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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「告白」前編

マスコミ仕様のドローンが自動車工場を眼下にする。同時に街頭ビジョンやテレビにもその戦場は中継され、ラルガはグラス片手に戦場を眺めていた。しかし見ているのは何もヒーローだとか囃し立てられている魔法使い共じゃない。ブルータスの力を手に入れたギールだ。それから画面はスタジオへ切り替わり、コメンテーター席に並ぶどっかの知らねえジジイ共相手にムダに美人のアナウンサーは「ザ・マッドアイ」の事を話し始めた。

「今こそ人類は進化し、本当の意味での生態系の頂点に君臨する。望むのであれば分け隔てなく、全ての人間に『ウパーディセーサ』になる為の進化薬を授ける。以上がザ・マッドアイの声明でございますが、ウパーディセーサというのは、今正に特攻部隊と戦闘しているマフィアの事なのでしょうか。えーリンガーさん、この、本当の意味での生態系の頂点、というのはどういう事でしょうか」

「物理的なね、筋力とか、まぁヒトは鋭い爪も牙もないですからねぇ、例え犬に噛みつかれても簡単に死に至ってしまう弱い生き物だから。えぇなので、単純に解析するなら、例えクマでもサメでも何でも、力でも負けないっていう事じゃないですかねぇ」

「これは、魔獣という事なのでしょうか」

「えぇ、そうですねぇ」

「魔獣の少女とは関係があるのでしょうか」

「分からないですけどねぇ、魔獣の少女もね、人間よりも強靭な生態だから、もしかしたら同じような思想で作られたのかも知れないですねぇ」

「えーハロウさん、全ての人間に進化薬を授けるという文面に、すでにネットではザ・マッドアイを讚美する書き込みが多数ありますが」

「先ず、生態系確立法に、真っ向から喧嘩を売るという構図です、これは。で、魔獣という、非常に強力な生物にヒトが成り代わる訳ですと、やはり軍用され、生物兵器として扱われる事になります。こういう事、にならない為の、生確法がある、訳ですから。とても、安易で、讚美されるような事じゃないと思いますけど」

「リンガーさん、やはりこれは単なる法律違反として取り締まられる事になりますか」

「でももうねぇ、あのマフィアを止めるには、空爆やミサイルも効果ないですからねぇ、歯には歯をを見越して、全ての人間に進化薬を授けると言っているんでしょうねぇ」

「えー、テロリストとしてザ・マッドアイを排除するのか、法整備をして順応するのか、政府は今、重要な決断を強いられています」



第13話「告白」



アポロンの足取りは決意を引き連れる。いつも通りの閑静な城内。どこか目の前が明るくなったかのようにさえ思える、落着と新たな目標。大広間に足を踏み入れるとその時そこにはアリマ第3隊長率いる第3部隊が集まっていた。

「王子!お帰りなさい!アニ・ソーサ取り戻せたんですね!」

「あぁ。ザ・デッドアイとアマバラについて、全隊長に報告する事がある。1時間後、ここに集まるよう取り計らってくれ」

「かしこまりました」

階段を軽快に駆け上がるアポロン。ホールのある空間、言わば王間のエントランスにはゼウスの姿は見えない。寝室への扉に目をやり、続けてバルコニーへ視線を流す。何かを考えているようで、何も考えていないようで。そんな背中で、ゼウスはバルコニーに立っていた。

「父上」

「アポロン、すぐにアティ達の下へ行くのだ」

「何故だ」

「アマバラの事はもうすでに、アポロンより早く戻ってきた精霊から聞いている。それよりアティ達に着させている鎧が、危険を察知しているのだ。流石にあちらの事までは分からないのでな」

「分かった」

一瞬、腑に落ちない何かを感じた。しかしアポロンはコントロールパネルの前に立ち、ホールの電源を入れた。そこに、ゼウスが静かにやって来る。

「アポロン」

「父上、道中で私に声をかけるよう精霊に言えば良かったのではないのか?」

「とある物を作っていてな、時間が欲しかったのだ」

「そうか」

「前々から取り掛かっていて、今朝完成した。一先ずアイギスを脱ぎなさい」

「何だと」

「お前専用の鎧だ。どちらにせよアイギスはハイクラスの霊力に対応していない。そのままではいつか壊れる。名は・・・自分で決めるといい」

「・・・そうか。だがハイクラスの精霊と契約したと、言ってはないが」

「ハイクラスの霊力を扱える者なら、ハイクラスの霊力を持っているかが分かるのだ」

アポロンは目を見開く。しかしゼウスは自慢げに微笑む事は全くしない。むしろさも当然かのような静観たる面構えに、アポロンはふと改めて父の偉大さを感じた。

「王たるもの、ハイクラスの霊力くらい扱えなければ格好がつかないだろう?いづれ、お前が王位を継ごうという時、ハイクラスについて教えるつもりだった」

「そう、だったのか・・・」

実際、父上が、ゼウスという人間が前線に立ち、戦った姿を見たことがない。それからアポロンはアイギスの両肩に指を添えた。一瞬の光に包まれ、アイギスがネックレスに“収納”されると、アポロンはうなじに位置する留め具を外してネックレスを放す。アイギスとまた違うネックレスとを交換すると、そしてアポロンは着けたネックレスに霊力を注いだ。例の如く、一瞬の光がアポロンの体を包む。

氷壁(スティレド)

現れた氷の壁に映る自分の姿。反射しない黒をベースに、鮮やかな赤、青、緑の3色が斬新と壮観を魅せつける。

「センスは悪くない。派手なのにそれを上回る力強さが派手さを忘れさせる」

それからアポロンは目を閉じた。アポロンならずとも、“霊器を視る方法”なら誰もが分かっている。目を閉じれば、心で霊器の形状を隈無く感じ取れる。しかしアポロンは目を閉じたまま、一瞬眉間を寄せた。背中に何やら、6つの突起した穴がある。

ロドニオス署にて。デスクに着いているTVMの部隊長の下にやって来るTVM隊員。

「キャプテン、ロドニオス拠点の押収品パソコンのメールの件ですが、送信者の身元割れました。パーシー・クラートー。全企業検索ではヒットしませんでしたが、5年前までニルヴァーナの研究員名簿に名前がありました。なのに現在でも定期的にニルヴァーナからクラートーの銀行口座に金が振り込まれています」

「クラートーは?」

「それが、自宅へ戻してから消息が絶たれました」

「メールの送信先もニルヴァーナだしな。エリックハイドン署に連絡だ」

「はい」

エレベーターで1階に降り、兵器研究施設を後にしようという頃、ユピテルは携帯電話に来たメールを見ていた。送信者はパーシー・クラートー。

『シャドー03の成熟を確認しました。今夜にもデータを送ります』

「カルハン、パーシーから。シャドーの方も1人、ギガスの片鱗を見せたようだよ」

昔からクールなカルハンは今もただ「そうか」と、黙って頷く。それからバタンと車のドアは閉められ、3人は兵器研究施設を後にした。彼らがニルヴァーナに戻った頃、研究所の前にはパトカーが停まっていた。大体検討は付く、しかし流石に真意は分からないので、ユピテルはしれっと所内に足を踏み入れる。2階に上がると、他社向けの受付に居た警察官達がユピテルに振り返った。

「責任者の方ですか?」

「まぁそうですけど」

「エリックハイドン署、TVMの者です。ロドニオスにあったザ・デッドアイ拠点のパソコンに、ニルヴァーナへの送信メールが確認されました。パーシー・クラートーという女性ですが、5年前までここの所員でしたよね?しかし今も連絡を取っている。つまり、ニルヴァーナは常に、ザ・デッドアイと繋がっていた、違いますか?」

「・・・違いませんよ?パーシーは、ニルヴァーナからザ・デッドアイへ出向してる形なんでね」

TVMの隊員達の眼差しは確信を得たように鋭さを増す。その態度は最早、ザ・デッドアイへ向けるものと等しいほどだ。

「退職手続きはフェイクと認めるんですね?」

「いづれ分かる事だと思ってましたから、今更はぐらかしたりしませんよ」

「所長のカルハン・クラートーさんは今どちらに?」

「俺だ」

「そうでしたか。パーシーさんとはどういうご関係で」

「娘だ」

「そうですか。ではクラートーさん、署の方にご同行お願いします」

同時に、その隊員は胸ポケットから取り出した紙を広げて見せつけた。いわゆる、令状というやつだ。それでも取り乱す事はなく、仕方なさそうにカルハンは黙ってユピテルを見る。それからユピテルとベルデルートはTVMに連れていかれるカルハンを、静かに見守っていた。どこから嗅ぎ付けたのか、常にマークでもされていたのか、敷地外にはすでにマスコミが待ち構えていた。

地面に2本、尾状器官を突き刺しているギール。しかしそれでは自由に動けないが、その態勢のギールにアテナは苛立っていた。変わらず襲ってくる残り2本の尾状器官を雷火槍で捌き、同時に襲ってくるキャリバーの相手もする。しかしそれでもアテナは最強の騎士。キャリバーなんかには雷火槍を投げつけ、直後にアテナは地面を全力で踏みつけた。

「ぅあっ!!」

アテナの一声を掻き消す一瞬の地鳴り。ドォンッと、砂利や石なんかは間欠泉のように舞い上がり、ギールの視界は瞬時に覆われる。そしてまるで石ころように、その怪力は自分の体も舞い上がらせた。――くそっ。

雷火十層(グロージャ・ディシアーソ)!」

茶色い視界は閃光に吹き飛ぶ。ギールは垣間見ていた。同じく浮き上がったキャリバーの首が飛ぶのを。吹き飛ぶ土や砂利とともに、バラバラに砕けていくキャリバーの体を。雲を貫く、大口径ビーム砲かのような、一筋の閃光を。体中を走る雷光の中、ギールは尾状器官を地面に突き刺し、電気を流していく。――今のは、ヤバかった。

「さあ、もう盾は無くなったよんっ」

「くそぉ・・・人間の分際で」

「何よー人間以下の魔虫のくせにー」

「分かってないねぇ、まったく」

「な――」

アテナは振り返る。気を向かせるほどの違和感だ。感じた事のない、強い霊波を放つ霊器が、空を飛んでくる。

「よそ見かよ」

当然それがどう違和感なのかを理解しているアルテミス、ティネーラ、ストライクも顔を向ける。

「(ルア、あの人来たみたい)」

「あの人?」

「(アルテミスのお兄さん)」

「え!?」

真っ先に思い出す、冷たい眼差しと、火柱。ザ・デッドアイと決別して、アルテミス達とも仲直りしたけど。第一印象があれだけに、緊張を感じずには居られない。

「(ねぇアルテミス、魔法で空も飛べるんだね)」

「いえ、空を飛ぶ魔法はありません。飛ぶにはエアバイクが必要です」

アルテミスは目を細める。しかしアポロンはエアバイクには乗っていなかった。そして高速で飛んできたアポロンは光を尾に引き、地響きを鳴らして着地した。その場に居る誰もがアポロンに釘付けになっていた。炎のように揺らめく6枚の小さな光翼がボッと消え、アポロンはアテナに歩み寄る。ぶっと笑いを吹き出すアテナ。

「えー!?何よその派手な鎧ぃ。くくっ、うへへ」

「父上のセンスだぞ?」

「え?そうなの?でも何でまた」

「私専用の鎧だ」

「へー、良かったじゃん。じゃ、さっさと終わらせてアイギス取りに行こっと」

「いや。ザ・デッドアイ拠点制圧作戦は、終わりだ」

「え?」

「アマバラとザ・デッドアイの事で報告がある。プライトリアに戻れ」

「・・・そんなぁ。でも、ここで脅威は払っておかないと」

「こいつらはこっちに居るザ・デッドアイの人間達とは違う。こっちに居るザ・デッドアイの人間達は、プライトリアを侵略する気はない」

「どういう事よ」

「俺らはザ・デッドアイじゃない」

2人は振り向く。例え人間でなくとも何となく分かる。その男の妙なニヤつきが。

「ザ・マッドアイだ。それに俺らは人間以下じゃない。人間を越えた存在。お前らだって、魔法なんかなけりゃただの雑魚だろ?」

「何だと?」

「魔法なんてなけりゃ、人間の筋力じゃ魔虫にすら勝てない、それくらい分かるよな?人間ってのは、それ単体じゃ、やっぱり弱いんだ。まあそれはそれでしょうがねぇけど」

「だから、あんたは人間を捨てたって訳ぇ?」

「俺は、人間さ。人間を越えた人間。新人類さ。お前らの世界に居るザ・デッドアイだって、目的はこっちと同じ。けどまぁ、最終的な形が違うみたいで分かれたけど。つーか、消えるんならさっさと行けよっほら、シッシッ」

「侮辱は許さない。紫火柱(フィレヴ・ストグニア)!!」

衝き上がったのは最早、柱というより壁だ。そうアテナは目を見開いた。赤ではない、紫色の火柱。しかも絶大過ぎる威力。火柱の幅はアポロンの実力をもってもせいぜい約20メートルほど。なのに、これは・・・まさか。

「・・・禁忌魔法?」

紫炎が空に消え、倒れていたギールがゆっくりと起き上がる。

「ごほっげほっくそ・・・何だこいつ」

「分かれたと言ったな。つまり、貴様らが、アニ・ソーサを奪った一味か」

「あ?つう・・・・・・アニ・ソーサ?知らねぇな!」

ギールの手から歪みが放たれる。砂利やらを巻き上げるそれを、すぐさまアテナは光壁で防ぎ雷火を返す。押し引きずられるギールを前に、アポロンは頭を巡らせていた。――ザ・デッドアイを名乗った男達ですら、アマテラスの使者だというのか?。いや、流石にそれはないだろう。実際研究には勤しんでいた。研究もアニ・ソーサもと、欲張っていたのか。

「答えろ。プライトリアに侵略するつもりなのか」

「は?俺みたいな、下っ端にする質問じゃ、ないだろ」

「行くぞアテナ」

「ほんとに?」

「プライトリアに、ザ・デッドアイと戦う理由は最早ない」

自動車工場からは離れ、ルアとヘルは遊撃車の傍で佇んでいた。ルーナは伏せているヘルの背中に乗り、モフモフな毛皮にしがみつき、顔をスリスリしている。ルーナはともかく、ルアとヘルは不安を感じていた。正に目の前の事を考えていた、これからどうなるのかと。サザーリニ署のTVM部隊長、電話を繋いだベクトラとの相談を終え、ノイルはルア達の下に戻ってくる。

「特攻部隊は、凍結する」

「え」

「ザ・デッドアイと、ニルヴァーナが繋がってる事が分かった」

速報が入り、アナウンサーはいきなり真顔になる。フレームの下から原稿が渡され、アナウンサーは喋り始める。それから生中継が繋がれ、画面にニルヴァーナが映し出されるのを、ラルガは観ていた。そしてウイスキーを飲み干し、ラルガはバーを後にした。隣の女、アンシュカと共に。

カルハン・クラートーはザ・デッドアイとの関与、魔獣の少女の研究を認めた、そういった報道で世間はニルヴァーナに対して酷評を始めた。しかし同時に魔獣の少女を徴兵する気はない、元々データ採取が目的であり、特効薬が出来たら直ちにそれを使用するつもりだ、そんな供述も報道され、酷評の対象は間もなく政府へと向けられていった。ルア達がニルヴァーナに着いた頃、すでに世間は政府に対する不満で、ニルヴァーナへの酷評は薄まっていた。

「お父さん」

ルアはどんな顔をしてればいいか分からなかった。しかし、会わずには居られなかった。直接話を聞かずには居られなかった。エントランスパークにて、そんなルア達にユピテルはいつもの陽気さのない、どこか落ち込んだような顔を見せた。

「ごめんな」

「ザ・デッドアイに、協力してたの、本当だったんだね」

「違うんだ」

「え?」

「そもそもニルヴァーナが、ザ・デッドアイとザ・マッドアイを作ったんだ」

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