴァーナは、言うなれば寄生虫さ、生確法の罪をザ・デッドアイに擦り付ける為のね。ルサンチマンはやがてウパーディセーサを呼び、マフィアを壊滅させるだろうね」

「・・・とんだマッドサイエンティストじゃねえか。苦しむ人達を、そんな生け贄みたいに。俺の妹だって、ザ・デッドアイ絡みで殺されたんだ」

「マフィアが凶悪なのは元々さ。だからこそ、少しでも、ウパーディセーサが役に立てばと思ってね」

「ねぇ、いつママ生き返るの」

「ルア達は、精霊と会話したのかい?」

「うん。えっ頼めばすぐにやってくれる!?」

「それは分からないよ。ルア達と友達になった精霊が、魂を使わす事が出来る資格を持ってれば、すぐにやってくれるだろうけど。ノイルくんも、妹さんに会わせて貰えばいい」

ノイルはすでに、目を瞑っているルア達の顔を伺う。こんな簡単に、人が生き返る?。こんなことがあっていいのか?。いや精霊と関わるのが当たり前の“あっち”じゃ、不思議じゃないのか?。

「あっちじゃ、死人が生き返るのは普通なんすか?」

「いや、あっちの霊王は厳しいらしくてね。やたらに許可する事はないようだよ」

「・・・そうすか」

「まぁでも、霊王だって精霊だって心がある。どんな世界にも、例外はある」

「レーティさんが亡くなったすぐ後にでも生き返らせる事は出来なかったんですか?」

ストライクの問いに、ユピテルは静かに首を横に振る。

「そりゃあ知り合った精霊に頼んだけど、その時は、要は審査に通らなかったんだ」

「ノイルさんストライクさん、家まで送って下さい!」

それからルア達はノイル達を連れ、急いでニルヴァーナを出ていった。本当は、全てが終わった後、サプライズでレーティを生き返らせようと思っていた。しかし、異世界という“例外”は、どうにも予測してない結果を連れてくる。そうユピテルは、レーティを思い出していた。そんな時、ユピテルの携帯電話が鳴り出した。相手はエッサだった。

「ユピテルさん?全て、貴方達の思惑通りなのかしら」

「何の話かな」

「でも、貴方達は負けるわ?強制的に特効薬をあの子達に打てば、それでいいもの。ニュース見てなさい?」

電話は切られ、ユピテルは目を泳がせる。「プリンセス」の候補が減るのは痛い。けどもう、データは確保出来てる。仕方ないと言えば仕方ないが。

「兵器研究施設が、プリンセスを人間に戻そうとしてる」

「それはまずい、行くぞ」

「でももう、行っても入れてはくれないよ。嫌われたからね」

「ならどうする」

「実は、兵器研究施設に居る子達以外にも、プリンセスは居るんだけど」

「いや、戦ってでも連れてくる」

「分かった。俺もここから出来る限りサポートするよ」

ベルデルートがニルヴァーナを飛び出して間もなくして、ラルガはやって来た。擦れ違うように“飛んでいった”ベルデルートから、正面玄関にまで来てベルデルートを見送っていたユピテルに目線を移す。ラルガはニヤけていた。ユピテルを見る目は、まるで強かなずる賢さをからかうようなものだ。

「政府が魔獣のガキを利用するのを見越して、わざと兵器研究施設にガキ共を奪わせたのか?」

「それもあるけど、政府の管理下なら少なからずマフィアよりは安全だからね。けど政府も単純じゃない、さっき電話があってね、無理やりにでも魔獣の子達に特効薬を打つと。そんな事されたら、元も子もない」

「だからすっ飛んでったのか」

「望みが無い訳じゃないけど、不安は拭えないね。で、そちらは、ラルガくんの彼女かい?」

「そんな訳ねぇだろ」

明らかに、見ない服装。そうユピテルは彼女を見つめる。しかし若者達のファッションに関しては理解を越えるので、もしかしたら単に斬新さを求めているだけなのかも知れないが。

「あら、久し振りね」

彼女はユピテルを見ていない。ユピテルの“隣”に向けて、親しげに笑顔を見せていた。

「およおよ、まさかこっちで会うなんて」

「サハギーくんの知り合いなら、“あちら”の人か。そもそも何で、ラルガくんと?」

「んー、何となく?」

そう応え、アンシュカは妖艶さと無邪気さが混ざった笑顔を浮かべる。

「霊力に引かれちゃってね。霊力の貸し主に会いに行くって言うからついてきたのよ。でもまさか、貸し主がサハギーだったなんてね。あたしアンシュカよ、あなたは?」

「俺はユピテル。よろしく」

「どうしてサハギーと?」

「アマバラで出会ったんだ。やっぱり学者としては精霊との会話を体験せずには居られないからね」

ラルガは言葉を失っていた。アンシュカとユピテルは、“一体誰と話してんだ”と。アンシュカが笑顔を向ける先、ユピテルの目線の先には、“誰も居ない”。

「何で、俺には見えねんだよ」

「あれ?ラルガくん見えてないのかい?サハギーくん見せてあげてくれるかな?」

「あれあれ、しょうがないなぁ」

それからラルガは、絶句した。

遊撃車の中、ルアはタブレットでテレビを見ていた。もしかしたらママが生き返るかも知れない。その事で頭がいっぱいだった。緊急ニュース特番では兵器研究施設が映っていたがその時、マスコミ仕様のドローンは施設の屋上に出てきた少女達にズームインした。

「お姉ちゃん見せてっ」

ルーナはタブレットを奪い取り、4人に釘付けになる。

「只今魔獣の少女らしき少女達が屋上に出てきました!兵器研究施設は特効薬を投与する事を発表しましたが、これは一体どういう事でしょうか、特効薬は投与されたのでしょうか。えー只今速報が入りました。先程、サザーリニの自動車工場から魔虫が数体飛び出したという情報が入りました。近隣住民の方々はなるべく外出を避けるようお願いします」

「あっ!」

ルーナが声を上げ、ルアとヘルがタブレットを覗き込む。兵器研究施設の屋上に突如、変身したベルデルートがやって来たのだ。

「(特効薬は投与されたのか?)」

ベルデルートの問いに、少女達は黙って首を横に振る。

「(間に合ったか。一先ずここから離れた方がいい、付いてきてくれ)」

「離れるって、どこに?」

切迫した口調でキアラが尋ねる。

「(とりあえずはニルヴァーナだろう)」

ふと聞こえてきた空気が震える音の方に、ベルデルートと少女達は顔を向ける。魔虫だ。しかも何体も。

「どういう事?ヴァンガードが、いっぱい、兵器研究施設を襲ってる」

ルーナは不安に駆られる。キアラ達が。でも、これからママを・・・。

「何だって!?引き返すぞ?いくら魔獣の少女でもヴァンガードには――」

「大丈夫ベルデルートって精霊が居るから」

「え?いやでもな・・・いっぱいってどれくらいだ?」

「分かんない。10匹くらいかな」

「大丈夫じゃねえって!戻るぞ?」

「やだっ!」

ちょうど信号に捕まり、ノイルは振り返る。

「魂が散った場所、死んだ場所じゃなきゃ生き返らせられないもん!」

「生き返らせられるなら後ででいいだろうよ」

「えー現在確認出来る魔虫の数は約20、半分ほどが兵器研究施設に、もう半分はニルヴァーナへ向かっている模様です」

ルアはタブレットにとっさに振り向く。そして目を見開いた。ヴァンガードが10体、お父さんの所に?・・・。

「ノイルさん私ニルヴァーナに戻ります!」

「どうなってんだ?何でザ・マッドアイはいきなり動き出したんだ」

「お姉ちゃん」

「ルーナはママを生き返らせて」

ルアが妹の頭を優しく撫でると、今にも泣き出しそうだったルーナは不安げでもハッキリとした眼差しで頷いた。

「ストライクさんルーナをお願いします」

「大丈夫か?」

すると振り返ったルアは強気な笑顔で頷いた。

「私とヘルが一緒なら、もう無敵なので」

遊撃車を降りていったルアとヘルを見送るストライクは自然と笑みを溢し、どこか嬉しそうだった。ルアを乗っけたヘルは変身し、しかも孔雀みたいな翼を生やし、飛んでいく。そんな姿を、ルーナは窓にへばりつきながら眺めていた。え、マジで?、と。

「ヘル、飛べたの?」

「(ぶっつけ本番だよ。さっき話した時ね、もしかしたら出来るんじゃないかって)」

「そっか」

ユピテルは空を見上げる。その先にはブルータスの改良型、ヴァンガード。しかも、数は10体。だが不安ではなかった。

「ラルガくんお願い」

「仕方ねえ、力試しと行くか」

ラルガは変身した。それはテレビに映っていたエーバドルフ達のウパーディセーサとは、違う形のブルータス系魔獣。テレビに映っていたのはスマートだった。だがラルガの姿はまるでブルータスそのもので、1つ違うのは浮き出た肋骨や鋭利に飛び出た腕の骨や角という、旧型魔獣の要素が上乗せされたという事。恐らくエーバドルフ達は、安定性の為に1度特効薬で人間に戻してから、新しい魔獣薬を投与してる。

「あたしどうしよかな」

「何なら中で隠れてくれていいよ」

「あらそう?」

そんな時にユピテルの携帯電話が鳴り出した。ディスプレイを見て、ユピテルは目を丸くする。しかし同時に“予測通り”だと、笑みを溢した。

「久し振りだね、エーバドルフ」

「そっちは完成したのか?」

「99パーセントかな」

「そうか。分かってると思うがこっちは完成した。だから“片付け”くらい手を貸してやる」

「礼は言うけど、大丈夫かい?ルサンチマンを請け負うなんて」

「心配無用だ。いざとなったら“あっち”にでも雲隠れすればいい」

「そうか、分かった。ありがとう」

呆気なく電話は切れたが、ユピテルはやはり、ヴァンガードの群れを前にしても不安などなかった。しかしそれはそれとして、端的な用件だけ言ったらさっさと電話を切るのは相変わらずだ。

ルーナは不安げに、ルア達が去っていった方を見上げていた。

「えー速報です。ザ・マッドアイが新たな声明を出しましたので読み上げます。ザ・マッドアイは独立した。政府は元より、ニルヴァーナは最早関係ない。と、いう事です。魔虫は現在、兵器研究施設の防衛の要と言える砲台、そして常駐の装甲戦車を破壊し、魔獣の少女達並びに身元不明の魔獣と戦闘しています。えー入りました情報に寄りますと、身元不明の魔獣はニルヴァーナから来たとの事です。えーこの戦闘は兵器研究施設からの指示なのでしょうか」

街を眼下にしていくヘルとルア。翼の筋力はそんなに必要ない、ほとんどは霊力で体が浮くと、シュナカラクは言っていた。風に靡く、ヘルの派手な毛並み。

「(ちょっとオシッコしたくなっちゃった)」

「ええ!?今そんな告白されても」

「(空からやっちゃおかな)」

「木の上からして」

やがてヘル達がニルヴァーナを望んだ時、真っ先に確認出来たのはヴァンガード達とは戦う、見知らぬブルータスだった。今まで見たブルータスよりも大きく、刺々しく浮き出た骨や豪勢な角、尾状器官と、大きな4本の爪を生やした手のようなものが先端にあるちゃんとした尻尾という、そんなブルータス。

読んで頂きありがとうございました。

5人の根底にあるものは、やっぱり、友情なんです。次話で、第1章は完結です。でも次章では、5人の友情がもうちょっと掘り下げられたらいいなと。


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