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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第1章「ザ・デッドアイ」

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「逆襲のアルテミス」後編

「・・・ジェル、何してる。そいつはもう一般市民だ。馴れ合えばお前の素性もバレ兼ねないだろ」

「グラファー、これが最後だ。バリュートとケリつけさせてやってくれ」

大柄の男、グラファーは表情を変えない。相変わらず怖い形相だ。しかしそういう態度の方がこの無法地帯では溶け込める。つまりそれはむしろ教科書通りの表情作りと言える。

「本当に最後だな?」

「へへ、そらモチロン」

「10分前からバリュートを見てない。カジノでもバーでもないとしたら、後は麻薬エリアだ。言っとくが、俺はお前には会ってないし話もしてないからな?」

「あぁ、どうもな」

麻薬エリア。そこではアジト自体の規模からしてそこそこの種類と量の“クスリ”が売買されていて、その一角には買ったその場でクスリを打つ為の部屋もある。その時、その一室で、昏倒していたバリュートは覚醒した。

ウエポンとだけ中央に書かれた扉を、ルアは開けた。そこに、するりとヘルが飛び込んだ。直後、叫び声が聞こえた、誰か居たのだろう。しかしすぐに悲鳴やらが聞こえなくなった為、ルアもそこに入っていった。一瞬ビックリしたルアだが、ヘルはそこに居た2人の男女を襲わず、怯えるように壁際に座り込む2人をただ見下ろしていた。

「何で、こんな所にケルベロスが」

「ヘルどうしたの?」

「(そんな極悪人じゃないみたいだからとりあえず驚かせるだけにしてみた)」

「そっか。あの、私、自分の荷物取り返しに来たんです。ジュシアル・ブーツとプリマベーラ・ナンバー6知りませんか?」

「おおえ?あんな古くさいプリマベーラ、あんたのだったのか」

「ここにありますか?」

「ああ、そこの、8番ラックの奥」

「一緒に服もあるはずなんですけど」

「服なら、全部1番奥のロッカーにぶち込まれてる」

「ありがとうございます」

まるで離れていた相棒とようやく再会出来るといったように、ルアは駆け出した。だが実際ルアにとってはジュシアル・ブーツもプリマベーラも、ヘルに次ぐ相棒だ。服を着替えるとルアは先ず、ブーツを履いた。とても軽いブーツ。足に慣れ親しんだフィット感。動きやすさだけを考えた服を着て、ホルダーを着け、そしてプリマベーラを手に持った。

ピストルの機構を取り入れ開発された次世代型クロスボウ。クロスボウという武器が軍用を退役して数年の歳月を経た頃、とあるクロスボウ製作会社がこれを提案し、クロスボウは再び軍用されるようになる。最新型、プリマベーラ・ナンバー10では、「矢」は「矢針(やばり)」、あるいはただ「針」と呼ばれるようになり、「弦」は「コイルスプリング」となり変わり、マガジンに装填された針を“オートマチックピストルの機構をベースに超強力コイルスプリングの反発力”で撃ち出すというものになっている。しかしルアが愛用しているものはというといわゆる一世代前のもので、シングルアクションで中折れ式のリボルバーピストルの機構を取り入れたものだ。矢は針ではなく、10,5インチの銃身に同じ長さのシリンダーが入っているので、つまり矢もその長さだという事だ。しかしヴェイン、つまり矢羽と、ライフリングによるダブルパンチの威力向上効果は旧型プリマベーラでもまだまだ人気の種になっている。装填数は最大7本。あくまでもクロスボウなので火薬は使わず、超強力コイルスプリングをハンマー、つまり撃鉄で、しかもグリップの後ろにまで引っ張り、固定してからトリガー、つまり引き金を引いて矢を放つというもの。つまり操作自体は“引っ張って放つ”という弓矢と大して変わらないという事だ。通常ピストルはハンマーを起こせばシリンダーが回り、銃弾は自然と発射位置に着く訳だが、このプリマベーラは逆で、発射後ハンマーが戻るとそれに連動し、シリンダーが回るというもの。因みにシングルアクションのリボルバーピストルにはファニングというものがある。それはトリガーを引いたままにして置き、ハンマーを起こして放すだけで連続的に素早く銃弾を打つ手法の事だ。このプリマベーラに関して、矢はハンマーを引っ張ると同時に内側への圧で摘まむように固定し、ハンマーが戻ると同時に圧が解放される事により押し出すという機構になっている。その為このプリマベーラでもファニングが可能という事が、まだまだ人気の衰えないもう1つの理由とも言えよう。そして、クロスボウと矢、共々基本素材はカーボンファイバーで、装填時でも重量は同じ大きさのピストルと比べて3分の1ほどとなり、しかもそもそも火薬の爆発による反動も無い事から、18の少女にも容易く扱えるものとなっている。

そして最後にプリマベーラをホルダーに挿した頃には、ルアの表情は明らかに変わっていた。それはまるで騎士が鎧を着たようだった。ルアは妹の顔を思い出していた。これで、止まっていた時間が動き出す。ルアはその部屋を飛び出し、会場へと向かった。道は一本道だ、廊下の先はすぐに会場。ヘルがペタペタとルアの後ろをついていく。無法者達の巣窟だけど、怖じ気付いてはいられない、妹の為なんだと、ルアはその扉を開けた。そこは銃声と悲鳴が響いていた。その異様な緊迫感は、一瞬足を止めてしまうほどだった。人々が逃げ惑っている。

「(変なの居る)」

ヘルから送られてきたイメージで、ルアは真っ直ぐある方へと目線を向ける。絶え間ない銃声、逃げ惑う人々の向こうに見えたのは、見たこともない巨大な何かだった。想像もしていなかった光景の中、ルアは巨大な何かの近くにいるノイル、ジェルを見つける。その時、巨大な何かは腕を振り上げ、ルーレット台を殴り飛ばした。悲鳴が響く。死体が転がっている会場は、全体的に血の臭いが漂っていた。

「ノイルっ」

「お?うほっ何だその格好、逆にエロイカついな」

「え、エロくないですっ、それよりあれ何ですか」

「・・・あれは、バリュートだ」

「えっと、その妹さんを、殺した、人、ですか?」

「・・・まあ」

しかしあれは人ではない。凶暴なクマでも、ゴリラでもない。ヘルより大きい、虫だろうか。ガラスのような赤い眼、破けた服に裂けた皮膚から生える、気持ちの悪い歪な腕。

「グウゥウウウゥゥ」

半分はヒトの顔をしているが、最早それは獣の声だった。どうやら無法者の数人も、そのヒトと虫が混ざった何かに敵意と銃口を向けていて、再び銃声が鳴った。ブチュッと弾けるような音がして、緑色の液体が少しだけ吹き出した。

「嬢ちゃん悪い、俺にやらせてくれ。ヘルも手を出すな」

「分かり、ました」

「ワン」

ピストルを両手に、ノイルは背中を向けていく。そんな背中がルアには少しスローモーションに見えた。呻き声を上げる巨大な何かに、ノイルはピストルを連射していく。姿はどうあれ、目の前にあいつが居るんだ。剥き出たあばら骨の中心にある、赤っぽく黄色っぽく光る何か。明らかに弱点っぽい。しかしその手前には力無く垂れ下がるヒトの腕、肩から突き破ってきている馬鹿力の虫の脚。

「くっそ、ノイルどうする。ピストルじゃダメージが少なすぎる」

「いや、とりあえず撃ちまくれ。効いてない訳じゃないみてぇだ」

銃弾を浴びてもそれは倒れない。しかし身体中から流れる緑の血は、効いている証拠だろう。

「おいゴロツキぃ!でかい武器ねぇのか!」

「ああ?チッ向こうのバーカウンターに隠しハッチがあ――」

馬鹿でかい虫の脚が、瞬時に男の胸を貫いた。脚が振り上げられると同時に舞い上がる鮮血。

「ジェル、頼む、俺が引き付ける」

「あぁ」

無我夢中でピストルを撃ちまくる。硬い体にめり込む銃弾、吹き出る緑色。ジェルが走り出すと同時に、脚が降ってくる。とっさに飛び込み、死体の傍に転がっていたピストルを拾い上げ、また弾が切れるまで撃ちまくる。頭の中で銃声が鳴り響く。

遠い空にまで届くような、銃声と悲鳴。自分の手が、腹が脚がびっしょりと赤く濡れている目の前で、バリュートはどこか追い詰められているような恐怖感で表情を歪めていた。

「お兄ちゃん!」

「うあぁあ!」

俺を見ているようで見ていない目。妹の声に驚くように、というより、ただ近くで上げられた声に恐怖するように素早く、バリュートは妹に銃口を向けた。俺の声は銃声に掻き消された。1発、2発、3発、15の少女の体が波を打った。

無我夢中でピストルを撃ちまくる。弾が切れればそれを投げ捨て、また誰かのピストルで撃ちまくる。バリュートだったものの体が波を打っていく。

「ノイル!」

ジェルが床の上を滑らせ、投げ渡してきたものを見下ろすと、すぐにピストルを投げ捨て、ノイルはそのショットガンライフルを素早く構えた。

「死ねぇ!」

爆音、ハンドグリップのスライド、空の弾薬の排出。爆音、ハンドグリップのスライド、空の弾薬の排出。爆音、ハンドグリップのスライド、空の弾薬の排出。無我夢中で撃ちまくる。ショットガンの叫び声が渇れた頃、そいつはドロドロと緑色の血にまみれながらゆっくりと地に伏した。

「はぁ、はぁ・・・はぁ」

「グウウゥゥ」

「はあ?まじかよ」

馬鹿でかい虫の脚が地に突き立てられ、赤い片眼が光を取り戻していく。その眼はこちらに向いていたが、ノイルはふと、あの時のバリュートを思い出していた。何かに恐怖を抱いているような目。俺を見ているようで見ていない目。

「グウ・・・ウウゥ」

「これで、終わりだ」

ノイルはジャケットの内側に手を伸ばす。すると同じタイミングで虫の脚が振り上げられる。お互いに、最後の手段だ。それはさながら西部劇のようにも見えなくもない。そして虫の息の巨大な何かが、渾身の一撃を繰り出すと同時に、ノイルは超磁石を思いっきり放り投げた。その軌道は明らかに巨大な何かの頭上を行くもので、周りの野次馬はどこを狙っているのかと呆気に取られた。

「地獄に堕ちやがれ」

超磁石。それは一瞬だけ狭い範囲内の全ての金属を凄まじく引き寄せるもの。その直後、身体中にめり込んでいた全ての銃弾が、巨大な何かを突き抜けていった。巨大な何かから、大量の緑色が吹き上がった。そして、ドサッと音を立てて巨大な何かは力無く倒れ、動かなくなった。

「おお、やったな。しっかし、何じゃこりゃ」

「俺が知るか。とりあえず、お前らもう内偵なんて言ってる場合じゃなくなったって事だろ?」

「くそぉ、おーいグラファー」

ジェル、ノイルの下にグラファーがやって来たそんな状況を、遠くから見つめる1人の男が居た。男はVIPルームへの曲がり角に隠れて絶命した巨大な何かを眺めながら、誰かと電話しているようだった。

「今、死んだようです。いやぁ明らかに失敗作でしょう。成長も中途半端で、外見も何やら虫のようになりました。はい、では戻ります」

電話を切り、男がVIPルームに入っていく。そんな姿を混沌としたこの会場で“視ていた”者が居た。ヘルだ。勿論視力や聴力で認識したのではなく、この場に居るのに全く恐怖していないヒトを嗅覚で特定し、そのヒトの脳波を読み取り、“何だか怪しいヒトだなあ”と認識していたのだった。

「(ルア、ノイル、ジェル、VIPルームにその変なのを知ってるヒトが居るみたい)」

「あ?知ってる人って何だ」

「(今電話で変なのの事話してた)」

「おほ、すげぇなワンコ、お前刑事に向いてるかもな」

「(警察犬ごっこなら面白そー)」

現在VIPルームに居るのは3組の人々。電話していた男が戻っていったのはザ・デッドアイの幹部の1人が居る部屋だった。座っているのはたった1人、スーツの上に毛皮のコートを羽織った男。その他3人は立ち尽くしており、男が戻ると、幹部の男は会場内を映していたパソコンを静かに閉じた。

「失敗作とは言え、案外すぐにやられましたね」

「だから失敗作なんだ。データは取れた、戻るぞ」

「へい」

VIPルームへの扉の前に立っている男に、3人と1匹が近付いていく。この混沌とした状況に、扉番の男は酷く動揺していて、更にはケルベロス種まで来た事で、男はすぐさまピストルを抜いた。

「動くなよ?お前1人で勝てる訳ないんだ」

ノイルの言葉に、扉番は手を差し出したジェルにピストルを渡した。

「誰が居る」

「シェリンズ・キッド。バッキム。・・・ザ・デッドアイ」

「今さっき入った奴は、ザ・デッドアイか?」

「あ、あぁ」

「(嘘はついてないみたい)」

真っ先に突入したのはルアだった。追い掛けるようにノイル、ジェル、ヘルが入っていく。ルアは必死で周りを見渡した。ザ・デッドアイが近くに。妹の手掛かりが近くに。適当に扉を開けてみると、そこには1人の若い男と、妙に露出の多い4人の女が居た。

「ああ?」

「あなたはザ・デッドアイの人ですか」

「いやいやいや、そんな訳ないでしょうが、あんなの。てか、何だお前」

「ザ・デッドアイの人を捜してます、知りませんか?」

「知らねぇわ!おま――」

扉は閉められ、若い男、シェリンズは呆気に取られた。

「だから誰だよ!」

「嬢ちゃんあっち見ろ」

とりあえず全ての扉を開けていく。しかしそれ以降は全て空室で、ジェル達と合流した後、残されたのは下り階段だけとなった。

「(さっきのヒトの臭い、階段の向こうに続いてるみたい)」

「もー何で早く言わないの」

「(だって確認してからの方が良いかも知れないって思って)」

「先行って追いかけて」

「(うん!)」

私達はまた、追いかけるだけなのか。階段を下りながら、ルアは妹を思い出していた。父親は違うけど、ルーナと、ヘルとずっと一緒だった。階段の先の扉は壊されて倒れていた。そしてその先の外にはどこかを見ているヘルの姿があった。

「ヘルっ」

「(早く、逃げちゃう)」

ルアは駆け出していき、腰を落としたヘルに飛び乗った。

「おいちょっと待て、何で、そんなにザ・デッドアイを追ってんだ」

「私にも15の妹が居ます。その妹ルーナは、今ザ・デッドアイに拐われています」

「何だって!」

「ザ・デッドアイは私の母を殺し、妹を拐ったんです。だから私は、必ず、ザ・デッドアイを倒したいんです。ヘルっ」

ケルベロス種の最高速度は時速120キロ。今は人を乗せてはいるが、ルアはまるでバイクにでも乗ったかのようにノイル達から去っていった。

「ノイル、1人で行かせるのはまずいんじゃないか?」

「あぁ、借りは返すさ」

読んで頂きありがとうございました。とりあえず1話ごとにこういうのを差し込もうと思います。分かって頂けてたら良いですが、一応時代背景は近未来です。

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